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そらのそこのくに せかいのおわり 〈 vol,08 / Chapter 10 〉

 メリルラント兄弟が足を踏み入れた世界――そこは焼け焦げた軍艦の墓場だった。

 鉛色の空の下、甲板や船体に穴の開いた艦が浅瀬に乗り上げて座礁している。その数、ざっと見まわしただけで百以上。エリックとアスターは傾いた甲板から焼け落ちた艦橋を見上げ、首を傾げた。

「……? この船、いつの船だ? 随分古い軍艦みてぇだな……?」

 異界からやってきた二人に日本海軍の艦船が分かるはずもない。

 この船は戦艦『大和』。爆発炎上する直前、一九四五年四月七日十四時二十分に総員上甲板を発令されたときの姿で眠っている。それは大和が復旧の見込みを断たれ、戦力とはみなされなくなった瞬間である。

 艦の死は、艦長が戦いを諦めたそのときに訪れる。この世界に存在するすべての船は、艦長が『敗北』という現実を受け入れたその瞬間の姿で保存されているのだ。

「……お兄チャン? なんか、ここ、おかしくない……?」

「ああ……ベイカーの気配もニケの気配も……なんにもしねえよな?」

「それに、この海……」

 見渡す限りの大海原。そこに波はない。少しも揺らぐことなく、鏡のように空を映している。

「……おい、俺の時計の故障か? 秒針が止まってる」

 エリックに言われ、アスターも腕時計を見る。

「いや、お兄チャン、こっちも止まってる。スマホは?」

 エリックはポケットからスマホを取り出し、何度か画面をタップして首を横に振る。

 機械類は完全に停止している。どうやらこの世界で『動くもの』は、自分たち二人だけのようだ。

「どういうことだ? ここにベイカーがいて、なんか大暴れしてるんじゃねえのか……?」

「探してみるジャン? どっか、別の船の中にいるかもしれないし」

「ああ、そうだな……」

 二人は落ち着きなく、そわそわと周囲を見回す。

 何もいない。

 誰もいないはずなのに、先ほどから何かの気配を感じている。


 大勢の人間が自分たちを取り囲み、一斉に銃を構えているような――そんな気配を。


 二人は《羽化》の魔法を使い、隣の船へと飛び移った。しかし、その船にもベイカーの気配はない。隣の船、そのまた隣の船へと、光の翼でヒラヒラと飛びまわること三十分弱。二十以上の船を見て回って、二人は、あることを確信した。


 この世界には、ベイカー以外の何かがいる。


 見るからに敗北を喫した軍艦たちの墓場で、銃口を突き付けられているような、ただならぬ気配。いったい何者がいるか、考えるまでもなく予想はついていた。

「……なあ、弟? 今更だけどよ? これ、なんかの罠なんじゃね……?」

「うん、お兄チャン。俺も、ものすごくそんな気がする……」

「ここ、いるよな……?」

「いるよね……?」

 二人はそう言って、同時に銃を構えた。

「魔弾装填! 《サンスクリプター》!」

 アスターの装備は先ほど手に入れた歩兵銃『アルテミス』だが、エリックのほうは特務部隊仕様の魔導式短銃である。これは霊感のない彼らにとって、神的存在や霊的存在に対抗できる唯一の手段だった。

 讃美歌のようにも、読経のようにも聞こえる荘厳な声明。人の声にも楽器の音色にも似た不思議な音色が響き渡ると同時に、彼らの予想通りの光景が出現する。


 おびただしい数の人、人、人。

 海軍兵二百名以上がその手に武器を携えて、メリルラント兄弟を取り囲んでいる。


 しかし、二人はすぐに気付く。これはただの威嚇だ。彼らに殺意はない。

 二人は目配せし合い、兄に比べればやや丁寧な口調で話ができるアスターが口を開く。

「あー、そのー……いまさらですけど、どうも、お邪魔してます。すみませんね。俺たち、魔法使わないと幽霊見えないんで……」

 幽霊相手に翻訳呪符は通用するだろうか。言葉の壁の有無に思いを巡らすアスターだが、幸いなことに、翻訳呪符は幽霊との対話においても通常通りの効果を発揮した。

「貴様らは、何者だ? 米国兵では無いようだが?」

 他の海兵より上等な軍服を着た男が進み出て、落ち着いた声でそう訊く。地球の軍の階級など知る由もないが、肩章や襟章、胸元に光るバッヂを見る限り、どうやらこの男がこの場のリーダーであるようだ。

 アスターは足元に歩兵銃を置き、両手を広げて敵意が無いことを示す。

「信じてもらえないかもしれませんけど、俺たちは地球とは別の世界から来ました。地球と違って、呪詛や魔法が実在する世界から……」

「いや、分かる。我々は一度、そこに行ったことがある」

「え?」

「我々は光に溢れた世界に招かれ、『いつか来る決戦に備えよ』と告げられた。だからまだここにいる。ようやくその日が来たのか? それとも、貴様らも我らと同じく待機を命ぜられているのか?」

「あー、いや、俺たちは……」

 どうやらこの将校は、ネーディルランドと創造主のいる世界とを混同しているようだ。しかし、訂正して説明し直すのも面倒である。それに現状では、彼らはこちらを『敵』とみなしていない。このまま話を進めてしまったほうが、険悪なムードも回避できるだろう。

 そう考えたアスターは、将校の勘違いを否定も肯定もせずに、質問に対する答えだけを口にする。

「えーと……俺たちは、そのどちらでもありません。俺たちの仲間がこの世界に来ているはずなんです。俺たちは、その仲間を迎えに来ました」

「どんな奴だ?」

「女みたいな顔の、上から下まで真っ白で小柄な男です。ここに来ませんでしたか?」

「……タケミカヅチ様のことか?」

「あ、はい、そいつです、そいつ。います?」

 アスターの言葉に、将校も海兵らも、明らかに狼狽えた様子を見せている。

「あの……どうしたんですか?」

「羽の生えた天女様とお二人で、空から落ちて参られた。全身にひどい怪我を負われているため、船室で手当てしているところだが……お二人とも、一向に目を覚まされない。外で、一体なにがあったのだ? 日本は……我らの祖国は、まだ無事か?」

 アスターとエリックは顔を見合わせる。


 なにかがおかしい。


 彼らはここにすべての事態の黒幕、闇堕ちしたベイカーがいると思ってやってきたのだ。それがなんだ? ニケと一緒に落ちてきた? ひどい怪我で意識が無い? ベイカーがラスボスでないのなら、あのモンスターはいったいどこから湧き出てきたのか――。

「……ひとまず、二人に会わせていただけますか?」

「ご案内しろ」

 将校の命令で、一人の兵士が進み出た。

 先ほど魔法で空を飛んでいたためだろうか。将校も兵士たちも、メリルラント兄弟を創造主が寄こした遣いの者と信じている様子である。

 七十年前の小柄な日本兵に導かれ、二人は駆逐艦『浦風』の内部に足を踏み入れる。そこに内装らしきものは一切施されていない。現代人が考える最低限の塗装すら行われておらず、エリックらが知っている軍艦の内部より、ずっと簡素で武骨な雰囲気だった。

 ほぼ剥き出しの電灯の下を屈むように進み、ある船室の前で止まる。

「こちらです」

 通された部屋は、本来は会議か何かに使う場所なのだろう。大きな卓の上にはニケが寝かされ、床に敷かれた布の上には包帯まみれのベイカーが横たわっていた。本来ならばタケミカヅチ本人と勘違いされているベイカーが卓の上に寝かされるはずだが、ニケは女性としてはかなり大柄なうえ、背中に翼まで生えている。床にも長椅子にも寝かせることが出来なかったのだろう。

 エリックがニケを、アスターがベイカーの状態を確認し、揃って安堵の息を漏らした。

「女神様は、ただのエネルギー切れだな。かなりあちこち骨折してる感じだが、胸や腹に水が溜まってる様子もない。このまま放っておいても大丈夫だろ」

「こっちは重度の火傷みたいだけど……ま、このくらいなら、十分助けられるジャン?」

 アスターは懐から一枚の呪符を取り出し、自分の口元にかざす。

「メディカルゴーレム、起動!」

 フッと息を吹きかけられた呪符は看護婦型のゴーレムになった。このゴーレムには救急救命士と同等の知識と、それに対応した治癒魔法技能がインストールされている。ゴーレムは手早くベイカーの状態を診て、アスターに報告する。

「胸部、腹部の火傷はこの場で治療可能ですが、右手首が欠損しています。この欠損箇所は、私にインストールされたプログラムでは再生不可能です」

「それは本国に帰ってからなんとかするジャン。とりあえずは止血と、それ以外の箇所の治療を優先」

「はい。損傷部の治療と生命エネルギーの補充には魔導式蓄電池七十九パーセント分のエネルギーが必要となります。現在使用可能なエネルギー残量は五十二パーセントです。不足分を充電、もしくは直接注入してください」

「じゃ、ダイレクトのほうで」

 アスターは看護婦ゴーレムの顔に手を伸ばし、顎をクイッと持ち上げて唇を重ねた。このゴーレムはキスすることによって魔力を直接注入できる仕組みになっているのだが――。

(あー……うちの弟、絶対なんかヤバい趣味だよな、これ……)

 エリックはアスターの行動を生温い目で見守る。なぜならこれは違法改造された非正規品。通常の看護用ゴーレムは性別も感情も無い『無機質な軽作業ツール』であり、命令されたことを機械的にこなすこと以外、余計な機能はついていないはずなのだ。けれどアスターのゴーレムはキスされた瞬間、嬉しそうに頬を紅潮させ、そっと瞼を閉じている。看護用ゴーレムとしては、明らかに不要な機能である。

 スレンダーでしなやかな体も、まつ毛一本一本まで植え込まれた整った顔も、説明されなければゴーレムと気付かぬほどの完成度なのだが――。

(よりにもよって、なんでセレンの顔にするんだ、弟……)

 そう、このゴーレムは特務部隊の副隊長、セレンゲティ・グレナシンと瓜二つなのだ。

(この人形、下半身は男なのか、女なのか……いや、両方か? う~ん? 怖くて聞けねえなぁ……?)

 男とも女ともつかない細身のボディラインに疑問を感じつつも、エリックは元カレに執着しまくっている弟に何も訊けず、モヤモヤした気持ちで治療が終わるのを待つ。

 看護婦ゴーレムがベイカーに手をかざすこと、一分少々。治癒魔法が効いたらしく、ベイカーは微かに目を開けた。

「よお、お嬢ちゃん。やっと目ぇ覚ましたか?」

「……お嬢ちゃん……だと? おい、男。この我、タケミカヅチに向かって無礼な言葉は……」

「ん? あれ? 『器』のほうじゃない? え? でも、実体あるよな? ナースちゃんが普通に治療できたんだから、この体、サイトのだろ……?」

 問いかけながらも、エリックは相手の体を遠慮なくベタベタ触る。タケミカヅチは苛立った様子でその手を払い除けた。

「やめろ。おい、やめろと言うに! 我に触れてよい者は、ありとあらゆる種の若く健康で美しい女だけと決めているのだぞ! 中年男はお断りだ!」

「ヘイヘイ、そりゃあどうも失礼しましたね、尿酸値高めのオッサンで。で? なんで体を動かしてるのがタケミカヅチのほうなんだ? 俺の後輩、どこにやった?」

「……話すのも面倒だ。男よ、頭をこちらへ。サイトの脳が記憶している情報を、貴様の脳に直接送ってやる」

「へえ? そんなことできるんだ?」

 エリックは面白そうなものを見つけた顔で、素直に頭を近づける。

 どうせ創造主のところで見せられた映像のようなものだろう。そう思って油断していたエリックは、次の瞬間、弾かれたように飛び退いた。

 その体には、はたから見ても分かるほどハッキリと鳥肌が立っている。

「……なんだよ、これ……」

 自分の脳内に唐突に現れた『他人の記憶』。視覚も、聴覚も、嗅覚も、触覚も――ありとあらゆる感覚のすべてが、自分自身が体験したかのような鮮明さで記憶されている。そのあまりの生々しさに、エリックは混乱する。

「……嘘だろ? それじゃ、まさか、この女は……」

「お兄チャン? なになに? どういうこと? 何が……」

 と言っているアスターのほうにも、タケミカヅチは『ベイカーの記憶』をコピーしてやる。




 ニケの強引な誘いに乗る形で、なし崩し的に始まった行為。黒い霧の影響で、あっという間に理性が飛んだ。もう二人には善悪の判断などつかない。本能的に、欲するままに、目の前にいる異性の体を求め、感じ、悦楽の中に堕ちてゆく。このまま命が果てるまで、ただ、肉欲だけに溺れていられたら。獣のように声をあげ、交わっていられたら――この時の二人には、それ以外のことは何ひとつ考えられなかった。

 しかし、二人がそんな快楽の最中にあっても、ベイカーが創造主に向かって放った言葉は確かに効力を発していた。

 人間サイト・ベイカーと、女神ニケとの婚姻。

 彼らは夫婦として認められ、祝福されたものである。夫婦としての一生を終え、天に召されるその時まで、互いに貞節を守ることを誓っている。


 だが、その誓いは既に破られていた。


 神とは本来、実体を持たないエネルギー生命体のようなもの。創造主の『恋愛許可』を受けて実体化可能となったボナ・デアやユヴェントゥスと違い、ニケに肉体はない。彼女が『人間と肌を合わせること』はできないはずなのだ。

 ならばどうして、ベイカーとの性行為が可能なのか。

 答えは実に単純明快で、ニケのほうも『人間の体』を使っているからである。

 ベイカーには何の非もない。それどころか、この時点ではまだ気付いてもいなかった。自分が抱いているこの体がニケ本人ではなく、ニケによって操られた『阿久津始鶴』という女子高生のものだということに。

 ニケは己の欲求を満たすために自身の『器』、阿久津始鶴の意思を無視して性行為に及んだ。これは重大な罪である。

 愛してもいない男に処女を奪われた始鶴と、ニケに振り回されて闇堕ちと化そうとしているベイカー。この二人の人間を救済すべく、創造主は現場の最も近くにいる神、白虎に『役割』を与えた。その『役割』とは、女神ニケを亜空間に隔離することと、人間二人を保護・治療することである。

 黒い炎に包まれ重傷を負っていた白虎は創造主によって治療を施され、このとき同時にタケミカヅチも意識を取り戻した。

 白虎は直ちに行動を開始する。まずは始鶴の体からニケを引き抜き、創造主の用意した『隔離用の亜空間』へと放り投げた。だが、ニケは簡単に退治されてくれる相手ではない。咄嗟に近くにあったもの、ベイカーの手首を握り締め、空間の裂け目に踏みとどまる。

 このままではベイカーまで引き込まれてしまう。そう思ったタケミカヅチは、ベイカーの手首を切断した。しかしその瞬間、ニケはベイカーの手首を放り出し、切断された断面からベイカーの魂を引き抜いてしまった。

 そこからは、タケミカヅチとニケとでベイカーの魂の引っ張り合いである。

 病み上がりの軍神対闇堕ち状態の勝利の女神。誰がどう見ても、タケミカヅチの旗色は最悪だ。すぐさまタケミカヅチに加勢しようと手を伸ばした白虎だったが、このタイミングを誤った。丁度、ニケが黒い炎を撃ったところだったのだ。

 黒い炎の直撃を食らったタケミカヅチは、たまらず手を離してしまった。そこへ手を伸ばしてしまった白虎は、一人ではニケの力に対抗しきれず、ベイカーの魂もろともに亜空間へ引きずり込まれ――。

「やめろ! やっ……あああああぁぁぁぁぁーっ!」

 哀れな悲鳴を上げる白虎と、その悲鳴を掻き消すように目の前で閉ざされた亜空間の出入り口。タケミカヅチはこのとき予感した。


 白虎は殺される。


 歴戦の女神と、生まれ変わったばかりの幼い神。どちらが勝者となるかなど、火を見るよりも明らかである。

 タケミカヅチはその場に残されたベイカーの体を使い、気を失っている始鶴を抱きかかえて自分の『心の世界』へと逃げ込んだ。ベイカーも始鶴も、闇堕ちと化した女神の性行為に付き合わされたダメージは大きい。ひどく衰弱しているし、あちこちに打撲や骨折、火傷や擦過傷もある。早く治療を施さねば、二人とも命を落としてしまうかもしれない。

 タケミカヅチはどうにか力を振り絞り、力の尽きかけたベイカーの体で駆逐艦『浦風』にたどり着いた。最後はほとんど自由落下したようなものだが、それでも彼は始鶴をかばい、彼女の負うダメージを最小に抑える。そして、かつて自分の憑代を務めた男にこう言った。

「艦長、すまない。我より、この娘の手当を優先してくれ。この娘だけは、絶対に死なせるわけにいかんのだ……」

 そしてタケミカヅチの意識はブラックアウトする。

 エリックとアスターが見せられた記憶はここまでである。




 呆然とするメリルラント兄弟に、タケミカヅチは忌々し気に言い放つ。

「まったく、よりにもよって、なぜ貴様らがこちらに来るのだ? どうやって入ってきたのかは知らぬが、貴様らは『史上最強の雷獣』と謳われるほどの力量があるのだろう? 貴様らこそ、外に残ってサイトと戦うべきであろうに……」

「いや、だから、ソレ。俺たちは、ここに闇堕ち状態のサイトがいるって言われて……」

「……誰にだ?」

「ピーコックと、コニラヤとかいう神だ」

「どのような状況で?」

「いや、ぶっちゃけ俺たちにも分からねえ。モンスターが滅茶苦茶大量発生してて、倒しても倒しても減らなくて、戦ってたら急に呼ばれて……なあ?」

「うん。サイトのいる『心の世界』に入る方法が分かったって言われたジャン?」

「死ぬなとか、ここに空間の裂け目があるとか、それくらいしか言われてねえよな?」

「そうそう。ピーコがやけに真面目な顔してるから、てっきりサイトが死亡確定してるもんだと思ってここに来たんジャン? サイトの体がまだ生きてて、カミサマが動かしてるなんて聞いてないし……?」

 二人の言葉を聞いて、タケミカヅチは「クソッタレ」と叫びながら、床を強く叩いた。そしてゆっくりと身を起こし、唸るように言う。

「この世界への出入り口を開けるのは、我とサイトのみだ。貴様らが通った空間の裂け目は、サイト本人が開けたものだぞ……!」

 メリルラント兄弟も、ここにきて事の重大さに気付いた。

 ベイカーは闇堕ち状態。つまり、今は自分たちの『敵』である。そのベイカーが、こちらの戦力の分断を狙ったとしたら――。

「ピーコックの奴が騙されたっていうのか⁉ あの毒猫野郎が⁉」

「だとしたらヤバいジャン⁉ 王子様たち、ピーコの指示で動いてるはず……っ!」

 ピーコックとコニラヤが危ない。そして彼ら以上に危険なのは、臨時リーダーであるピーコックの指示に従うマルコとレインである。あの二人は臨時リーダーと自分の守護神の指示を疑うことなく、真正面から落とし穴に突っ込んでいってしまうに違いない。

「すまない、二人とも。情けない話だが、今の我は、己の存在を維持するだけで限界なのだ。神が人間を頼るとは、なんともばかげた話だが……」

 タケミカヅチは居住まいを正し、指をそろえて頭を下げた。

 座位でのお辞儀としては最も丁寧に、深々と、長々と頭を下げ続け――。

「や、ちょ、待てよ! やめろって! お前、神だろ⁉ そう簡単に頭下げたりするもんじゃねえだろ!」

「いいや。我は神とは名ばかりの、無力な存在だ。己の『器』も、兄弟も、こんな少女一人も守れない。すまない、二人とも、この通りだ。我の代わりに、サイトを止めてくれ……」

「いや、うん、まあ……サイトを止めなきゃなんねえのは俺たちも同じだから、それは頼まれなくてもやってやるんだけどよ。なあ、さっきから気になってることがあるんだが、聞いてもいいか?」

「……なんだ?」

「この世界は、何だ? おかしいだろ? 俺が行ったゴリラの神の『心の世界』は、俺とゴリラ以外なんにもいなかった。この世界は、どうしてこんなに幽霊がうじゃうじゃしてんだ? カミサマの『心の世界』ってのは、器か憑代しか入れないもんなんだろ?」

「ああ、その通りだ。その通りだからこそ、彼らはここにいる」

「……ん? え? いや……どういうことだ? この船だけで二百人以上いるよな……?」

「そうだ。駆逐艦『浦風』には、二百二十八名の憑代がいる」

「はぁ? いや、ちょっと待て? なんだよ、その数……」

「他のカミサマと、なんか違うジャン?」

 メリルラント兄弟の疑問に、タケミカヅチは顔を上げ、胸を張って答える。

「我が大日本帝国海軍のすべての艦船には、守護に当たる山や川、雨や風、雲の女神の名が与えられている。しかし、彼女らは本来、戦場に連れ出されるような神々ではない。これほど大勢の兵士に加護を与え続ければ、日本の国土は痩せ、荒れ果ててしまう。だから我が肩代わりした。日本兵全員を我の『憑代』とすれば、彼女らにかかる負担をゼロにできる。大和の女神は水や土に恵みを与えるという、大切な『役割』を持つのだ。あの戦争の勝敗がどうであれ、戦後の復興には女神たちの力が必要だった……」

「……え? じゃあ、あれか? お前、もしかして、数百人どころじゃなくて……」

「戦場に散った日本兵、二百三十万人。彼ら全員が我の憑代であり、この世界の住人である」

「二百……」

「三十万……?」

 メリルラント兄弟は顔を見合わせる。

 桁が違う。いや、違いすぎる。

 それだけの大人数を一人で抱え込んでいるからこそ、彼は『ろくに戦えない状態』に陥っているのだ。本来の力を発揮したならば、彼はきっと、他のどんな神も足元にも及ばない『最強の軍神』であるに違いない。

 そう思ったエリックは率直な感想を述べようとするのだが、タケミカヅチは手だけでそれを制す。


 今の姿が自身のすべて。仮定の話は結構だ。


 目だけでそう語って見せるタケミカヅチに、エリックは妙な好感を抱いていた。他の神々やベイカーが口にする『タケミカヅチは中二病』という言葉は、つまりこういうことだったのだ。

 彼の心は真っ直ぐすぎる。そしてその真っ直ぐな心と己を顧みない行動こそ、人間ならば年を取るうちに忘れてしまう一点の曇りもない正義の心、いわゆる『少年の心』と呼ばれるものである。

 タケミカヅチの『真の姿』に気付いた瞬間、エリックには、ベイカーとタケミカヅチの関係を正確に理解することが出来た。

 どこまでも馬鹿正直にまっすぐ突き進む神と、どこまでも汚れ役に徹して目的を遂行する人間。まったく異なる手法を用いながら、その心の在り様は、奇妙にピタリと一致する。彼らは息を合わせ、同じ方向に向かって歩を進めている。互いにとって不足しているものを正確に理解し、補い合っているからこそ、彼らは何の迷いもなく戦えるのだ。

 にわかタッグの自分とゴリラには到底真似できない関係だと、心の内で自嘲し、また、同時に嫉妬した。自分はここまで馬鹿正直になれない。ベイカーほど汚れ役に徹することも出来ない。中途半端な自分が悔しくて、情けなくて、腹立たしい。男らしさの欠片も無い、女のような見た目のタケミカヅチがこれだけの『漢気』を見せつけてきたのだ。ここで奮い立たねば、男として生きる意味がどこにあろうか。

「……そうか……なるほどな。ヘファイストスがお前に執着しまくってた理由、分かった気がするぜ。そんじゃ、ま、行ってくるわ。どんな状況か知らねえけど、俺たちは『手加減』ってコマンド持ってねえからな? うっかりベイカーぶっ殺したとしても、文句言うなよ?」

「ああ……分かっている。すまない。嫌な仕事を押し付けてしまったな」

「くどいぜ。俺の意思で行くって言ってんだろうが」

 エリックは立ち上がった。元の世界に帰るため、この世界に入るときに使った、あの空間の裂け目まで戻ろうとしたのだが――。

「お?」

「あれ?」

 立ち上がった瞬間に、辺りの景色が変わっていた。

 新宿御苑の芝生広場である。

 あたりには相変わらず大量のモンスター。そのモンスターたちに天使と神の必殺技が炸裂し、次々と駆除されている。だがそれを上回る速度で新たなモンスターが生み出されているため、数は一向に減らせていない。

 太陽の位置は、目視ではほぼ変わっていないように見える。こちらではそれほど時間が経過していないということだ。

 二人も手近なモンスターを倒しつつ、ピーコックを探す。しかし、見つからない。赤い閃光を頼りにサマエルに駆け寄るのだが、サマエルはピーコックを守るためにモンスターを引き付けつつ距離を置いたと言い、ピーコックの現在地は把握していない様子だ。

「あ! おい! そこの天使! ピーコック見なかったか⁉」

 逃げ惑う白っぽい小鳥を見つけてそう呼び掛けてみたが、それは天使でなく、本当にただの小鳥だった。怯えた様子で飛び去ってしまう。

「うわぁ……なんか俺、メルヘンおじさんじゃね?」

「うん。ぶっちゃけ今、かなりヤバい人だったジャン?」

「だよなぁ……」

 四十代にもなって、ごく普通の口調で鳥さんに話しかけてしまった。エリックは非物理的ダメージを感じ、少しだけ落ち込んだ。

 新宿御苑は今、応援に駆け付けた近隣の仏神や稲荷、道祖神、鐘馗、天女、その他正体不明の付喪神たちまで参戦していて、天界大戦争の如き混沌の渦中にある。この中で『幻覚で姿を消す能力』の人間を探すのは、二階から目薬、いや、二十二階から地下二階へ目薬を落とすようなものであろう。

 ピーコックを探すことは諦めて、他の仲間と合流しよう。兄弟はそう方針転換し、マルコを探す。

「あ、お兄チャン! あそこ! 王子様と海産物、一緒にいる!」

「お! よっしゃ! とりあえずあいつらと合流だ!」

 そう言いながら、駆け寄ろうとしたときだった。


 背後に何かの気配を感じた。


 さすがというべきか、エリックは本能的な回避動作のみで攻撃を避けた。そして避けながら《雷装》を発動させ、騎士団仕込みの実戦格闘技でカウンターアタックを仕掛ける。

 背後から剣で斬りかかった人物が誰か。目で見て確認するまでもない。

「よお、お嬢ちゃん! 名乗りも上げずに奇襲たぁ、相変わらず最っ高に最低だな!」

 振るわれた剣をソードブレイカーで受け、同時に《雷火》を連射。しかし、相手もまったく同じことを考えていた。剣と籠手とで押し合いながらの超近距離射撃戦。弾数で負けたほうが蜂の巣になるだけの、雷獣にとっては珍しくもなんともない『ガチのケンカ』に突入する。

 エリックとベイカー、どちらも桁外れの戦闘力を有する雷獣同士。双方の放つ雷がぶつかり合うたび、空気は震え、大地は揺れる。空気そのものが電気分解される独特のイオン臭の只中で、二人は揃って笑う。

「ヒャーッハッハッハッハアアアァァァーッ! おいサイト! マジかよその格好! 最高にいかれてやがるぜ!」

「お褒めにあずかり大変光栄です。やっぱり先輩ならわかってくれますよね。いいでしょう? ニケの心臓、すっごく美味しかったんですよ?」

 血で汚れたベイカーの顔と体。それは自身の血ではない。彼は亜空間の中で女神と神獣を喰らった。正確にはニケが白虎を喰らい、その後に己の心臓をベイカーの口に捻じ込んだのだが、結果としては同じことである。


 創造主に裁かれて消えるくらいなら、お前の中で生き続けたい。


 ニケは最期まで、そんな己の望みに準じて行動した。相手の精神が破壊されようと、知ったことではない。『一緒に居たい』という望みが叶うのならば、愛する男の人生など簡単に踏み躙れる。

 愛に狂った女神の末路に、傍観者と化したアスターは戦慄した。そしてそれ以上に、自分の兄に恐怖する。


 エリックは今、闇堕ちと化しているベイカー以上に狂った笑みを浮かべていた。


 剣と籠手とが同時に弾かれ、一度距離を取る二人。身を引くその瞬間にも《雷陣》と《雷拝》を発動させ、電磁石と雷の鞭とで相手の行動を制することに余念がない。

 二人の戦いは三メートルほどの距離を取っての雷撃戦に変わり、アスターは巻き添えを食わぬよう、全力でその場を離れる。

 兄があの笑みを浮かべているときは非常に危険である。自身が『好敵手』と認める相手が現れたときには、一切の手加減と配慮を忘れる。周囲に子供がいようと子猫がいようと、逃げ遅れた妊婦や老人がいようと、兄には全く見えていない。それどころか、援護に入ろうとする弟まで攻撃しはじめるのだ。

 迂闊に近付けば殺される。

 アスターは兄の加勢はせず、マルコの元へと駆け寄った。

「アスターさん! 向こうで、一体何が起こっているのです⁉」

 マルコはアスターに気付くと同時にそう叫んだ。モンスターの群れに囲まれていて、マルコの位置からはエリックとベイカーの姿は見えていない。ただ、恐ろしく強烈な雷撃の応酬が行われていることだけは見えている。

 アスターは軽い口調で答えた。

「お兄チャンと闇堕ちとの愉快な殺し合いジャン!」

「えっ⁉ ゆ、愉快な……?」

「うちのお兄チャンには日常茶飯事! 気にしない、気にしな~い!」

「こ、殺し合いが日常茶飯事……?」

 理解しがたいという顔をするマルコだが、今は雑談に興じる余裕は無い。自分に向かって飛び掛かってきたモンスターを三体連続で切り伏せ、次いでレインの背後にいる一体に《火炎弾》を放つ。

「ありがとうございます!」

「こちらこそ!」

 そう言うと同時に、マルコの目の前に細切れにされたモンスターの断片が降り注ぐ。ほぼ同時に、互いの死角の敵を始末していたのだ。

「おお! いいね、この連携! 相性最高ジャン!」

 同属性で固まったほうが戦いやすいと気付いたのか、マルコとレインの周りには雨や雲、海や川の女神らが大集結している。直接的な攻撃能力を有する神はほんの数人だが、その数人の能力を最大に引き出せるよう、全員で水の陣を構築していた。

「ということは、ひょっとして……?」

 少し落ち着いて周りを見回すと、雷属性の神ばかりが集まって戦っている場所もあった。

「俺、あっちに加勢してくるジャン! 王子様、うちのお兄チャンだけは近付かないでネ! お兄チャン、今、狂戦士モードだから!」

「分かりました! どうかご無事で!」

 アスターを見送り、マルコはサラに呼びかける。

「サラ! 私には、加勢してくださっている女神たちの能力が分かりません! この中に、海の女神はおられますか⁉」

 サラは体内の水分を直接震わせるあの声で、女神たちに呼びかける。すると女神たちは、一斉に驚きの声をあげた。

「この声! あなた、ただのオロチじゃなかったの⁉」

「蛇神の赤ちゃんだと思ってたわ!」

「まさか本物の竜神様⁉」

「竜神様が人間を守護しているの⁉ どういうこと⁉」

 そう言われても、マルコにもサラにも、自分たちがどのくらい特殊な存在なのかは分からない。申し訳ないが、今は女神たちの問いかけをスルーして、こちらの要件を優先させてもらう。

(今ここに、海のカミサマはいる? あっちの子、レインって言うの。あの子は普通の人間じゃなくて、シーデビルっていう種族なの。海水の中で呼吸できるし、海の生き物なら、なんにでも変身できるよ。お願い。海のカミサマがいたら、レインに協力してあげて)

 サラの求めに応じ、一人の女神が動いた。

 おタケさんファンクラブ会員番号七番、アキツヒメである。彼女もタケミカヅチが身代わりになったことによって、ほぼ無傷で終戦を迎えることが出来た女神の一人だ。

 彼女は名乗りを上げるでもなく、いきなり必殺技を使う。

「特殊結界《竜宮の牢獄》、発動!」

 突如として出現した巨大な水の檻。隅から隅まで海水で満たされた球体は、まるで超巨大な金魚鉢のようだった。

 直径百メートルの海水の金魚鉢に、女神らが操る式神たちは次々とモンスターを放り込んでいく。彼女らは軽作業用の式神ならばいくらでも操れるが、モンスターに止めを刺せるだけの攻撃力を持たないのだ。止めを刺せる能力者がいるのなら、あとはそちらに任せよう、ということらしい。

 モンスター共々金魚鉢のような球体に投げ込まれてしまったレインは、サラから手短な説明を受け、即座に姿を変えた。レインが選んだ生物は、地球でははるか古代に絶滅してしまった巨大鮫、カルカロクレース・メガロドンである。

 体長二十メートルの鮫が直径百メートルの金魚鉢の中で謎のモンスターを捕食しまくるという現実離れした光景に、マルコは数秒、完全な棒立ちになった。

「……サ、サメというものは、非常に強い生物なのですね。大変驚きました……」

 他に何を言えばいいのだろう。このような状況下での正しいリアクションの取り方は、クエンティン子爵家のお抱え家庭教師は教えてくれなかった。

 水の女神らの戦い方を見て、他の属性の神々も動きを変えた。風神たちも雷神たちも、それぞれアキツヒメに倣って特殊結界を発動していく。

 マルコはその中の一つ、属性不明のオーロラ色の結界にピーコックとコニラヤが投げ込まれるのを見た。

「あの結界は……?」

 見たところ、結界を構築しているのは黄金色、真珠色、虹色の光を纏った天使や女神、仏神たちだ。光の色から判断する限り、生誕や婚姻、正しき行いを天に報告し、祝福を与える天の遣いのようだ。攻撃能力を持たない天使や神が、光で弱らせたモンスターへの止め役として二人を選んだらしい。

「おい! こら! だから、なんで俺がこういう役回りなんだ⁉ こんなホーリーな空間、俺には絶対似合わないだろーっ⁉」

「ぼ、ぼぼ、僕たちが攻撃担当なんですか⁉ 本当にっ⁉ え、えーと、えーと、それじゃあ……変身!」

 コニラヤはティラノサウルスに変化し、ピーコックを背中に乗せて駆け出した。サマエルが実体化している今、ピーコックには利き手が存在しない。自分が牙による攻撃を行い、背中のピーコックに魔法で援護してもらおうと思ったのだが――。

「イッテエエエェェェーッ! 馬鹿野郎! 鞍も手綱もなしに、どうやってティラノに乗れってんだよ! こっちは片腕しかないんだぞ⁉」

 ピーコックは開始から十秒も経たずに振り落とされてしまった。コニラヤは慌てて駆け戻り、尻尾を振り回してピーコックに殺到したモンスターを追い払う。

「そんなぁっ! 人間が鞍無しティラノに乗れないなんて想定外ですよ! 二足歩行で重心が体の中央部にあるから、背中の安定感は馬と同じくらいだと思ったのに!」

「知るか! もう少しましな動物に変身しろ! せめてしがみ付く毛とか角とかあるヤツ!」

「じゃ、じゃあ、これは⁉」

「え……って! うぇええぇぇぇ~いっ⁉」

 コニラヤが変身したのはアカカンガルーだった。ただし、大きさは実際のカンガルーの二倍以上ある。コニラヤはピーコックを掴み上げてお腹の袋に突っ込むと、襲い掛かってきたモンスターに右ストレートを食らわす。

「馬鹿! おまえ、これじゃ背中がガラ空きだろ⁉ 二人で戦う意味ないって!」

「あ! そう言われてみればそうですね!」

「お前ホントに神かよ! もう俺を乗っけるのは諦めて、もっと単独で機動力と攻撃力のあるやつにしろよ! ジャガーとかクーガとかさぁっ!」

「どんだ盲点! まさかその手が!」

「いや、むしろその手しかないだろっ⁉」

 ピーコックはカンガルーのお腹の袋から頭と左手を出して『なんでやねん!』というツッコミ動作をした、世界初の中年男性である。そのことを自覚しつつもどうにか平常心を保つべく、全身全霊をもって顔の筋肉を引き締める。油断すると鼻水と涎を垂れ流しながら、その辺を転げまわって爆笑してしまいそうだった。

 彼らを見守る神と天使も、皆、それなりに必死な顔をしている。やはり、油断すると顔の筋肉が制御不能に陥る恐れがあるらしい。

「な……なんて楽しそうな戦場なのでしょう……っ!」

 こちらが巨大鮫によるB級パニック映画なら、あちらはC級アクションコメディーだ。ハードボイルドな展開になっている炎の神、戦争映画のような爆音に包まれた雷神たち、完全な空中戦を展開している風神たち。それぞれ個性的な戦いぶりに、マルコとサラはポカンと見入ってしまう。

「……サラ? なんだか私たち、もう少し頑張らないと、影が薄くて仕方がないというか、なんと言うか……」

(あんなに濃くなる必要、無い気もするけど……)

「それもそうですが……しかし……」

 マルコはエリックが戦っているほうに視線を向ける。先ほどアスターに忠告されたが、それでもマルコは、自分が加勢すべきはあの戦場と判断した。他の神々はそれぞれの属性ごとに最適な戦い方でモンスターを倒している。今はモンスターの出現をはるかに上回るペースで駆除作業が進められているのだ。現状で互角かそれ以下の可能性がある戦場は、エリックが戦うあの現場のみである。

「行きますよ、サラ!」

(うん!)

 水の龍を引き連れて、マルコはエリックの加勢に向かう。よもやこれから戦うべき敵が、とんでもない『怪物』だとは思いもせずに。


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