了
姉よ。
私が間違っていたとでも言うのか……。
◇
「何勝手にあいつを家に呼んでんだよ!! お前――死ぬ気か!?」
明日岩田君が家に遊びに来ると風呂上りに姉に伝えた私。
その私のパジャマの胸倉を掴んでこめかみに青筋を立てながらマジ切れして怒っている姉。
「バレンタインの時に姉さんが無理矢理セッティングしたんじゃないの。 淡い思い出でも作らせて貰うわ。」
私と岩田君ではなくて、貴女と岩田君の、だけれども。
「とにかくあたしは一歩も部屋の外に出ないかんな!」
「……えっ!?」
予想外の姉の言葉に目を丸くする私。
「あたしが家が居る事も絶対に言うなよ! 後は見られるなり剥かれるなり揉まれるなり好きにしな。」
姉よ。
何故私がまるで悪魔を召喚した様に言うのか。
「……お前さ、明日安全日?」
「なっ!?」
「あーあ……。 母さん達温泉に行ってるから明後日まで戻って来ないんだろ? ……あーあ。」
「ちょっ。 本当に嫌がったら悪霊退散すれば良いんでしょ!?」
「それは外での話じゃん。 家の中に入れたら最後、押し入れの隙間どころかお前の身体の穴という穴にまで入り込んで来るぞ。」
今更そんな物凄い岩田侵食率を語られても困る。
「そうか……お前の顔を見るのも今日で最後になるかもしれないのか。」
「ちょ、ちょっと待って姉さん。 何がどうなって私が居なくなるのよ。」
「発見されんのは……そうだな……今から五年後くらいか……。 もう三人くらい子供でも居るのかな。」
遠い目をして廊下の先を眺める姉さん。
「物騒すぎるわよ。 べ、別にそんなに警戒しなくても大丈夫よ。」
「まあ、大丈夫だと思うなら大丈夫なんじゃないか。 ――お前の中ではな。」
くっ……あのセリフを姉の口から聞く事になるとは……。
「っていうか、脅して楽しんでるだけでしょ? いつもみたいに働いたら負けT着てリビングに一緒に居ましょうよ。」
「……おま……それ火にナパーム弾注ぐようなものだぞ……。」
それを言うなら火に油なのだろうが、ナパーム弾の方が逆に頭にしっくり来て困る。
「ないわー。 岩田だけはないわー。」
……何故かしら。 あんなロリオタだが、先日話をして少し見直した手前、そこまで馬鹿にされると自分の気分が悪くなるわ。
「じゃ、おやすみ。 良い夢見ろよ。 まあ、悪夢だろうけどな。 っあはははは!」
そして姉は自分の部屋へと消えて行った。
廊下に残された私は一人静かに床をぐりぐりと踏み付けながら、自分の軽率な行動を後悔したのだった。
◇
翌朝、0700。 本日は休日であり、起床した私はパジャマから普段着に着替えようとするが……。
普段着ているワンピースに伸ばした手を止める。
膝丈のワンピースにハイソックスを履こうと思って居たが、そんな装備で大丈夫かともう一人の私が私に問い掛けて来るのである。
「だ、大丈夫よ大丈夫。 変な人だけど結構打たれ弱いのだから。」
そう自分に言い聞かせ、パジャマを脱いでキャミソール姿になった私は、ワンピースに腕を通す。
そして、背中のボタンを二つ止めて、ハイソックスを装備。
「…………というか、ちょっと待って。 姉さんが居ないと言う事は私と岩田さんが二人きり……?」
何か物凄く不味い状況の様な気がするわ。
まるで家族が誰も居ない家に、策を講じてまで岩田君を誘ったみたいでは無いか。
そして、リビングでアニメのBDを二人きりで見るなど、異性対応スキルが0の私には敷居が高すぎる。
どうしたら良いのだろうか。
……というか、姉さんが彼と対応しないと決めた昨日のうちにお断りの電話をすべきだったのでは?
元から姉さん狙いなのだから、彼女の都合が悪いと言えば……。
今からでも遅くない。 電話してみるか。
私は自分の部屋にある家の電話の子機を手に取ると、万が一の為にと教えて貰っていた岩田君の携帯電話に電話を掛けた。
って、少し時間が早すぎたかしら。 まだ7時半にもなってないわよね……。
「もしもし。」
と、考えて居たら3コールで電話に出た岩田君。
「あ、もしもし。 直美です。」
「直美様か! おはよう!」
うわ。 何かめっちゃ声が元気なんですけど。 しかもちゃんと私の名前の後に『様』を付けてるし。
「実は今日の事なんですけど……。」
「ああ。 実は俺の方から連絡するかどうか迷っていたんだが、そちらから電話を掛けてくれるとは有り難い。 何時頃に家に伺えば良いのか分からなくてな。」
ん? そう言えば時間を決めて居なかったわね……。
「流石に七時では早すぎると思って、近くのコンビニでコーヒーを飲んでいたところだったのだ。」
七時は流石に早すぎるでしょ岩田君! って、近くのコンビニに居るですって!?
「近くって、近所のロー○ンですか?」
「うむ。 椅子のある店で良かった。 WIFIもあるしやっぱり○ーソンは最高だな。」
あー。 ネット環境があれば何時間でも耐えられるタイプの人なのか。
――じゃなくって。 お断りの電話をするのではなかったか。
「あ、あの……実は……。」
「何かね?」
っくぅぅぅぅ!! めっちゃ言い難いわ!
そんなに弾んだ声で聞き返さなくても良いじゃない!!
しかも、もう家の近所まで来ているというのに、帰れと言わなくてはならないのかっ!?
「じ、実は家のP○3が壊れてしまって。 BDが再生出来ないみたいなんですよ。」
そうよ。 こうなったら嘘でも付くしかないわ。
「ん? そうか。 それは丁度良かった。 万が一の為にノートパソコンを持って来て居たのだよ。」
しかし、そんな嘘は効かぬ! とばかりに返して来る岩田君。
「そ、そうですか。 では少し家を片付けておきますので……。」
「三十分後くらいで問題無いかね?」
「あ、はい。」
「では後ほど。 楽しみにしているぞ、直美様。」
ぴっ、と、子機の電源を切る私。
「――――ぎゃぁぁぁぁ!! 何か最後の方、背筋がぞわってなったわ! ぞわって!」
まるで普通の女子の様な声を上げてしまう私。
自分でもそんな声が出るのかと驚いたくらい女子っぽかったわ今。
…………背に腹は変えられぬ。
ここは援軍を用意しなくてはなるまい。
◇
「姉さん。 起きてる?」
姉の部屋の扉をそうっと開けて、声を掛ける私。
と、ベッドの真ん中で身体を半分だけ布団から出しながら大の字で寝ている姉さんが。
「ぐむぅ……。」
嫌そうな声を上げて首をポリポリと掻く。
Tシャツにパンツ一枚の姉さんだが、今日のTシャツには遅刻上等と書いてあった。 何種類くらいバリエーションあるのよ、そのTシャツ。
というか、寝顔が働いたら負けで有名な某ゲームのアイドルにそっくりで、父の高性能カメラで激写したい気分である。
……というか、ちょっと待てよ。 ……寝て居る。 姉さんが。
姉は休日、いつも何時頃に起きている?
多分九時から十時までは寝ている筈だ。 という事は、だ。
岩田君が家に到着する時には、まだ寝て居るという事になり……。
姉さんが何かを食べに一階に降りる時には、既に岩田君がリビングに居るという状態……。
姉よ。
ありのままの自分を見せる良い機会だと思うわ。
◇
ピンポーン、と、家のチャイムが鳴る。
電話からきっかり30分後の事だった。
「おはようございます。」
玄関の扉を開けて、家の前に居る人物に声を掛ける私。
「お、おはよう! 良い天気だな、直美様!」
「いや、めっちゃ雪ちらついてますけど。」
「はっはっはっ。 俺は寒いのは結構得意でな。 逆に暑い方がダメなのだ。」
そんな事は一言も聞いて居ない。
姉と言い岩田君と言い、人の話を聞かない世代なのかしら。
「では、お邪魔します。」
しかし、勝手な事を言うとは言え、律儀にお辞儀して言う岩田君。
「あ、はい。 どうぞ……。」
つい私も軽くお辞儀をしながら言い返す。
「……うむ。 うむっ!!」
と、何故か二度大きく頷いて歓喜の声を上げる岩田君。
「な、何ですか?」
「女の子の家に呼んで貰ったのは初めてなのでな!! つい感動してしまった!!」
正直だなぁ。 って、やっぱりそんなに悪い人には見えないわよねぇ……。
「何か良い匂いがするな!! 直美様の匂いだろうか!! というか、私服めっちゃ可愛いな!! うん!! 可愛い!!」
前言撤回。 やっぱり結構ヤバい人なのかもしれない。
スーパーサ○ヤ人になるときみたいな恰好で玄関先でヒャッハーと言われても、どうしたら良いか分からないわ。
「んんっ!! すまんな!! 取り乱した!!」
取り乱しすぎです。 っていうか、私から岩田君への好感度ゲージが一気にマイナス方向に振れて行ってしまったのですか、本当にどうしたら良いですか?
「ところで……姉君は?」
姉君って……現代の人間で使ってる人を初めて見たわ。
「まだ寝てますけど……。」
「ね、寝て居る!? あの彼女が、無防備にっ!?」
「無防備に寝ない人なんて居るんですか……。」
「授業中に寝て居る時は頬杖を付いて警戒しながら寝て居るからな。」
うわ。 めっちゃやりそう……。
「遅刻上等Tシャツ着て大の字になって寝てますよ。」
「なんだとっ!? …………なんっ、だとっ!?」
言わない方が良かったかしら。 溜めて二回も『なんだと』を繰り返した岩田君。
「あと3cm小さかったら完璧だな!!」
「は?」
「杏ちゃんは139cmだからな。 君の姉君は142cmだろう?」
「……は? えっ!? 姉さん、そんなにちっちゃいの!?」
「何だ。 知らなかったのかね。 何とも高校二年とは思えぬ小ささよ……。」
「っていうか、どうやって姉さんの身長を知ったんですか? 家族でも知りませんよ。」
母さんは知ってるかもしれないが。
「……ん?」
拙い事を言ったと顔色を変える岩田君。
「まさか、身長測定のデータを……。」
「そんな事はして居ない!! 教室のドアの所にこっそり印を付けておいて、彼女が出入りする度に後ろから写真を撮って平均化して割り出しただけだ!!」
写真を撮って……平均化!? 何十枚も同級生である姉さんを後ろから隠し撮りして……平均化?
何という情熱!! しかし何という変態だ!!
「あの、岩田さん。 それ聞いたら正直誰だって引きますよ……。」
ちなみに私はもう完全に引いていた。
「……やはり拙かったかね。」
「やってる事、ほぼストーカーと変わらないじゃないですか。」
「し、失礼な!! 俺は嫌だと言われればちゃんと止める!! ――筈だ。」
最後めっちゃ声が小さかったんですが。
「じゃあもう姉さんの写真を撮らないで下さい。」
「ああ。 もう黙って撮らない。」
断りを得ればまだ撮る気は満々らしい。
「あと、今日はもう帰って下さい。 正直応援する気を無くしました。」
「そ、そんな!! 隠し撮りの事は正直に謝る!! この通りだ!!」
いきなり玄関先で土下座を始める岩田君。
その土下座した岩田君の頭の横に丁度姉さんのローファーがあり、それを二度見する岩田君。
「匂い、嗅がないで下さいよ。」
「嗅ぐもんかっ!!」
いつもの口調が崩れる程には動揺した様だ。
「うるせーよお前ら。 朝から何やってんだよ……。 って、げっ!! 岩田!! そう言やお前が来るって言ってたな!!」
と、階段の上から降りて来た姉さん。
「ふぉぉぉぉぉ!! ふおぉぉぉぉぉ!!」
眠たげな表情を携えた遅刻上等Tシャツ一枚の姉さんの姿を見て、雄叫びを上げる岩田君。
ダメだこいつ。 早く何とかしないと。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴を上げて二階に逃げる姉さん。 振り向いた瞬間にTシャツの隙間から少し下着が見えた。
「うほぁっ!?」
残念ながら岩田君の視界にも入ってしまったらしい。 獣のような歓喜の声を上げたわ。
というか、土下座の体制なら私よりもしっかり見えたかもしれないな。
「岩田さん、今日は歩きですか?」
「……えっ? あ、ああ。 そうだが?」
「じゃあ大丈夫ですね。」
「大丈夫って何がだね?」
私は無言でリビングに向かい、家の電話の子機を手に取るとボタンを三度押した。
『火事ですか、救急ですか?』
「救急でお願いします。」
玄関に戻りながらそう言う私。
岩田君は私を見上げてぽかんとした表情を浮かべている。
『どうしましたか?』
「姉の同級生の男性が家に来るなりいきなり土下座をしまして、その時に床で頭を打った様で意識が――――」
「待て待て待て待て!! どこに電話をしていると言うのだね直美様!?」
「あ。 今意識は戻ったみたいです。 でも打った場所が場所ですので、念のため救急車を呼んで貰えますか? 言動も何かおかしい様ですし。」
「きゅ、救急車!? 俺は大丈夫だ!! どこもなんともないぞ!?」
「自分は大丈夫だと言っていますが、だいぶ興奮している様です。 なるべく早く来て頂けますか?」
「い、いや。 呼ばなくて良いぞ直美様!! もう帰る! 俺はもう帰るからっ!」
と、慌てて玄関から飛び出して行く岩田君。
「……あの、救急車は呼ばなくても良いと言って家から出て行ってしまったのですが……。」
『大丈夫そうなんですか? 出血はありましたか?』
「出血は無かったです。 ……追いかけた方が良いのでしょうか。」
『今のお話ですと緊急性は低いと判断せざるを得ませんね。』
「そうですか。 お手数をお掛けしました。」
『いえ。 懸命な判断だったと思います。 失礼ですが、通報者である奥様の名前と年齢を伺っても宜しい――。」
ぷつん。 電話を切る私。
ごめんなさい救急センターの人。 いけないと分かっていて利用させて頂きました。
っていうか、患者は姉の同級生って言ってるのに、何で奥様呼ばわりなんですか。
てゅるるるる。 てゅるるるる。
と。家の電話が鳴る。 まさか救急センターからだろうか?
「はい。 もしもし。」
「直美様!! ひどいでは無いか! 病院への片道タクシーは必要無いぞ!」
何だ。 岩田君の方だったか。
「警察への片道タクシーの方が良かったかしら? 携帯電話やノートPCの中身を調べられて色々と困ってしまうかもしれないわよ。」
「頼む! 仕切り直しの、いや、弁明の機会をくれたまえ!!」
「弁明って……岩田さんがかなりヤバいって事への弁明なら無理ですよ。 もうとっくに臨界点突破してるんじゃないですかね。」
「少し興奮してしまっただけなのだよ!!」
興奮してメルトダウンしちゃいけないと思うわ。
「少しじゃないと思いますが。 どんだけ小さい子が好きなんですか。」
「ち、違う!! 俺はただ可愛い物全般が好きなだけだ!!」
何という雄々しい告白だ。
「だから君も大好きだ!!」
…………更にこの状態で告白とはまた勇者な事を……。
「私も一応女なので、そうやって好意を抱いて頂けるのは有り難いのですが、度を過ぎたら恐怖しか感じませんよ。」
「俺が……怖い、と?」
「じゃなかったら、あのあざとい姉さんが岩田さんをあれほど怖がる意味が分かりません。」
妹にロブスターの爪だけを残して置くような姉が、裕福そうな岩田君を使おうとしないのは良く考えたらおかしいのだ。
姉にクリスマスプレゼントでコス衣装を送り付けたくらいだし、これほど好感度が高いなら、きっと岩田君は姉が欲しいと言ったら何でも買ってあげる事だろう。
だが、それでも姉さんの中には岩田君に対する恐怖しか無いという事は、彼が姉に求める代償が想像を超えているからなのだろう……。
「姉さんの杏Tシャツ3セット、洗濯無しで出しますので、PS4行けますか?」
「……は? 無い……のか? 洗濯。」
ほらきた。 あっさり釣れた。
「二日くらいはみっしり着込んだ物ですね。 ちなみに姉は寝るときブラをしていないので肌に直接着ています。」
「ほう……。 ほうっ!!」
鼻息が荒くなって来た岩田さん。 この人正直マジヤバい。
「出そう。 PS4。 今から買って戻れば良いかね。」
「いや。 そういう事がキモすぎるって言いたいんですよ。」
ざっくりと釘を刺す私。
「気になる女の子の未洗濯TシャツをPS4を出してまで手に入れようという発想がキモすぎるんです。」
「ならばどうしたら良いというのかね!?」
逆切れし始めた岩田君。 それ絶対姉さんの匂い付きTシャツが欲し過ぎて切れたのよね。
「そうですね……もう少し女心を勉強すべきです。」
「女心と乙女心は同一かね?」
何言ってんだこの人。 でも、きっと本気で言ってるんだろうな……。
「しかし、そんな物をどこで学べと言うのかね。」
「そうですね……。 姉の読んでいる雑誌でも毎月読めば少しは分かるかもしれませんよ。」
我ながら良いアイデアね。 つば○とホタルなんかを読めば、自分がどれだけ痛い事をしているのか分かるかもしれないわ。 ロマンチカ○ロックでロリコンを拗らせる可能性もあるが。
「君の姉君は何を毎月読んで居るのだね。」
「○ぼんよ。」
「……それは男で言えばジャ○プを毎週買っているのと同じ事かね。」
「り○んは大体中一くらいまでですかね……普通は。」
「乙女用に作られた物なのだな。」
対乙女用決戦兵器みたいに言われても困る。
「わかった。 読もう。 バックナンバーを四年分くらい読めば良いだろうか。」
うわ。 凄く爽やかな声で言ったわ。 もう買う気満々なのね、岩田君。
言わば暗い道筋に光明が射した様な気分なのだろうか。
「しかし……四年分となると大変そうだな。 というか、単行本を買った方が良いのでは無いか?」
「単行本だと岩田さんの趣味に偏ってしまうではないですか。 万遍無く読む事で少女の人格が形成されるのです。」
「何という……。 流石直美様……考えて居る事が人とは違うな。」
「さて、ここで取引しましょう。 表紙がボロボロになるまで読み込まれた四年分のりぼ○ん……。 ○S4と交換でどうかしら?」
母から捨てなさいと姉が命令されて早数カ月。 結局姉は手を付けずに、更に数か月分を追加して廊下の隅に積み重ねていたり○んタワーズ。
私の胸くらいの高さに三つに積み上げられたあのタワー達に決着を付ける時が来た様だ。
もしかしたら五年分あるかもしれないただのゴミを――――私はP○4に錬成してみせるっ!!
「なん……だと? なんっ……だとっ!?」
本日二度目のダブル『なんだと』を頂きました。
「そう。 姉さんがお菓子を食べた手でページをめくりまくった○ぼんを、彼女の四年間の歴史を、岩田さん、貴方の手で再び紐解いてあげて下さい。」
「何という策士なのだ直美様は……。」
「それでちゃんと乙女心を勉強して下さい。 その後でなら弁明を少しだけ聞いてあげます。」
「わ、わかった! ……ちなみに○S4だが、新品でなくてはダメかね?」
「え? 中古でも別に気にしませんが……。」
「俺も出始めに買ったは良いが全然使って居なくてな。 ソフトも何種類かあるが、それで手を打たないかね?」
「え……。」
岩田汁(?)が付いてそうで何か嫌なんですが。
「コントローラーも二つあるぞ。 一個は全く使っていない新品――」
「――それで結構よ。」
即答する私だった。
◇
「姉さん。 入るわよ。」
「やめろ!! 入るな!! 岩田が感染る!!」
私が彼女の部屋のドアノブを捻ると同時に悲鳴を上げる姉さん。
「もうとっくに退散させたわよ。 安心して。」
「マジか!? 本当に帰ったのかあいつ!!」
半泣きでベッドの布団の中に隠れて居た姉さんが、まるでもぐらたたきされるもぐらの様に布団からぴょこりと頭を出した。
「直美!! 本当にあたしが悪かった!! 岩田と会わせてお前を怖い目に遭わせてみようなんて考えてたあたしが悪かった!!」
……そんな事を考えて居たのか。
確かにあの姉さんの怯えようからすれば、岩田君をゾンビくらいに捉えていてもおかしくは無いが。
「つーか、マジで何もされなかったのか? 良かったな……。」
凄く本気で心配された私。
もの凄く微妙な気分だわ……。
「というか、岩田さんって一体姉さんに何をしたの?」
盗撮の件は知っているが、彼女なりの見解を聞いてみたいものだ。
「……特にあたしが何かをされた訳じゃないんだけどな。 普段こっちを見る視線も何か怖いんだけど、他の友達と遊んでると何か睨むみたいに見て来る時があってさ。 こいつ只者じゃないって感じてた。 普段は大人しいけど、やる時はきっとヤる奴だって。」
それだけで只者じゃないと決めつける姉さんも只者じゃないわ。
あんたは山猫か何かなのか。 岩田君結構ヤバい人物である事に事実変わりはないが。
「まあ姉さん。 パンツを見られた事はこれで水に流して来て。」
「くっそ! やっぱ見られてたのか!! って、これって……千円札? なにこれ。 くれんの?」
人差し指と中指で挟んだその千円札、しかも二枚を姉の目の前に突き出す私。
「実は私……岩田君を呼んだのは姉さんとくっつけようとしたからなのよ……。」
ちょっと切なげに言う私。
「おま……何て事を……。」
「だから私からのせめてのお詫びよ。 気分を変えてゲーセンでクレーンゲームなり音ゲーなりやってきたらどうかしら?」
「良いのか!? マジで!?」
ベッドから飛び起きる姉さん。
そして、いそいそと着替え始めた。
すぽーんと遅刻上等Tシャツを脱いで、真っ白なパンツ一丁になると、パンツと同じくジュニアサイズの真っ白なタンクトップブラを上から被る。
そして私のお下がりならぬお上がりの黒いワンピースを着て、ピンクの水玉のフリースのショールを羽織り、耳がしっかり隠れるように耳の部分が垂れた真っ赤な帽子を被る。
頭のてっぺんとその垂れた耳の部分の先に付いているぼんぼんがポイントである。
そしてお気に入りのがま口の財布を肩から垂らし、帽子と同じ真っ赤な手袋を付けて姉はゲーセンへと旅立ったのだった。
「……ちょろいわね。」
姉を『計画通り。』と言う顔で見送った後、家で余っていた段ボールにりぼ○を詰め込んで馴染みの宅急便にピックアップの依頼の電話をした私だった。
◇
姉よ。
調子に乗ってお前の脱ぎ捨てた遅刻上等Tシャツをりぼ○に同梱したのは後になって少しだけ罪悪感を覚えたわ。