異世界召喚されました。5
ピンポーン
【生命の女神を欺く力を創造いたしました】
微かに漏れていた呼吸音は止み、貫かれた胸部から溢れ出た血で祭壇は染め上げられた。
心臓は停止し、一切の意識を失ったハジメがそれを聞くことはなかった。
しかし。
彼の身体は新たに創造された力により、瀕死の状態まで回復していた。
そして幸運にもその生死をステータスで確認されることは無かった。
見るだけでステータスを確認できるクリスティーナにとって、彼女が求める加護を持たないハジメは次の勇者召喚の贄でしかなかった。
魔術師の才を持つ50人近くの魔力と命を捧げてやっと可能となる異世界召喚は本来なら軽々しく何度も行うことは出来ない代物だった。
だがマグノリア国を建国したユーム王が記した魔術書には手軽に、かつ必要なだけ何度でも行える方法が示されていた。
それは召喚した異世界人を国宝・紅水晶の剣で貫き、祭壇に彫られた魔法陣をその血で満たせば40日毎に訪れる満月の夜の召喚に限り、何の代償も術者は払わずに異世界人を強制的に呼び出せるというものであった。
十分な量の血液を得たクリスティーナにとってハジメは廃棄物でしかなかった。故に彼の最期の時までその場に留まる必要性を感じず早々に退室していた。
残った騎士達は祭壇に横たわる彼を手慣れた動作で麻袋に詰め込み、召喚の間から運びだした。
マグノリア国は5層の城壁によってヒエラルキーが形成されている王都であった。
最も外縁の第5地区は小さく区切られた多くの住居や商店が立ち並び、城壁門を潜るごとに一戸一戸の区画は広くなり、商店が扱う品も高価な物となっていた。第1、第2地区にいたっては貴族または御用商人、王都が発行した通行許可証がなければ入ることさえ出来ない仕組みになっていた。
また、城壁内に居を構えられない低所得者や脛に傷を持つ犯罪者やその予備軍。そして人間以外の種族とステータス欄に記載された人々が集まって出来た城壁外の混沌とした地区。
そこには奴隷や犯罪者達専用の死体焼却場があった。
麻袋を担いだ騎士とその一行はこの地区に不釣り合いな、頑丈ば鉄製の門の前で立ち止まる。
「おい、さっさとこれを運べ」
門の横に建つ粗末な小屋で侵入者を監視している男に騎士の一人が命じた。
「また騎士団の方々ですか。ここは都合の悪い死体の隠蔽場所ではありませんよ」
男は静かな声で呆れたように答えた。
それが彼らの気に障ったのか嘲笑し口々に男を蔑む。
「ハッ、元侯爵の死体焼きの分際で、何を偉そうに我々騎士団に話しかけるんだ」
「公爵家の兄弟が揃って廃嫡とは王国始まっての珍事だよな。あぁ確か・・・おまえは侯爵位も剥奪されたんだったな」
「恥を知る騎士なら自害してもおかしくないと思わないか、なぁ?」
「おいおい、ミハエル樣は元は宮廷魔術師だったんだから、生き恥を曝しても平気なんだよ」
「城外の死体焼却場の死体焼きなんて魔術師でなくても出来る仕事だよな?それを元侯爵さまの元宮廷魔術師がやってるんだから、俺達には理解出来ないな」
「ほら、ミハエル樣。この死体の処分を頼んだからな」
ニヤニヤ笑いながら麻袋を置くと騎士達は歩き去った。