異世界召喚されました。4
「ってぇ、何でここに・・・」
ハジメは背中に当たる硬い感触に眉をしかめ、立ち上がろうとするが、身体がまったく動かない。
それでも自分が寝ているの場所がどこなのかは判った。
無理矢理コチラの世界へ召喚された、あの忌まわしい祭壇。
「どういうつもりだッ!」
「ハズレの勇者、綿貫ハジメ。妾のために剣の贄になる名誉を与えます」
この8日間、ハジメは上手くやってきたつもりだった。
出会い頭の態度は異世界召喚の混乱のせいだったと誤魔化し、従順な勇者を演じ、命に従い城の騎士達に剣を習い、魔術師から風魔法の概念を教わり、ひたすら研鑽した。
その甲斐あって城の門番程度の剣術と、初級の風魔法を操れるまでの成長を遂げた。
そして初めて魔物狩りへの参加を許可されたハジメは、城から逃げる下準備が出来るとクマに自慢気に話していた。
勇者の初陣だ、と騎士団長が補佐となり、更には5人の護衛の騎士と宮廷魔術師を入れた合計8人で森へ入った。
そこで魔物―――身長100センチほどで緑の肌にギョロリとした目玉。締まりなく開いた口から涎を滴しゴブリン―――と対峙し、騎士の号令で抜刀し・・・
意識が途切れた。
(クソっ、嵌められた)
(油断したな綿貫ハジメ。魔力も封じられているぞ。生きて切り抜けるには祝福しかおまえには無い。考えろ。そして強く願え)
指先一つ動かせない麻痺し、身に宿る魔力を感じる事の出来ない身体。
それなのに声だけは出る矛盾。
この先に起こる事態に絶望し、泣きわめく樣を楽しみたいがための悪意。
そう判断したハジメは残った気力ですべての元凶であるクリスティーナに低い声で吐き捨てた。
「ふざけるな、クソ女」
「ありふれた祝福のあなたが役立たずで終わらずに、次の勇者様の糧となれるなんて素晴らしいことでしょ?
それを理解出来ないとは、愚かな異世界人」
彼女は物事の道理を理解できない幼子を諭すように囁き、背後の騎士に「剣をここに」と命じる。
そして躊躇うことなくハジメを貫く。
一瞬の熱さと、猛烈な痛み。
必死に痛みを逃そうと身を捩ろうとするが、ピクリとも身体は動かない。
どこを刺されたのか声を発することも出来ず、ひゅうひゅうと空気が漏れる音がやけに大きく響いていた。
そしてクリスティーナが剣が引き抜いた時、ハジメはヌチャりと剣に絡みついた身体を無理矢理分断されたる音を聞いた気がした。
「穢れを捨ててきなさい」
そして薄れゆく意識のなか、クリスティーナの非情な言葉はしっかりとハジメに届いていた。
クソ女を殺す。こんな国は壊す。
絶対に。俺が殺す殺す殺す殺す殺す
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
彼が召喚されて初めて心底から抱いた感情。
希望であり願い。
クマのぬいぐるみからの祝福は彼に理を授ける。