探索者始めます。2
村を目指し、二人とクマは街道を外れた道無き道を進む。
森の中を猛烈な速さで駆け抜ける大きな荷物を背負った魔術師2人組。好意的に見ても訳ありな人間―――。
道中すれ違った猟師や魔物討伐を請け負った探索者から胡乱げに見られていたが、自身のレベルアップを兼ねていたハジメは黙々と遭遇する野生動物や魔物を狩り続けた。
それでも昼過ぎに目的地へ到着した彼等は村の中心に建つ二階建ての建物を訪れた。
そして躊躇うことなくドアを開け、室内へ足を踏みいれた。
壁に張られた紙をチェックしていた幾つかのグループが二人を無遠慮に、テーブルを囲んでいた男達はニヤニヤと二人を眺めていた。
そんな視線を無視し、二人はカウンターの前に立った。
「ようこそ。どのようなご用件でしょうか?」
「彼の探索者登録に来ました」
「身分証か推薦状をお持ちですか?
どちらもお持ちで無いのでしたら銀貨5枚で仮登録をしていただき、10日間の初心者講習を受けて頂ければ本登録出来ます」
事務的に告げる男性職員にミハエルは首から下げた金属板を差し出した。
「推薦者は私で、彼は私の弟子です。
初心者講習は必要ありませんよね?」
二人を値踏みいていた探索者達がざわめきたった。
男性職員の顔色もあからさまに青ざめて見えた。
(どういうことだ)
状況が全く飲み込めないハジメは困った時のクマ頼みとばかりに脳裏で問い掛ける。
(ここは探索者ギルドだ。探索者とは賞金稼ぎ、探検家、魔物討伐者、そして日本流でいう便利屋を兼ねた職業組合だ。
登録に必要な身分証が無いお前は初心者講習を受けるか、B級以上の探索者の推薦状が必要だ。その推薦者に見るからに魔術師であるミハエルが申し出た。探索者の魔術師でB級は皆無だから周囲が警戒した)
(何で、ていうか・・・B級ってどれ位の実力なんだ?)
(B級昇級条件は一人でゴーレムを仕留めること。
戦闘職なら騎士団の小隊長クラスの実力で十分だ。
だが殆どの魔術師には無理だ)
クマが小さく溜め息をこぼしたのをハジメは聞き漏らさず、魔術師であることに問題があると理解した。
(魔術師には無理な理由は相性が悪いってことか)
(そうだ。ゴーレムは魔法耐性が高く、上級魔法以上でなければ攻撃を与えられない。
だがこの国では上級魔法を使える市民は強制的に貴族か王族が召し抱える。魔術師100人に一人程度の割合で上級魔法を使える魔術師は存在するが、魔術師自体が少数だ。その上、上級魔法数発で小さな街なら破壊出来るから、本当に力にある魔術師が自由に行動することは滅多にない。
だから探索者のB級以上の魔術師は上級貴族に連なる者か他国人しかあり得ない)
クマの説明を聞き、ハジメはミハエルと別行動をとることを真剣に考えた。
しかし額に汗を浮かべ、震えながら職員の言葉であっさりとその考えを翻した。
「ルーカス・グラーフ・フォン・ベルク・・・さん。確かにランクを確認しましたのでお連れの方の登録は可能です」
敬称を迷いながら『さん。』と呼び掛けた職員の職業意識の高さに感心しつつもミハエルの偽名を頭に叩き込んだ。
「では登録手続きをお願いします」
「こちらの用紙に記入してください」
「これで良いですね?」
ハジメに口を挟ませず手続きを進めるミハエルと、一切彼を見ない職員。
「登録する方の血を金属板に1滴載せて、ライト・インと唱えて下さい。それで登録完了です」
金属板を用紙の上に置き、早口にそう言い切った職員は俯き震えていた。
その様子で魔術師の風評が散々なものだと容易に想像がつき、自分は魔術師を名乗る事は極力避けようと誓いつつ、ミハエルから渡さたタガーで指先を軽くつき刺し金属板に血を載せる。そして「ライト・イン」と唱えると金属板が鈍く光り、用紙は消えた。
登録完了を確認したミハエルはいきなり金属板とハジメの腕を掴み、早足で村を後にした。