異世界召喚されました。9
2話続けて投稿しました。
鉄で出来た頑丈な柵の横に造られ木造の小屋の一室。
机と椅子、そしてベッドしかない質素すぎる室内で所在なげにしているとミハエルがカップを手に戻ってきた。
「どうぞ」
カップを受け取り口に運び、鼻腔をくすぐるアルコールの香りに手が止まった。
不自然に固まってしまったハジメにミハエルは手元のカップの酒を一口飲み、それを差し出した。
「大丈夫です、何も入れていません」
「悪い、そんなつもりじゃないんだ。酒を飲むのはちょっと、な」
「こちらでは15歳で成人です。貴方の世界とは違ったんですね、すみません」
先程から遠慮しながら会話をしていたが、カップの受け渡しの拍子にまともに顔を見合せ、お互いの姿の悲惨さに笑いが漏れてきた。
「あんた名前は?
オレは綿貫ハジメだ。
さっきは本当に悪かった。クリスティーナの仲間だと勘違いした。殺しかけた言い訳にならないけどな」
「私はミハエルです。貴方のお怒りは当然です。
・・・私は3年前まで宮廷魔術師でした。そして召喚の魔術書の封印を解いた罪人です」
そう告げると彼は3年前から今日までのことを語り出した。
聞いているほうが落ち込んで浮上出来なくなるような声で延々と懺悔し続けた。
要約してしまえばミハエルが仕えていた先王が亡くなり、人間至上主義の先王の息子が即位し、召喚した勇者を使って獣人国と絶賛戦争中。ミハエルは召喚の魔法陣を破壊しようとして失敗し、何もかもが嫌になって爵位を返上したという事らしい。
「なんで召喚の魔法陣を破壊しようとして無事だったの?」
聞けば聞くほどその一点に疑問が集中した。
戦略的に必要なものを失敗に終わったといえ破壊を試みたことは下手すれば一族郎党処刑もあり得る。それほど事をしでかして無事でいる理由は一体――?
「私の父は先王の末弟なんです。なので表立って何かをすると王家に傷がつくからだと思います」
「はい?今、なんて言った?」
「私とヨアヒム王は従兄弟同士なんです。尤も、爵位と姓を返還したので今は無関係になりましたが」
「あんた、今さ、とんでもないこと言っていない?」
「そうでしょうか?自分の事ですし。
それに今日、貴方に出会って、この国と区切りをつける決心が出来ました」
腹部に無数の穴が空き、ボロボロの服を来た目前の男に爆弾を落とされ、ハジメは絶句した。
「服を着替えて逃げますよ」
にっこりと笑うとハジメの腕を掴み立たせるとベッドの下の行李から服を取り出した、手渡した。
想像していなかった展開に放心状態に陥ったハジメにミハエルは着替えておいて下さい、と言い置き出ていった。
(・・・召喚の元凶の従兄弟って・・・アイツを信じても大丈夫なのか?
クソ、解らない)
血塗れの服をノロノロと着替えているとドアが開いた。
咄嗟にウィンドバレットのイメージを練り上げ、指先に魔力を込める。
「私です。さっきの攻撃は出来たら止めてください。
ところでハジメ、これ君の【何か】ですよね」
ミハエルがそう言い小さなものを投げ渡した。
受け取って見ればそれはクマのぬいぐるみ。
わざわざ拾いに行った彼は【何か】と含みをもった言い方でクマを評した。
「悪い。・・・確かにオレの持ち物だ。
あんたはコレ、何だと思う?」
「随分前にもそれを見ました。
初めて召喚された少女が元の世界から持ってきた宝物。
あれはもっと大きくて綺麗でしたが、コレと同じ物だと思います」
手の中のクマを凝視し、ハジメは大きな溜め息をついた。
(訳わかんねぇよ、何なんだよ、この状況。
お前、正体は何なんだよ、クマ)
(いずれ辿り着く。
今はこの国から逃げ出すことだけに集中しろ)
(それに力を貸すとは言ってないってどういう意味な)
脳裏に言葉を浮かべ、クマを問い詰めようとしたハジメにミハエルが困った様子で声をかけた。
「ハジメ、君がクマと話す事は知っています。ですが熱のこもった目で見詰め合うのは、同じ男として気味が悪いです」
「見詰め合うって、変なこと言うなよ」
ハジメの動揺を無視し、クマがミハエルに話しかけた。
「私が話すと判っていて綿貫ハジメに返したのか、ミハエル」
「えぇ。目が覚めて聞こえてきたのは少年の声と中年の声でした。声の主はがハジメと貴方だと気付いて驚きました」
「それでもお前は綿貫ハジメと共に国を捨てる事を選んだ。
それで合っているか?」
中年と呼ばれたことを歯牙にもかけずクマはミハエルの決意を確かめる。
ミハエルは頷くと「ステータスオープン」と呟いた。