屋根裏部屋の夜で子どもたちは
「こっち、こっち。ここのドアだよ」
人差し指を天井に向ける
つま先立ちしても まるで縮まらない距離に業を煮やす
漫画を読むときだけ座る回転いすに両足を乗せ 天井の扉を開くと
そこには静寂という夜のさざめきが広がっていた
僕らは眠った後の景色を見たことがない
「子どもはもう寝る時間」とたしなめられた後の世界を僕はまだ知らない
下を見ると幼馴染の君が不安げに椅子を支えている
「ちょっと見てくるね」と生唾を呑む
さっきまで飲んでいたカルピスがほのかに口に香ったけれど
なんでだろう 少し苦い気がした
頭に何かがぶつかった 下から照らされるのどかな平日の光を頼りに頭上に視線をめぐらすと
頭にぶつけたそれは豆電球だった
僕は光を点らせる
暖色の柔らかい光が心を落ち着かせ 視界に映るものに生命を吹き込む
「怖くないよ。こっちおいで」と幼馴染に手を差し伸べる
母に見つかるまいと扉を閉め 秘密の部屋の観察をする
「こんなところあったんだね。なんか難しそうな本がたくさん――」
幼馴染が分厚い本を手に取ると白い結晶が宙に舞った
「雪みたいだね」と幼馴染が言う
五感が徐々に研ぎ澄まされていく
口の苦み 蒸し暑い夏の午後 湿気のような汗のにおい かすかに触れる幼馴染の手
目も口も潤んでいるように見える幼馴染の顔
気づくとその顔が僕の顔に近づき 視界がぼやけるほどに接近していた
口に広がるカルピスの甘みがより濃くより苦くなる
僕らは眠くなった
傍らに転がっていたブランケットを寒くもないのにかけて 僕らは眠りにつく
だってここは夜で 子どもは夜に寝ないといけないから
空には月が雪を照らし 寒さを演出するけれど 遠くからセミの鳴き声が聞こえる異様な世界がここにはあった
おわり