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第八十九話 強制パージするお話

我が家にカプチーノもどきを作る容器が存在していました。

牛乳を注いでシェイクすればあら不思議、お手軽にカプチーノの『泡』が完成。

インスタントコーヒーとの組み合わせでなかなかに旨い一品が完成しました。


・・・・本編とカケラも関係なかったですね!

 装備を一新し、宿屋で熟睡して英気を養った。パッチリと目が覚めた今日から、いよいよお嬢様の護衛任務開始である。


「あまり細かな事を言うのは主義ではないが、『中』ではくれぐれも騒ぎを起こしてくれるなよ。私が庇うにしても色々と限度があるからな」

「極力前向きに検討していきたい所存でございます」

「これほど信用できない言葉というのも中々聞かないな」

「…………(てれっ///)」

「今の台詞の中に、褒め言葉は微塵も欠片も含まれていなかったからな」

 

 さすがはレアル。冷静な突っ込みが今日も冴える。おっと、今の彼女は全身甲冑姿の『レグルス』だったな。


「やだなぁ、緊張を解き解ぐそうとする軽い冗談じゃねぇか」

「君の場合はもう少し緊張感を持ってくれた方がこちらとしては安心できるのだがね。余裕を持ちすぎだ」

 

 皇居へ向かうメンバーは、俺の他にはレグルスと騎士団員が二名。現時点では少数だが、今後はもう少し人員を増やすとのこと。ダインことベクトは屯所でお留守番。団長が不在の間は、彼が幻竜騎士団を取り仕切ることになっている。いけ好かない奴ではあるが、団長が最前線で暴れたがる気質である為、色々と苦労を背負っているのだろうと予想が出来る。きっと良いことあるさ。

 

 言い忘れていたが、レグルスは団長モード時の全身甲冑の他にも、幻竜騎士団のシンボルである『巨剣を背景にした竜の紋章』が描かれた『外套マント』を羽織っている。他の騎士団員も鎧姿(こちらはレグルスよりもかなり簡素な作り)も同じマントを羽織っており、かく言う俺もデザインは多少異なるも同じ紋章がマークしてあるものを身につけている。

 

 このマントは騎士団の人間が鎧姿のまま皇居や正式な場に赴く際に着用する『正装』の代わり。俺の場合はこれを身につける事で、自身が幻竜騎士団の客分であり、身元の保証が成されているのを対外的に示す意味もある。これがないと、俺は不審者扱いになり速攻でつまみ出される。

 

 皇居の中へは、思っていたよりもスムーズに入ることが出来た。皇居の正面を守る大門に構える門番が、レグルスの姿を確認するとすんなりと通してくれたのだ。敬礼をしたまま直立不動の体勢となった門番へ、「おじゃまします」と断りを入れながらレグルスの後に続いていく。俺の姿を確認しても門番の敬礼には僅かな崩れも見られなかった。マントの効力は確かなものらしい。

 

 さすが国家の威信が掛かっている建造物だけあって、内装は初っ端から豪華だった。玄関のホールには厳つい竜の像が建っており、玄関口から中に入る俺たちを睨みつけていた。


「………………………………」

「君はなぜ竜の像を睨みつけているのだ?」

「や、目を逸らしたら負けかなって」

「街のチンピラかッ」

 

 竜の像にメンチを切ってたらレグルスに叱られた。そのやり取りを目にしていた他の騎士団員達は珍事を目の当たりにしたような表情になっていた。今のやり取りが、普段のレグルスのイメージからはかけ離れていたからだろうと勝手に推測する。

 

 皇居内の通路も、内装の規模こそ玄関口よりは劣ったが、質という点では負けていない。道の真ん中にはふかふかの赤い絨毯が敷かれており、天井には等間隔で照明器具が吊されている。街中にある魔術具の街灯と同じ仕組みで光るのだろうが、施されている細工が比べものにならないほど緻密で豪華だ。アレ一つで金貨何枚になるのだろうか、と庶民的な考えが浮かぶ。


「壊すなよ? おそらく、君が想定している金額の倍近くはある」


 団長様から釘を刺されながらも通路を進んでいく。時折身なりの良い人間とすれ違うが、先頭を歩くレグルスへの反応は様々だ。好意的に軽い挨拶をするものもいれば、忌々しげに一睨みした後であからさまに顔ごと視線を逸らす者。また、表面上は微笑みながら内心はレグルスへの警戒心を強く抱いている者もいた。顔は一応覚えたので、お節介かもしれないが空いた時間に報告しておこう。


 そのまま廊下を進み、俺たちはある一室の扉前にたどり着いた。


「ここが?」

「ああ。此度の護衛対象・・・・が中で待機しているはずだ」


 レグルスが扉をノックすると、扉越しに女性の声が聞こえた。キスカだな。感覚を研ぎ澄ませると、室内には他にランドとアガット、そしてファイマの気配があるのを確認できた。


 …………ここは、レグルスより先に扉を蹴破って大々的に衝撃的な登場をするべきか?


 多分、冗談抜きで拘束されそうなので我慢しておこう。


 派手な登場を控え、俺はレグルスに続いておとなしく入室した。


「お初にお目にかかる。帝国軍所属幻竜騎士団団長のレグルスだ。しばらくの間、よろしくお願いする」

「…………初めまして。私はファルマリアス・アルナベスと申します。此度は他国の伯爵子女である私のためにお手数をおかけいたします」

「任務である以上は全力で勤めさせていただくつもりだ」

「かの有名な幻竜騎士団に守られるなんて光栄です」

「そういって頂けると嬉しい限りだ」


 おお、お嬢様ファイマがちゃんと『お嬢様』をしている。妙な人見知りを拗らせてはいるが、弁えるところはしっかりと弁えられるのか。そしてその背後に居るのに室内の誰にも全く気づかれていない俺。や、レグルスの全身甲冑姿がインパクト強すぎて他に注意が行っていないのだろうな。ファイマとランドは巧く表情を制御していたが、キスカは表情が強ばっていた。アガットに至っては劇的に驚いていた。奴の反応は、貴族の世界では下手したら侮辱罪とかに匹敵するかもしれないと心配になるほどの反応だ。


 あ、ランドから睨みつけられて慌てて表情を取り繕った。


「それと、護衛の件に関して、一名の外部協力者がいるので紹介しておこう」


 顔だけ半分振り返ったレグルスがうなずいて合図を送ってきた。俺は頷きを返し、その背後から姿を現す。


「えー、ご紹介に預かりましたカンナと申すもの。以後よろしく」


 この時点でようやく俺の姿を確認したファイマ達。


 アガットは言うに及ばず。ランドもキスカもまさかの俺の登場に目を大きく見開き驚きを露わにした。わかりやすいリアクション、ありがとうございます。


 ーーーードンッ!


 ファイマはなんと駆けだし、俺の体に抱きついて来たのだ。


「おっとと、おいおいお嬢様。淑女としてこいつはしたないんじゃーーーー」


 思わず洒落た言葉がでそうになったが、半ばで途絶えた。お嬢様の肩が震えていたからだ。


「無事で…………良かった」


 彼女は今にも泣き出しそうな声色で、俺の背中に手を回した。俺は自身が思っていたよりも遙かに心配されていたらしい。申し訳なさと嬉しさの感情が同時にこみ上げてきた。

 

 ここで甲斐性溢れるオトコなら胸当てに顔をこすりつけてくる彼女の体を抱きしめているところだ。が、我に返ったアガットが凄まじい形相で睨みつけてきたので思いとどまる。もし仮に、彼女ファイマと恋愛関係を結んでいたのならガン無視だが、あいにくとお嬢様とは友人同士。ただ、何もしないのは心苦しかったために俺は彼女の頭に手を置いて撫でる。

 

 しばらく手を動かしているとやがて彼女の肩の震えが止まった。…………というか、さらにその数秒後にはビキリと強ばった。

 

 衝動的な行動の結果、どのような構図になっているのかを客観的に想像できたようだな。


「ご、ごめんなさいッ! わ、私思わずッ」


 一見して(というかまんまに)男性に女性がすがりついている図だ。ファイマは大慌てで俺から体を離すも顔は真っ赤になっていた。


「や、美少女さんに抱擁されて嬉しかったです(まる)」


 唯一の不満があれば、胸当てが遮ったせいでファイマの胸の感触を楽しめなかった事だが、口にするとアガット君が場所を弁えずに腰の剣を抜刀しそうなので慎んでおく。


 頭の片隅で、(ギャグに突っ走った入室をしなくて本当に良かった)と数分前に自重した己を褒めていたのは秘密だ。


「…………感動の再会はそろそろよろしいか?」

「へうぅッ!? え? あ、その…………申し訳ありません!」


 レグルスの声に、ファイマは妙な声を発しながら謝る。レグルスを含める騎士団の面子の存在は頭の中から一時的に抜け落ちていたらしい。予想外の出来事があると自慢の頭脳が動作不良を起こすのは相変わらずか。数日ぶりの再会だが、ちょっとばかり安心した。


 ただ気になるのが、レグルスから感じる視線に冷たいものを感じるのだが、何故?




 小さなハプニングはあったが、ファイマは直ぐに調子を取り戻し互いの自己紹介へと移った。今更感はあるが、俺も改めて冒険者ランクCの外部協力者であることを名乗る。俺がCランクである事実にファイマ一行は大きく驚いた。冒険者になっている事は伝わっていたが、ドラクニルを訪れた初日に分かれて以降、こんな短時間でCランクに昇格しているとは思っていなかったのだ。


 レグルスとファイマによる護衛任務に関しての話し合いは割愛しておこう。なにやら細かい話をしているのだがこの国の法律やらなんやらが会話に混じっておりいまいち理解できていなかった。かろうじて分かったのは、ファイマが皇居から外出する際には必ず、元々の護衛と会わせて幻竜騎士団からはこの場にいるレグルス以外の人員。そして俺が必ず同行する手筈となった、という事ぐらいか。

 

 団長であるレグルスはこの護衛任務には直接的に参加はしない。今回は初顔合わせであり正式な話し合いという事でこの場を訪れたに過ぎない。後は現場にいる者に任せるらしい。最前線に出たがる無双系団長様でも部下に任せるべきところは任せているらしい。

 

 ーーーーあと、俺がハッチャケ過ぎないかを監視する意味合いも強かったとこの後で聞かされた。ショックだが、普段の行いを振り返ると否定しきれないのが切ない。だからといって自重するつもりも実はあまりない。俺から『それ』を抜いたら後はエロしか残らんぞ?



 ………………………………?



「なぁレーーグルス団長さんや。話の途中でちょいと悪いんだが」


 話し合いを続けている団長さんに、俺は自然を装って声をかけた。


「どうしたカンナ殿。今までの内容に何か気になる点でも?」

「正直、お二人の話を正確に理解できてるとは言い難いんで、ちょっとした確認をしたい」


 俺は懐から『氷の球体』を取り出し、手元で弄くる。


「ファイーーーお嬢様の私生活プライバシーってのは基本的に尊重されるべきだよな?」

「…………何が言いたい?」

「や、この先万が一に不法侵入やら盗聴やら盗撮やらをする輩が出てきたら、問答無用でボコって良いのかって話だ」


 方角良し。距離良し。ついでに『充填』よし。


「ファイマ殿の安全を確保する上で、必要となるならば実力行使も致し方ないだろう。だが、確固たる証拠が存在するか、現行犯でなければその場での拘束は難しいだろう。特に、万が一に貴族が相手では両方が揃っていないとまず無理だな」

「なるほど、現在進行形で盗撮やら盗聴やらしてたら問題ないと」

「……………………さっきから本当に何を言っているのだ?」

「や、こういう事」


 バチンッ!!


 俺は指先でいじっていた『氷爆弾』の結晶を、指弾の要領で部屋の天井に向けて弾き飛ばした。精霊の力によって拳銃弾に近い速度となった『それ』は天井の板に激突すると、内部に凝縮された冷気を一気に解放し、命中した地点が瞬時に『凍り付いた』。


 俺が前触れもなく、突然行動に出たことに室内の全員が言葉を失う。だが、俺はそんな彼らを気にせず、今度は氷砲弾の弾を生み出し、底面を手甲で打撃して凍り付かせた天井をぶち抜いた。

 

 音を立てて破壊される天井の一部が破片となって室内に降り注ぐが、降り注いできたのは天井だけではなかった。


 

 なんと(といっても俺は気づいていたが)、四つん這いの格好のまま硬直した黒い装束を纏った人間が墜落してきたのだ。

 


 黒装束そいつは激しい音を立てて床に落ち、今度こそ室内の空気が騒然となった。そりゃぁ天井からいかにも怪しい風貌の人間が降ってきたら騒ぎになる。

 

 顔の大半を覆い隠す覆面を纏っているが、視界確保のために解放されている目は苦痛に歪んでいる。ただ上向きに四つん這いの格好なのが何とも滑稽。氷爆弾で発生した冷気が天井に触れていた四肢を伝って全身へ行き渡ってしまい、体が硬直してしまったのだ。

 

 実際に氷爆弾を人間相手に初めて使ったが、なかなかの効果を発揮している。直接的な攻撃が効きにくい相手でも、動きを妨害するには役立ちそうだ。


「おまえさんらが話し合っている最中にヌルっと出現した感じかな。とりあえず不法侵入の現行犯逮捕って事でよろしく」


 気配を殺していたようだが、アンサラと比べれば随分と甘い。


 いち早く立ち直ったのはこの中では一番付き合いの長いレグルスレアルだ。甲冑越しではあるが頭痛を抑えるように眉間に手を伸ばし、呻くように言った。


「…………するならすると一言断って欲しかったんだがな。君の行動は時折心臓に悪い」

「あからさまな会話をしたら不意打ちがバレちまうじゃねぇか」


 おっと、忘れてた。


「ふんッ!」

「ぐぶぅッ!?」


 片手サイズの氷槌(打撃部はちょい大きめ)を生成し、黒装束の顔面にたたきつけて意識を奪った。


「き、貴様ッ!? もう動けない相手になんと卑劣なッ! それでもファイマ様の護衛を務める者の一員かッ!?」


 アガットが俺の所業に激怒するが、俺は平然と言葉を返す。


「ほら、この手の輩って正体がバレると情報漏洩を防ぐために自害するってよく聞くじゃん。口の中に毒とか仕込んでたらどうすんのよ。情報を引き出す前に死なれちゃ困るだろ」


 ファイマは黒装束の登場シーンから立ち直れていないようだ。動悸を抑える様に胸に手を当てながら掠れた声を絞り出す。


「か、カンナはどうしてそんな知識を持っているのかしら。まだCランクになったばかりなんでしょ?」


 漫画やラノベです、とは流石に言えないので曖昧にしておく。


「んで、これは諜報員スパイって事で間違いないか?」

「確認が遅すぎるだろう。…………間違いではないがな」


 レグルスは冷静に団員の一人に屯所へ向かうように命令。黒装束スパイは大急ぎでやってきた騎士団の面子によって身柄を拘束され、屯所内にある牢屋に収容されることとなった。


 なお、幻竜騎士団に運ばれる前に、念のために身包みを剥ぎ取っておく。その行動にアガットがまたも声を張り上げた。


「鬼か貴様はッ!」


『白夜叉』という名を貰っていますが何か?。


「じゃなくて、武器とか服の下に隠し持ってたらどうすんのよ。安全を確保するために素っ裸にするのは至極まっとうな理由だ」

「容赦なさ過ぎだろう!」


 ちなみに、黒装束の素顔は普通のオッサンでした。もちろん、下着もバッチリはぎ取った。


「だから鬼か貴様はッ!」

「や、下着の中もちゃんとちぇっくせんと」

「するなら別の部屋でやれ! この場にはお嬢様が居るのだぞ!」


 ファイマは顔を両手で覆い、解放パージされたおっさんスパイの下半身から全力で逸らしていた。あ、レグルスの奴もさりげなく視線を横にずらしている。キスカは両のまなこを見開きバッチリと視界に収めている。


「…………普通ね」


 ナニが? とは問うまい。


 アガットからの苦情はその後、おっさんスパイが室内から運び出されてからもしばらくの間続いた。俺は何一つ間違った事をしていないというのに。

 

 解せぬ。

スパイが何故にカンナの攻撃に気がつかなかったのかの補足ですが。


1:視線(殺気)が向けられなかった

2:彼から魔力を感じられなかったので油断していた(氷爆弾も含めて)

3:忍び込んでからわずか数分足らずで攻撃を受けるとは思ってもみなかった


↑あたりが大きな要因ですかね。


あまり『チート』を付加するのは好きじゃないんですが、この気配探知に関してだけはもはや『チート』の領域に達してるのではと思い始めるナカノムラです。

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