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第八十七話 カチ割り氷で割られるの氷では無く頭のようです

大変長らくにお待たせいたしました。いつもの半分の量ですが久々に更新です。

 レアルとの『契約』を交わした後、幻竜騎士団の屯所を出た俺は一度ギルドへ向かった。伝言を頼まれてくれたシナディさんや婆さんへの礼と、レアルから預かった依頼状を提出するためだ。本来なら騎士団の下っ端に任せる仕事だが、ついでだからと渡されたのである。


「いいですか? くれぐれも、二度と、このような事がないようにお願いしますよ?」


 シナディさんからめっちゃ怒られました、はい。


 タマルに伝言を預けたことや、婆さんのコネを利用した事は咎められなかった。状況が状況だけに、止む終えないだろうとの判断だ。婆さんにしてもそれほど気にしていないとのこと。


 だが、タマルに俺の持つギルドカードの片割れを預けたことがシナディさんの怒髪天を呼び覚ました。普段は冷静な人が怒ると本当に怖いな。口調は普段と変わらなかったが、背景にブリザードが吹き荒れていた。寒さ耐性がある俺の背筋も震えるほどである。


 受付嬢様からのお叱りを受けた事以外は特にこれと言った問題はなく、レアルが出した依頼状はしっかりと受理された。


 しばらく顔を見せていないしクロエも心配しているだろうと思ってシナディさんに尋ねたのだが、クロエはBランク昇格の試験依頼からまだ帰還していないとのこと。列車の線路も通っていない山奥の希少素材を採取するのが依頼内容。ちなみに、この依頼にはバルハルトのほか数名のCランクと、引率代わりのBランク冒険者が同道しているとか。


 問題が発生すれば、Bランクの冒険者に渡してある貴重な魔術具によりギルドの方に知らせが来るのだがそれもまだ無い。進行が順調なら後数日ほどで戻ってくるらしい。


 俺が牢屋にぶち込まれていた現状は伝わっていないと見て間違いないな。心配させたくもないし、必要になるまでは黙っておくか。


 さすがに牢屋から釈放された当日に依頼を受ける気にはなれず、シナディさんに別れを告げた俺はギルド横の食堂を訪れた。ここ数日は不味い飯しか口にしていないので、美味しい魔獣食材料理を胃袋が求めている。


「おや、そこにいるのは白夜叉君ではないか?」


 食堂に足を踏み入れようとしたところで背後に声を掛けられた。耳に聞き覚えのある声が届くまで近づいてくる『そいつ』に気が付かなかったのは、空腹と食堂から漂う匂いに意識の大半が向いていたからだ。


 だが、ここで出会ったが百年目!


「やぁやぁ、聞いたよ。しっかりCランクに昇格したようだね。特別試験の担当をした身として嬉しくーーーー」

「ドタマかち割ったろかわれぇぇぇぇ!!!」


 バゴンッ!


 振り向きざまに打ち下ろした氷の槌を憎たらしいほど見事に回避したのは『後より答えを出す者フラガラッハ』の異名を持つ、Aランク冒険者アンサラだ。相変わらずの回避性能にイラっと来る。


「ぬぉおおおッッ!? ちょッ、町の中で繰り出すには少しばかり派手すぎやしないかいッッ!?」

「うるせぇぇッ! 人の腕をちょんぎってくれたんだ! お返しに一発殴らせろやぼけぇッ!!」

「君の怒りも当然だし殴られるのはやぶさかではないが、流石にその大質量アイスハンマーで殴られたら死んでしまうよ?!」

「む? …………そうか、そりゃそうだ。死んでしまうのはまずい」

「ふぅ、分かってくれて嬉しいーーーーぐぼぁッ!?」


 氷槌を解除したことで油断したのか、直後に繰り出したアッパーカットはアンサラの顎に突き刺さった。


 …………なお、この一部始終はまだ日も高い上にギルドの真ん前で行われた事で、多数の冒険者や一般市民のみなさまに目撃されていた。Aランク冒険者に騙し討ちであっても一撃を加えた人物として、人知れず俺の存在が有名になるのを本人おれはまだ知らなかった。




「…………で、何で普通に一緒の席に座ってるよ、後より答えを出す者フラガラッハさん」

「君と私の仲だ。気軽にアンサラと呼び捨てで構わないよ」

「どんな仲だ…………」


 腕をちょんぎった奴とちょんぎられた奴という、かなり物騒な間柄だ。


 アンサラを殴り倒した俺は内心スッキリとしながら食堂に入ったのだが、どうしてかすぐに復活したアンサラも付いてきた。顎への一撃は確かに命中したのだが、衝突の寸前に打点をズラすという漫画テイストな防御法で威力の大半を殺したとは攻撃を貰った本人の談。直撃してたら顎が砕けていたと本人は穏やかな表情で言ってのけた。焦ってはいても、根っこの所は恐ろしいほどの冷静さ。さすがはAランクと驚くべきか恐れるべきか。


「アンタ、ギルドから…………つーか、婆さんから昇格試験の件でペナルティ受けて、面倒くさい素材の採取に駆り出されたんじゃなかったか?」


 俺の腕を切り飛ばすという試験官として明らかな逸脱行為に走った彼は、罰として採取が非常に困難である素材の採取が命じられていたはずだ。ちらっと婆さんから内容を聞いたが、一週間かそこらで終わる量ではなかったはず。


「まだ全ては終わっていないよ。ただに持ち帰れる量も限られているのでね。ノルマの半分を終えた時点で一度ギルドの方に戻ってきたのだよ。今日一日で装備を整え直し、また明日から現場に向かう予定だ」


 君の姿を見つけたのは本当に偶然だよ、とアンサラは顎をさすりながら笑った。マトモに受けたように見えて、大したダメージを与えられなかった事実に悔しさを覚える。


「はい、お待たせしました。ご注文の品です」


 店員さんが注文していた料理を運んできてくれたので、内心の苦みとは一旦オサラバ。まずは腹に何かを入れる方が大事だ。


「…………なんだね、その毒々しい色をしたスープは?」


 いつの間にかアンサラも注文していたようで、彼の前にも旨そうな料理が並べられている。だが、アンサラはそれらに手を着ける前に俺の注文した料理を目にして動きが止まっていた。心なしか頬も引きつっている。


 …………アンサラの言葉から想像できるとは思うが、あの紫色をした味噌味スープである。


「知らねぇのか? ダンシャクバッタのスープだ」


 疲れたときには味噌味に限る。


「…………珍味とは聞いたことあるが、進んで頼む人間は初めて見たな」

「食べるか?」

「心遣いは嬉しいが、心の底から辞退しよう」


 アンサラは紫色のスープを視界に入れないようにしながら、自分の食事を開始した。俺も少し遅れて料理を食べ始める。うむ、相変わらずスゴい紫色だが旨い味噌味だ。

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