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第四十六話 気分は浮気現場を発見された男です

前回の投稿した際、アクセス数が一日で四千を超えました。ありがとうございます。


微エロ回ですが、ほとんど気にならない程度だと思います。

 

 頭痛ーーとまでは届かないが、重量が頭の裏側にのし掛かったような負荷を自覚しながら、俺は目を覚ました。


「あーーーーーーOH]


 頭を手で押さえながら上半身を起こすと、自分の上半身がーーというか毛布に覆われている下半身も素っ裸だ。ちなみに朝の生理現象はバッチリである。健康的だな。


「わふぅ…………」


 横を見ると、毛布を抱きしめるようにして黒い髪にフサフサの狼耳を持った女性が寝息を立てていた。とてもとても幸せそうな寝顔にほっこりーーはせず、俺は昨日の晩に起こった出来事を思い出して悶絶した。


 坊ちゃんとの決闘が終わった後だ。後の処理を竜人の婆さんに押し付けた俺はそのままギルドの隣にある食堂で晩飯にありついた。その際、戦いの直後と言うこともあって、祝杯とばかりにクロエと酒を呑んだのである。


 ーーーーそれがマズかった。


 最初の方こそ二人とも酒の味を楽しむ余裕があったが、段々とクロエの酔いが酷くなっていった。今回の件によっぽど鬱憤が溜まっていたのだろう。それは酒が進むほどにエスカレートしていった。


 これはやばいと危機感を覚え、俺はどうにかクロエから酒を取り上げ、店の勘定を手早く済ませると彼女を引きずりながら(文字通り)どうにか滞在先の宿へとたどり着いた。


 何とかクロエの体をベッドに横たえると、少なからず俺にも酔いが回っており深い眠気が押し寄せてきた。さっさと自分の部屋に戻って布団に入ろうか、という所で服の裾を掴む手が伸びてきたのだ。


 目を向けると、上気した頬と潤んだ瞳、ぺたりと垂れた狼耳をしたクロエが上目遣いでこちらを覗いてきたのだ。


「もう行ってしまわれるのですか?」


 あ、これは完全に欲情してやがる。口調が変わっているのが証拠だ。多分、戦いの高ぶりと酒の酔いが絡み合って性欲の方に変異したのだろう。危機的状況に於ける興奮が引き起こす、恋愛感情の誤解と近いか。


 そこから先は、砂糖を大放出するぐらい甘いやり取りがあって『わんわんタイム』の再来である。


 これ以上は勘弁してほしい。俺の羞恥心がやばい。


 だって酔ってたんだよ! 


 酒の勢いだったんだよ!


 男子高校生の性欲なめんな! 


 …………据え膳を前にしたら快く平らげてお代わりを申し出るくらいには健全な野郎なのだ。


 記憶の中にある女友達二人の視線が薄汚い豚を見るような冷たい視線になっているが、俺はヘコタレないぞ。精神的にタフなのが俺の数少ない長所の一つだ。そして豚は実は綺麗好きな生物だ。


 三分ほど羞恥心に悶絶していた俺だったが、どうにか気を取り直す。酔った勢いであれ、互いに初めてではない。クロエも結構酔いは進んでいたが我を失うほどではなく、何より彼女の方から求めてきたのだ。今日一日ぐらいは微妙な空気になるだろうが、明日にでもなれば調子も戻るだろうさ。


 しかし、女性の体とは本当に神秘に満ち溢れていると知らされるな。今まで性の対象はほぼ全て女性の胸に収束していたが、肉体を交えてみるとそれだけが女性の全てではないと分かる。腰や臀部のラインや、髪の奥から見え隠れするうなじなどだ。


 そう思えるのは、並を遙かに凌駕しているクロエだからこそだ。こんな綺麗な女性と同衾できたのは、俺の人生の中でトップ5に入るほどの幸運にちがいない。


 美人だしね!


 ケモフサだしね! 


 巨乳だしね!


「…………いい加減に服着るか」


 R元服ゲームだと朝の生理現象をヒロインに解消させるシーンがあるが、隣で心地よく寝息を立てるクロエを無理矢理起こすほど俺は鬼畜でない。や、昨晩は随分と鬼畜だったが、今の俺は賢者だ。賢者にしては思考が残念すぎるが、とにかく服を着よう。


 けれども、俺がベッドから降りる前より早くにガチャリと扉が開いた。


 ーーーーほ?


「ん? 鍵が掛かってないな。ドラクニルは治安が良いとは言っても不用心だな」


 クロエとはまた違った方向で際だつ美しさを持った銀髪の美女が部屋の扉を開けたのだ。


 先日に別れたばかりの旅の仲間ーーレアルが、早朝のこの部屋に現れたのだ。


「悪いなクロエ。ノックをしても返事が無かったので入らせてもらった。カンナを知らないか? あいつの部屋を訪ねても誰もい…………な…………く…………て…………」


 部屋に入ってきたレアルは、上半身裸の俺をベッドの上に確認すると言葉の語尾を鈍らせた。言い忘れていたが、昨晩はクロエを彼女の部屋に運び、そのままベッドインした流れだ。レアルは同性の部屋故に、気軽にトビラを開けてしまったのだ。


「……………………おはようございます」

「…………………………………………」


 いたたまれない空気の中、俺はかろうじて朝の挨拶を口にする。レアルからの反応はなかったが、徐々に顔を赤らめていくのは見えた。年頃の男が女性の部屋のベッドに裸で居たのだ。何があったかを想像するのは誰でも難くない。


「わふぅぅ…………ん? もう朝でござるか?」


 狙ったのではないか、というタイミングでクロエが目を覚ました。寝ぼけ眼を擦りながらムクリと上半身を起こす。拍子に、抱きしめていた毛布がずり落ち、かすかに引っ張られた豊かな乳房がポポヨンと揺れながら外気に晒される。ついでに括れのある魅惑の腰までが露出した。


 素っ裸の男女をベッドの上に確認すると、レアルの顔はいよいよ『ボンッ』と音を立てるほどに真っ赤に染まった。


「およ、こんな朝から来客でござるか? …………って、え? レアル殿ッ!? こ、こここここここれはそのえっとあのおはようございますッ!?」

「とりあえず乳を仕舞え」

「わふッ!?」


 ようやっとレアルの存在を認識したクロエがテンパり、俺が指摘してやると慌ててずり落ちた布団を掻き抱き胸を隠した。


 まさしく情事を目撃されて恥じらう乙女そのものの反応に、レアルの中で何かが『切れ』た。


「ーーーーーなッ」


 あ、これはヤバい。


 俺は諦めの極地に達しながらも、冷静にクロエの獣耳を両手で畳んで塞いでやった。お、相変わらず癖になる手触ーーーーーーー。


「なにをやっとるんだおまえ等はぁあああああああああッッッ!!」


 轟音とすら称せそうな声音がレアルの口から発せられた。その余りの大音量はこの宿屋のみならず、隣三件ほどまでに響きわたり、未だ眠りについていた住人を残らずたたき起こす結果となった。


 ちなみに俺はそれを至近距離で浴びせられた結果、聴力が数分間麻痺してしまったとさ。鼓膜が破れるかと思ったね。




 一端叫んで冷静さを取り戻すと、『下で待っている』と強張った声で残すとレアルは部屋を出ていった。


 羞恥に悶えてシェイクダンスをおっぱじめるクロエを余所に、俺は溜息を吐いてから今度こそ脱ぎ散らかしていた服を軽く着て一端自室へ。色々な液体を吸った服を脱いで新しい服の袖に腕を通し、宿屋一階に向かった。


 この宿の一階は食堂のような本格的な料理は出てこないが、代わりに簡単な飲み物は注文すれば用意してくれる。ギルドが紹介している都合上、多くの冒険者が利用し、依頼の簡単な打ち合わせや作戦会議を行えるのだ。その為の大きめなテーブルとそれを囲う複数個の椅子はそれなりの数が用意されている。


 酒や料理が出されないのは、冒険者達が酔った勢いで喧嘩を仕出かし、宿の器物破損を防ぐためだとか。馬鹿騒ぎがしたければ付近に立派な料理店や酒場があるのでそっちに行けと宿の壁に張り紙があった。


 その一席に近づくと、足跡でこちらに気がついたレアルが振り返り、ぼそぼそと喋り出した。


「まぁ、その…………なんだ。合意の元であるのならばその…………あれだ、私だって文句をは言わないがそのなんだ…………先程も言ったが部屋に鍵を掛けておかないのは不用心すぎると思うのだがね私はその…………なんだ、怒鳴って悪かったとは思っているがその…………あれだ」


「その…………あれ(orなんだ)」が妙に多い台詞を口にするレアルの頬からは朱の色が抜けきっていない。

「や、お見苦しいものをお見せしました」

「…………いや、こちらこそ取り乱してすまない」


 俺は謝罪を述べながらテーブル席の一つに座り、レアルは頭を振って気を取り直しながら頭を下げた。 


 微妙に居心地の悪い空気が間に漂う。


 たった数日だけしか離れていないのに、随分と久し振りに思えるのは、この一ヶ月感のつき合いが濃密だったからか、この数日に多くのことが起こったからだろうか。どちらにせよ、レアルとこんなにも顔を合わせづらい雰囲気は初めてのことだ。


 や、レアルに対して異性的な魅力を感じた回数は両手でも収まりきらないほどにある。あの鎧の奥に収まった悩ましい肢体に色々な想像を掻き立てられたのは肯定しよう。


 けれども、だからといって彼女と『スル』妄想をするのはどうにも躊躇われた。レアルは俺の恩人だ。彼女が居なければ俺はあの城を脱出するまもなく、あの姫に『処分』されていた。レアルが俺を命の恩人と感じているのと同じく俺も彼女に感謝の念がつきない。その相手に情欲の目を向けるのは酷く罰当たりに感じられたのだ。


 それに、レアルはあの通りに武人肌だ。仮に彼女も色恋沙汰に興味があったとしても、俺のような小細工千万な卑怯な無能男に靡くはずもない。精霊術がなければ、俺などただのへなちょこな高校生男子。捕らわれの身を助けて一目惚れされるのはイケメンに限るのだ。


 さすがの俺もここまで考えるとヘコむ。


「お、お待たせしたでござるッ」


 そろそろこの微妙な空気に耐えきれなくなってきた所に、ようやく服を着たクロエが二階から降りてきた。頬からは赤みが取れず表情も強張ったが、正気は取り戻したようだ。


 ナイスだクロエッ! 俺一人じゃもうこの空気は無理だ!


「れ、レアル殿ッ、先程は失礼いたしました!」

「いや。いかに同性の部屋といえど、確認もとらずに部屋に入った私の方が悪かったのだ。気にしなくても良い」

「うぅ…………拙者、一生の不覚でござる…………」


 両手で顔を覆い、羞恥にまた沈みそうになるクロエを、その前に椅子に座らせる。席に腰を下ろしたクロエはそのまま頭を抱えてテーブルに突っ伏してしまった。これはまだ少し時間が掛かりそうだ。


 だが、クロエが来たことで微妙な空気が若干紛れたのは幸いだ。心の中でクロエに礼を言って、俺はレアルの方を向いた。


「レアル。連絡手段の取り方を決めるの忘れてたが、どうやってこの場所を知ったんだ?」

「あ、ああ。しーーリーディアル様から教えてもらった」

「リーディアル…………ああ、あの竜人の婆さんね」


 あの婆さんを呼ぶときは基本『婆さん』だったので、リーディアルが彼女の名前だというのをすっかり忘れていた。


「…………っておい、個人情報の秘匿はどうなった」

「私はリーディアル様と個人的な伝手をもっているからな。私と君の繋がりを話したら教えてくれたんだよ」

「あの婆さんの知り合いだったのか。や、世間ってぇのは広いようで案外と狭いねぇ」

「…………私は、あの方の口から君の名前が出た時は驚いたがね。早速ギルドの方で問題を起こしたようだな」

「耳の早いことで」


 婆さんの知り合いというのならば、昨日の決闘騒ぎも聞き及んでいるか。レアルの半眼に俺は頭を掻いた。


「その件に関しては、カンナ氏だけの責任だけではござらんよ。経緯はどうあれ、大本の原因は拙者にござるよ」


 どうにか羞恥の悶絶から復活したクロエが顔を上げていった。


「いや、クロエが謝ることでも無いだろう。詳しい話はリーディアル様から説明された。確かにカンナの対応も問題はあったかもしれないが、一番の原因は相手の貴族にあったとな」

「…………『あの対応』に問題が合ったのは否定しないのでござるな」

「当たり前だ。下手に煽らなければ決闘騒ぎにまで発展しなかっただろうさ。その自覚はカンナもあるのだろう?」

「かっとなってやりました。けど反省も後悔も無い!」


 結果的にあの下種い坊ちゃんの鼻面を(リアルに)へし折れて大満足でした。


「本人もこう言っているのだ。君がそれ以上気にする必要は無い」

「は、はぁ…………だんだんとあの坊ちゃんが不憫に思えてきたでござるな」


 いまいち納得し切れていないクロエだが、とりあえず頷いた。


 ふぅ…………どうやらこれで変な空気は完全に消え去ったな。


 このまま今後の打ち合わせでもしておこうか。


「ところで…………」


 レアルがふと、思い出したように言った。


「二人はつき合っているのか?」

「ん? 誰と誰が?」

「カンナとクロエ、がだ」


 そこでほじくり返すのかッ!?


「せ、拙者とカンナ氏がでござるかッ!? そ、そそそそそそそそんな滅相もないでござるよ!!」

「だが、二人とも知り合って間もないのにもう肉体的な関係を結んでいるのであろう?」

「確かにそうなのでござるがっ! それはえっとその、恩返し的な意味でありまして恋愛感情からくるものではないのでござって!」

「む、そうなのか」

「そうなのでござるよ! 拙者が無理を言って伽を申し出て、カンナ氏がそれに応えてくださっただけなのでござる! こ、こここここここ恋人関係などとてもとてもッ! あ、でもカンナ氏が良ければ拙者としても大歓迎でござって…………」

「とりあえず落ち着け」


 スパンッ、とクロエの頭を叩いて強制的に沈静化させる。何を口走ろうとしてたんだこの狼娘。


「…………イタイでござるよ、カンナ氏」

「朝っぱらの衆目の中ってことを忘れるなよ」

「ぬぅ…………申し訳ないでござる」


 シュンとなるクロエだが、どうにも小動物的な印象を覚えた俺はほほえましくなる。俺よりも年上のはずだよね、君。


 俺とクロエのそんなやり取りを見ていたレアルがぽつりと。 


「…………カンナも普通に男というわけか」

「あ、うん。人並みに男だが」

「そうか…………」


 ちょっとレアルさん。今の台詞はどういう意味ですか? 

またも評価点を頂きました。ありがとうございます。今後もどしどし感想文や評価点を募集しております。

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