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第四十一話 ぬるねちょは御免です

ポケ◯ンの格ゲーっぽいアーケードを先日発見。

面白そうなんだけど、技覚えるのが大変そうだ。

 

 入り口で騒いだままだと邪魔になるからと、俺とクロエは婆さんに連れられてギルドの上階に案内された。


 執務机と客用のふかふかソファーが置かれた部屋だ。


「ま、とりあえずそこに掛けな。今茶を持ってこさせるから」


 言われるままに俺はソファーに腰をかけ、その隣では肩を縮こまらせたクロエが座る。


「なに、婆さんって偉い人?」

「ま、そこそこ・・・・さね。いい加減に隠居したいんだが、どいつもこいつも頼りない奴らばかりでね」


 笑いながら、婆さんは執務机ではなく、テーブルを挟んで俺達と対面にあるソファーに腰を下ろした。執務机じゃないんだ。


「正面からのほうが腹の割った話もしやすいだろう」


 だから、人の心読まないでくれ。


「ま、さっきも言ったが話の経緯は大体察しているよ。ったく、女とはいえ黒狼の娘がそう簡単に主君を決めるわけ無いだろうに」


 どうやら、婆さんの心情は俺達の方に傾いている。


「しかし、あんた等もぎりぎりで運が良かったねぇ。後一歩でも外にでてたらどんな目に遭ってたか分からないよ」


 運が良かった、とはどう意味だろうか。俺とクロエは揃って首を傾げた。


「あんたら、ギルドの規定を読んで無いのかい」

「や、今日正式に冒険者になったばかりなんで」

「小僧はともかく、黒狼っこの方はもうCランクだろうよ」

「も、申し訳無いでござる…………」


 老婆の半眼を向けられて、クロエはしゅんと気を落とす。耳もぺたりと倒れる。萌える。


「冒険者ギルドの内部ってのは一種の治外法権なのさ」

「治外法権?」


 現実世界で、大使館の話になると大体出てくる単語だ。


「冒険者ってのは我の強い奴らが多くてね、諍いってのは日常茶飯事だ。喧嘩沙汰もね。んで、冒険者に登録してるのは平民だけじゃなくて貴族もそれなりにいる。前者と後者が争ったら、殆どの場合は貴族様の一人勝ちだ。だから、ギルドの建物内で起こったトラブルはそのギルドのトップが裁く決まりになってるのさ」


 冒険者ギルドは世界各国に拠点を置き、国との関係は持っているが、決してその下部組織ではない。ギルドとは言わば、領地を持たない国家なのだ。


「勿論、国からの要請があればそれを依頼って形にして冒険者達に仲介する義務ってのはある。けど、そこに強制力はないのさ」

「意外と自由なんだな、ギルドって」

「ま、治外法権って言っても、根っこから法律と対立はしてないよ。人道的に見て、間違いのない裁量を心がけてはいる。じゃなけりゃぁ、とてもじゃないが冒険者ギルドをおかせては貰えないからね」


 ちなみに、駆け込み寺みたいな緊急避難所みたいには使えないらしい。あくまでも、ギルドの建物内部で起こった問題にのみ対処している。


「あ、じゃあ運が良かったのって、あの貴族の坊ちゃんと言い争ってたのがギルドの内部だったって意味か?」

「もし仮にギルドの外であんなことやってたら、侮辱罪で確実に牢屋にぶち込まれてただろうね。最悪の場合はこれだね」


 と、婆さんは親指で首を掻き切る動作を見せた。「わふッ!?」とクロエが悲鳴を上げ、俺も少しだけ血の気が引いた。


「たかだか怒らせただけで? んな大げさな」


 出禁や国外追放は覚悟していたが。


 俺の楽観視に婆さんが肩を竦めた。


「世の中には人間の想像を絶するような非常識を平然と行う馬鹿がいるのさ。悲しいことに、そういう奴ほど権力を持ってる。いんや、権力ってぇのは人を化け物に変えちまう魔力を持ってるのかもねぇ」

「…………貴族の大半を人外認定するのはどうかと思うでござるが」

「まともな奴もいるけどね、少数なのが事実さ」


 渋い表情を浮かべる婆さん。嫌な思い出でもありそうだな。


 話が途切れた所に、見計らったように職員がお茶入りのコップをお盆に乗せて部屋に入ってきた。


 テーブルに置かれたコップを手に取り、お茶を口に含んだ。この世界では一般に普及している類だが、今まで飲んだことのあるものの中で一番上等だと思える味だった。


 上手い茶にほっと和んでいる俺を余所に、それを持ってきてくれた職員の人が婆さんの耳元に口を寄せると、小声で何かを伝える。


「ほぉう、そりゃまた…………」


 聞いていた婆さんの目が細くなる。婆さんは職員に労いの声をかけて退出させると、溜息を吐いた。


「…………何か問題でもあったでござるか?」

「ああ。どうやら、今回の件は「お咎め無し」ーーてぇ訳にはいかなくなっちまったようだねぇ」

「あの貴族の坊ちゃんがゴネたのか?」

「それもあるが…………問題なのはあの坊ちゃんの背後だ。並の貴族だったら悪くて厳重注意で済ませられたんだが」

「なに? そんなに偉いのあの坊ちゃん」

「この国の公爵さね」


 ………………………………………………………………。


「公爵の次男があんな馬鹿でいいのかこの国は」

「今の話を聞いた第一声がそれとは。将来大物になるかもねぇあんた」


 ………………………………………………………………。


「って、カンナ氏はなんでそんなに冷静でござるかッ! 相手はこ、こここここ公爵家でござるぞッ! 王様の次に偉い身分のお方でござるぞ!」

「ぐへぇッ! ちょ、ちょクロエ、首絞めるな揺らすなッ!」

「これが落ち着いていられるでござるかッ!」


 錯乱したクロエが俺の胸ぐらをつかんでガクブルに揺する。それ以上揺らされると昼食のツノウサギがリバースするぞ。


「公爵」はクロエの言うとおり貴族五段階級の中でもっとも高い位だ。その発言力は、時には王に直訴できるほどに強く、また中には末端ながらも王位継承権を持つほどでもあるのだ。クロエが焦るのも無理はないが、いい加減揺するのは止めてほしい。


「ま、そんな訳だ。相手がこれだけデカい権力を持ってると、あたしからの厳重注意だけじゃ流石に足りないのさ。…………いい加減落ち着きな黒狼っこ。別に腹切って詫びろなんて無茶ぶりは無いから」

「ほ、本当でござるか? セップクしないでもいいのでござるか?」


 クロエは腕を止めると、ビクビクと盛大にビビりながら問い返す。ちなみに俺もシェイクされすぎてビクビクしてます。セップクしなくても口から腹の中身をぶちまけそうです。


「そこだけは保証してやる。今後の活動に影響がでるような処罰は、あたしの権限の全てを賭けてさせないさ。が、それ未満の罰は覚悟しておいて貰う事になるだろうねぇ」

「死なないだけでましでござる!」


 いやいやいや、落ち着けクロエさんや。まだ安心するのは早い。


「あの坊ちゃんが想像通りの下種だったら、クロエはこのままぬるねちょペットライフの刑だな」

「言っている意味は分からないでござるが、卑猥な響きでござるな!」

「ぬるねちょもペットライフもさせないから安心をし」


 婆さんには通じたようだ。


「じゃあ俺がぬるねちょか」

「……………………」

「や、そこで無言にならないでくれよ冗談だから止めてくださいお願いしますいや本当に」

「ったく、常にボケを挟まなきゃ気が済まないのかねこの小僧は」


 俺のボケが潰されただとッ!?


「年期が違うんだよ年期が。伊達に歳はとってないさね。って、話が脱線したよ。割と真面目な話をしてるんだから黙って聞きな」


 だってよクロエ、と喉まで出掛かったが、婆さんの眼力に負けて押し留める。これ以上は叱られそうだ。


「もう一度言うが、無理難題はあたしの権限でどうにかするから安心しな。それに、坊ちゃんがあんた等に何を望んでいるかも予想はついてる」


 はて、ぬるねちょ以外に俺らに出来る事はあるだろうか。お金か? や、公爵家の次男ならお小遣いもたんまり貰ってそうだ。


「古来より、名誉を傷つけられた貴族が相手に望むものはたった一つって相場が決まってるさね」


 婆さんはコップに残ったお茶を一気に飲み干し、大仰な素振りでテーブルに置いた。


「つまり、互いの尊厳を賭けた「決闘」さ」

「「…………けっとう?」」


 俺とクロエの声が、疑問を含んで重なった。


 

 

次回はバトル回。

とことんネタに走るか、半分ほどにしておくか、シリアス強めでいくか悩み中。

・・・・まじめな戦闘回って今までほとんど無い気がする。


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