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第三十九話 美味しく頂きました

二連続投稿です。

 午前中の労働時間だけで、銀貨四枚の報酬だった。内訳は、基本報酬が銀貨二枚で、状態の良い肉の確保でさらにプラス二枚。Eランクの狩猟系依頼の平均報酬が銀貨三枚とすると少しだけ色が着いたくらいか。今泊まっている安宿の一ヶ月の借り賃が金貨一枚なので、後四〜五回ほど似たような依頼をこなせば払えるな。


 依頼を精算した時点で、職員さんにツノウサギの異名を知らされた。最初に教えて欲しかった、と話を聞かされた俺の顔に浮かんでいたので、さらに職員さんが付け加えた。冒険者になりたてで有頂天になった新人にキツい洗礼を行うために、あえてツノウサギの狩猟依頼を初依頼に回すことが多いそうだ。


 ツノウサギは見た目に反した凶暴性を有しているが、事前に知識を仕入れるか、そうでなくとも油断さえなければ、Eランク試験を突破できる実力で特に問題なく撃退できる。ツノウサギの狩猟は、戦闘力ではなく『心構え』の試験代わりでもあったのだ。


「それにしても早かったですね。ツノウサギは通常動物のウサギとは違って臆病ではないので見つけるのは容易いですが、それでも五匹を狩猟するのは今日の夕暮れまで掛かると思っていました」

「や、一匹目は時間掛かったけど、それでコツも掴めたんすよ。最後の一匹なんか、見つけたときには既に木に突き刺さってましたが」

「ああ、偶にあるそうですよ? 戦闘力を持たない商人たちがツノウサギの肉を手に入れるときは、それを狙って森を探索します。偶にツノウサギの外見に、油断して自分の体に刺さったりもしますが」

「…………言葉だけ聞くと笑えますけど、実際に想像すると冗談にならないですね」


 真顔で言われると怖さ倍増だ。


「あ、自分用に一匹余分に獲って来たんですけど、どこに持ってって料理してもらえればいいんですか?」

「それでしたら、この支部の隣にある食堂に持って行けば大丈夫です。店長が元は冒険者でして、ドラクニルの付近に生息する食用の魔獣なら大体は捌けるはずです。ツノウサギの料理も通常メニューに載っていますが、材料の持ち込みなら格安で食べられます」

「ちなみに通常だとどのくらいの料金になりますか?」

「大体が銅貨五枚で、材料持ち込みなら鉄貨五枚程ですね」


 値段の変動がスゴいな。魔獣素材の肉は人間の育てる家畜よりも上等であることが多いのは聞いていたが。冒険者基準ではEランクの依頼に属するツノウサギでさえこれなのだ。


 職員さんにお礼を言ってから受付窓口から離れた。時間の頃は昼食の頃を過ぎている。遅い時間になってしまったが、食堂に材料を持ち込むのなら丁度良いか。稼ぎ時の時間帯に持って行っても迷惑になるだろうし。



 支部の隣にある食堂は、昼食頃を過ぎていながらも意外と混んでいた。座席を占領しているのは大体が冒険者風の者が殆どだ。こんな時間帯に飯を食っている事情は多分俺と同じか。


 混んでいるとは言うが、満席ではなく空席もちらほらとあった。その内の一つを選んで座ると程なくして店員がやってきた。化粧っけは少ないが素朴で可愛らしい少女だ。俺よりも幼いか。他にも数人の店員がテーブル席の間をするすると移動していた。


「いらっしゃいませ! ご注文はお決まりですか?」

「この店は材料の持ち込みが可能って聞いてたんだが」

「あ、お兄さんも冒険者さんですね? ちなみにモノはなんでしょうか?」


 ギルドから無償で支給された獲物袋の中身を店員に見せる。魔獣の死体ではあったが、見慣れているのか店員は悲鳴を上げることなく頷いた。


「お兄さんはこの店は初めてでしょう。魔獣はモノによっては仕込みに時間が掛かる類もありますので、直ぐに調理してもお出しできない場合があります」

「つまり、前もって持ち込んでたほうがいいのか」

「中には数日掛かるモノもありますので気をつけてくださいね。その場合は引換証の方をお客様にお渡しするので、後日に店に持ってきてください」

「そっか。分かった。次回からそうする」


 食材によっては、料理を楽しめるのは翌日以降になるのか。職員さんの説明にはなかったな。


「ギルドの職員さんが説明しなかったのは、素材がツノウサギだったからですよ。これは特に仕込みも要らずに当日にお出しできますから。調理方法はどうしますか? お勧めは『焼き』ですね。シチューにもできますが、少しだけ時間が掛かります。どちらも料金は鉄貨五枚です」

「じゃ焼きで」

「かしこまりました! では、ウサギの方はお預かりします」


 店員は獲物袋ごとツノウサギを受け取ると、調理場の方へと向かった。「ツノウサギのステーキ持ち込みで!」と元気の良い声がここまで響く。


 十分ほどすると木製の更に乗った、食欲をそそる香ばしい匂いのステーキが運ばれてきた。直ぐに飛びつきたくなるのを堪えて、両手を合わせて「いただきます」。幼い頃からの習慣で、これをやっておかないとすっきりしない。


 では、改めて。


 ーーーーーーーーーーー(食事中)。


 結論。


 すこぶる美味かった。


 え? これって兎なの? (日本)国産牛って言われても納得するぞ。


 驚くのは、このツノウサギの肉でさえ魔獣食材の中では低ランク。一般のご家庭でもちょっとした豪華なお肉として普及している点だ。つまり、もっと高ランクの魔獣の中にはこの肉よりも更にグレードの高い品質の個体もいるのだ。


 この味を知ると、俺のこれまでの道程に後悔が募った。荷物がかさばるのを嫌い、旅の途中に討伐してきた魔獣の殆どは最低限の処理してその場に放置してきた。鳥型や爬虫類型の魔獣は、もしかしたら処理の仕方次第では食べられたかもしれない。それが本当に悔やまれる。


 成り上がりには余り興味はなかったが、そこに美味しい食材が待ち受けているのなら話は別だ。


 美食家に、俺はなる!


 美味い魔獣達が、俺を待っている!


 今後の行動方針が固まったところで、俺は思う存分にツノウサギの肉を堪能したのである。

実際に食べた事はないですが、兎の肉って美味しいんですかね?

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