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第二百二十九話 思いの丈を、叩き込め!!

更新二話目です!


 ──ガギンッ!!


 氷壁が破壊された回数は十を超えたあたりから数えていない。それでも、ここまで至って俺は悟った。


 このままじゃ確実に競り負ける。


 レアルの竜腕から繰り出される剛拳は俺に届かない。けども、俺の拳もレアルに全く通じていない。


 一見すれば拮抗しているように見える戦いだが、圧倒的不利なのは俺の方だ。


 辛うじて精霊術の全てを防御に振り分けているからこそ耐え切れている。逆を言えば、それ以外のことに意識を向けている余裕はない。


 決定的に、攻め手にかけているのだ。


 竜鱗を纏ったレアルを倒すには、衝撃手甲インパクトナックル以上の強烈な一発が必要だ。それこそ、俺の持ちうる全ての能力を攻撃に集中しなければならない。


 だが、衝撃手甲インパクトナックルの威力を底上げするには、氷の手甲全体の強度に回していた精神力も攻撃に上乗せする必要になる。そうすると衝撃の勢いが伝わり切る前に手甲が自壊し充分な威力が発揮されない。何より、あの威力で直接殴ると俺の体が反動で確実にぶっ壊れる。


 あと一手。何かがあれば……。


 その時だった。俺の視界にほんの僅かな光が差し込んだ。


 一瞬だけ目が眩み、動作が鈍る。


「がぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」


 叫ぶレアルの拳が迫る。反応が遅れ、辛うじて防ぐが衝撃が躰の芯を削り取っていく。

 躰が浮き上がり吹き飛ばされる。両足で着地するのが精一杯だ。喉の奥から熱いものがこみ上げくる。吐き出してみたら案の定、真っ赤な血が地面を濡らしていた。


 躰はもう限界をとっくの昔に超えている。足腰がもうガタガタ。刹那でも気を緩めると崩れ落ちてしまいそう。完全に、気力だけで支えている状態だ。その気力も、絞りに絞り出して気絶しそうだ。


 口の中に溜まった唾と血をまとめて飲み込むが、自然と躰が前にかしぎそうになる。


 体勢につられて視線が下へと流れる。


 すると、レアルの足元も赤く染まっていることに気がついた。


 ハッとなって、俺はレアルの躰に目を向けた。


 エルダフォスが用意した煌びやか鎧は見る影もなく、辛うじて躰の各位にまとわりついている程度。竜の鱗がその代わりとばかりに体表に浮き上がっている。


 その鱗の隙間から、赤いものが溢れ出していた。


「そうか……お前もか、レアル」


 限界を超えていたのはレアルも同じだったのだ。


 レアルの『竜の怒りドラゴニック・レイジ』は使用者に凄まじい力を与えるが、それと同時に強烈な反動が襲いかかる。そして竜となったレアルには、竜の怒りドラゴニック・レイジ以上の力と代償が身に宿っている。


 己の力に耐え切れず、レアルの内面もダメージを負っているのだ。もしかしたらそれは、俺を上回る深手かもしれない。


 頭の片隅に『自滅』の選択肢がよぎる。このまま防御に徹していれば、いずれはレアルが自身に蓄積したダメージで倒れる。それを待っていればいいと。


「……はっ、馬鹿かよ」


 俺は笑ってその考えを一蹴した。


 怒りの感情に支配されていようとも、今俺が相手にしているのはレアルだ。その彼女が、自らに起こっている異変に気がつかないはずがない。


 それでもなお、彼女は気勢を高め続けている。こうして向き合っているこの瞬間でさえ、まっすぐに俺を見据えている。


 正真正銘の全身全霊で、俺と相対しているのだ。


 だったら俺も、正真正銘の全身全霊で相対するまでだ。


 気力が少しだけ回復し、視線を上げた俺は、ふと先ほどの『光』の正体を知った。


 レアルの背後。穴が空いた聖堂の中。


 そこに突き刺さった一振りの大剣から反射した光。


 ──求めていた最後の一手ピースが、ピタリと嵌り込んだ。


「これで終わりにするぞ、レアル」

「……君のその手の言葉は、あまり信用できないのだがな」


 だがレアルもわかっているのだろう。お互いにもう余力は残されていないと。だからこそ、小さく嘆息したあとに。


「────────────ッッッッッッ!!」


 この戦いの終幕を宣言するかのように高らかに吠えた。その叫びを聞き、彼女の心までも伝わってくるようだ。


 だったら俺も、俺のありったけを彼女に伝える!


冷凍砲フリーズカノン爆裂バースト!!」


 片腕に具現するのは特大の砲塔。俺の身長を超えるほどの長い大口径の砲身から氷塊を発射する。


「今更このような──ッ!?」


 レアルは鉤爪を振るい雑作もなく氷の砲弾を砕く。けれども砲弾の内側には窒素を液体化させるほどの極寒の冷気が込められていた。


 ────ドバンッッ!!


 超低温によって収縮していた空気が、外気温に触れたことで一気に膨張し、大爆発が起こる。


「グルァァァァァァッッ!」


 かつては岩石の巨兵すら木っ端微塵にした爆発を、レアルは腕の一振りで吹き散らす。躰の表面には霜が張り付いていながらもまるで無傷だった。


 レアルは理解していたはずだ。これが単なる『目眩し』であると。


 その証拠に、ふき飛ばした白い爆風を突っ切るように突進した俺に対して、彼女はすでに迎え撃つ態勢を取っていた。


衝撃手甲インパクトナックル二連ツイン!!」


 構わずに、俺は両腕に具現した巨大な手甲を空気圧で加速させて叩きつける。レアルは両腕を交錯させて防ぐが、互いが互いの衝撃に耐え切れず躰の各所から鮮血が噴き出す。


「──からの、緊急離脱!!」


 衝撃手甲インパクトナックルで発生した勢いの方向を、風の精霊術を使ってズラす。結果、俺の躰は拳が衝突した部分を起点として縦に一回転。体操の選手が『跳馬』を使うように、レアルの体をそれに見立てて前へと一気に飛んだ。


「でもって、アイスボード!!」


 宙に浮いている間に氷の滑走板を具現。着地と同時に、レアルに背を向けたまま一気に加速し、風で煽ってさらに速度を得る。


「くっ、待て!!」


 追ってくるレアルに対して、俺は氷の剣を具現化し地面に突き立てる。


 氷剣山波がレアルの目前に出現。レアルは走り抜けながら迫る氷山の波を強引に粉砕していくが、それでも彼女の足を僅かに鈍らせる。


 その間に俺は、勢いのままに聖堂の穴に突入する。


「フラミリス! 二人を連れて離れてろ!!!!」


 返事を聞いている暇はなかった。振り向きはせずとも、レアルがもはや間近に迫っているのが、背中に感じる圧で理解していた。


 俺はアイスボードを解除しキックブレードに切り替える。加速しすぎた速度を地面を削りながら落とし、目的の場所へと辿り着いた。


「借りるぜ、レアル」


 地面に突き立った、巨大な剣を──レアルの愛剣を引き抜く。以前に持った時にはあれほどに重かった剣が、どうしてか今は不思議と軽く感じられた。


「カンナァァァァァァァァァァッッッッ!!」


 振り向けば、俺の名を叫ぶレアルがすぐ側まで近づいていた。突き出された拳には、彼女の全てが込められているとわかった。


 俺の躰を興奮が駆け巡り、力が漲ってくる。


 ここで逃げたり防いだりしたら、男が廃る!


「真っ向勝負と行こうか!」


 躰に残った全ての力を、レアルの剣に注ぎ込む。


 氷の精霊術で剣を覆い、風の精霊術で一気に解き放つ。武器の強度は剣に委ね、それ以外の全てを攻撃に回した、


「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」


 下段から、剣を跳ね上げる。剣筋の延長上にあるあらゆるものを粉砕し、レアルの躰を捉えた。



 驚愕する彼女の躰が、フラミリスの開けた天井の穴を突っ切り、錐揉みしながら空へと高らかに舞う。



 暴風を巻き起こし、俺も宙へと飛ぶ。上昇を続けるレアルを追い越し、さらに高い位置を取った。


 下を向けば、レアルと目が合う。


 俺が憧れた、強い意志が宿った瞳があそこにあった。


「レアルゥゥゥゥゥゥッッッッッ!!」


 俺は、思いの丈を叫びに込めて剣を振り抜く。



 風と氷の嵐を纏ったその一撃がレアルを打ちのめし、その躰は遥か上空から、勢い良く聖堂の内部へと叩きつけられた。



 あたりを揺るがす激震が木霊し、衝撃に耐え切れず辛うじて建物の形を保っていた聖堂がついに崩壊した。


 ──この瞬間、俺の勝利をもって戦いは幕を閉じたのだ。

  

ついにレアルとの戦いに決着!


ですが、レアルとの関係に関してはまだ終わってません。あと巫女も!


次回を乞うご期待!


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