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第二百二十六話 ぶちまけろ!!


「立ちやがれ、レアル! その中途半端な性根、俺が叩き直してやる!」


 俺の叫びを聞き、レアルが顔を伏せたまま立ち上がる。


 やはり単なる手甲の一発じゃさほどダメージは入ってないか。髪が顔の前にかかってよく見えないが、隙間から覗く頬が少し赤くなった程度でほとんど無傷に近い。竜人族の強靭さは伊達じゃねぇよな、本当に。


 やっぱり、衝撃手甲インパクトナックルを直接打ち込むしかないか。麻痺していた感覚が元に戻り始め、じくじくと痛みが広がり始めている。あまり時間はかけたくないな。


 なんてことを考えていると、背筋がゾクリと震える。


 僅かばかりに顔を上げたレアルと視線が合う。


 眼光は人のそれよりも、むしろ魔獣のものに近かった。


 レアルの躰から魔力が噴き出す。また、竜の怒りドラゴニック・レイジを発動したのだ。彼女はそのまま、地面につきたった剣を無視し、まっすぐに俺へと肉薄する。


 ──ドゴンッッッ!!


 振るわれるのはまさに剛拳。技術などまるで無視した、力任せの一撃。


 今日受け止めた中で、最も重い一発だった。


 氷の手甲を具現化して防御するが、耐えきれずに吹き飛ばされる。強度重視で具現化した氷に亀裂が生じるほどの威力だった。


「随分と……好き勝手に言ってくれるな」


 地面を転がる俺は急いで体勢を立て直すが、レアルは追ってこなかった。代わりに独白のように語り出した。


「ああそうだ。君の言う通りだ。今日の私はおかしいとな。自覚もしている。動きに精彩を欠いている。認めよう。ああ、認めようじゃないか」


 ちょっと、キャラ変わってませんか?


「その点に関して君に不快な思いをさせていたのならば、謝罪しよう。確かに竜剣の名も泣く。恥ずかしい話だがな。これではリーディアル様はおろか、ケリュオン皇帝陛下にも顔向けできん。騎士団長の位を頂くものにあるまじき失態だ」


 急にレアルの口数が多くなる。思ったことをそのままに喋っているような印象だ。支離滅裂とまではいかなくとも、彼女にしては落ち着きのない口ぶりだ。


 けど、俺は確信を抱いていた。


 これは、嵐の前の静けさ。レアルが言葉を多く並べている今こそが、平穏なのであると。


「……不思議なんだ」


 レアルはわずかに視線をそらし、俺の後方で決闘を見守っているファイマたちに目を向ける。


カンナ彼女ファイマたちが接している光景を見ると、どうにも胸がざわめく。今だけの話じゃない、ここ最近はずっとだ」


 いやそれはいわゆる──と思ったところで首を傾げる。


 今のレアルは『誰かを想う感情』を消されているはずだ。だったら、彼女が『それ』を抱くことすらありえないはずだ。


「極め付けは……君がファイマ嬢、それにクロエとの『口付け』したのを見せられた時だ。どうしてか、腹わたが煮えくり返るほどの『怒り』を覚えたよ。あの時は決闘前ということで必死に堪えていたがな」


 怒り──その言葉を聞いた瞬間、俺は決闘が始まる直前にファイマと交わした会話を思い出す。


「そうさ。戦っている最中、あの光景が頭の中をちらつく。君と戦っている最中に私の心をかき乱す。なんなんだこれは」


 そうか、これだったのか。


 あの限られた時間の中で、ファイマが唯一見つけ出した突破口。レアルを『怒らせる』というその真意。


 ──だったら、とことんまでやってやるさ。


「お前には理解できねぇよ。自分の気持ちを誤魔化し続けてきた臆病者には」


 ピクリと、レアルのまなじりがつり上がる。俺は構わずに言葉を吐き出す。


「ま、俺も人のことは言えねぇけどよ。少なくともお前よりかは百倍マシだ。こっちはもう覚悟を決めてんだからな」


 というか、さっき勢いでぶちまけちまったけどな。まさかあんな浪漫も欠片もない告白をすることになるなんて思いもしなかった。


 もっとも、それは今のレアルには届きはしなかった。


 けど、そんなの関係ない。


 俺はもう決めたのだ。


 目の前の女に抱くこの気持ちから、絶対に逃げないと。


「お前に……私の何が分かるというのだ!」


 地面を踏み砕くほどの突進。そこから繰り出される豪腕の一撃を、衝撃手甲インパクトナックルで迎え撃つ。拳と拳が正面から激突し、辺り一面に風が吹き荒れた。


 先ほどの一発よりもまた重みが増した。


 だが、それでもまだ軽い。


「分かりたくても分からねぇよ!」


 反対側の腕で衝撃手甲インパクトナックルを放つ。レアルも同じく拳を打ち込み、またも正面から激突する。


「胸の奥で色々溜め込んで、一人で勝手にイライラして! 言いたいことがあるならはっきり言えってんだよ!!」

「何を言えというのだ! 原因の一端はお前にあるというのに!」

「だったらそれごと俺に言え! 思いの丈をありったけ、俺にぶちまけてみろ!」


 まさに拳と言葉の応酬だ。


 レアルの拳が一発打ち込まれるたびに、重みが増していく。かろうじて氷手甲で受け止め逸らしているが、生身で食らったら骨と肉が消し飛ぶような圧力だ。


 それでも俺は一歩も引かずに彼女とぶつかり合う。


「つか、関係ないだろ! 俺がファイマやクロエと乳繰りあっててもよぉ!」

「ふざけるな! そんなのが許されると思っているのか!」

「許しを請う必要なんざねぇだろ! お前にはセリアスってご立派な王子様がいるんだからよ!」

「なんッッ!!」

「レアルはセリアス殿下と幸せ結婚生活送ってな!」

「ふざけッッ!」

「俺はファイマたちとイチャコラするから!」

「──ッッ!!」


 最後あたり、レアルが言葉にならない叫びをあげる。


 いやまぁ、セリアスとの結婚をぶち壊すためにこうして命がけで殴り合いしてるわけなんですけどね。言っててかなりしんどい。本当にレアルがセリアスと結婚したら、ちょっと立ち直れないかも──。



 ────ゾクンッッッッ!!



 身も凍るほどの怖気おぞけが全身を駆け巡った。


 生存本能に身を任せ、考える間に躰がレアルと距離を取っていた。


 ゆらりと、拳を引いたレアルが立ち尽くす。


 端的に言えば、すごく自然な立ち姿だ。ただ立っているだけで様になる女というのもそういないだろう。


 ただし、表情は完全に能面。一切の感情が欠落していた。


「──やっべ、やりすぎたわ」


 俺は『逆鱗』に触れてしまったことを自覚する。


 そして、レアルはぽつりと『それ』を口にした。



真竜の憤怒トゥルー・ラース



 これまでとは比にならない程の威圧感が爆発的に膨れ上がった。


「────────────────ッッッ!!」


 人が発するにはあまりにも凶々し過ぎる咆哮。湧き上がる破壊衝動に心を支配された獣の叫び。


 レアルの身に何が起こっているかは分からない。


 ただ単純に『やばい』というのだけは確実だ。


 俺は躊躇なく間合いを詰めると、衝撃手甲インパクトナックルをレアルに向けて放つ。悠長に待っていられるほどの余裕は俺にはなかった。


 無防備なところに命中させられればかなりのダメージになるはず。


 そう思っていたのだが。


「冗談だろっ!?」


 あろうことか、レアルの無造作に振り上げた手によって、空気圧で放たれた渾身の一撃が受け止められたのだ。


 けれども、驚くのはまだ早かった。


 レアルの腕を見て、言葉を失う。


 人の腕・・・ではなかった・・・・・・


 銀色の鱗と鋭い鉤爪を伴ったそれは──まさに竜のかいな


 彼女が無造作に竜の腕を振るえば、俺は成す術もなく弾き飛ばされる。急いで体勢を立て直して攻撃を加えようとするが、レアルの姿を見てまたも絶句する。


 異形と化していたのは腕だけではなかった。


 腕の変化は片方だけではく両方に。躰の至る所には銀の鱗が生え、背中からは猛々しい翼が伸びる。螺子くれた角が側頭部から突き出し、口の端から飛び出すのは鋭い牙。


 

 レアルはまさに、人の形をした『ドラゴン』と成り果てたのだ。




ついにプッツンしちゃいました。

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