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第二百二十三話 浪漫技が決まると感動する

死ぬ気で更新頑張ってる。


「では、始めてください」


 巫女の宣言によって、粛々と戦いが始まる。


「──ッ」


 開始早々に、俺は両腕に冷凍砲フリーズカノン。そしてありったけの氷円錐を具現化。準備時間を要しない、即効で叩き出せる俺の最大火力。


「全弾、一斉射撃!!」


 レアルに向けてその全てを発射する。手加減など微塵もない全力でだ。


 レアルは無造作に剣を振るう。単純な薙ぎ払いだ。ただのそれだけで冷凍砲フリーズカノンの弾丸が破壊され、加えて巻き起こった風圧で氷円錐が全て吹き飛ばされる。


「まだまだぁぁっっ!!」


 俺は具現を続け、レアルに向けて攻撃を放ち続ける。とにかく攻めて攻めて攻めまくって、戦いの主導権をこちらが握る。


「温いな」


 レアルは横に剣を構えると一気に踏み込んできた。その強烈な脚力に負けて、大聖堂の床の一部に亀裂が生じるほどだ。


 そしてそのまま、氷円錐の弾幕の中に突っ込んできた。


「ちょっ!?」


 向かってくる冷凍砲フリーズカノンの弾頭だけを剣で砕き、その他は完全に無視。氷円錐はレアルの躰に届くものの、衝突した瞬間にガラス細工のように呆気なくくだけ散る。まるで、戦車に拳銃だけで立ち向かっているような感覚だ。


 驚いている間もなく、踏み込んできたレアルが大剣を振り下ろす。『防御』なんて選択肢はない。俺はとっさに自身の躰に強烈な風をぶち当て、その場から弾かれるように離脱する。 


 俺が寸前までいた空間を巨大な剣が通過し地面に叩きつけられる。石造りの床が局所的な爆発が起こったかのように隆起し、破片が飛び散る。


 小細工など何も含まれていない、けれども己の力を余さずに使い切るその体捌き。そしてそれを最大限に生かす頑強さ。


 多少なりとも戦いの経験を重ねてきたからこそわかる。


 レアルは強い。分かりきっていたことを、身に染みるように思い知る。


 これが、竜剣と呼ばれる存在か。


 俺は地面に叩きつけられるように転がり、そのままの勢いで立ち上がる。追撃を警戒して精神を練り上げるが、レアルは剣を構えたまま止まっていた。


「どうした、このままではあっという間に終わるぞ」

「随分と甘いな、レアル。今のは追い打ちを掛けておく場面だぜ」

「…………君のことだ。下手に追い詰めると何をしでかすかわからないからな」


 実際には何も仕込んではいなかったのだが、勝手に警戒してくれていたようだ。それはそれで儲けもんだ。


 とはいえ……開始してまだ間もないがこれでわかってしまった。


「だが、今ので分かったはずだ。どれだけ策を弄したとしても、それが通じない相手がいることをな」


 レアルの言う通りだ。


 俺は知っていた。


 どんなに奇策を巡らそうとも、それをはるかに上回る『正道』がある。弱点をつき、不意を打ち、どれほど状況の優位を作ったところで、それすら覆されてしまう存在がいると


 生半可な攻撃では小揺るぎもしない防御力に圧倒的な推進力。そして、それらを存分に発揮して振るわれる攻撃力。


 言ってしまえば単純明快。だからこそつけいる隙のない完成した強さがそこにあった。


「カンナには本当に申し訳ないと思っている。だが、エルダフォスとディアガルの未来のために、この場で君を倒させてもらう!」


 レアルは大上段に剣を構えると、またも鋭い踏み込みで接近してくる。


 おそらく、レアルに通じるのは出力度外視で具現化した精霊術。液体窒素爆弾や巨大氷砲弾や大槌クラスの攻撃でなければまともに攻撃が通らない。


 しかし、それはレアルも理解しているはず。だからこそ、俺が溜め・・に入ったら猛攻を仕掛けてくるに違いない。


 まさに戦士としては理想形だ。正面から戦えば敵なし。多少の罠があろうとも小揺るぎもしない。


 邪道・・では、どうあがいてもレアルには勝てない。


 本来なら、そう言った輩とは戦わないことこそが最上の一手。正面向き合った時点で負けなのだ。


 だが、今だけはダメだ。


 惚れた女がいる。


 この場で逃げ出したら、それが永遠に失われる。


 なら、戦うしかない。


 目前に迫るレアルの大剣。


 俺は右の手甲を、腕よりも一回り大きい氷の装甲で覆う。


 そして、振りかぶった。


 ──冷凍砲フリーズカノンを考えていた時に思いついた、風の精霊術を利用したもう一つの攻撃方法。


 制御が難しく下手すると自滅する可能性すら秘めており、ここまで半ば封印してきた。一度試しただけでほとんど練習らしい練習をしてこなかった。


 しかし、今相手にしているのはレアルだ。ここで多少の危険リスクを恐れていて勝てる相手ではない。


 今の俺がレアルに対抗できる唯一の手段はこれしかないと、戦いが始まる前から考えていた。


 それに思うのだ。


 目的やら建前やらを全て抜きにしてしまえば、


 至極単純な話だ。


「好きな女の前では、格好つけたいってな!!」


 邪道で敵わないのならば、取れる手段はただの一つ。


 俺も〝正道〟を辿るまで。


 正面から──レアルのパワーに対抗する!


衝撃手甲インパクトナックル!!」


 

 ──ドゴンッッッ!!



 強烈な衝突音が聖堂内に轟いた。


「なっ──!?」

「よっしゃぁぁぁぁぁ!!」


 弾き飛ばされるレアル。


 そして俺は健在。


 俺の氷の手甲が、レアルの大剣に押し勝ったのだ。


 仕組みとしては単純明快だ。


 冷凍砲フリーズカノンの砲身を拳の先ではなく肘の方に向くよう取り付けただけ。そしてそこから圧縮した空気を解放し、拳の勢いを増すというもの。


 危険リスクというのも単に、拳を空気圧で押し出す際の勢いが強すぎると肩の関節が外れそうになるのだ。


 現に、肩を始めとした右半身にズキズキと痛みが生じている。何度も打ち続けていれば躰が内側から自滅するだろう。


 それでも、だ。


 氷の手甲に精神力を乗せ、風の推進力で増幅して拳を打ち出す。至近距離であることと重魔鉱の手甲があるおかげで精霊術を最大限に生かした攻撃。酷く局所的であり射程は零に近くとも、威力だけに限れば巨大氷砲弾に匹敵する。


「どうだレアル。これで五分五分だ」


 文字通り、俺に力負けした衝撃に動揺しているレアルに拳を向ける。ハッと我に返りこちらを睨むも、不思議とそれまでほどの威圧感を感じられない。


「さぁ、ここからが本当の勝負だ! 行くぜ、レアル!」

「──っ、たかが一度弾いたところで調子に乗るな!!」


 俺たちは同時に踏み込み──そして拳と剣が交錯した。

  

衝撃手甲は威力こそ凄まじいですが、射程は拳が届く範囲。失敗すると肩が外れる。ついでに成功しても反動がヤバイ等々とリスクが高く、普段使いにはあまり適さないので、カンナは冷凍砲を優先的に練習していたわけです。

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