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第二百二十二話 出来ることがあり、望まれることがあって、成す意思はここにある



 とんでもない事態になった。


 まさか、セリアスに喧嘩をふっかけたらレアルと戦う羽目になるなんて誰が思うよ。


 思わぬ展開にはなりつつも、当初の目的であった『時間稼ぎ』としては辛うじて叶った形だ。 


「──ってのが、俺の持ってる情報の全部だ。他に細かいことはクロエに聞いてくれ」

「……物申したい点が山ほどあるけれど、とりあえずは全部飲み込むわ。今は時間が足りないもの」


 レアルの準備があるということで、こうしてファイマと話をする時間を得ることができた。とは言っても、本当にわずかばかりの時間。悠長に相談を続けていられるほどではない。


 決闘の場は、王城の庭園。そこにちょうど、戦うのに適した広い空間があった。俺たちは今そこの一角に陣取っている。もちろんフラミリスも一緒だ。


 ファイマは俺の話を聞き終えると、顎に手を当てて思考に没頭する。レアルを解放する手立てがない以上、今はファイマの頭脳が頼りなんだからな。


「本当に、手を貸さなくて良いのか?」

「こちらから言い出した手前、あちらが筋を通している以上はこっちもそれなりに筋を通さなきゃ駄目なんでね」


 フラミリスの申し出はありがたく思いつつも断る。これが単純な『戦闘』であるならば惜しげもなく彼の力を借りているが、今回は『決闘』だ。一対一の形を崩すことはできない。


「……具体的に勝算はあるのでござるか、カンナ氏」


 俺もクロエも、レアルの本気を目にしたことがある。現役の騎士団長であり、元Aランク冒険者の実力は伊達ではない。


「どうだろうな……少なくとも瞬殺されない目処はある」


 さすがに俺も自信満々に『勝てる』とは言えない。せいぜい『すぐには負けない』程度が精一杯だ。


 ふと、決闘を観戦しに来た貴族たちの一角から騒めきが広がる。どうやら準備を終えたレアルが来たようだ。


「いや、すげぇ格好してんなあいつ」


 レアルはやはり、セリアスと巫女を伴って姿を現したのだが──。


 なんと、決闘の場に現れたレアルは軽鎧姿でも全身鎧でもなく、女性であることを全面的に押し出したような煌びやかな鎧姿──まるで『姫騎士』と言わんばかりの格好をしてきたのだ。実際にこの世界にお姫様な騎士なるものが存在しているかは不明ではあるが。


 先ほどまでの花嫁姿よりも、今の姫騎士姿の方が『らしい』と思える。レアルらしい勇ましさの中に、栄えある美しさが共存していた。


 だが貴族たちはレアルの美しさよりもその背中にある巨大な剣に注意が向いている。あんな見た目華奢な体躯とはあまりにも不釣り合いすぎる代物に首をかしげるほどだ。


 今から、あの大剣の前に出るのかと考えると、さすがに緊張してくる。普段のレアルなら手加減も期待できるが、今は巫女に命じられているのだ。本気で俺を殺しにくるに違いない。


 その巫女の手には、魔杖シルヴェイトが握られていた。おそらく、フラミリスへの牽制として持ち出して来たのだろう。実際にはその中に封じられていたシルヴェイトは解放されており、杖に残っているのは残りカスの力だけ。とりあえずこちらは無視しても問題ないだろう。


「こちらの準備はできたぞ、カンナ!」


 レアルのよく通る声がここまで響いてきた。


 いよいよ、時間切れか。


「……ここが正念場か」


 この戦いでもし仮に勝利を拾えたとしても、だからどうしたという話だ。


 セリアスとレアルの結婚を阻止したとしても、レアルは依然として巫女の支配下に置かれたまま。やがては理詰めで二人の結婚を画策するだろう。そうなれば状況は更に悪化の一途を辿る。


「……ああもう、今はこれに賭けるしかない!」


 俺が戦いに赴く一歩を踏み出す直前だ。それまで深く思考に没頭していたファイマが突然声を発した。そして俺の顔を真剣な目で見据える。


「カンナ、一つだけ確認しておくわ。レアルさんは『誰かを想う感情』だけが消え去っている状態なのよね? 通常の『喜怒哀楽』は残ってるって認識で間違いない?」

「ああ、おそらくは。けどそれが──」


 ──不意に、ファイマは俺の唇に己のそれを重ねた。


「…………ぷはっ」

「………………いや、何してんのお前」


 ファイマの突然の暴挙キスに、俺は冷静にツッコミを入れた。だが、そんな俺の言葉など御構い無しに。


「ほら、クロエさんも!」

「えっ!? 拙者もでござるか!?」

「いいから早く! カンナの為を思うなら!!」

「わ、わわわわ分かったでござる!!」


 分かっちゃうのかよ!?


 そしてやはり俺が止める間も無く、ファイマに促されるままにクロエも俺と唇を重ねた。


「いや、だからなんなの!?」


 ピンク色な雰囲気の状況なら大歓迎だが、今はどっちかっつーと緊急事態レッド色な感じなんですけど。


 自分からやっといて恥ずかしいのか、ファイマは頬を赤らめながら俺に告げる。


「いい? 戦っている間、できるだけレアルさんをいからせて」

「俺に死ねと!?」


 ただでさえ手加減が期待できない状況で怒らせでもしたら、それこそ手がつけられなくなるぞ。


「ごめんなさい、詳しい説明をしている余裕はないし正直に言って自信もない。でも、今の時点で考える突破口はこれしかないの」


 ファイマの声は真剣そのもの。本気で言っているのがありありと伝わってきた。


 だったら、これ以上文句を言う必要はない。


「さぁ、行ってカンナ。必ずレアルさんを助けて」

「拙者も、こんな形で二人の関係が終わるのは絶対に嫌でござる」


 二人の言葉を受け取った俺は、ただ強く頷いた。


 俺は彼女たちから離れると、レアルの前に立った。


「待たせたな」

「…………」


 レアルは返事の代わりと言わんばかりに、背中の大剣を引き抜いた。片手で軽々しく巨大な得物を振るった彼女を見て、貴族たちが息を飲んだ。


 一番仰天しているのがいつの間にか用意されていた貴賓席に座るセリアスだったりする。その隣に立つ巫女も小さく驚いている様子だ。


「かかってこい。君が最初の頃からどれほど成長したのか、多少なりとも興味があるからな」

「そうかい……だったら存分に味わってくれ」


 出来ることがある。


 望まれていることがある。


 そして、それをす意思がある。


 だったら、もうこれ以上躊躇う必要などない。


 おそらく、これが最初で最後のチャンス。


 ──レアルに勝利し、なおかつ彼女を『輪廻の巫女』の支配から解放する。


 まさか、惚れた女レアルを助けるために、惚れた女レアルと本気で戦う事になるなんてな。皮肉にもほどがある。


 けど、だったらとことんまでやってやる!

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