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第二百二十一話 やつに背中を見せると本当に危険だったりする(ただし敵に限る)


 派手に景気良く乱入したは良いものの……実はといえばノープランだ。いつも通りといえばそれまでなのだが。


 俺は神父の前にセリアスと並んで立つレアルに目を向ける。


 純白のドレスに身を包む彼女に見惚れていたい気持ちはある。だが、それ以上に側に立つセリアスの存在に強い苛立ちを覚える。


 しばらくしてから、ようやく衝撃から立ち直ったセリアスが怒号を発する。


「き、貴様! どういうつもりだ!」

「言った通りだよ、セリアス殿下ばかおうじ。レアルと結婚したけりゃ、まず俺と話をつけるべきだったな」


 何がどうあっても絶対に許さねぇけど。


 俺の言葉に凄い形相で睨みつけてくるが腰はかなり引けていた。奴の視線はチラチラと、俺の背後にいる巨体に注がれる。気にならない方が無理か。


 それでもセリアスは横目でレアルを一瞥してから顔を引きつらせながらもなおも叫ぶ。


「どうして貴様ごとき人族の許しが必要なのだ! これは我がエルダフォスとディアガルとの栄光につながる大事な儀式。たかが人族の冒険者が口出しをしてよい問題ではない」

「俺が人族であるとか冒険者であるとかそんなこたぁどうでも良いんだよ。こちとらディアガル皇帝直々の依頼でレアルの護衛に来てんだ。雇い主様のご意向をまるっと無視した護衛対象の結婚なんて、承諾できるはずねぇだろ」


 一応は考えてきた建前をそのまま口にする。


 俺の立場からしてみれば、預かり知らぬところで護衛対象が結婚しようとしていたのだ。しかも、雇い主は護衛対象ではなく対象の上司。建前とはいうが、俺の言い分の筋はそう間違っていないはずだ。


「カンナ」


 美しく着飾ったレアルが、普段通りの声で俺を呼ぶ。さすがは現役の騎士団長。ど迫力のドラゴンを前にして微塵も揺るがない。


「君のことだ。また何かやらかすのではと思っていたが、案の定だ。まさかドラゴンを伴っての参列とは思ってもみなかったがね」

「俺もまさか、お前の結婚式にドラゴンと同伴で乗り込むような展開になるとは思ってなかったぜ」


 俺とレアルの視線が交錯する。ようやく、俺はここ最近に感じていた違和感の正体を悟った。


「私がセリアスとの婚姻を望んだ。それでは駄目なのか?」

「ああ、駄目だね」

「セリアスの言う通り、私とセリアスが結ばれれば、エルダフォスとディアガルの関係は確固たるものとなる」


 いつか、どこかで聞いたような話だ。


「それに、半分とはいえ竜人の血が流れる私がエルダフォスの王家に嫁ぐことによって、エルダフォスの人々から竜人族への偏見をなくす大きな一歩となれるはずだ」


 声色も表情も仕草も振る舞いも、何もかもが普段通り。


 国に対する気持ちは本物なのだろう。そのためにセリアスと結婚することに強い意義を抱いているに違いない。


 レアルはレアルのままだ。


 だが。


「そんなつまらねぇ打算なんか聞きたかねぇな」

「カンナ、聞いてくれ。これは大事なことなんだ」

「やかましいわ!」


 気づかないわけだ。


 俺はこれまで、人の機微にばかり注意を向けていた。強い感情を読み取り、敵意や悪意に対して警戒をしてきた。


「おいレアル。お前、そこにいる王子様のこと、好きか?」

「なぜそのようなことを聞く」

「いいから答えろ! 本気でセリアスって男のことを好きで結婚するつもりなのか!」

「それは──」


 セリアスとの結婚することでの『利益』を口にしていた時は迷いはなく。けれども俺の問いかけに対して彼女の声が止まった。


「れ、レアル殿?」


 セリアスも答えが気になったのか、レアルに声をかけるが彼女はやはり答えない。


「……その質問に、答える必要性を感じられないな」

「なっ、レアル殿っ!?」

「もう良い。それで十分に分かった」


 今の彼女の声からは『熱』を感じられなかった。


 セリアスとの結婚を口にしている間、彼女は冷静だった。そこに感情の起伏はなく、単に事実を述べているだけ。


 結婚を前にして、あまりにも冷淡すぎたのだ。セリアスに対する恋慕の気持ちなど、欠片も含まれていない。


 ──誰かを想う感情。


 それが、レアルの中から消え失せていた。


 強い感情を警戒してきた俺は『零の感情』に気づくことができなかった。だから見逃していたのだ。


 俺は参列席に見つけた、『輪廻の巫女』を睨みつける。


 相変わらずの仮面姿であり表情は伺えないが、離れた位置にいる今でさえ彼女からは強い敵意を感じる。もっとも、俺はそれ以上に強い怒りを向けている。


 だが、レアルの状態が分かったところでどうすればいいのだ。


 フラミリスの話では、レアルは決して操られているのではない。彼女はただ単に、エルフとして『自らの意思』で巫女の命令に従っているだけ。どうやって巫女の『支配』から解放すればいいのか全くわからない。


 そこへ行くと、求める答えが返ってこずに愕然としているセリアスが少しだけ可哀想になってくる。


 レアルとの結婚を楽しみにしていただろうに、当のレアルは僅かばかりも恋愛感情がない。


 まさに、愛のない政略結婚。最初から冷え切っている。ご愁傷様だな。


 ──いや、やっぱり許さねぇ。どんな形であってもレアルを嫁さんにもらうとか、あのたわわ・・・を自由にできると考えたら羨ましすぎるわ。


 なんだか腹が立ってきた。


 いや、最初から怒りはかなり溜め込んでいたが、殊更にセリアスへの殺意が急上昇だ。


 現時点でレアルを解放する手立ては不明。


 だったら──時間稼ぎをするまでだ。


 ちょうど、それに適した面目があった。


「どうしても──セリアスとの結婚には反対なのか?」

「そうさな」


 俺は少しだけ考えるふりをしてから、セリアスを「びしっ」と指差した。指差された当人は目を瞬かせるが、俺は構わずに言ってのけた。


「俺に勝てないようじゃぁ、到底レアルとの結婚なんぞ許せないね。なぁ、セリアス殿下さんよぉ」

「なっ、貴様!」


 憤りをあらわにするセリアスだったが、すぐには噛み付いてこなかった。


 一度、セリアスは俺に対して敗北を喫している。対外的にはともかく、本人が一番よくそれを理解しているのだ。


 ここでセリアスが俺の挑発に乗り、再戦を挑んでくるならそれで良い。もう一度ボッコボコにしてやれば多少なりとも時間は稼げる。


 挑発に乗らないならそれはそれでまたよし。話は平行線をたどり、やはり多少の時間は稼げる。その間に、ファイマと相談して具体策を考える。俺やフラミリスの持つ情報を彼女に渡せば、何かしらの突破口が開けるかもしれない。


 即席で考えたにしては悪くない手の筈だ。


 ──だが、俺はここで一つ失念していた。


「……なるほど、それは良いことを聞きました」


 新たに声を発したのは、参列席から立ち上がった『輪廻の巫女』だ。こちらに向けて歩きながら語る。


「白夜叉様の無礼な振る舞いはともかくとして、このままでは話は平行線。いつ婚姻の儀を再開できるかわかりません。でしたら、彼の言い分にのっとるのも吝かではありません」

「お、おい! 巫女殿!?」


 セリアスが驚いたような声を発するが、巫女は構わずに続ける。


「セリアス殿下と白夜叉様の親善試合は未だに決着がついておりません。ならばこれを機に再戦をし白黒とはっきりつけて仕舞えば互いの溜飲も下がりましょう」


 この女、何が狙いだ。


 巫女が、フラミリスの側を通る。フラミリスは唸り声をあげながら睨みつけるも、巫女はまるで意に介さない。


 そして、俺とすれ違うと。


 クスリと、確かに笑ったのだ。勝ち誇ったかのように。


 ──よし、潰すか。


(待て『かんなの子』よ)


 最大出力の氷槌を具現化しようとしたところで、フラミリスが制止が入る。具現の半歩手前で俺は仕方なしに従った。


 不満顔をフラミリスに向けると、彼は俺にだけ聞こえる小声で語りかけてきた。


(巫女を殺したところで、あの娘が元に戻るとは限らん。少なくとも、突破口を見出すまでは耐えろ。……というか、躊躇いもなく殺そうとしたことに私は驚きを禁じえないのだが)

(ちっ、絶好のチャンスだったってのに)


 巫女め、命拾いしたな。


 俺が殺意を込めて通り過ぎていく巫女を睨みつけた。


 己の命が風前の灯だったことなどつゆとも知らず、巫女は俺たちとレアルたちの間に立つ。


 さて、巫女のやつはどんな手を打ってくるのか。


 どうせ、碌なもんじゃないのは確定的だが、さて。


「そういえば、あの親善試合はレアル様の預かりになっていましたね」


 確かに、あの場は騒ぎを収めるためにレアルが申し出た。


 だが、なんでそれをこの場であえて口にするんだ?

「巫女殿のおっしゃる通り。カンナに納得してもらうためにも、ここでセリアスには彼との再戦をしてもらい、勝利してもらうのが確実だ」


 当のセリアスが「え、まじで?」って顔になってるけど。本人が一番置いてけぼりになってるぞ。


「……ですが、セリアス殿下は先日の親善試合でおった怪我がまだ癒えておりません。これでは明らかに不公平な試合になってしまいます」


 嘘つけ! 誰がどう見てもピンピンしてるだろうが!!


 異論を唱えようとするも、その前に巫女が続けた。


「であれば、ここはセリアス殿下に変わって白夜叉殿と決着をつける代理人を立てる必要があると思われますが。ねぇ、レアル様?」


 ────いや、ちょっと待て。


 まさか、この女……よりにもよって!?


 巫女の思惑に気がついたときにはもう遅かった。



「ならば……この私がセリアスの代理として──カンナと戦おう」



 他ならぬ、レアル・ファルベールがそう宣言したのだった。


「……これはさすがに想定外すぎるわ」


 俺は思わず天を仰ぐ。


 崩落して見晴らしの良くなった天井の先には、憎たらしいほどに晴れ渡った空があった。


さすがに今回の話では終わりませんよ(笑

さぁいよいよお待ちかね。

主人公VSヒロインまで秒読みでございます!

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