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第二百十九話 突撃真下の結婚式場!

どうして突撃で真下なのかは本文を読んで察してください。



 衣装係の不眠不休の働きによって、無事にレアルの『晴れ着』が完成。これにより、とうとう婚姻の儀が執り行われることとなった。


 ──カンナが出発してから四日のことだった。


 儀式が執り行われるのは、エルダフォスの誇る大聖堂。普段は粛々とした雰囲気のこの場所は、今は多くの者が集い『その時』を今か今かと待ち望んでいる。


 当初はレアルが『竜人族のハーフ』ということで、貴族相手の根回しは済んでいたものの、庶民階級の国民の理解を得るのはまだ先のことかと思われた。


 だが、蓋を開けてみれば驚くほどすんなりと受け入れられた。目立った反発は皆無であり、予定通りに儀式は進んでいく。


 ──とうとう、カンナもクロエも婚姻の儀までにエルダフォスに姿をあらわすことはなかった。


 祭壇の前に立つ、男女。もう間も無く結ばれるだろう二人だ。


 レアルが纏うのは純白ドレス。誰もが想像する『花嫁』という存在の集大成を具現化したかのような美しさを秘めていた。


 あまりの美しさに、彼女の婿となるべきセリアスの存在が時折忘れ去られたり霞んでしまうほどだ。当の本人は、レアルの花嫁姿に魅入っており、周囲の反応などまるで気にしてなかったので問題はなかった。


「レアル殿……私は今日という日を一生忘れないでしょう」

「私もです、セリアス殿下」

「セリアスとお呼びください。我らはこの日、夫婦めおととなるのですから」

「はい、セリアス」


 微笑みを浮かべながらセリアスの言葉に頷くレアル。その顔は幸福に満ち溢れており、この婚姻を誰よりも喜んでいるように見えた。


 ──そして、レアルは、そんな自分レアルを他人事のように捉えていた。


(不思議な気分だ……夢心地とはこのことなのだろうか)


 自分は今、セリアスの妻になることを心から望んでいる。そうすることが最善だと。


 一方で、その事実に何かしらも感情を抱けていなかった。己自身のことを、客観的に見ているような気分だ。


 レアルが内心に首を傾げていると、参列席に座るファイマと目が合った。ファイマはディアガル側の参加者代表ということで、列の最前席に座っている。他にも、天竜・幻竜の双騎士団も参列していた。


 騎士団の面々は緊張した様子の中、ファイマは焦燥に駆られたような表情をしている。


 セリアスとの婚姻が決まってからというもの、ファイマは何度もレアルに問い質した。

『本当に、セリアス殿下と結婚するつもりなのか』と。だが、その都度に返すレアルの答えは変わらなかった。


 セリアスと結婚しエルダフォス王家の一員となり、エルダフォス・ディアガル双国の発展に尽力する。それこそがレアルの使命なのだと。それ以上に重要なことなどないと。


 重要なことなど……ないはずなのに。


(私はどうして、カンナのことを思い浮かべているのだろうか)


 人族の男。これまで多少なりとも縁があり、それなりに深い交流もしてきた。ディアガル皇帝からの信頼も厚く、レアルが親書を運ぶ任を受けた際の護衛を任されるほど。また、その実力をエルダフォス王にも評価され、今は特別な任務についている。


 それだけの男のはずだ。


 彼に対しては、実力的には信頼しているし人間的にも頼りになる。けれども、それ以上でもそれ以下でもない関係だ。


 なのにどうしてか、彼の顔が頭の中をちらつく。


 ──本当のところは理解していた。


 一時とはいえ・・・・・、あの男に想いを寄せていた。その事実が、未だに己の中に根付いているのだ。


 今はもう、カンナに対する想いは無い。


 そもそも、どんな想いを抱いていたのかすらわからない。


 ただどうしてか。



 カンナがこの場にいないことに安堵している自分がいる。そのことが不思議で仕方がなかった。





 ──その様子を、巫女は仮面の奥でじっと眺めていた。


(どうやら、順調のようですね)


 巫女にはレアルが抱いている感情が手に取るように分かっていた。ゆえに、今のレアルが、カンナへの想いを失っている事に満足していた。


 レアルの心の中には未だに、カンナへの想いが残っている。


 だが、それを正しく認識することができないでいた。知識としては知りつつもそのことに対して実感がないのだ。


(……『この私』に残された時間は長くはない・・・・・。今すぐに限界がくるわけではないけども、万が一の時に備えて『依り代』が手の届く場所にいなくては)


 レアルがユルフィリアに捕らえられた際に、その身辺を洗った結果に判明した彼女の出生。その報告を巫女が秘密裏に受け取った時はまさに天の采配のように感じられた。


 ──エルフである以上、『大いなる祝福アークブレス』の一柱である『輪廻の巫女』たる己に逆らうことなどできない。


 その驕りが過去の失態を招いた。


 だからこそ彼女は先のことを教訓として、まず第一に考えたのがレアルとカンナを引き剥がす算段だ。


(その点で言えば、セリアス殿下には感謝しなければ。あの方がリクシル薬を無駄に消費してくれたおかげで、上手い具合にあの男をエルダフォスから遠ざけることができた)


 カンナと親善試合と称した『決闘』を行った後。


 あろうことか、セリアスはほとんど怪我を負っていないにも関わらず、保管されていた最後のリクシル薬を己に使用してしまったのだ。


 元が優秀すぎたのが災いした。セリアスが魔術師として優れた才能を有していたがゆえ。


 また下手に傷を負わせれば物理的に首が胴体と分かれる可能性があり、立場的な理由で相手が手加減していたのもあるだろう。


 これまで、訓練であっても模擬戦であっても怪我らしい怪我をしたことがなく敗北もまたなかった。


 それゆえに、屈辱的な敗北の上多少の傷を負ったことで取り乱し、使う必要が全くなかった貴重な薬品を無為に消費してしまった。


 エルダフォス王は息子の愚行に激怒した一方で、巫女は画策した。これはカンナをレアルから引き離すチャンスであると。


 そして、巫女が王に進言した結果、カンナをレアルから引き離すことに成功したのだ。


 それだけでは無い。


 カンナが向かう先には既に暗殺部隊が差し向けられている。その構成の大半がディアガルとの関係を好ましく思わない輩の手のものだが、中には巫女の息がかかったものがいる。 


 暗殺部隊がカンナの始末に成功すればそれでよし。そうでなくとも、奥の手を授けてある。むしろ、そちらの手を使ってもらったほうが巫女としては都合が良かった。


(あのドラゴンを、夫婦となったセリアス殿下たちに討たせれば、二人の関係は盤石のものとなる)


 本来の予定では、ドラゴンを討たせるべきは違う人間・・・・であったが、こればかりは仕方がない。今は何よりも『あの男』を始末することが最優先事項だった。


(我が『大いなる祝福アークブレス』は、あの男によってかつてない辛酸を舐めさせられてきた。ここで確実に葬っておくべき)


 一見すれば、祝福を持たない路傍の小石。だがその小石によって、辿るべき『筋書きシナリオ』に大きくズレが生じている。それが、ようやくここにきて修正の目処が立った。


「それでは、互いを伴侶と認めその誓いの口づけを」


 いよいよ、儀式も大詰め。


 セリアスとレアルが見つめ合い、互いに頬を染めていた。何が行われるのかこの聖堂にいる誰もがわかりきっている。それでもなお、張り詰めたような空気が漂う。


 巫女に取って唯一と言っていいほどの懸念は、レアルの中にある竜人族の血筋。その身に宿る強靭な精神力は忌々しいほど。


 だからこそ、巫女はレアルの中から『誰かを愛する』という感情を封じた。人が保有する中でも一位、二位を争うこの強烈な感情を呼び水に、『エルフの血に秘められた宿命』をも脱してしまうかもしれない。


(だがこれで、レアルの中にはあの男カンナへの罪悪感が生まれる。たとえ『愛』の感情を取り戻したとしても、エルフの血から解放されることはないだろう)


 この婚姻の儀は、巫女がレアルを確実に手中に収めるための必要な一手だったのだ。


 まだすべきことはあるが、とにかくこれで一安心だ。


 ──それが、大きな間違いであることを思い知らされるのは、ほんの数秒ほど後だった。


 

 グォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!



 前触れなく、唐突に。


 魂を震え上がらせるような咆哮がどこからか響き渡った。


 唐突な出来事に、唇を重ねる寸前であったセリアスはレアルから身を離した。聖堂の内部も、参列者たちが騒めき始めた。


 そして──。



 大聖堂の天井を突き破り、ドラゴンが現れた。



 人とは、驚きが許容量を超えると声も思考も吹き飛んでしまうものだ。本来なら阿鼻叫喚とも言えるような光景を目の当たりにしても、悲鳴一つ上がらない。


 奇しくも、セリアスたちと参列席の間に距離があったのが幸いした。轟音を放ちながら崩壊した天井とともに降り立ったドラゴンは、ちょうどその間に音を立てて着地をした。


 それが、かつては『灰燼の災厄』と呼ばれたドラゴンであると知るものはほとんどおらず、それでも威風堂々たる巨体を晒すその姿に誰もが息を飲む。


 先ほどまでとは別の意味で沈黙が漂う聖堂の中で。


「ちょ、ちょちょちょちょカンナ氏!? これはいささかやりすぎではないかと拙者は思うわけでござって!?」

「悠長に着地地点を見つけてる暇はなかっただろうが!!」

「いやまぁ確かにそうなんでござるけど!!」


 あまりにも素っ頓狂な言い合いが、破壊された聖堂の中に響き渡る。


 よくよく見れば、ドラゴンの背中には二つの人影が乗っていた。今の会話は彼らによるものだ。


 その片割れが、飛び降りる。


 白い髪と紅の瞳を持った一人の若者。


「悪いがその結婚式、愉快に痛快にぶっ壊させてもらうぜ!」


 レアルとセリアス。その二人を指差し、白夜叉と呼ばれる冒険者──カンナが勢い良く啖呵を切ったのだった。


 ──巫女は思い知る事になる。


 己が敵に回した男が、どれほど危険な存在であるかを。


色々と説明不足感の内容はあると思いますが、わざとそうしている部分があるので広い心で読んでください。

次回あたりからその辺りに関しても言及していきますので。

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