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第二百十六話 RE:ワンコ・タックラー

一話で収めようと思ったら、だいたい二話使ってる法則


 俺の中にあった違和感が完全に消え去る。目の前にいるフラミリスと名乗った竜が『精霊』だと改めて認識することができた。


 しかし、すべてに納得がいったわけではない。


 フラミリスが精霊だというのは疑いようがない。俺の中の『直感』がそう告げている。世界をありのままに受け入れる『精霊術士』に取ってその感覚は絶対的だからだ。


 だからこそ、いよいよ『ドラゴン』という存在がわからなくなってきた。


 俺がこれまで遭遇してきた竜は間違いなく魔獣に属するものだ。ヴァリエだって例外ではない。なのに、ヴァリエたちとフラミリスが全く別の存在かといえばまたそれも違うのだ。


 言い表せない『相違』に頭がこんがらがってきそうだ。


「……竜とは本来、精霊達を守護する存在だ」


 俺の疑問に答えるように、名乗りと共に告げた言葉をフラミリスが再度口にした。


「これよりずっと昔、精霊と心を通わす者が多くいた。その大半は善良であったが、中には悪しき者もいた。そうしたもの達から精霊とそれに連なる存在を守るために、強い力を持った抑止力が必要だった。その役を担っていたのが、我ら竜だ」

「精霊にとっての警察みたいなもんか」


 いやちょっと待て。今すごく重要なこと言わなかったか?


「昔は精霊術士がもっといたのか!?」

「その通りだ。もっとも、お前のように二つの『理』を……しかも大精霊から直々に授かるような者は存在していなかったがな」


 呆れ果てたような目を向けられる。 


 それから、フラミリスの声に悲哀が宿った。


「けれども、いつしか多くの竜は魔獣と化し、その強大な力で精霊のみならず周囲に大いなる災厄を撒き散らすようになった。おそらく、今この世界にいる多くの竜は、そうして魔獣と化した我が同胞の末裔だ」


 つまり、竜はもともと精霊だけど、いつの頃からか徐々に魔獣に変化していったってことか。


「私のように、純粋な精霊の眷属である竜はほとんど存在していないだろう。それに、お前の手で呪縛から解放されなければいずれ私も完全に理性を失い、魔獣と成り果てていただろう」

「そう、そこなんだよなやっぱり」


 次々と疑問がわき上がってきて正直な所、俺の頭は過剰加熱オーバーヒート気味だ。頭脳労働はファイマの仕事であり、俺の担当は肉体労働だ。


 ──決して、トラブル担当ではない。


 余計な一言だったかもしれないが、言わないとダメな気がしたので心の中で呟いておく。


「精霊を守るってことは、あんたが行動する時ってのは精霊が害された時が主だよな。なんで『灰燼の災禍』っつー化け物扱いになってんだよ」


 名誉毀損じゃねぇだろうか。


「いや、おそらくその呼称は間違いではないのだろう。エルフ達にとっては、だがな」

「え゛……」


 ちょっと嫌な予感がした。


「お前も知っているはずだ。私が守護すべき存在が害されていた事実を。他ならぬお前の手によって解放されたのだからな」

「解放? ──あ」


 いたじゃねぇか。


 竜が精霊の守護者であるのならば。


 真っ先に救わなければならない存在が、つい最近まで封印されていただろ。


「シルヴェイトを助けるため?」

「そうだ。私は風の大精霊シルヴェイトを救い出すために、エルフの都を襲撃した」


 襲撃って言っちゃったよこのドラゴンさん。


 災禍と呼ばれるだけの根拠はあったわけか。


「私はシルヴェイトを救い出すためにどんな犠牲をも払う覚悟でエルフの都に赴いた。事実、私に対して敵意を向けてきたエルフをこの手にかけたこともある。『災禍』と呼ばれてもなんら不思議ではない」


 そりゃ、己の存在意義である守護対象が捕らえられていたら、過剰な行動にも出るだろう。過去に犠牲になったエルフには悪いが、俺も精霊と心を通わせる者。心境的にはフラミリス寄りだ。


「でも、結局は失敗したんだよな。……あ、悪い」


 気遣いデリカシーなくバッサリと言ってしまったが、フラミリスは首を横に振った。


「構わんさ。私が仕損じたのは事実。それに、大事なのはシルヴェイトが自由になること。私の代わりにお前がそれをなしてくれたのならば、喜ぶべきことだ」


 それが本心からの言葉であるのは、フラミリスの声から伝わって来る感情でわかった。


「しかし、だったら改めて聞いちまうけど。どうしてシルヴェイトを助けられなかったんだ? しかも、封印までされちまって」


 ……いや、ちょっと待てよ?


 自分で言って首を傾げた。


 シルヴェイトの救出には失敗し、その結果フラミリスはは『灰燼の災禍』として封印されるに至った。


 だが、なぜ『洗脳』などという手間をかけたのだ?


 また新たな疑問が浮上してしまい、そろそろ吐きそうだ。


「──ヤツの眷属がいたのだ」

「ヤツ?」


 先ほどフラミリスが激しい怒りをあらわにした時に口にした言葉だ。誰かしらを指しているのだろうが。


「いい加減に代名詞はやめてくれねぇかな。阿吽の呼吸で意思疎通できるほど、付き合いはまだ深くねぇのよ」

「そうか。それはすまんな。ヤツの名は口に出すことすら憚られるほどでな」


 どれだけの鬱憤溜め込んでるんだよ。俺を気遣って表面上は普通だけど、内面に噴火火山ばりに怒り狂ってのが伝わって来る。


「……だが、その眷属に関しては名を伝えておこう」


 回りくどいな。率直に言ってくれよ。


 ──しかし、フラミリスの口から告げられた名は、十分すぎるほどに俺に衝撃を与えた。


「ヤツに連なる眷属──その名を大いなる祝福アークブレス

「──っ!?」


 まさか、ここに来てその名前を聞くことになるとは思っていなかった。


「封印されたシルヴェイトを人質に取られた私は、大いなる祝福アークブレスの手によって心を操られ──エルフの都を蹂躙した」


 心を操る──おそらくは糸使いラケシスのような洗脳の能力に長けたヤツがおこなったのだろう。俺は強引にあいつの洗脳を振りほどいたが、他のヤツではそうはうまくいかない。


「……私の目的はあくまでもシルヴェイトを救い出すこと。それさえ成せるのならば、進んで破壊を撒き散らすつもりはなかったのだ。──これも、結局は言い訳に過ぎんがな」


 犠牲を払う覚悟をしていたとしても、それは己の手を汚すことが前提だ。その重荷を背負うことは承知していたはず。なのに、操られた結果での大きな犠牲だ。悔やんでも悔やみきれない。


大いなる祝福アークブレスはずっと以前から暗躍し、何かしらの意図をもって行動している。なぜ私を洗脳した上で封印したかは不明だが、必ず目的があったはずだ」


 ディアガル皇帝から、大いなる祝福アークブレスは昔から歴史の裏にいたのは知らされていた。だが、フラミリスが封印されたのはずっと昔の話。そのフラミリスが『ずっと以前』というのだから、相当に昔から組織は存在していることになる。


 もしかしたら、俺は当初の予定より遥かにヤバい奴らと関わり合いになっているんじゃないだろうか。


「あれ? ってことはもしかして今のエルダフォスにも」

大いなる祝福アークブレスの一柱が身を潜めているだろう。おそらくは、国の中枢に食い込んでいる」

「マジかー」


 これはいよいよ本格的に大いなる祝福アークブレスと事を構える事態になりそうだ。なにせ、あれこれと手間かけて封印していたフラミリスを完全な形で解放してしまったのだ。確実に目を付けられる。


 尽きない疑問に新たな悩みが生じて、ふて寝を決め込みたくなってくる。


 ──ところがこの直後、さらなる衝撃が俺を襲うことになる。


「カンナ氏!!」

「ん? ……クロエ?」


 声がした方を向けばあら不思議、馴染みのある黒毛の狼娘が森の奥から姿を現した。


「カンナ氏ィィィ!!」

「ってクロエ。なんでここにいるん──」

「カンナ氏ィィィぃッッッッ!!」

「いや人の話聞け──ぶへぁぁぁ!?」


 叫びながら全力で駆け寄ってきたクロエが、俺の腰に向けてタックルをかます。腹部に多大なダメージを負いながら、しがみ付いてきたクロエとともに地面に転がった。


 前にもこんなことあった気がする。


「げほっ、げほっ……おまっ、どうしてここに」

「カンナ氏の匂いを頼りにここまで来たでござるが、実はちょっぴり自信なかったのでござるよぅぅ。ちゃんと合流できて本当に良かったでござるよぅぅ」

「わかった、わかったからちょっと落ち着け」


 腰にしがみつけ、頭をぐりぐりとこすりつけてくるクロエを強引に引き剥がす。放っておくといつまでもぐりぐりしてそうだ。


「つかお前、レアルの護衛はどうしたんだよ」


「──はっ、そうだったでござる! カンナ氏、大変なのでござるよ!」


 クロエは俺の腹部から手を離すと勢いよく顔を上げてこう叫んだ。



「このままだと、レアル殿が結婚めされてしまうでござる!」


 

 …………………………………………。


 …………………………………………。


 …………………………………………。



「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!?!?」


 どういうことだよおぃぃぃぃぃっっ!?


 俺がいない間に何があったんだ!


事態は急展開を迎えようとしています。

ようやくナカノムラがずっと書きたかったシーンが見え始めてきました。

引き続き連載頑張ります。

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