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第二百十三話 カッとなってやりました。後悔はしている


 え? 俺が言ったのが悪かったのか?


「──なんてボケてる場合じゃねぇ!?」


 俺は大慌て氷の防壁を具現化。次の瞬間、吹き飛んだ建物の破片が氷壁に衝突して砕け散った。


「あっぶな……」 


 建物の破片をやり過ごし、爆発の大元に視線を向ける。舞い上がった粉塵で視界は遮られている。


 だが、嫌な予感だけはビリビリと肌を震わせていた。


 そして。


 ──グォォォォォォォォォォッッッッッ!!


 魂を震わせるような咆哮とともに、粉塵が一気に吹き飛んだ。


 ほんの十秒前までは古ぼけた建物があった場所。粉塵が晴れると巨大な影が一つ。


「……嘘だろおい」


 俺は、呆然と呟いた。


 簡潔に言い表せば、一対の翼を持った、長い首と尻尾の生物。


 そこにいたのは──翡翠色の巨大なドラゴンであった。


 多少なりともファンタジーに触れた日本人ならまず頭に思い浮かべるであろう『ドラゴン』を体現した様相だ。


「なんでエルフの領内にドラゴンがいるんだよ……」


 ってことはあれか。あれこそがエルフ兵の言っていた『灰燼の災禍』なのか。


 俺が緊張で唾を飲み込んでいると、ふとドラゴンの足元に動く物体を発見。目を凝らすと、躰全体を外套で覆った人らしき姿。


「た、助け──」


 彼は俺に向けて命乞いをするかのようにのろのろと手を伸ばす。だが、言葉の最中にドラゴンが振り下ろした前足に叩き潰される。断末魔の悲鳴すらなかった。


「──どこの誰かは知らんが、南無」


 とりあえず合掌して冥福をお祈りしとく。


 と、次に顔を上げた時に運悪くドラゴンと目が合ってしまった。


 伝わってくるのは──目に映るもの全てを破壊せずにはいられない、暴虐の衝動だ。


 ドラゴンは長い首を持ち上げると、大きく口を開ける。するとその口の中へと急激に空気が流れ込んでいった。


「やっべ──ッッ!!」


 俺は瞬時にキックブレードを具現化すると、全速力で横へと逃れた。


 ──ドンッッ!!


「のわぁぁぁぁぁぁっっっ!?」


 ドラゴンの口から放たれたのは、超圧縮された空気弾。俺が一瞬前までいた場所に着弾。内包された空気が一気に解放され、凄まじい爆発が起こった。範囲から逃れたものの、爆圧の余波に巻き込まれた俺はバランスを崩し地面に転がってしまう。


「くぁ……強烈すぎんだろちょっと」


 顔を上げてドラゴンの方に目を向けると、もう一度大口を開けているところだった。


「二度もさせねぇよ! オラァッ!!」


 右の手甲に砲塔を具現化し、冷凍砲フリーズカノンを発射。空気弾を発射する直前のドラゴンに命中するとその顔を跳ね上げた。空気弾は上空へと放たれて爆発。辺り一面を大きく震わせた。


「……直撃したら塵も残りそうにないな」


 本音を言えば、いますぐ回れ右して逃げ出したい。たった二回の攻撃だが、あれは完全に俺の手には余る。仲間がいない現状であれば特にだ。


 ──助けてタスケテ! 助けてタスケテ! 


 悲痛に叫ぶ精霊の声がなければ、とっくに逃げ出している。


「むしろ俺を助けてプリーズ!!」


 俺の叫びをまるっと無視して、ドラゴンが猛然と襲いかかってきた。息吹きブレスでは埒が明かないと分かったのか、鋭い牙をむき出しにして突撃してくる。


 キックブレードの加速を使い、迫り来る牙を回避。しかし、突撃の勢いを回転に変換し、長い尾が俺に叩きつけられた。


「がっ!?」


 手甲に氷を纏わせて受け止めるが、質量があまりにも違いすぎる。身体中の骨が軋むのを感じながら木の葉のように吹き飛ばされた。


「か、風の精霊! 頼む!!」


 精霊に語りかけて風を起こし、吹き飛ばされる勢いを減衰。地面に叩きつけられる衝撃をどうにか減らした。


「うへぇ、気持ち悪い……」


 ジェットコースターに乗った時の十倍くらいシェイクされたような気分だ。頭の中がクラクラし、吐き気を催す。


 そんなこちらの状態を汲み取ってくれるはずもなく、ドラゴンは翼をはためかせると上空へ舞い上がった。そして息吹きブレスを発射せんと口の中に空気を集める。


「完全にモン○ンじゃねぇかよ!!」


 悲鳴を上げつつ必死になって離脱。俺の後を追うように空気弾の連続爆撃が大地に降り注いだ。


「こなくそっ!!」


 上空にいられたままでは一方的に嬲られる。俺は冷凍砲フリーズカノンを発射しドラゴンの翼を狙い撃つ。攻撃に集中していたドラゴンは回避もままならず、翼を撃たれて空中でバランスを崩してそのまま墜落した。


「まだまだ行くぞっ!!」


 両手に砲塔を具現化して冷凍砲フリーズカノンを連射。その他にも氷の礫や円錐を生み出し、そのありったけをドラゴンに叩きつけた。


「こいつも持ってけぇぇぇ!!」


 巨大氷砲弾を具現化し、氷の槌を叩きつけて発射。立ち上がりかけたドラゴンに命中。悲痛な声を発しながらもう一度地面に倒れた。


「はぁ……はぁ……ちょっとタイム」


 一気に精神力を使ったせいで頭がクラクラしてきた。膝に手をつき少し息を整える。


 俺の攻撃によって再び舞い上がる粉塵。


「や、やったのか?」


 ってしまった! 自分でフラグ立てちまった!?


 案の定、ドラゴンは土埃を翼で吹き飛ばしながら立ち上がる。見た限り、体表の鱗には傷一つ付いていない。


「どうすりゃいいんだよあんな化け物!」


 俺は頭を抱えたくなった。いまの攻撃は俺の持つ最大火力だったのだ。それをもってしても無傷とかどうやって倒せというのだ。


 ────グォォォォォォォォォォッッッッッ!!


 またもドラゴンは高らかに吠えた。相変わらず聞いているだけで身震いがしてきそうだ。


 だが──。


「ん?」


 ドラゴンの咆哮の中に、わずかに妙な気配を感じ取った。


「こいつは──もしかして悲鳴か?」


 こちらを見据えるドラゴンの眼を改めて見返す。込められているのは無差別の破壊衝動。けれどもどうしてか、俺はそこに違う色を見出していた。


「もしかして……『助けて』ってのはあのドラゴンのことか!?」


 ──助けてタスケテ! あの子をアノコヲ助けてタスケテ


 俺の問いに答えるように、精霊たちが一斉に叫んだ。


「……いや、どうやってさ!?」


 精霊の懇願をようやく理解できたものの、すぐさま次の問題が出てくる。


 すなわち、あのドラゴンをどうやって助けるかだ。


 そもそも、だ。


「具体的に何から助けろってのさ!? その辺りも教えてくれると嬉しいんですが!! ──って、おいぃぃぃ!?」


 精霊たちへツッコミを入れるのに気を取られていたせいか、ドラゴンの動きに反応が遅れていた。ドラゴンは再び翼を動かすと、今度は上空ではなく俺に向けて飛んできた。単純に突撃してくるよりもはるかに速い速度でこちらとの距離を縮めてくる。


 

 俺は反射的に超巨大氷槌を具現化し、振り下ろしていた。



「あ」


 気がついた後には後の祭り。轟音を立てながら槌はドラゴンの頭部ごと地面にめり込む。突進の勢いで下半身が浮き上がり、わずかな停滞の後音を立てて地面に倒れた。


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