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第二百九話 近接武器と遠距離武器の合体って、ロマンが溢れると思いませんか?

今話で新武器(というか技)が登場


 ──最初の『暗殺』騒動から二日目が経過した。


 とりあえず、俺を殺そうとした元兵士は危険地域の手前に、気絶した状態で首だけ残して埋めた。この先に連れて行くわけにもいかないしな。


 生き残れるかどうかは彼の運次第だ。まぁ、おそらくは森の魔獣に美味しく頂かれる・・・・だろうけど、こちらは命の狙われたのだし、因果応報と思って諦めてもらう。


 さて、危険地域に突入してからその間、突入した中で誰一人として脱落者を出すことなく、今現在も森の中を進行中だ。


 だが、簡単な道のりでは決してなかった。


 まず、初日に比べてかなり頻繁に魔獣と遭遇するようになった。これは事前に調べた情報通りであり、万全の備えで迎えたものの、なかなかに苦戦を強いられた。


 魔獣一体一体の強さは、これまでの戦いで鍛えられた俺でも十分に対処可能だった。そして俺に同行してくれたエルフ兵たちも精鋭だったのか、襲い来る魔獣に対して問題なく迎撃ができた。


 それでも、一日の大半が戦闘に費やされるほどの連戦が続いたのは中々に厳しかっ

た。


 夜も寝るときには絶え間ない交代の見張り番が必要で、一度完全に寝入った後で魔獣が襲ってきたこともあった。この異世界に来て、これほどヘビーな環境に身を置いたのは初めてかもしれない。


 ただ、この状況は俺にとってある意味で好都合であった。


 絶え間なく魔獣てきが襲ってくるというのは、言い換えれば己の力を常に試せる絶好の機会でもあったのだ。


 そう、新たに手に入れた『風の精霊術』だ。


 第二王子セリアスとの一件で手に入れた力だったが、今までは試す機会が無かった。暇を見てそれとなく練習はしていたが、やはり実戦で使ってみるのが一番の鍛錬になる。


 ──実のところ、現段階では風の精霊術を直接攻撃として扱うのは不可能に近かった。


 風を操ること自体はさほど難しくはない。このあたりは、属性は違えど氷の精霊術を使い続けていたのが功をなした。


 しかし、それを『実戦』に通用するレベルにまで扱えるかどうかはまた別だ。


 とにかく、風を使った攻撃は一撃が『軽い』のだ。


 薄い紙で手を切った経験はあるだろうか。たとえ薄くて軽く脆いものでも、速度さえあれば肉を切り裂くほどの威力を発揮することはある。


 けれども、それが肉を切ったところで骨を断つまでには届かない。


 俺が使う風の精霊術も、現段階では魔獣に手傷を負わせるのが精一杯で、有効打を与えることができないでいた。


 原因は幾つか考えられる。


 まず大きな理由の一つが、単なる鍛錬不足。


 俺が氷の精霊術を実戦に通用する最低ラインに持って行くのには一週間を要した。それも、一日中ずっと鍛錬に明け暮れてようやくだ。むしろ、たかが一週間程度で戦闘のど素人だった俺が魔獣を一人で倒せるほどになったのが奇跡的だ。


 そして、その奇跡を可能にしたのが指導者の存在。


 俺は精霊術を得たとき、氷の大精霊セラファイドから手ずからの指導を受けた。彼女ほど指導者としての適任者はいなかっただろう。


 ところが今回は状況が違う。


 風の大精霊シルヴェイトは、俺に『風の理』を授けた後、どこかへ消えてしまった。彼女の言う『あいつ』とやらから姿を眩ませるためだ。


 そんなわけで、今回は本当に手探り状態。


 魔術式と精霊術の得手不得手は異なる。ただ、魔術式にできることであれば精霊術に不可能はない。俺もいずれはファイマレベルの強力な風の技を操れるようになるはず。しかし、それには相応の時間が必要になってくるだろう。


 とはいえ、せっかく手に入れたこの力。無為にさせておくには惜しい。


 そんな訳で、これまで培ってきた経験を総動員し、風の精霊術を使って何かができないかを模索。


 ──結果として、かなり面白い物が出来上がった。


「左側から接近! 数は七!」


 魔獣を察知したエルフ兵の一人が叫んだ。彼の声に応じ、皆が戦闘態勢に入る。もちろん俺もだ。


 俺は右手を構えると、氷の手甲ガントレットを具現化した。だが、打撃を主体とした形ではない。手の甲の辺りから前方に向けて、『筒』が伸びているような構造だ。


 エルフ兵の叫び通り、左側から狼型の魔獣が現れた。以前に雪山で遭遇した個体ものよりも一回りは大きく、人間の頭など一齧りで噛み砕けそうなほどだ。


 以前までなら、出鼻を挫く為に氷砲弾の一つも見舞っていただろうが──。


「一発ぶっ放す・・・・から、追撃よろしく!」

「了解!」


 俺は右腕の筒──『砲身』の照準を迫り来る巨大狼に定めた。


発射ファイアァッ!!」


 掛け声とともに、氷の手甲ガントレット内部に溜め込まれていた『圧縮空気』を解放。砲身に装填されていた氷の弾頭がその衝撃で押し出され、強烈な速度を持って射出される。

 ──ドガンッ!

 まさに『大砲バズーカ』さながらに発射された氷の弾頭は先頭を走っていた狼型魔獣に直撃し、頭部を粉砕されながら吹き飛んだ。おそらく、狼型魔獣は何が起こったのかを理解できなかっただろう。


 仲間の一つが突然吹き飛ばされたことで、先頭集団が速度を緩めた。深く考える知能はなかったとしても、それだけに衝撃的な光景だったのだろう。


 そこへ、エルフ兵たちが追い打ちに矢を放つ。これによって先頭を走っていた魔獣たちの足が完全に止まる。勢いを失ったところで、俺は風の弾頭をもう一度発射。更に魔獣を一体仕留める。


 その後、完全に後手に回った魔獣たちを危なげなく撃退。こちらの被害は皆無であり、まさに完勝といっても過言ではないだろう。


 狼魔獣の死骸は今晩の晩御飯として活用。エルフ兵の何人かに解体を任せ、俺を含む他は魔獣が更に襲ってこないかの警戒に当たる。


「こいつの扱いも慣れてきたな」


 俺は周囲へ気配探知を広げながら、感触を確かめるように右腕に具現した氷の手甲ガントレットを撫でた。


 風の精霊術をどうにか戦闘に活用できないか、俺は頭を悩ませた。そして、一つの結論を導き出した。


 別に、風の精霊術で直接攻撃する必要はない。元々使っている氷の精霊術を補助する形で扱えば良いのだ。


 そこで編み出したのがこの『冷凍砲フリーズカノン』。氷砲弾の発展系とも言えるだろう。


 氷砲弾は氷槌や手甲での打撃で推進力を用いて速度を得ていた。冷凍砲フリーズカノンはその代わりに、圧縮空気の炸裂で生じる衝撃を利用して放つ。風の精霊術はこの圧縮空気の制御に利用しているのだ。


 精霊術は手元に近ければ近いほど制御しやすい。手の届く範囲であれば、今の俺でも氷砲弾の炸薬代わりになる程度の圧縮空気は作れる。


 この冷凍砲フリーズカノンの一番の利点は、狙いを定めてしまえば、圧縮空気を炸裂させるだけで氷砲弾が発射されること。わざわざ槌や手甲で打撃する必要がないので、これまでよりも大幅に隙を軽減した上で威力のある攻撃を放てる点にある。


 もっとも、最初からこうも上手くいっていたわけではない。


 リクシル草採取の依頼が始まるまでの間、俺なりに色々と試行錯誤は重ねていた。


 最初は、単純に肩に担ぐ形の『砲身バズーカ』を作って、そこに圧縮空気と氷砲弾を装填して発射していた。もちろん、それでも威力に関しては十分であり実戦にもどうにか通用するレベルの仕上がりだった。


 ただ、それだと具現に時間が掛かってしまった。圧縮空気の炸裂に耐えうる強度で砲身を具現化するのに、文字どおりイメージを強く固める必要があったからだ、


 頭を捻った俺だったが、解決策は全く予想外のところに存在していた。


 それが俺があえて砲身を手甲の一部にしている理由だ。


 俺が今現在、両腕に装備しているのはディアガルの武器屋で仕入れた重魔鉱製の手甲ガントレット。魔力を吸収し際限なく重量を増すという、呪いの装備さながらの一品だ。


 魔力を持たない俺にとっては、ミスリル合金製に匹敵する軽さのすさまじく頑丈な防具に過ぎないが、ここに来てこいつには隠された特徴が判明した。


 言葉にすると説明が難しいのだが──この手甲は精霊術のイメージが非常に『乗り』やすい。こいつを起点に精霊術を扱うと、普段に比べて異様に精霊術が使いやすいのだ。


 リクシル草採取に出発する前夜にそのことに気がついた俺は、当日になるまでにどうにかこの冷凍砲フリーズカノンの形にたどり着いたのだ。


 いやはや、疑問は尽きないが、この手甲ガントレットは本当にいい買い物だったとつくづく思ったね。

  

冷凍砲フリーズカノンのイメージは、昔に少年サ○デーで連載していた『AR○S』の主人公が使っていた、右腕の圧縮空気砲。

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