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第二百五話 『お仕置き』と書いて『アイアンクロー』と読む


 王との話を終えた俺は、一度レアル達に合流するために、別室に待機してもらっていた彼女たちの元へと向かう。


「おーっす、話終わったぞぉ」

「あ……カンナ、お疲れ」


 部屋に入ると最初に声を発したのはファイマだ。ただ、彼女の表情は些か優れなかった。彼女だけでは無く、他の面々も似たようなものだ。


 唯一、レアルだけが普段通りなのだが。


「え、なにさ。俺がいない間になんかあったのか?」

「実はカンナと丁度入れ違いになる形で、エルダフォスの『巫女様』がいらっしゃったのよ」

「巫女様?」


 俺の脳裏には、朱と白の装束を纏った神社勤めのバイトさんを思い浮かべた。新年にいくとおみくじやらお守りやらの販売に駆り出されてるのをよく見る。


 まぁ、この世界にそんなのがいるはずも無い。や、ヒノイズルにならもしかしたらいるかも知れない。今度クロエに聞いてみよう。


 それはともかく。


「ほら、エルダフォス王に初めて謁見したときに、仮面を被っていたエルフがいたでしょう。彼女がそうよ」


 朧気ながらファイマの言葉で思い出す。謁見のまで顔を合わせたときは一言も喋っていなかったのであまり覚えていないが。


 ファイマに少し聞いてみると、どうやらエルダフォスにおける『巫女』とは王の相談相手なのだそうだ。直接的な権力は持ち合わせていないがその言葉には力があり、王を含む権力者は決して無視できないものらしい。


「で、その巫女様が何の用だったんだよ」

「本人は『暇をもてあましたので』と言っていたけど……どうなのかしら」


 俺がエルダフォス王と話し合っている最中に、この部屋に巫女がふらっとやって来た。それから何気ない話をした後にまたふらっと去って行ったのだとか。


「強いて言えば、レアルさんの様子を見に来たっぽかったけど……」


 俺とファイマは揃ってレアルの方を向くが、彼女はとぼけるように肩を竦めた。


「こちらを見るな。私だって巫女様とは知り合ったばかり。昨晩に初めて顔を合わせて、今日が二度目だ」

「昨晩? 昨日のパーティーに来てたのか?」


 護衛役としてずっとレアルの側に付いていたが、巫女と思わしき人間とは会話していないはず。


「いや……パーティーが終わった後だ」


 レアルが僅かに言い淀む。ファイマとクロエをチラ見したからだ。昨晩の遅くに俺がレアルの部屋を訪れたのは彼女たちは知らない。巫女とやらが来たのは、タイミングからして俺が出て行った後か。


 昨晩に巫女がレアルの元を訪れた理由も多少なりとも気になるが、それよりも今はこの妙に暗い空気だ。


「いえ、特別に巫女様が何かしたわけでは無いのでござるが……話しているとどうにも調子が狂って」

「王と同じで、他のエルダフォス人に比べて他種族への理解もあるし、話もできる。ただ……どうにもね」


 クロエ、ファイマの話を聞いてみると言い表せないような不気味さを含んでいた、といった感じか。俺がその場に居合わせれば、もう少し何かが分かったかも知れないが。


「あ、カンナ氏はおそらく巫女様に会わなくて正解だったかも知れないでござる」

「は? 何でさ」

「……カンナ氏がいたら絶対に話がややこしくなってたに違いないでござる」

「何を根拠に……」

「いやあなたの場合、気になる相手はとりあえず挑発して反応を確かめる性質タイプでしょうに」


 ……ちょっと否定しづらいじゃねぇか。


 俺は誤魔化すように咳払いをしてからレアルの方を向く。


「レアルはどうなんだよ。他の奴ら見たいに不気味さとか感じなかったのか?」

「浮き世離れしたところはあるだろうが、皆ほど変には感じられなかった。王の相談役なだけあり、客観的な視点を持った聡明なお方だと私は思う」


 ──ん?


「どうした」

「……いや、何でも」


 巫女様の印象をフォローするレアルに、俺はどうしてか小さく『もやっ』とした。それはレアルがセリアスと話していたときに感じていたモノと非常に似通っていた。


「なぁ、その巫女様。女だよな」

「当たり前だろう。巫女の地位は代々女性が受け継ぐものだそうだそ、当代の巫女だってもちろん女性だ──どうしたカンナ、急に頭を抱えだして」

「なんか情緒不安定気味になってる」

「……その事を自己申告する奴は滅多にいないだろうな」


 俺ぁもしかして、セリアスだけじゃ無くてその巫女様相手にも嫉妬してるのか。もう訳が分からんぞ。その内、もうレアルが誰と話してても嫉妬するんじゃねぇかな。


「はぁ……それでカンナ。陛下のお話はどうなったの?」


 溜め息をついたファイマが仕切り直すように話を変える。


「あ、ああ。そっちは引き受ける事になったよ」

「どんな依頼だったのでござるか?」

「貴重な素材の採取ってのだけは教えとく」


 依頼されたのは『リクシル草』の採取。引き受けはしたが、その際に幾つかの条件が課せられることとなった。


 大まか分ければ三つ。


 一つ、リクシル草の存在を部外者に明かしてはならない。


 二つ、依頼を遂行する冒険者は俺一人であり、後は王が用意した軍関係者が同行する。


 そして三つ目だが……実はコレはまだ掲示して貰ってはいない。


 依頼を受ける意思を伝えてからさらに後付けとか酷い話だが『エルダフォスの秘術中の秘術を求めるのだ。このぐらいの覚悟はあろう?』とか王様に言われたらもう断りようが無い。


 ただ『誰かしらを殺したり貶めたりするようなことは絶対にしない』とこちらからは伝えておいた。誰かの思惑でそんなことをするくらいならエルダフォスでの情報収集はすっぱりと諦める。


 俺の言葉に王は首を縦にも横にも降らず、詳しい話は後で俺の元に手紙が送られることになった。


 そんなわけで、契約の関係で詳細が話せないことを念頭に置いて、依頼の内容を皆に伝えた。


「王族からの依頼であるからして、詳細を明かせないのは仕方が無いことでござるし、気にしないでござるよ」

「そう言ってくれると助かる。

「……しかし、皇族、王族と続けざまに君主階級のお方達から依頼が来るとは。さすがはカンナ氏。まだ冒険者になって一年にも満たないのに、大躍進でござるな!」


 クロエは腕を組み、我が子とのように喜びながらしきりに頷く。


「これはもしかして……B級をすっ飛ばしてA級にまで昇格しちゃったりして」

「あぁ……本当にありそうなのがカンナ氏の怖いところでござるな」


 ファイマが茶化すように言うと、クロエは本気と冗談が半々くらいの様子で同意する。そんなうまい話があるわけ無いのに。


「でも、それだとレアルさんの護衛はどうするの?」

「そっちはクロエに任せるさ」


 今のクロエなら、隠れている者の静電気を察して奇襲に備えることもできる。護衛役としては申し分ないはずだ。


「つか、忘れてるかも知れねぇがクロエは俺よりも冒険者ランクは上だ。純粋な戦闘力で言えば俺より強いぞ?」

「……カンナ氏と戦うとか色々な意味で恐ろしすぎて、拙者にとっては悪夢なんでござるけど」

「こいつの場合、次の瞬間になにをするのか本当に予想できない。クロエの気持ちもよく分かる。戦場において、その手の輩と遭遇するのが一番恐ろしい」


 クロエの苦笑いにレアルが武人として同意した。


「カンナ氏の人柄は素晴らしいと思うでござるが、戦いになると悪鬼羅刹の如く容赦ないでござるからして」

「そうだな。人柄はともかく、戦い方は本当に酷いからな」


 好き勝手言いやがってこいつら……。


 ──とりあえず、クロエは後でお仕置きアイアンクロー決定だな。


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