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第二百三話 ダメな子ほど成長すると嬉しいのでとりあえずもふる



 しばし言葉を交えてから、セリアスの一行と別れた。どうやらレアルと話が弾んでご機嫌になったのか、横を通り過ぎていくセリアスの顔は意気揚々だ。


 その顔にイラッときたので、もう一回ビビらせてやろうかと睨み付けるが──その前に俺の背筋が物理的にビビッと痺れた。


「のぉぉぅっ!?」


 俺はセリアスでは無くクロエを睨み付けた。


 こいつ、雷の魔術式を俺に流しやがった。


「なにしやがる」

「さすがに自重するでござるよ、カンナ氏……」


 呆れたような目のクロエに、俺は行き先を失った憤りを頭を掻いて誤魔化した。クロエの言うとおり、少しやり過ぎた感がある。


 ただ、その代わりではないが俺はレアルに言葉を投げた。


「昨日に比べりゃぁ随分と大人な・・・対応だったな、レアルさんよ」

「相手はこの国の第二王子だ。いつまでも好き嫌いだけで対応するわけにもいかんだろう」


 模範解答のような返しですこと。


「確かに昨晩は間の悪さに苛立ちを覚えていたが、落ち着いた状態で話してみればそう悪い相手でもない。王族としての教養もしっかりとあるようだ」

「単なるボンボンってぇわけじゃぁないと」

「そういうことだ」


 レアルの言っていることは正論だ。異論を挟む余地は無い。ただそれでも、俺は口がへの字に曲がってしまうのを止められなかった。


 俺の子供っぽい反応にレアルは苦笑した。


「君もある程度は割り切れ。今すぐにとは言わんがな」

「……極力、前向きに検討することを善処します」

「それ、単なる断り文句よね」

「不満たらたらでござるな」

 女性陣から揃って呆れられてしまった。




 さて、コレまであまり触れてきてこなかったが、エルダフォスを来訪してからレアルが日々行っているお仕事のお話だ。


「今日はご足労頂きありがとうございます、レアル様」

「こちらこそ、このような席にお招き光栄です」


 王城内にある一室で、レアルとエルダフォスの高官らしき女性と握手を交わし、互いにテーブルを挟んでソファーに座った。


 レアルのエルダフォスでの仕事は、この国の貴族との話し合い。まぁぶっちゃけ『お茶会』だ。


 実のところ、レアルは武官であり政治的な実行力はさほど有していない。ただ、彼女は両国間における話し合いの架け橋となるため、エルダフォスの政治的な有力者と顔合わせをし、伝手を確保しておく必要があった。


 大々的な顔出しは昨日のお披露目パーティーで達せられたが、あくまで顔を出しただけ。引き続き、こうして個人的に顔を合わせて交流していく必要は変わらずあった。


 ──とは言うが、日本での政治話にすらついて行けなかったのに、異世界の国家政策に理解できるはずもない。


 なので、俺とクロエはレアル背後の壁際に護衛として待機。ファイマは補佐役としてレアルの隣に座っている。女性高官側もこちらと似たような配置だ。部屋の外にはエルダフォス、ディアガル双方の兵が警戒に当たっている。


 高官の護衛らしきエルフが時折こちらに強い視線を向けてくる。あからさまな態度ではないが、やはりエルフ族で無い時点でかなりの警戒心を抱かせているらしい。もう慣れたものではある。


 ただ、今日はいつもに比べて少し騒がしいか。


「カンナ氏……」


 クロエが室内の天井を一瞥してから、俺に囁きかけてきた。俺は頷きを返してから念のために冷気の結界で音を遮断する。


「やはり、天井裏に何人かいるのでござるか」

「よく気が付いたな」

「確証は無かったのでござるが、どうにも上の方から『ぴりぴり』していたので」


 クロエの指摘通りに、この部屋の天井裏には気配を殺した人間が潜んでいた。コレまでは一人かせいぜい二人だったが、今日は四人だ。女性高官の護衛か、あるいは他の貴族が放った密偵か。


「何で今日は多いのかね」

「……どこかの誰かが昨晩、第二王子殿下相手に大立ち回りをしたのが原因だと思うでござるが」


 まったく、迷惑なことだ。いや、本当に。


「仕方が無い御仁でござるな、もぅ……それでどうするでござるか?」


 クロエはジト目を向けてくるが、溜息を吐いてから改めてこちらに問いかけてきた。 


「どうするもなにも、傍観するしかねぇだろ。警戒はされてるだろうが、率先してレアルや俺たちに危害を加える感じじゃねぇし」

「了解でござる」


 と、会話を終えてから俺は少し気になったことをクロエに訊ねた。


「しかし、よく気が付いたなクロエ」


 相手はおそらく隠密そのすじのプロだ。明確な殺気を向けられていたのならともかく、ただ警戒しているだけの彼らを察したクロエに俺は驚いた。


「天井の方から〝ぴりっ〟と来たのでござる」


 どうやら俺とはまた違った感覚で隠密の存在を感知したようだ。


「どんな感じの〝ぴりっ〟だ?」

「そうでござるな……雷の魔術式を使ったときの感覚に近いでござるかな。こう……若干痺れる感じというかなんというか」 


 ……まてよ?


 今の説明にあったとおり、『ぴりっ』というものが雷──電気によるものであるのならば。


「お前、もしかして人の発してる『電気』を感知してんのか?」

「…………?」


 俺の言っていることを全く理解できなかったのか、クロエは妙に可愛らしい仕草で首を傾げた。


 そういえば、彼女はラケシスと戦っていたとき驚くほど調子が良いと言っていたな。戦いの最中に無意識ながらも躯を流れる電気信号の速度を増幅し、肉体の反射能力を向上させていた。


 クロエは以前、魔力量が少なく、消費の激しい魔術式での遠距離攻撃は不得手だと口にしていた。


 だが『己自身・・・』に雷の魔術式を扱う事に限れば天才的な能力を秘めているのかも知れない。


「もしかして……俺が教えた『雷刃』か?」


 教えたと言っても、大まかな概念だけを伝えただけであり、それを実践に通用するまでに使いこなしたのはクロエだ。とするとやはり、俺の仮説が正しいように思えてきた。


 雷を刀に纏わせ、躰に纏わせ、そしてここに至って相手の纏う僅かばかりの雷を感知できるようになった。

 

 クロエは俺が出会った当初とは比べ物にならないほどに大きく成長している。そう確信できた。


 ──よくもまぁこんなに立派になって。


「……あの、どうして拙者撫でられてるでござるか?」

「気にするな」


 俺は護衛の任務中であるのにも関わらず、感極まって彼女の頭を撫で耳をもふり倒したのであった。


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