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第百九十九話 【注意警報】この回には局所的に濃縮砂糖が投下されております

連続投稿二日目で、後編的な話。

ともあれ、レアルは今回のことで俺に対して負い目を感じているのか。


「まぁ、美女をエスコートする野郎ってのは、いつでも周囲の顰蹙を買うもんだ。俺はさほど気にしてねぇよ」

「だからといって、カンナが悪し様に思われているのを黙って見過ごせと?」

「お前がこの国に受け入れられるのならな」


 今回が初めての訪問とはいえ、この国はレアルの故郷なのだ。どんな形であれ、彼女が快く受け入れられるのは歓迎すべきことだ。


「それに、最終的にとどめを刺したのは俺自身だしな。なにせ、招待客達の前で第二王子様に大恥掻かせたからな」


 俺に向けての敵意が最大値ピークになったのは親善試合が終わった時点でだ。であれば俺が憎まれ役になったのは自業自得でありレアルの責任ではない。


「だからあれは──」

「お前が口出ししなくても、俺もあの王子様には業腹だったし、どうあってもあの流れは不可避だったさ」


 なおも言葉を重ねようとするレアルを、今度は俺が遮った。


「それに、最後の最後でフォローしてくれたんだ。俺としちゃぁ感謝したいくらいさ」


 怪我の功名──というほど怪我はしてないが、少なくともあの親善試合は俺にとって得るものがあった。だからこそ、レアルを責める気は毛頭ない。


「………………」

「ん?」

 

 レアルから反応が無い。何事かと改めて彼女の顔を見ると、顎に手を当てて何やら思案している風だ。


「なぁ……カンナ。聞いてもいいか?」

 

 顎に手を当てたまま、考えを巡らせるように視線をどこかに向けながらレアルが入った。


「君は今、『第二王子に業腹だった』と言ったよな」

「……? 言ったけど、それが?」

「それは、私があの第二王子に言い寄られて腹を立てていたということだよな」

「それだけじゃないけど……間違ってはないな」


 レアルの質問に意図がわからずに、俺は率直に答えるのみだ。


 そして──。


「つまり…………あの時の君はいわゆる『嫉妬』をしていたということか?」

「………………そりゃお前……あれだよ」


 どれだよ、と内心で自身の言葉にツッコミを入れる。


 いや、別にセリアスに嫉妬してやきもちをやいていたわけではないぞ。


 あんな地位も容姿も能力もある一国の王子相手なんぞが、想いを寄せている女性に近づけば──嫉妬しか生まれねぇよ畜生!


「……やっぱり、一発くらい顔面ぶちかませばよかったかな」


 思わず口に出てしまった本心。


 声に出してから我に返った俺は、もう一度レアルの方を見る。今度は頬を赤らめ、俯き気味にモジモジしていた。


「その……自分から話を振っておいてなんだが……じ、実際に聞いてみると非常に恥ずかしいな、これは」


 安心しろ! 俺はその数倍恥ずかしいから!! 


 …………安心の意味ってなんだっけ!?


「……恥ずかしくもあり、嬉しくもあるんだ」


 気がつくと、レアルとの距離が縮まっていた。


 この距離は──パーティーでバルコニーにいた時と同じだ。


 そして、やはり彼女は俺の頬に手を添えた。


「カンナにとって、『レアル』という女がそれだけ大きな存在であるとわかったのだから。そう考えれば、あの王子も横槍も悪くはなかったな」


 完全に、レアルの中で王子が噛ませ犬になってる。俺も同感だけどな。おかげで、レアルとこうしていられるのだから。


 彼我の距離が徐々に近づいていく。


 俺は添えられている彼女の手を握りしめながら──。


「──水を差すようで悪いんだけど、ここってよく考えるとお前のお爺様のお屋敷なわけで」

「わかっているさ」


 レアルは添えている手を使い、俺の顔を引き寄せた。



 そして──手が触れている反対側の頬に、彼女の唇が触れた。



「────ッ!」

「いまは──これが限界だ。色々な意味でな」


 驚きのあまりに言葉を失っている俺に、唇を離した彼女は今までにないほどに顔を赤らめていた。時間的にも精神的にも、『頬への口付け』が彼女の限界という事だろう。


「……なんだか、今日は主導権を握られっぱなしな気がする」

「いつもカンナには振り回されてばかりだからな。たまには役回りが交代してもいいだろう?」


 ちょっと勝ち誇った風のレアル。このままだと悔しいのでどうしよかと考えていると、この部屋に近づいてくる気配を感じ取る。


 どうやら、孫の様子を見にフォースリンが来たようだ。


「今日のところはこれでおいとまする。どうやらお爺様が来たようだからな」

「そうか……仕方がないか」


 切なそうな表情を浮かべるレアルは、俺から離れようと身を引いた。



 ──その間際に、俺はレアルの躰を強く抱きしめた。



 考えがあったわけではない。

 

 ただ単純に、レアルと離れたくないと思ってしまったのだ。


 彼女も同じ気持ちでいてくれたのか。俺の行為に躰を強張らせたがすぐに力が抜け、俺の背中に手を回した。


 数秒が数十倍の時間に、あるいは十秒が刹那に感じられるような抱擁。


 互いの顔を見据える。


 もう彼女の顔に憂いはない。一片の曇りのない笑顔を浮かべている。俺も心の底から笑みを浮かべていたに違いない。


「ディアガルに帰ったら、今晩できなかった話をしたい。もちろん、誰の邪魔も入らない二人っきりでな」

「私もだ。だから──」


 頷きあった俺たちは今度こそ躰を離すし、俺はそのまま部屋の出入り口ではなく外に面しているベランダの扉を開いた。


 外に出た俺はベランダの手摺を掴んむ。


「よっと」


 掴んだ場所から一階の地面まで、緩やかな下り坂を描く氷の道を作り出す。


『風の精霊術』を使って飛び降りる事もできたが、数時間前に手に入れたばかりであり

細かな制御にまだ自信がない。今回は慣れた氷の精霊術を選んだ。


「じゃぁ、またな」


 レアルへ手振りを交えての別れを告げ、俺はアイスボードを具現し氷の斜面を滑り降りた。


 アイスボードの底面が地面に接した時点で氷の斜面を消滅させ、俺はそのまま滑走し屋敷の周囲にある林の中へと紛れた。


 俺は最後に滑走を止め、自分が飛び出してきたベランダを振り向いた。


 レアルの姿は見えなかったが、ベランダの扉が閉まるのだけは確認できた。それを見届けて、俺は今度こそ林の奥へとアイスボードを走らせ、宿への帰路へと着いた。

 

 ──レアルと交わした『約束』が決して果たされないものであると、この時の俺は知る由もなかった。

当作品を読んでくださった方、お楽しみいただけたでしょうか。

今回は砂糖盛り盛りなお話でした。

気に入ってくれた方はぜひブックマーク登録をお願いします。

さらに、小説下部の評価点もいただけると幸いです。


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