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第百九十八話 カッとなってやったら後ですごく反省したらしい

二日連続更新。

今回は一日目で前編的なお話


 お披露目が終了すると、レアルは与えられた屋敷の一室に戻った。


 二階にある見晴らしの良いベランダがある部屋で、エルダフォスの滞在中には自由に使って良いとフォースリンから与えられたものだ。屋敷に招かれて以降、彼女はこの部屋で寝泊まりをしていた。


「…………はぁ」


 ドレスを脱ぐのも億劫なのか、レアルはそのままの姿で部屋の椅子に座った。口から出た溜息は普段の彼女からは考えられないほど重苦しいものだった。


 ──お披露目は概ね成功したと言える。


 王族の血を引くとは言え、ハーフエルフのレアルは受け入れがたいと考えていたが、予想に反した結果だ。


 最大の理由は、彼女自身の美貌だ。


 エルフの身体的特徴である痩身と美顔でありながら、エルフではあり得ない女性的な体付きがまず最初に招待客の度肝を抜いた。


 また、元々レアルは部隊を束ねる地位にいるだけあり人前に出ること自体には慣れていた。最初は己の衣装に気後れを感じていた彼女も、徐々に普段通りの調子を取り戻していった。


 鎧姿ではあったもののこれまでパーティーに参加した経験も幾度となくあり、招待客への気遣いや対応の仕方も堂に入ったもの。相手を不快にさせない会話には心得があった。


 少なくとも今回のお披露目で、レアルが『竜人族とハーフエルフ』だからといって条件反射に嫌悪感を抱いたまま帰った招待客は少数。全面的に受け入れられては居ないだろうが、〝掴み〟としては上々。竜人族への嫌悪感は払拭できなくとも、対話へのとっかかりにはなるだろう。


 レアルもフォースリンからその事を告げられており、それらに関しては安堵していた。


 だが、素直に安堵できない気持ちもあった。


 繰り返しになるが、レアルは部隊の長として集団を率いる立場。それだけ集団心理というものある程度は理解していた。カンナほどではないほど場の空気には敏感なのだ。


 パーティーの最中は己のことで手一杯だったが、一人になった今なら痛いほど理解できた。


 カンナが居なければここまでの成果は出なかっただろうと。


 その事が、彼女の気を重くさせていた。


 ──扉が外側から叩かれる音が響いた。




 ようやく堅苦しい雰囲気から解放された俺はその足でレアルの部屋へと向かった。使用人達は少し渋い顔をしていたが、それ以上の反応はせずに素直に俺を通した。


 俺は真っ直ぐに彼女の止まっている部屋の前へ向かい扉を叩く。しばらくしてから内側から扉が開かれ、レアルは俺の姿を確認して驚いていた。


「おう、パーティーお疲れさん」

「…………君もな」


 労いの言葉と共に笑みを浮かべるレアルだが、どうにも表情が冴えない。何か思い悩んでいたのだろうか。


「中に入っても良いか?」


 頷いたレアルは扉を大きく開き、俺を招き入れた。


「……ファイマ嬢達はどうしたんだ?」

「あいつらは先に帰らせたよ。疲れてるところに何人も来たら悪いだろうってな」


 クロエは少し惜しんでいたが、ファイマが言うと素直に従い宿へと戻った。


「それにしても、やっぱりパーティーってのは主催する側になるもんじゃねぇな。肩が凝って仕方がねぇよ」

「案外、エスコート役は板についていたように見えたが」

「友達の付き添いで参加した経験が無くも無いからな。この世界に来てからもパーティーの類いに参加するのは二度目だ」


 彩菜の付き添いの時は本人が他の招待客を気にせず自由に動き回っていたので、それについて回っていた俺も気が楽だった。ファイマが招待された時も、警備の一員として参加しただけでりそれ程注目を集める立場では無かった。


 だが今回はレアルの護衛としての役回りでありパーティーの中心的立ち位置──の直近。一挙一動に注目を浴びるのはどうしようも無かった。


「あぁぁ……」とおっさん臭い呻き声を上げながら凝った自身の肩を揉んでいると、レアルが物憂いな表情を浮かべていた。俺を部屋に入れたときも同じような顔をしていたが。


 俺の視線に気が付いたレアルは慌てて取り繕ったように笑みを浮かべたが、すぐに諦めたように溜息を吐いた。


「……君を相手に誤魔化しは意味ないか」


 それから少しだけ迷いを見せたが、レアルは俯き気味に口を開いた。


「今回のパーティー……私のお披露目という意味では、ある程度の成功を収められたようだ。フォースリン殿がそう言ってらっしゃった」

「そりゃ何よりで」

「──この結果はカンナのおかげだ」


 礼を言うには、まるで悪いことをしてしまった子供が親に謝る時のような言い方だった。


「パーティーが成功したってのに何で浮かない顔をしてんだよ。もっと喜べば──」

「素直に喜べるはずが無いだろう」


 怒りすら含まれていそうな声に遮られて、俺は口を噤んだ。


「この成功は、君が憎まれ役になったからこそなんだぞ……」


 護衛として、会場中の敵意や悪意を集めるのは悪くないと思っていたが、お披露目成功の一端を担っていたようだ。

 

「……しかも、激情していたとはいえ第二王子相手に君をけしかけるなんて愚かしいにも程がある」

「あ、激情ぷっつんしてた自覚はあったんだ」

「あの名ばかりの親善試合が終わってからようやくな。もし万が一君がやらかしたら・・・・・・、それを止めるのが私の役回りだったのに、これでは真逆ではないか……」

「それはそれで失礼だな」


 どいつもこいつも似たようなことばかり言いやがりますね畜生。

 

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