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第二十話 「おじさん」より「おぢさん」のほうがお茶目に感じるのはなんでだろう? ついでに新技開発

日常のシーンを書くのが一番難しいと思う(個人的に)

 

 アガットから勝利をもぎ取ったのだが、直後にレアルに怒られた。アレでは木剣を使う意味がほとんどないと。俺も最後で気がついてました。


 以降は木剣以外を使った攻撃、つまり拳や足を使った打撃は禁止を言いつけられ、再びアガット君との訓練に励んだ。


 結果? あの後五戦やって全敗だ。最初の一戦の恨みを晴らすかの如く苛烈な攻めに、俺は為す術もなく一本を取られ続けた。骨を折るなどの後に引く怪我は負わなかったが、頭やらわき腹を強く打たれて非常に痛かった。絶対防具で覆って無いところを狙ってたよね。気持ちは分からなくもないので、文句は言わない。自業自得だと自身に言い聞かせた。


 ぶっちゃけ、アレは一定以上のレベルの相手には下策中の下策と言える戦い方だ。彼らに不意打ち等の奇襲攻撃は殆ど通用しない。そもそも、奇襲という概念が無い。木剣投げを紛れもない『攻撃』と認識して、その後の俺自身の追撃ごと難なく迎撃されていただろう。ああいった突き抜けて強いタイプには、小細工等のちゃっちな手法では通用しない。


「隣、良いかな?」


 休憩を終えた後、保存食の干し肉を噛み、水で流し込み、俺らは馬車に乗り込み再び出発した。今度の御者役はアガット君。俺は馬車の隅っこで先ほどまでの訓練内容を回想していた。そのそばに、ランドが断りを入れて腰を下ろした。


「済まなかったね、アガットの奴を止められなくて」

「いや、少しくらいここでガス抜きしとかにゃ、爆発しそうだったし。レアルが言ってたとおり、あいつ以外と訓練するのも経験だ」

「君は見た目よりも達観した考え方をするな。あそこまで滅多に打たれたら普通は憤るものだ」

「見た目は余計だ。あまり要領が良い方じゃないし、恨みを買うのも慣れてる。ボコボコにされたのだって、俺が弱いからだ」


 弱い者が蹂躙されるのは真理だ。


「そう自分を卑下するものではないだろう。最初の一戦目だけだったが、君はあいつから白星を挙げている。奴はファイマ様の御家に仕える若手の中ではトップの腕前だ。まぐれで勝てる相手ではない」

「トップねぇ…………」


 馬車の御者席で馬の手綱を握るアガットの後ろ姿を眺める。先ほどよりも幾分かは和らいでいるが、それでもまだまだ雰囲気が固い。


「あんたから見て、アガット君はどんな人間に見える?」

「そうだな。安直な表現だが、好青年だな。才能を持ちながら、それに奢らずに鍛錬を重ねている。実直すぎるきらいもあるが、あれはあれで美点にもなろう。もう少し柔軟性がほしいところではある」

「真面目な堅物君ね」


 ああいったタイプは俺の周りにいなかった。有月の奴は例の如くヘタレイケメンだし、美咲は元気娘。彩菜はちょい天然。ブレーキ役が俺だったが、割と緩いブレーキだったと思う。ああ言った委員長タイプは俺たちの中にはいなかったタイプだ。


 俺の忌憚ない言葉にランドが口元が歪む。


「身も蓋もないな」

「嫌いじゃないさ。苦手ってだけだ。ただ、ちょいと人間関係は考えておかないとなぁ、とだけは思うが」

「私としては、仲良くしてもらいたいのだが」

「だから、嫌いじゃないって。そこら辺は今後の展開次第で、互いにいろいろと妥協してきゃぁいい」


 さすがに本人に聞かれると波乱が起きそうなので、ここまではかなり小声でヒソヒソ話。


「先ほどの訓練に話は戻るが、あいつには悪いが良い経験になったろう。言い方は悪いが、あの程度の奇襲で体勢を崩すなどまだまだだ。あの調子では、敵の奇襲に対応できん」


 それまでの小声をやめ、ランドの声量が通常に戻る。アガットに聞かせ得るつもりで喋っていた。


 アガットは、俺も人に言えるほどではないが、経験が足りなかった。真正面からの勝負には強いが、正道故に搦め手を使う相手と戦った経験値が足りない。


「敵が開始の合図を待って襲ってくるとは限らんし、真正面から来るとも限らん。むしろ常に不意を突き、こちらの隙に狙いを澄ましてくる。先の件でも、常に我々の死角を狙い、奇道を以って戦いを挑んできた。死の間際に敵の卑怯を罵っても意味がない。必要なのは、いついかなる時でも敵の行動に対処できる経験と心構えだ」


 昼前に俺が言っていたことと同義の内容だ。俺の言っていることを遠回しに認めている言葉だった。おいおい、それを聞かせちゃって良いのかよ。ほら、アガット君の肩が小さく震えてる。やめてほしい、俺に矛先が向く。


 非難の視線でランドを睨むと、またも小声で。


「君には悪いが、契約内容の追加と思って我慢してくれ。私としてはあいつの才能には期待している。その上である程度の柔軟性を持ってくれればと常々思っていた。間近に君のような『邪道』使いがいてくれれば、あいつも何かを掴めるかもしれん」

「誉めてないよな」

「まさか。私としては十分すぎるほどに誉めているとも」


 にやりと、ナイスガイがスマイルを浮かべた。


 ・・・・このおぢさま。見た目よりかなりくせ者である。


 ま、そのぐらいでなきゃ指揮官ってのはつとまらないか。


「・・・・今度なんか奢れよ」


 と、俺は追加内容に対する報酬を口にするぐらいしかできなかった。



 そこから数日間は順調に旅が進んだ。途中に何度か魔獣の襲撃があったが、問題なく対処できていた。というか、レアルとアガット、そしてもう一人の従者が速攻で殲滅してしまうので俺の出番がほぼ無い。


 まともな俺の仕事と言えば、昼食前に行われるアガット君との訓練。戦績は大体アガット君の勝ち越し。ただ、特別ルールとして、毎度五戦ほど繰り返すのだが、そのうち四回は剣だけを使い、残りの一回だけは俺が好きに動ける何でもありありで動くことが出来る。その一回だけ、俺はどうにかアガットから勝利をもぎ取ることが出来た。ちょっとだけ溜飲が下がる。しかし、彼は本当に不意打ちに弱いな。一度ペースが崩れるとずるすると引きずってしまう。逆に、ペースさえ崩さなければ、俺のにわか剣術では僅かにも揺るがない。俺の知る『剣術使い』の中でもっとも強い人間にも通ずる強さがあった。


 結果だけを見れば負けに負けまくっているが、俺としては非常に有意義な時間だったと思う。レアルのような超パワーファイター以外の、正当派剣術使いとの戦いは、この先を生きてくのに必要な経験だ。


 ただまぁ、剣術だけを鍛えている訳にもいくまい。使える物はなんでも使うのが俺の主義だ。


「ここら辺で良いかな」


 前の町を出発して四日目の夕暮れ。レアルの言っていた通りに、俺たちは次の宿場町に到着していた。ファイマと出会った町よりは随分と小さかったが、旅の中継地点としてそれなりに栄えている様だ。


 俺は現在、町から少し離れた平原に佇んでいた。もう日が沈んで時間が経ち、明かりは皆無だが問題ない。現実世界の日本都市ではお目に掛かれない天上の星明かりと、肌に感じる気配が周囲の様子を教えてくれる。


 こんな人気のない場所を訪れたのは、偏に精霊術の訓練をするためだ。ここ数日はファイマ等の目もあり使用を控えていたが、その間にもイメージ訓練だけは行ってきていた。短い滞在時間だが、宿場町に腰を落ち着けていられる今に、イメージを実際の形にし、それが効果的か否かの考察をしておきたい。


 普段、精霊術の訓練に付き合ってくれていたレアルはこの場にいない。今回はイメージを形にするだけなので、かなり無駄な作業も出てくる。より明確な形に出来上がってから、後日レアルと一緒に試して考えをまとめる予定だ。


「さて、始めますか」


 右の手の平に意識を集中する。脳裏に描いたイメージの通りに、パキリと音を立てて氷の造形物が生まれる。形は細く平べったい楕円形。両端は鋭く尖っており、鋭利な刃物状になっている。


 次に現在地から離れている位置に高さ二メートル程、横は一メートル程の十字架を作った。もちろん素材は氷。今回、こいつは的代わりだ。


 調子を確かめるため、俺は手元に作った氷の楕円形を人差し指と中指の間に挟み、腕をバックスイングに振るって投げた。狙うのはもちろん、遠くの位置に作った氷の十字架だ。


 ギンッと氷同士の衝突らしからぬ音が木霊し、投擲した氷の楕円形は十字架の交錯点の中心部に半ば程まで突き刺さっていた。


 続けて、先に作った氷の楕円形をさらに三つ程作り、右手の指の間にそれぞれ挟んで投げ放つ。今度も狙い通りに十字架の交錯点に突き刺さる。


 今行っているのは、遠距離攻撃の開発。これまでは遠くの相手には氷の固まりを作って投げたり蹴り飛ばしたりしていたが、もっと効率の良い攻撃方法が無いかずっと考えていたのだ。


 よくあるRPGで、氷の固まりを空中に作ってそのまま敵に投射する技とかある。あれも出来ないことは無いのだが、俺の練習不足かいまいち威力がでない。それよりも実際に投げた後に精霊のサポートを得た方が威力がでるのだ。


 この楕円形の氷は、いわばそれをもっと効率よく扱うために考え出した形状。参考は忍者がよく使う手裏剣。手裏剣=十字の形状とみんな思っているが、アレはぶっちゃけ投擲を主体にした小型武器の総称だ。俺が今回作ったのは棒手裏剣と呼ばれるタイプ。一説にはこちらが忍者たちにとっての主流だったと聞いたことがある。まぁ、あの十字の形状をいちいち作るのはめんどくさいだろうしな。


 とりあえず、この氷で出来た手裏剣。以降は氷手裏剣と名付けようか。安直だな。名前を付けた方がイメージしやすいし、使うのも俺だけなので文句は受け付けない。


 俺はその後もいくつも氷手裏剣を作り、ひたすら投げ続ける。最短の動作で投げ、最大の威力を出せるようにイメージを精練していく。今までが、イメージ→創造→作った物を掴んで投げる、の三段行程だった。それをイメージ→創造しながら投げる、の二段行程に短縮。腕を振るい、その最中に作って投げるという風に躯に刷り込むのだ。理想は、作った次の瞬間には指から離れている、と言った具合。これなら腕を振るうだけで氷手裏剣が投げられる。


 およそ『五時間』の時間を掛け、当初のイメージ通りの攻撃手段が出来あがった。


「てりゃぁッ」


 的代わりに作った十字架は六つ。そして、両腕を振るって投擲した氷手裏剣の数も六つ。鋭く空を走る手裏剣群は見事、六つの十字架の中心点に突き刺さった。続けて、腕を連続で振るい、氷手裏剣を連射。ガガガガっと音を立て、次々に突き刺さっていった。


 六つの的が耐えきれずに全て砕けた時点で、氷手裏剣の開発は一端の完成とした。何かしらを思いついたら随時実験していく予定だ。


 ふぅ、と一息を入れると、吐き出した空気が白く染まる。


 氷手裏剣の一個一個は小さいが、塵も積もれば山となり、相当数の氷の欠片が散らばっていた。ついでに、精霊術で生み出した氷は精霊の影響から解放されても、通常の氷より随分と長く溶けずに形を保つ。それらが辺りの熱量を吸収していた様で、空気がかなり冷たくなっていた。北海道の、とまでは行かないが東京の冬ぐらいの気温になっている。


 俺は周囲にある氷の残骸達に再び精霊を宿し、指を慣らす。小気味の良い音に合わせ、周囲の氷全てが跡形もなく消滅した。指を鳴らしたのは気分である。カッコよくね? 口にしたら台無しか。

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