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第百九十七話 第二ラウンドどころか十七ラウンドまで付き合う所存です


 ──それで、結局これってどっちの勝利になるんだ?」


 はっきり言って、どちらの勝敗かは一目瞭然。悠然と立ったままの俺と、腰を抜かして尻餅をついたままのセリアス。どちらに勝利があるかは問うまでもない。セリアスの怯えた表情からもこれ以上の戦意がないのは伺える。


 試合は俺の勝利にほぼ確定──なのだが。


 実のところ、試合が始まってから今の今まで俺の攻撃は一つもセリアスに届いていない。逆に、途中まではセリアスが圧倒しており、氷結界で防いだとはいえ実際に俺にまで風の攻撃は届いていた。


 最後は俺が撃ち放った『暴風の砲弾』で逆転勝ちになりかけたが、セリアスに命中する直前にレアルが文字通り粉砕して無効化してしまった。


 セリアスに直撃していれば木っ端微塵に吹き飛ばしていたのでレアルの割り込みに文句を挟むつもりはないが、もはや一対一の親善試合では無くなっているだろう。


 何よりも、立会人であるフォースリンから決着の合図がまだ出されていないのだ。


「おい、フォースリンさんよ。ぼーっとしてないでくれ」


 言葉を失ったままのフォースリンに向けて言った。


 俺の声が耳に届き彼はハッと我に返った。


 もう少ししっかりしてもらわなければ困る──原因は俺だが。

 

 フォースリンは俺とセリアス……そしてレアルを視線で一巡りしてから、重苦しい息を吐き出した。


「──すまない。手間をかけさせたな」

「こちらこそ親善試合に割り込みをかけて申し訳ありません」

「いや、むしろ礼を言いたいところだ」


 レアルへと言葉をかけてから、フォースリンは宣言した。


「……双方共に戦闘続行の意思がないとして、試合は終了とする」

「第二ラウンドに突入しても俺は一向にかまわ──」

「これで! 互いの実力のほどは確かめられただろう!!」


 握り拳を素振りして戦意をアピールするも、フォースリンは俺に被せるようにして叫んだ。


 親善という形にはなっているが、その根っこは俺とセリアスのレアルを賭けた『決闘』だ。もちろん、勝利したからと言って彼女レアルを得る権利はないが、セリアスにとってはそうだ。


 ただ、それを知るのはセリアスが俺に決闘を挑んできたとき、あの場にいた人間だけだ。他の招待客にとっては与り知らぬところ。


 そして、人族である俺がエルフ族の王子様であるセリアスに勝つのはどうにも外聞が悪すぎる。俺が負けた構図ならばまだともかく、逆だと後の火種になりかねない。


 だからフォースリンはこの『親善試合』というていを押し通して勝敗をうやむやにするつもりか。


「……ディアガルからの来訪者達──そしてレアルよ。エルダフォスの力をご覧頂けたたとおもう」


 祖父としての立場を強調するためか、フォースリンがレアルを『殿』付けせずに呼び捨てにする。


 呼ばれた当のレアルは微妙な顔になっていた。祖父からの呼び捨てには未だ慣れぬ様子。


「そしてエルダフォスわれらとしてもディアガルが持つ優秀な冒険者の能力を拝見できた。此度は誠に有意義なものであったと私は思う」


 禍根を残さない形で事態を収拾しようとしているフォースリンの気持ちは分からなくも無いが……。


「それで収まるのかね、この空気」


 ──フォースリンの言葉だけで収まるような生やさしい空気ものでは無くなってきていた。


 王子様トップが負けた事に招待客から険しい視線が集まり始めている。。招待客の中にはあからさまな殺気をこちらに向けてくる奴らもいる。勝敗の決がフォースリンから下されなくとも明らかに俺が勝利しているような構図であり、その事実を許せぬ者たちが多いのだ。


 完全に外様アウェイである以上、多少なりとも覚悟はしていたが。


 これは下手をすると、招待客──貴族達の不満が暴発する恐れがあるな。


 念のため、俺はファイマ達に目配せをしておく。彼女たちも場の空気が危うげなものになっていることに気が付いていたようで、神妙な顔つきで頷きを返してきた。何かあれば即座にこの場から脱出できる。


 最悪の場合──国外逃亡も視野に入れておこう。


 あれ? 前にも似たようなこと無かったか?


 それはともかく、俺は新たに手に入れた精霊術をいつでも発動できるように準備する。どうせ逃げるなら、最後の最後に今度こそセリアスのやつに特大のやつをぶっ込んでやろうと身構えるが。


「お待ちください」


 フォースリンの采配に待ったをかけたのが、何を隠そうレアルだった。


 俺に向けられていた険しい視線が、一気にレアルへと集まった。招待客達の注目を一身に浴びながら、美しき女性が凜と通る声で言った。


「……どうしたレアル。何か不満でもあったか」

「失礼ながらこの試合、私に預けて頂きたい」


 フォースリンは厳しい表情のままだが、レアルの言葉を聞いて小さく眉をつり上げた。


 レアルはフォースリンの顔を真っ直ぐ見ながら続けた。


「この試合、急に決まったこととあり互いに準備が不十分だったと見受けられます。これでは両者ともに実力を発揮できたとは思えない」


『準備不足』を理由にした話はおおよそ敗者側の言い訳だが、それをレアルがするとなれば話は別。陣営として彼女はディアガル側であるが──。


「れ、レアル殿……」


 ──セリアスの奴、相変わらず腰を抜かしたままだが、呆けていた様子から感極まったような顔でレアルの顔を眺めている。


 レアルの弁はディアガルこちらからエルダフォス側の不備を擁護する風に聞こえるからな。俺が放った『暴風砲弾』を防いでくれたのもあり、『セリアスじぶんの名誉を守ってくれている』とでも思っているのだろう。


 実際のところ、レアルに守られているのはディアガル側おれたちの立場。この場の雰囲気を察した上での行動なので完全に勘違いである。知らないだろうけど、王子って立場じゃなけりゃレアルに大剣で両断されてたかもしれないから。


「それに一人の武人として、エルダフォス王族の十全な実力を見れなかったことには不満があります」


「ではどうする?」


 重みのある問いかけに対して、レアルははっきりと答えた。


「……後日ごじつに然るべき場を設け、再びディアガルとエルダフォスの代表で矛を交えればと具申します」

「それまではこの勝負、おまえの預かりにしろと?」

「是非に」


 つまり『今度再試合するから、何か文句あれば私に言え』とレアルは宣言したのだ。


 招待客の方を見れば、張り詰めていた空気が幾分か和らいでいた。


 『エルダフォス側セリアスの準備不足であり、試合で見せたのは全力では無かった』という部分が利いたようだ。全員ではないが半数近くはこの論で納得したか。


 フォースリンは周囲の様子を軽く見渡すと、厳しい表情が薄らぎ、観察していなければ分からない程度だがほんの小さく溜まっていた息を吐き出した。心なしか安堵としたようにも見える。


「わかった。では試合の決着は後日にし、レアルの預かりとする。以上だ」


 その宣言を最後に、今晩における『親善試合』は一応の決着を迎えるのであった。


 

ラノベを書いてても理屈をこねくり回すのはやっぱり難しいと思ったナカノムラでした。

細かいところが『ちょっと無理がなくね?』というところはあるかもしれませんが、この作品のかなめはカンナのはちゃめちゃっぷりとたわわなおっぱいなので温かい目で見守っててください。



『カンナのカンナ』を読んでくださった読者さん、ありがとうございます。

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