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第百九十六話 だいたい仕出かしてから気がつくパターンが多い系主人公。


「貴様……またしても! この魔杖は貴様如き人族が触れて良い代物ではないのだぞ!」


 気が付けば、俺の意識は元の速度に戻っていた。


 俺の拳で弾かれたセリアスが憤怒の顔を浮かべながら立ち上がっている。彼だけではない。魔杖に二度も渡って『暴力』を振るった俺に対して、試合が行われている中庭全体に俺への敵意が積み重なっている。


「────ふぅ…………」


 俺は深呼吸をした。


 外野の視線など気にしている場合ではない。


 この世界を支える一柱が現在進行形で俺の中に流れ込んできているのだ。


「────ッ! ────ッッ!!」


 セリアスが何かを叫んでいるか、俺の耳には届いていなかった。余計な情報を無意識にカットしているのか。


「──────ッッッ!!」


 こちらが反応しないことにとうとう業を煮やしたセリアスが、これまでで最も強力な風を呼び起こした。


 あの杖にもう精霊シルヴェイトは宿っていない。彼女が残した力の残滓があるのみ。それでも展開された術式は強大であり、セリアスが並みの術士では無いことの証左であった。


 それを目の当たりにしても、俺の中に焦りは無い。


 ──使い方は分かっているはずだよ。


 精霊シルヴェイトが俺の心の中に届く。


 大事なのは小難しい理屈ではない。


 揺るがぬ想いと、それを現実にするための強靭なる意志。


 ゆっくりと、セリアスに向けて手をかざす。


 セリアスは今まさに暴風を解き放つ寸前。アレが解放されれば、俺の躯は粉々に粉砕されるかも知れない。


 けれども、もはやそれは脅威にもならない。


 風は既に、俺の敵では無くなっているのだから。


 

 風の『理』は、俺と共にある。



 確固たる意思の元に、自らの望みを『風の精霊』に伝えた。


「吹き荒べ」


 ふわりと、俺の周りを風がそよ吹いた。


 途端に、この場を取り巻く環境が劇的に変化した。


 傍目から見れば状況は変わっていない。セリアスが魔術を放つ寸前であり、対して俺は無防備を晒しただ単に手をセリアスに向けているだけ。招待客からすれば、俺が諦めてただ立っているだけのようにも見えるだろう。


「なんだこれは…………ッッ!?」


 一番最初に変化に気が付いたのはセリアス。最初は訝しげな表情になるも、それはすぐに愕然とした顔に変化した。


 つい数秒前までは、この場にあまねく『風』はセリアスの支配下にあった。今もまさに彼の頭上で荒れ狂う風が渦巻いている。


 その風を──俺が奪い取ったのだ。


 手元にあった『暴力の塊まじゅつ』が唐突に制御が利かなくなったとくれば、驚愕も一押し。セリアスは慌てて『暴風』の制御を奪え返そうと杖に魔力を込めるが、微風が手元に吹くだけだった。


 セリアスの必死の形相にようやく招待客達も異変に気が付いたのか。不安げなざわめきが広がる。


 ようやく、異変の根源が俺であると悟ったセリアスが俺の方を睨み付けてくるが、もはやどうしようもない。


「せいやぁっ!!」


 俺は魚の一本釣りのように、セリアスの頭上に渦巻いていた暴風を引っこ抜いた・・・・・・。奴に近くに集まっていた風が霧散し、代わりに俺の手元に同規模の暴風が集まる。


 あまりのことにセリアスは呆然とこちらを眺めていたが、思考が再起動を果たしたようで慌てたように魔杖に魔力を送り込む。だが、それまでは風に強い支配権を有していた魔杖からは微々たる力が発せられるだけだった。


 あの魔杖は精霊を魔力で従えるためのもの。


 正確に言うならば、魔力を通して己の意思を精霊に伝達する役割を持っている。


 そして精霊は、より強い意志に従う。セリアスの魔力いしが、俺の気合いいしに勝っていれば、精霊はそちらに従うだろう。 


 結局のところ、俺とセリアスでは根性できが違うのだ。


「さぁ、覚悟しやがれ横やり野郎」 


 精霊術は意思と想像の力が大事だ。


 術式やらなんやらと細かい理屈は不要だ。


 ただ強く、ひたすら強く、願いをそのまま現実と成す!



「吹き飛べっ、この馬鹿王子がぁぁぁあっっ!!」


 

 俺は溜まった鬱憤を晴らすように、『暴風』を解き放った。


 直線上の地面を抉り、文字通り空を穿つ風が顔を蒼白とさせたセリアスに迫る。咄嗟に風の防壁を張ろうとするが、焼け石に水だ。あの程度で防げるはずが無い。


 ──そこまで考えてハタと気づく。


 元々アレはセリアスが俺にぶつけようとしていた『暴風』であり、命中すれば人体など粉々に吹き飛ぶほどの代物だ。


 そしてそれを俺が奪い取り、今まさにセリアスに向けて撃ち出したわけで。


 ──これ、直撃したらセリアスあいつ死ぬんじゃね?


「吹き飛べ」とは叫んだものの、実際に木っ端微塵に吹き飛んでしまったら大問題だ。何せ腐ってもこの国の王子様なのだし。


 所謂後の祭りというやつ、暴風は既に俺の手元から離れてしまっているわけで、セリアスの生存は絶望的。


 僅かばかり・・・・・の『やってしまった感』を抱いていると。


「ん?」


 と、俺が思わず声を発した次の瞬間に、暴風が炸裂した。



 

 解放された風圧の衝撃で、着弾点近くの土砂が派手に巻き上がり、視界が覆われていた。


 招待客の全てが言葉を失っている。


 最初はセリアスが優位に立っていたはずの親善試合が、いつの間にかその立場が逆転し、人族である俺が圧倒的な力を見せつけたのだ。その上、王子の安否が不明とくる。混乱も絶頂だろう。


 あのフォースリンですら、目を見開いて言葉を失っていた。


 俺はといえば、だ。


 未だ晴れぬ視界の中で、その先にいる人物に声を掛けた。


「……中々に無茶やらかすね、お前さん・・・・

「君にだけは言われたくないな」


 返ってきた声は、女性の声。


 俺はそれに頼もしさを覚えつつ、風の精霊に語りかけて舞い上がっていた土煙を纏めて払った。


 最初に姿を現したのは、見目麗しい衣装ドレス姿の女性。


 ──レアルが、掌底打ちを放った姿で佇んでいた。


 何が起こったのかは一目瞭然。


 暴風がセリアスに着弾する寸前にレアルが割り込み、迫り来る暴風に掌底打ちを叩き込んだのだ。


 レアルの立っている場所を起点に、レアルとセリアスの両脇の地面には激しく抉れた跡が残っているが、肝心のレアルとセリアスは無傷だった。


 レアルの背後には、腰を抜かしてへたり込んでいるセリアス。ただただ呆然と、突然現れたレアルの後ろ姿を眺めている。


「あれだけの衝撃を張り手一つで迎え撃つとか、どんな腕力してるんだよ」

「試合が始まった時点で肉体強化を施していた。万が一・・・があっては困るからな」


『潰せ』と試合直前に(視線でだが)命じてきたのはどこのどなただっただろうか。それを指摘したところではぐらかされそうなので、俺は溜息交じりに頭を掻いただけに留めた。


 何にせよ、『王族殺し』という冗談にならない犯罪を未然に防いでくれたのだ。ここは感謝しておくべきだろう。


「それでカンナ……もしやと思ったが」

「ああ、お察しの通りだ」


 俺は指先に風を集めた。それを目にしたレアルが小さく驚き、それから呆れやら感嘆やら判断が付きにくい溜息をした。


 レアルは以前に、俺が『氷結の理』を得た場面に居合わせている。おそらく、大精霊の姿は見えなくとも俺の身に何が起こったのか想像が付いたのだろう。

 

「まったく……君はいつもいつも予想の斜め上を行く」

「褒めてる?」

「非常に迷うところだよ」


 そう言いながらもレアルは小さく笑っていた。


 期待に応えられたようで何より。俺は笑いながら親指を立てたのだった。


先日、念願の『小説家になろう公式ラジオ』に出演してきました。


人生で生まれて初のラジオ出演であり始まる直前まではえらく緊張しましたが、始まってみるとあっという間の1時間半でした。これをきっかけに『カンナのカンナ』を始めとするナカノムラ作品に新たに興味を持ってくれる方がいると嬉しいです。


他の作品のあとがきにも書いていますが、ナカノムラが連載している別作品。

『アブソリュート・ストライク』が書籍化します。

一度は発売直前に頓挫してしまった書籍化ですが、別の出版社さんに声をかけていただき再びの書籍化が決まりました。

もしまだお読みでない方はどうぞ一読ください。

↓のアドレス、またはナカノムラのマイページからどうぞ。

http://ncode.syosetu.com/n2159dd/



『カンナのカンナ』を気に入ってくれた方、よければブックマーク登録をどうぞ。

さらに、小説下部にある評価点もいただけると作家的にモチベーションが鰻登りになるのでいただけると幸いです。

他、感想文やレビューも歓迎しております。

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