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第百九十四話 見極めた先にあるもの

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「くっ……離れろ人族!」


 棒立ちになる俺に向けて、セリアスが杖をかざし突風を巻き起こした。圧倒的な風量を前にして、呆然としていた俺は堪えきれるはずもなく吹き飛ばされる。


「ふっ、残念だったな。どうやら近接戦闘に持ち込もうとしたようだが、我が風の前には無駄なあがきだ!」


 相変わらず嫌みったらしい台詞が耳に届くが、俺の関心は既にもっと別のところに向いていた。


 先ほどの感覚を思い出す。


 ──俺は、大きな勘違いをしていたのかも知れない。


 それは、最初に抱いた予感ではない。

 

 確信があった。


 俺は立ち上がると、セリアスを真っ直ぐに見据える。


「……なんだその目は」


 俺の目を見てセリアスが不快げな表情を浮かべたが、俺は気にも止めなかった。


 俺は深呼吸をして心を落ち着かせる。


 セリアスが術式を放つ際に微力ながらも魔力を感じ取っていた。だから俺はセリアスが魔術士であると思っていた。


 いや、セリアス自身は魔術士なのだろう。


 ──ただ『魔力』にばかり意識を向けていたのがそもそもの間違いだった。


 魔術士が扱うのは『術式』であるという先入観が、俺の目を曇らせていた。


「気に入らんな、その目! 私の前から消え失せろ!!」


 セリアスが杖を振りかざした。



 あるがままを真摯に受け入れろ。



『魔力』という存在に惑わされるな。



 目の前に広がる世界を見据え。



 ──俺は『それ』を捉えた。


 速効で放たれた風の砲弾。直撃すれば一発でおそらく意識が飛ぶノックアウト


 けれども──俺はそれがいつ放たれるかを知っていた。


「……やっぱりな」


 ──ゴギンッ!!


 俺が軽い動作で振るった裏拳に弾かれ、風の砲弾あらぬ方向へと飛んでいった。地面に着弾し派手に土砂がめくれ上がったが、肝心の俺にダメージは無い。


 この距離からでも、セリアスが息を呑んだのが分かった。


 避けるのでは無く、防御するのでも無く、ただ弾いた。


「──ッ、行け!!」


 セリアスが真剣な顔つきで風の魔術式を解き放つ。先ほどまでの攻撃が遊びかと思えるほどの弾幕の厚さ。


 おそらく、俺の今の行動に何かしらを感じたのだろう。ここで一気に勝負に出てきた


 人の色恋に横やりを入れてきた腹立たしいイケメンではあったが、ただのボンボン王子というわけでは無いらしい。


 迫り来る風の猛威に対して俺は斧を具現化し、俺は一心不乱に振るった。 


 風の刃を弾く。


 風の矢を弾く。


 風の弾丸を弾く。


 弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて──。


「うぉぉぉぉ…………っらぁぁぁ!!」


 ──最後に暴風の槍を正面から叩き潰し、解放された空気が周囲に吹き荒れる。


 俺の周囲は、風の術式の影響で悲惨な状況になっている。だが、その中心部にいる肝心の俺は全くの無傷。全てを斧で捌ききったからだ。


「あれほどの術式を……全て捌き切っただと!?」


 セリアスが驚愕を発する。先ほどまでは対応に手一杯だったのが、ここに来て急に反応速度が上がったのだ。驚くのは当然のこと。


「何の冗談だ……貴様、これまで手を抜いていたのか! 舐めてくれるな、人族の分際で!!」

「別に、手ぇ抜いてたとか舐めてたなんてこたぁないさ」


 俺は最初から全力だった。


 ただ、先ほどまでと意識が切り替わっただけだ。


〝捉え方〟と言ってもいいだろう。

 今し方放たれた魔術式の弾幕。


 もしアレが本当に魔術式・・・であれば、ああも完璧に対処しきれなかった。防御に徹しなければ耐えきれなかった。


 斧の長柄を強く握り、俺は力強く地面を蹴った。


「二度も接近戦を許す私だと思ったか! 調子に乗るなよ人族!」


 ──何かと最後に『人族』って付けたがるよな、このイケメン。


 思考の片隅で他愛の無い考えが浮かべながら、セリアスが放った『風の攻撃』──その真っ只中に自ら飛び込んでいく。



 ──俺は大きな二つの勘違いをしていた。


 

 セリアスが使っているのは『魔術式』ではない。



 そして、この戦いは最初から俺の戦場フィールドだったのだ。



 見据えるべきは魔力ではない。


 ただ、あるがままを素直に感じ取れば良かったのだ。


 そうすれば──〝風〟が教えてくれるのだ。


 セリアスが放とうとする攻撃の軌跡を。


 俺はそれを読み取り、無心に斧を振るうだけだ。そうすれば自然とセリアスの風は斧に触れ、俺に届くこと無くどこかへと飛んでいく。



 一歩を踏み込む度に意識が研ぎ澄まされていく。



 もっと深く、もっと強く、もっと鋭く。



 見極めろ──世界の『理』を!



 気が付けば、俺は再びセリアスの目の前に辿り着いていた。


 第二王子の顔に浮かんでいたのは、得体の知れぬ存在を目の当たりにしたかのような恐怖にも近い感情。


 俺は斧を投げ捨てると拳を握りしめた。


 またもセリアスは手にしていたもので防御をしようと構えた。


 俺はそれに構わず。


「──っっっっ、だぁぁぁぁぁぁぁ!」 


 セリアスの持つ魔杖に向けて叩き込んだ。




 ──その瞬間、世界が停止した。


 


 目の前にいる顔を強張らせたセリアスも、俺たちの戦いの行く末を見守っていた観客も、誰もかれもが動きを止めていた。


 この感覚には覚えがあった。忘れるはずも無い。


 俺が『氷の大精霊』と初めて邂逅を果たしたあの時と同じだ。


「きゃははっ、ようやく気が付いてくれたんだね! 嬉しいよ!」


 背中に掛けられた声に振り返れば、見たことの無い──だがある意味で思っていた通りの存在が宙に浮かんでいた。


 緑色の髪にお伽噺に出てくる『妖精フェアリー』のような羽を持った少女。


 中学生に上がったばかりのような幼い外見であったが、一部の自己主張が凄く激しい。


 いわゆる『ロリ巨乳』って奴ですか。


 ありがとうございます。


「……あの。いきなり拝まれちゃっても私、困っちゃうんですけど」

「こちらの話だから気にするな」


 ノリノリで登場した少女が困った顔をしてしまった。最近シリアスが続いていたからな。ここでちょっとシリアルが顔を出してきたらしい。落ち着け俺。


「……あんたは『風の大精霊』──で間違いないか?」

「うんっ、そうだよ!」


 気を取り直して俺が問いかければ、『彼女』は満面の笑みを浮かべた。


「私は『風の大精霊・シルヴェイト』! よろしくね!!」

 

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