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第百九十三話 こちらがウゼェと思ってると大体相手も同じこと考えてる

 

 ──しばらく攻防が続き、その間に俺の中で徐々に焦りが積み重なっていった。


「やべっ」


 ──バギンッ。


 間近にまで迫っていた風の魔術を避け損なった。反応氷結界でことなきを得たが、俺の心は安堵では無く焦燥が芽生える。


 セリアスの魔術はまるで予測が付かない。単純に魔力の練り上げから術式の発動までが早い、というわけでは無い。


 終始、魔力を察知しづらいのだ。そのせいで反応が遅れ、対処に追いやられる。先ほどからずっと、後手に回りっぱなしだ。


「くそっ、やっぱりやりにくい……!」


 遠距離戦では明らかにセリアスに軍配があがる。近距離戦を仕掛けようにも、あの素早い術式の展開速度で近付くことすらままならない。


 セリアスの魔術士としての腕は悪くない。むしろ腕利きと称しても悪くない。


 だが、総合的な実力で言えば大いなる祝福アークブレスのラケシスの方が数段上。おそらくは渓谷で襲ってきた炎の魔術士も同様にだ。


 あの二人は強敵であったが、それ以上にセリアスは俺がこの世界に来て戦ってきた魔術士の中で最も『やりにくい』相手であった。


 俺の最大の持ち味は『気配探知』。


 魔力を持たない俺は俺以外の人間が持つ魔力を敏感に感じ取り、その動きによって相手の感情の波や行動の『予兆』を察知している。


 特に魔術式の場合、魔力の流れや強さからその術式がどんな攻撃なのかを、専門知識が無くとも大凡把握できる。これのおかげで、元は平和な世界で生きてきた俺がこの幻想世界で戦い生き残れてきたのだ。


 なのに、俺の〝拠り所〟とも呼べる気配探知がセリアスに対してはほとんど機能していない。そのおかげで攻撃を読み切れず被弾してしまうのだ。


 懸念はそれだけでは無かった。


 奴が魔術式を発動する度に、いい知れない感覚が俺の中で広がっていくのだ。不快感は無いのだが、それに意識を割かれて集中力が散漫になってしまい被弾率の多さに繋がってしまう。


 ──何かを、見落としている気がしてならない。


「どれだけ粋がろうとこのざまか。所詮は人族ということだな!」


 ウゼぇ。


 セリアスの挑発的な台詞にイラッとくる。舌戦は俺の得意分野なのだが、どうにも普段通りとはいかない。序盤に主導権を握れなかったのがマズかった。


 基本的に俺は初手で相手を揺さぶって主導権ペースを握り、相手の本領を発揮させないように挑発を混ぜた攻撃で戦ってきた。


 今は、俺が最も嫌う『相手の土俵』で戦っている状況だ。それが、あの横やり野郎セリアス相手というのがもの凄く腹立たしい。


 ──このままじゃぁジリ貧だな。


 やはり、多少強引になっても流れをこちらに引き寄せなければ勝ち目は薄い。


 腹を括った俺はキックブレードを解除し、立ち止まってセリアスを見据えた。


 逃げ回るのを止めた俺に警戒心を抱いたのか、セリアスは杖を正面に構えたまま神妙な顔つきになる。


 ここで少しでも隙を見せてくれるようなお調子者なら助かるのだが、案外と冷静な部分も持ち合わせているようだ。


 とはいえ、警戒して攻撃の手を緩めてくれたのは僥倖。


 おかげで──次の大技を繰り出す〝溜め〟が得られた。


 俺は手の中に氷の大剣を具現し、それを勢いよく地面に突き刺した。そこを起点に氷山の波がセリアスに向けて押し寄せる。


 俺の持つ大技の一つ『氷剣山波』だ。


「舐めるなよ人族が! 貴様如きの魔術など尊きエルフの血を引く私の前には無力だ!」


 セリアスは臆すること無く、荒れ狂う竜巻を解き放った。竜巻は迫り来る氷山の中央を粉砕し、後方へと突き抜ける。


「ふん、大仰なのは見た目だけ……ッ、奴はどこだ!?」


 僅かに勝ち誇ったように笑ったセリアスだったが、氷山の向こう側にいるはずの『術士おれ』の姿が見えずに焦りの声を発した。


 俺はその様を奴の〝上〟から眺めていた。


 氷剣山波は囮だ。見た目だけを重視し強度も通常の氷と大差ない程度。狙いは氷山の波で俺の姿を隠すことだ。


 俺の姿が氷山の影に隠れた隙に、俺はアイスボードを具現。加速力を付けて氷山の一つを『踏み切り台』に使って跳び、セリアスの〝上〟を取ったのだ。


 目論見通り、セリアスやつは俺の姿を見失っている。 ──ここで一気に流れを引き込む!


 俺は氷の大斧を具現して振りかぶり、空中から一気にセリアスへと接近する。


 と、俺の頬を魔力を僅かに帯びた風が撫でた。


 途端にそれまで俺の姿を探していたセリアスの目が、迷わずに空中の俺へ向けられたのだ。


(今の風は索敵の代わりかっ)


 だが、セリアスの術式構築がいくら早くとも、この距離では威力の強い術式は間に合わない。


 セリアスは魔術式で風の刃を放ったが、俺は防御を反応氷結界に任せてそのまま空中から強襲する。


「どっせぇぇぇぇいっっっ!」


 迎撃を諦めたセリアスがどうにか横へ避けると、俺が振り下ろした大斧が地面に叩き付けられる。盛大に土を撒き散らし、俺とセリアスの躯に降りかかった。


 距離を取ろうとするセリアス。俺は地面に食い込んだ斧を引き抜く動作を放棄。柄を手放し拳を握りしめる


 躊躇いなく武器を手放した事に驚いたセリアスが目を見開く。


「なん──ッ!?」

「逃がすかよぉ!!」


 一度引き寄せたこの流れを逃さない。


 徹底的に近接戦を仕掛けて押し切る!


 ──ガギンッ!


 俺の拳が硬質な音によって阻まれた。


 なんと、セリアスが咄嗟に構えたのは魔杖『シルヴェイト』。天神から賜ったという由緒正しき代物で俺の氷拳を受け止めていたのだ。


 それ神様から賜った大事なもんじゃ無かったっけ!?


 と口から台詞が飛び出すよりも早く。



 ──俺の中に『何か』が流れ込んできた


  

 拳を振り抜くと、勢いに負けたセリアスが後方に投げ出される。俺は更に追撃を重ねようと考えていたが。


「──っ、がぁぁぁぁぁぁっっっ!?」


 それよりも躯に流れ込んだ『奔流』に悲鳴を上げ、頭を抱えた。


 しばらく後ろに転がったセリアスは、慌てて手元の杖を確認し、無事が分かるとホッと胸を撫で下ろす。そして次に非難めいた視線を俺に向けてきた。


「貴様! 我がエルダフォスに伝わる秘法に何という事をするのだ!!」

「ば、馬鹿かてめぇは……。そんなに大事なもんなら、こんな荒事に引っ張り出してくるんじゃねぇよ……」


 ズキズキと痛む頭を手で押さえながら、俺はセリアスの文句に言葉を返した。声に力が入っていないのは、視界が明滅するほど意識がかき乱されているからだ。


 くそ、今のは一体何だったんだ。


 疑問を挟む前に、とにかくセリアスが体勢を立て直す前に攻撃を加えようと俺は『精霊』に呼びかけた。


「……………………ちょっとまて」


 精霊が氷を具現化する直前になって、俺は戦いの最中にも関わらずに呆けた。


 魔杖に触れ時に流れ込んできた『何か』に……覚えがあったからだ。

いよいよなろうラジオの日が近づいているナカノムラです。

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以上、ナカノムラでした。

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