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第百九十一話 親善ってもうちょっと華やかなイメージがある気がする。

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 場所は変わって屋敷の中庭。


 招待客の多くが隣り合う者と囁くように言葉を交わし、これから行われる『戦い』を待ち望んでいる。


 セリアスはこの場にはいない。準備があるからとどこかへ引っ込んでしまった。


 俺はといえば、念のために持ってきていたミスリルの胸当てに重魔鉄鉱製の装着している。スーツ姿の上からなので見た目はちょっと悪いがこの場合は諦めるしか無い。


 ──俺は少し前の会話を思い出す。


 セリアスはその場で戦いを挑んできそうな勢いだったが、さすがにそれはフォースリンがどうにか抑え込んだ。そして少し頭を冷やすための間を取ることになった。


 俺は一度、ファイマとクロエと合流してたのだが、何故か二人は顔を赤くしていた。


「──さっきからどうして顔が赤いんだよ、おまえら」

「……こっちが恥ずかしくなるような場面を見せられた身にもなりなさいよ」

「レアル殿もカンナ氏も、実は似たもの同士ではござらんか?」

「何なんだよ、レアルといいおまえらといい」


 レアルは少し離れた場所で幻竜騎士団の面子と共にいる。俺と一緒にいるとセリアスの奴がまだ興奮するからだ。


 当のセリアスは、離れた場所でフォースリンに何やら必死の様子で訴えかけている。決闘を止められたことに不満を持っているのだろう。


「しかし……大丈夫なのでござろうか。仮にもレアル殿はディアガル帝国における騎士団長の一人。カンナ氏は帝国皇帝からの依頼を受けた護衛でござる。そのような御仁に決闘を挑んでしまって」

「だよなぁ。それは俺も思ってた」


 顔は赤いままだが気を取り直したクロエの台詞に俺も同意した。


 具体的にどのような問題があるかはよく分かってないが、政治的な話に素人である俺とクロエですら、今の状況が余りよろしくないのは分かった。


「そこんとこどうなんだよ、ファイマ」

「微妙なところね……」


 この中で最も見識のあるファイマは答えを濁した。


「意外でござるな。ファイマ殿がそう仰るとは」

「通常の国家でなら大問題も大問題よ。両国家が歩み寄っている段階で、その架け橋となり得る存在に無理矢理言い寄る。この時点で醜聞極まりない。

 その上、色よい返事を貰えなかったと見るやいなやに決闘騒ぎ。この時点で国交が断絶してもおかしくないわ」

「お、おぉぅぅ……でござる」


 一気に捲し立てたファイマの言に推されたのか、クロエが後退あとずさった。


 ファイマは一呼吸を入れてから、落ち着いた口調で続けた。


「けど、おそらくはそこまで酷い話にはならないでしょうね」

「というと?」

「これでも魑魅魍魎跋扈する政治の世界を垣間見てきたのよ、私。会った人間が智者か愚者かを見る目は人よりあるつもりよ」


 こいつ、リアルで一国一城のお姫様だったな。そのお姫様の経験から来る洞察力ってやつか。


「先日見た限り、エルダフォス王は聡明な方よ。少なくとも、息子可愛さで先見の目を曇らせるような人ではいはず」

「……この状況も想定していた、と。ファイマ殿はそう仰られたいのでござるか?」

「そこまではさすがに。でも、あり得る状況の一つとしては考えていたでしょうね。多分、落とし所・・・・も用意しているでしょう」


 セリアスの方を見ると、彼は険しい表情でフォースリンに詰め寄っているが、フォースリンは涼しげな表情を崩さない。


 あの様子を見ると──。


「フォースリン殿の落ち着きぶりを見ると、こうなることをある程度読んでいたようね」

「……その割にはレアルがセリアスの申し出を断ったときに硬直してたけど」

「断られるにしても、打てば響くような返しは予想してなかったんでしょう。どんな理由があったとしても、第二王子から結婚の申し出があったら普通は動揺するのに」


「この人達ときたら……」と俺を一瞥し、ファイマは頭痛を抑えるように頭に手を当てた。おい、何で俺まで含まれてんだよ。


 そんな時、話が落ち着いたのかフォースリンがこちらに近付いてきた。背後には不承不承と言った風のセリアス。


 俺はレアルを手招きする。合図を受け取った彼女もこちらにやって来た。


 面々が揃ったところで俺は話を切り出した。


「そっちの話は終わったんで?」

「ああ。先ほどはこちらも些か話が早急すぎたようだ。セリアス殿下もレアル殿──我が孫娘の美しさに少々我を失っていたようだ。些か礼を欠いたこと、叔父の私から謝罪しよう」


 その割には親戚さんセリアスはむくれっ面ですが。


「だがレアル殿とセリアス殿下の婚姻が今後のディアガル、エルダフォス間に強い影響力を与えるのも事実。私も国政を担う者である以上、みすみす手放すには惜しい」


 要約すると『謝るけどちょっとは考えて欲しい』って事だろうか。レアルの方を見ると、こちらは相変わらず涼しい顔をしている。気乗りする云々というよりは興味ないといったところか。


 ディアガル皇帝の命令があれば話は別だろうが、おそらく彼女に宛てられた皇帝からの手紙に、その辺りは一切触れられてなかったのだろう。


「そこで、ここで一つ余興を考えてみたのだが」


 ここでフォースリンが語った内容が、俺が今中庭にいる場面へと繋がる。


 ──中庭の一角が俄に騒がしくなり、俺の意識は現在に焦点が合う。


 そちらを見ると、パーティー衣装とは違った出で立ちをしたセリアスが姿を現した。


 動きやすそうな法衣で急所を守るような軽鎧。色合いからして、俺の胸当てと同じミスリル合金製だな。


 彼の背後には豪華な装飾の施された布でくるまれた、細長い『何か』を抱えた付き人だ。


「……ん?」


 その『何か』を目にした途端に肌が小さく粟立つ。不快な感覚では無く、どちらかというと〝驚いた〟という風だ。だが、何に驚いたか、俺自身すら把握できていない。


 セリアスが俺の正面に立つと、フォースリンが俺とセリアスの中央付近にやってくる。


「それではこれより、セリアス・エルダフォス殿下とカンナ・カミシロとの親善試合・・・・を執り行う」


 ──フォースリンが出した提案とは『親善試合(これ)』だった。


 ようは『お互いの事を全く知らないのだから、まずは腕前から知って貰おう』という話になったのだ。


 レアルはディアガル騎士の一団長であり、彼女の最も強く関心を抱くのは相手の『武』。そこでセリアスを知って貰う切っ掛けとして彼の『武力』をレアルの前に披露することとなった。


 そしてお相手は当然のように俺である。


 そりゃあんな絶世の美女相手に大人げなく本気で戦いを挑めるはずも無い。まぁ、セリアスから感じられる『威』はレアルに遠く及ばず。挑戦したところで耐久力とパワーのごり押しで返り討ちに遭うのが目に見えていた。 


 戦いに勝利したら即座に婚約──というのは、ファイマの危惧したとおり国交に亀裂が生じる恐れがあるのでなしになった。それでも セリアスからすれば目障りな俺を叩きつぶし、なおかつ己の能力をレアルにアピールできる絶好の機会。それから改めてレアルとの交流を深めれば良いのだ。


 なるほど、ファイマのいっていた『落としどころ』とはおそらくこれなのだろう。大分前にルキスの奴とやり合った『決闘』と似たような形だな。


 ただ──ファイマが不審げな顔をしていたな。『とんとん拍子に話が進みすぎる』と。


 この申し出、はっきり言えばディアガルこちら側には何の得もない。むしろ、第二皇子の軽率な行動を利用してエルダフォスに便宜を引き出すこともできた。


 だがレアルはそれを良しとせず、フォースリンの提案を飲み込んだのだ。表向き・・・の理由は、こんなくだらないことで両国間の関係に亀裂が入るのはディアガルとしても避けたいというもの。


 ……そして、彼女が交流戦の案を飲んだ本当の理由に、俺は心当たりがあった。


 俺がこの中庭の中央に立つ直前、別れ際にレアルと目があったのだが。


 ──潰せ。


 目がそう言ってた。間違いない。


 あいつ、落ち着いたように見えて静かにキレていたのだ。


「ま、ぶちのめすつもりではあったけど」


 と、周囲にいる招待客からどよめきが広がった。


 セリアスと一緒に現れた人物。彼が抱えていた物体の布が解かれ、その中身が露わになった。


 美しい装飾の成された杖だ。それを視界に入れた途端、先ほどの奇妙な感覚が更に気配を増した。


 セリアスはそれを受け取ると、こちらを見る。


 まるで勝ち誇ったような笑みを浮かべ、手に持ったそれを軽く振るった。それだけで辺り一帯に強い風が吹き荒れた。


 俺は目の前の現象に言葉を失った。


 今のは──魔術なのか?

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