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第百九十話 実はこいつら似た者同士なんじゃないかと外野は思った

あけおめ


 しばらくて床で悶えてたセリアスが立ち上がった。


 幸いにして、痛みの余りに意識が朦朧として何が起こったのかいまいち理解できなかったようだ。しきりに首を傾げるが、俺に対して何かを言うような素振りは見せなかった。


 それどころか、俺たちの視線に気が付いたセリアスは一つ咳払いをすると、何事も無かったかのようにレアルの方へと向き直った。おそらく、痛みに転がり回った醜聞を誤魔化すつもりなのだろう。


 俺たちからしてもこれ以上その辺りを根掘り葉掘りとされてもこまるであえてスルーした。


「セリアス殿下……でよろしいのでしょうか」

「呼び捨てでも構いませんよ、レアル殿」


 レアルの問いに朗らかな笑みで答えるセリアス。本来ならそれだけで絵になるような笑顔スマイルだが、残念なことに額にくっきりと礫が命中した後が残っていて凄く滑稽だ。


「それでセリアス殿下・・。私にどのようなご用でしょうか」

「……え、ええ」


 呼び捨て希望、完全ガンスルーである。


 セリアスは頬を引きつらせたが、それ以上の動揺は見せない。少しの間を置いてからいきなり本題を切り出してきた。


「此度、レアル殿を見てから──」


 ここから先、妙に気取った言い回しが続くのだが、九割近くが俺には理解不能だったので耳の右から左へと聞き流す。


 ──辛うじて聞き取れた残りの一割で、セリアスがレアルに一目惚れしたという事実だけを理解できた。


 仕方が無いと言えば仕方が無い。


 しつこいようだが、着飾った今のレアルはまさに絶世の美女だ。元々の魅力がドレスによって底上げされており、下手な女性なら裸足で逃げ出して遠目から土下座するくらいの美女様なのだから。


 ……や、ちょっとまて。ここで一目惚れ云々の話を切り出すって事は──。


 嫌な予感が芽生える最中さなか、セリアスはもう一度レアルの前で跪くと、彼女の手を取りながら言った。 


「──レアル殿。私はあなたの美しさに心を奪われてしまった。故に! 私はこの場であなたに結婚を申し込みたい!」


 うわぁぁ!?


 セリアスこいつ、あろう事かレアルに求婚しやが──。


「え? 嫌なのですが」


 ──精霊術を使っていないのに場の空気が凍り付いた。


「………………ん?」


 痛々しい沈黙の後、レアルがふと首を傾げた。


「なぁカンナ。ちょっと良いか?」

「そこで俺に振るの!?」


 俺は空気読まないだけで空気は結構読める方なんだよ。この痛々しい空気の中で何を聞くつもりだ。


「もしかして、私はセリアス殿下に求婚されたのか?」

「脊髄反射で答えてたのかよ!? その通りだよ!!」


 酷いのが、セリアスが先ほど以上に顔を引きつらせているのに対して、レアルの表情が素のままであること。不満や嫌悪感すら抱く間もなく、反射的にセリアスイケメンの求婚を断ったようだ。


 惚れた女が他の男からの申し出を断ったのは嬉しいのだが、同じ男としては僅かばかりセリアスに同情した。


「……レアル殿、少しいいだろうか」

「フォースリン殿」


 入り口付近で待機していたフォースリンがやって来た、いたのは知っていた。どうやら傍観に徹するつもりだったが、この悲惨な状況を見かねたのだろう。


 血の繋がった祖父と孫が互いを『殿』呼び。未だ他人行儀なのは、対面してからの時間が短すぎるからだろう。


「突然のことで驚いているかも知れないが、少しだけ待って欲しい。これは貴殿にとっても悪い話では無いはずだ」


 フォースリンの口から告げられたのは、有り体に言えば『政略結婚』だった。


 レアルがディアガル・エルダフォス両君主の血を受け継いでおり、両国の架け橋となる存在。今回のパーティーはその事実をエルダフォスに広めるためのものだ。


 この目論見は一定の成功を上げたがエルダフォス王はディアガルとの繋がりを更に強固にするために一手を打った。


 貴族にとって、血の繋がりは最も強固な縁。すなわち、セリアスとレアルの結婚。奇を衒ったわけでも無い、度直球の政略だな。


「確かに叔父上の言った側面があるのは否定しない」


 フォースリンが語っている間に、どうにか立ち直ったセリアスが言った。


「だが私は国の思惑以上にあなたの美しさに心を奪われた」


 おい、その台詞二度目だぞ。


「ディアガルとエルダフォスの未来のため。そして我ら二人の未来のため。レアル殿、今一度あなたに結婚を申し込みたい!」

「謹んでお断りする」


 …………………………………………。


 セリアスだけで無くフォースリンすら凍り付いた。ここまで説明したのにまさか断られる事態は全く想定していなかったのか。


 が、セリアスは二度目だからか一早く立ち直ると、絞り出すように聞いた。


「り、理由を聞かせて貰えないだろうかレアル殿……。これは貴殿にとっても悪くない話だと思うのだが」

「いや……常識的に考えて、今日初めて顔を合わせたばかりの男性から結婚を申し込まれて受け入れる方がおかしいと思うのですが」


 ど正論だな。


「だ、だとしてもディアガル、エルダフォス間の繋がりを強固にするという意味では──」

「政治的な意味があるとするならば、まずはディアガル皇帝陛下にお伺いを立てるのが筋。私の一存では決めかねます」


 ど正論その二、だな。


 先ほどのぶち切れ寸前とは違った理論性然とした答えだ。基本はパワータイプだが、やはり騎士団団長としての聡明さはある。


「な、ならば──」

「はいはいそこまで」


 なおも食い下がろうとするセリアスに待ったの掛けたのは他ならぬ俺だ。


 名残惜しげにレアルの手を取っている奴を引き剥がすように両者の間に割って入る。


「な、貴様、無礼だぞ!」


 怒鳴り声を発するセリアスを俺は真っ直ぐに見据えた。


「私は今レアル殿と話しているのだ。貴様とは関係ないだろ!」

「俺はレアル──殿の護衛としてこの場にいます。関係ないってことは無いでしょう」

「たかが護衛風情が、王族の成すことに口を挟むのか!」

「例え相手が皇族だろうが王族であろうが──」


 どうやらこの男のレアルへの求婚に、俺は自分が思っていた以上に苛立っていたらしい。


「──レアルに必要以上に近づいたら──潰すぞ」

「────ッッ!?」


 言葉を荒げたわけでも無い。睨み付けてもいない。ただ正直に己の胸中を、淡々と口にしただけだ。だというのに、セリアスは顔を蒼白にしてたじろいだ。


 レアルを諌める立場にあるのに、俺が王子を威圧してどうするんだよ。


 まぁ、このくらいは護衛の役割の範疇だろうさ。


「……かはっ」

「ん?」


 何事かと背後を向くと、レアルは胸元に手を当て何かを堪えるように俯いてた。顔は見えないがよく見ると耳まで真っ赤だ。


「おい、どうしたよレアル」

「ちょっと待ってくれ……今のは卑怯すぎるぞ」

「……は?」


 意味がわからん。


「ならば──」


 頭の中に疑問符を浮かべていると、セリアスが絞り出すような声を発した。


 俺とレアルが揃って前を向くと、セリアスは俺をキッと睨みつけ、指差した。


「貴様! レアル殿を賭けて私と決闘しろ!!」


 ──どうしてそうなるのさ。


 


レアルが「かはっ」てるのは、一つ前のカンナのセリフがクリティカルヒットしてるからです。

一話前のカンナと全く同じですね。


昨年は人生で初めての『働きながらの執筆』であったので、途中から相当に執筆速度が遅くなりました。大変申し訳ありませんでした。

ただ、その生活にも少しは慣れてきたので、今年はもっと投稿のペースを上げられるように頑張っていきたいと思います。


繰り返しになりますが、一月二十七日 十九時半からの『なろう公式ラジオ』に出演しますので、ぜひご試聴を。ナカノムラの全国デビューです。


それと、『カンナのカンナ』を気に入っていただけた方、ぜひブックマークや評価点をよろしくお願いします。

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