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第百八十四話 付け焼き刃も知らない人から見ればそれなりに見える現象


 会場入りから、レアルの美しさが招待客達の度肝を抜いたようで、混血であるのは知っているだろうに彼女へ嫌悪の感情を向ける者は誰一人としていなかった。


 彼女はそのまま会場の中を進み、途中でフォースリンと合流する。


「皆様方、本日はお集まりいただき誠にありがとうございます」


 会場の中央部に到達すると、フォースリンが最初に告げた。ざわめいていた会場内がしんと静まりかえり、フォースリンとその隣にいるレアルに視線が集中する。


 皆の聞く準備が出来たのを確認してから、フォースリンが再度口を開いた。


「既にご存じの方もいらっしゃるとは思いますが、改めてご紹介いたしましょう。我が娘レイリーナの忘れ形見であり、元ディアガル皇帝の兄君の娘でもあるレアル・ファルベールでございます」


 フォースリンの隣にいたレアルは、ドレスの端をつまむとお淑やかに笑った。その笑みに出席者の方から感嘆の声が漏れた。一見すると優雅な動作だが、普段のレアルを知る俺たちからすると滑稽──は酷すぎだが、何とも違和感が半端なかった。 


「……あの顔、めっちゃひきつってんな」

「ここしばらくでずっと練習していたのでござろうな」

「しっ、そういうことは言っちゃ駄目でしょ……!」


 俺たち三人のひそひそ話が聞こえていたのか、レアルの耳がぴくぴくと動いている。後でフォローしておかないとちょっと怖いか。 


 その後はレアルの簡単な経歴やら、ディアガルとエルダフォスの国交がどうのこうのと続いたがぶっちゃけ興味なかったのでスルーした。どうせ聞いても理解できないだろうし、知りたいことがあればファイマ大先生に質問すればいいのだ。


 そんな感じで乾杯の音頭が上がり、お披露目パーティーがいよいよ開始した。



 テーブルに並べられた豪華な料理を楽しみながら、近くにいる者同士で談笑が行われる。


 表面上は和やかな笑みを浮かべつつ、その実静かにして壮絶なる舌戦が繰り広げられているのはお約束。だって、どいつもこいつも目が笑ってないもん。


 そしてそれはレアルも同じだ。


 主役であるレアルの近くには、ひっきりなしにエルダフォスの貴族達が集まってくる。間違いなく彼女はエルダフォス(とディアガル)に取って重要な存在になるのだ。これを機に顔を覚えて貰い、あわよくば伝手でも得られればと考えているのだ。


 ただ、レアルも今は極上の美女であろうとも、真の姿はディアガル帝国軍で騎士団を率いる将だ。こういった場は苦手とは言うが、物腰は落ち着きを保っている。挨拶に来る貴族達に対して少々男っぽい風ではあったが礼儀を欠かさずきちんと対応している。


 意外だったのが、会場入りしてからずっとレアルの付近には護衛や御付きとして獣人族であるクロエや俺と同じ人族のファイマもいるのだが、それ程険しい視線は向けられていなかった。


 よくよく考えると、クロエもファイマもレアルに負けず劣らずの美人であるし、スタイルも抜群。例え他種族であろうとも、彼女たちの美しさは純血主義のエルダフォス人にも通ずるものがあるのだろう。


『レアルのお披露目』は、当初の予想よりもずっとスムーズに話が進んで拍子抜けしてしまったほどだ。


 ──俺を除いて。


 美女三人レアルたちに比べて、ぶっちゃけ俺はイケメンと呼ぶにはかなり顔のレベルが足りていない。


 不細工で無いのは自信を持って言えるし、普段よりも身形を気にしているのでそれなりに見栄えはするはず。


 ……言っててすげぇ悲しいなこれ。


 ただ、側にいる彼女たちのレベルが高すぎて、俺の平凡具合が強調されている。ついでに言えば、俺は単なる人族である。


 イケメン揃いであるエルダフォスのエルフ達にとって、俺は美しい絵画の中にある書き損じのようにも見えるのだろう。


 ……とりあえず、美女の側に居る事実を自慢げにドヤ顔しておこうかな。


「頼むからめてくれ」


 おっと。直前で美女筆頭レアルが小声で制止してきた。何で考えてることが分かった?


「お前が真面目な顔をすると、大抵の場合ろくでもない事を考えている場合が多いからな」


 このやり取り何度目だ? と思わずにはいられなかった。


  その最中にも、相変わらず俺に不快感を含んだ視線が集中していたが、護衛としてこの場にいる以上実は結構ありがたい。逆に言えば他の者へ向けられるはずだった悪感情も俺に集まっているのと同じだからだ。貴族とは言え人間だ。感情にまかせて狼藉を働く者が出てくる可能性もあるが、これなら単なる杞憂で終わるだろう。


 もっとも、俺に対していちゃもんを付ける奴も出てくるかもしれないが、平時ならいざ知らず今の俺は護衛だ。レアルやディアガル皇帝の顔に泥を塗らないよう自制に努める所存。


「……フラグじゃねぇからな」

「唐突にどうしたの?」


 衝動的な言葉に首を傾げるファイマ。


「いや、言っておかんと駄目な気がして」


 客間で待機している最中の会話が頭の中で蘇り、俺は誰かに向けて口走っていた。俺とて毎度問題を起こすわけではないのだ。


 それとはまた別だが、小さな問題があった。


 先ほど言ったとおりにレアルの周囲には彼女とお近づきになろうとする要人達が集まっているのだが、どいつもこいつもやっぱりイケメンなのだ。エルフの価値観ではむしろ平凡と呼んでも差し支えないのだろうが、人族であり人族としての価値観を持つ俺からしてみれば心中穏やかではない。


 レアルが、男を外見だけで判断するような『面食い』でないのは重々承知しているが、だからといって心の底から安心して眺めていられる光景でも無い。


 というか、レアルの近付いている以前に、イケメンに対して純粋に憎悪を抱いていたりもする。


 もし憎しみで人を冷凍できるのならば、俺はこの会場にいる全てのイケメンを氷漬けに出来る自信がある。

 

 ──あれ、もしかしてやろうと思えば出来るんじゃね?


「頼むでござるから、ぽろっとした風に凄まじく物騒な発言はやめて欲しいでござる」


 口から出た呟きを獣人の聴力で捉えたクロエが表情筋を強ばらせる。


 ──安心しろ、俺は〝まだ〟冷静だ。


「だからさりげなく不穏な台詞を口にしないで欲しいでござる」

「……先行きが不安ね、このお披露目パーティー


 ファイマがやれやれと肩を竦めたのだった。  


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