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第百七十二話 だいたい、持ってる人は持たない人の悩みに無縁である

(暑さで)とろけるアヤスケはナカノムラ印。


 国境を越えてから数えて五日が経過した。


 途中で魔獣に襲われること無く順調に道程を消化し、遂に俺たちはエルダフォスに到着した。


「──まさにエルフが住んでますって街並みだな」



 俺は見たとおりの感想を率直に口に出した。


 喧騒と熱気に包まれていたドラグニルと比べると街の至る所に樹木と水路が多くあり、活気がないわけではないのだが静謐感というものが漂っているような雰囲気だ。


 そして、街並みよりも一際目を引く存在が都市の中央に存在していた。


レグルスレアルからあらかじめ聞いてはいたが──。


「──イメージ通りっちゃその通りだが、実際に目にすると迫力がやべぇな」

「でかいでござるなぁぁ……」


 エルダフォスの城へと続く大通りを進みながら、俺とクロエは徐々に近づく大樹を見上げた。その側には君主が住んでいる城らしき建造物があるのだが、それよりも更に大きいのだから驚きだ。樹齢とかどのくらいかちょっと気になる。


「それにしても、まぁみんなイケメンばかりな」


 道を行き交う人々全員がエルフであり、他の種族は見かけない。しかも、どいつもこいつもやはりと言うべきか、妙に顔が整っている。


「こうも整った顔たちが並んでいると……ちょっと胸焼けしそうでござるな」


 クロエの言葉に俺も同感だった。これで女性がみんなおっぱい大きかったらまだ良かったのだが、こちらも予想通りに貧乳スレンダーばかり。


 ──いかん、ちっぱいが多すぎておっぱい成分が不足しだした。


 呼吸困難にも似た症状を覚えた俺は、慌ててクロエの胸元に視線を向けた。サラシが巻かれているものの、そのたわわな質量を抑えきれず、歩く度におっぱいがぽよんぽよんと揺れている。


 ──すごく癒された。


「あの……ちょっとカンナ氏の視線が気になるのでござるが」

「ふぅ──ありがとうございます」

「なぜにお礼!? って、おっぱいを拝まないで欲しいでござるよ!!」


 両手で合掌する俺に、クロエは顔を真っ赤にしながら胸元を手で隠す。ただし、大きすぎて全く隠れていないのがご愛敬だな。


「や、悪い。ちょっと酸欠気味だったんで」

「意味が分からないでござるよ」


 笑って誤魔化すと、クロエは不承不承といった風に言った。それから今度は顔を赤らめ、躯をもじもじさせながら口を小さく開いた。


「その……我慢が出来ないなら拙者が──」

「あ、言い忘れてたけど。しばらくワンワンタイムは無しな」

「……………………なんですと?」


 俺の予想外の言葉が予想外だったのか、鳩が豆鉄砲をくらったような顔になるクロエ。


「なんでもなにも、依頼の最中だろうが」

「カンナ氏が正論を!?」

「ぶっ飛ばすぞ阿呆ワンコ!!」


 前に、依頼の最中に襲われたワンワンされたこともあったが、それは今はおいておく。


「今はめちゃくちゃ〝でりけーと〟な状況なのはお前も知ってんだろ。下手したら死人が出るぞ」

「──ハッ!?」


 修羅場──どころか、修羅そのものが降臨する恐れがある。そんな状況で他の女の子とよろしくやるとか、自殺行為の何物でも無い。


「ってか、国境越えの時にお膳立てしたのはお前たちだろ。なんで当人が忘れてんだよ、この状況を」

「いや……忘れていたわけでは無いのでござるよ? ただ、それとこれとは別だと……」

「別って考えてる時点でアウトだろ。この色ボケワンコ」

「カンナ氏がいつもにまして辛辣ぅぅっ!」


 さて、いつもの流れコントはさておくとして。


 俺はエルダフォスに入ってからずっと気になっていたのだが。


「なぁクロエ──」

「やはり、カンナ氏も気が付いたでござるか」

「そりゃぁ、な」


 こちらの表情から言葉の先を察したクロエ。俺と彼女は顔の向きはそのまま、ちらりと街を歩く人々に目を向けた。


 それまで普通に歩いていた者も、隣と和やかに談笑していた者も、家族連れで笑顔を浮かべていた者も。そのどれもが俺たちを視界に入れた途端に、表情を曇らせた。中には敵愾心を隠さずに睨み付けてくる者さえいる。


 その反応は、エルダフォスの戦士と合流したときに見せた彼らと全く同じであった。


「予想はしてたが、歓迎感が皆無だな」

「こう……占領した支配地に足を踏み入れたような気分でござる」


 俺もクロエも馬鹿な会話をしていたが、周囲への警戒心だけは常に持っていた。明確な殺気は感じられなかったが、俺たちを取り巻く空気はクロエが口にした通り。杞憂だとは思いつつも、楽観視できるような雰囲気でも無かった。


「ぅぅ……どうにもエルフの女性から殺意を感じるでござるよ。どうしてでござるか?」


 クロエは寒気を感じたように両腕で己の肩を抱いた。と、腕を躯の前で交錯させるので、必然的に胸がつぶれて柔らかさを演出する。


 途端、クロエに向けられる視線が一層鋭さを増した。直接向けられたわけでも無い俺でさえ分かるほどだ。クロエにとっては針のむしろだろう。「ワヒィっ!?」と毛を逆立てながらクロエが悲鳴を上げる。


 弓術に邪魔であっても、人種的にどうしようも無くても、やはりエルフの女性にとっても、他の種族の女性が持つ大きなおっぱいは憧れの対象なのだろう。


 悲しいことに、当人は全く気が付いていない。ただ、エルフの女性から向けられる嫉妬と羨望の視線に恐怖するばかり。


 これが、持つ者と持たざる者の差であろうか。


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