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第百七十一話 長けりゃいいってもんじゃないけど、おっぱいは大きいほどいいものだ

今話を書くにあたり、百六十八話の一部を修正しました。


 アラムの言っていたとおり、進む道程は小刻みな起伏が多く通常の馬車では直ぐに車輪が駄目になるのがよく分かった。そうでなくとも、荷台内部の客席に伝わる振動の酷さで乗っている者が酔うダウンするのは想像に難くない。


 だが、浮遊する荷台はふよふよと宙に浮き、陸走鳥に引かれて進んでいく。当たり前の話だが、浮いているために地面の影響は全く受けずにスムーズに進んでいる。


「さすがは魔術に造詣の深いエルフ族の国。奇天烈キテレツな工夫を凝らすでござるな」

「仕組みとか分かるのか、クロエ?」

皆目かいもく見当も付かないでござる!」


 偉そうに言うことじゃぁ無いだろ。無駄に自信ありげなドヤ顔を張り倒したくなったが、仕事の最中なので我慢する。


 鳥車の周囲を固めながら、帝国軍とエルダフォスの戦士たちが森の中を進んでいくが、クロエが少しゲンナリと呟いた。


「随分と殺伐とした雰囲気でござるな。気が滅入ってきそうでござる」


 この張り詰めた空気は護衛対象を守るために警戒心を抱いている、というていではない。相手方の国が妙な動きをしないか、互いが互いを監視している。そんな風に感じられた。「明らかに仲良くしましょうって空気じゃぁないな」


「停戦中の二カ国が睨み合っている、という方がまだ納得できるでござるな」


 クロエの言葉に妙に納得できた。


「こいつら、なんでここまで仲が険悪なの?」

「拙者にもよく分からないでござる。エルダフォスの名は故郷ヒノイズルでも時折耳にしていたでござるが、その内実はほとんど伝わってないでござる。それに、ヒノイズルに住むエルフはその大半がエルダフォスの外で生まれ育った者たちでござったからな」


「ただ……」とクロエは複雑な感情を含んだ顔になる。


「……そのエルフたちは揃って『エルダフォスのエルフとは関わり合いになりたくない』と口にしていたでござる」

「止めろ、これ以上不安材料を増やさないでくれ」


 ただでさえレグルスから聞かされた話で不安が一杯なのだ。足取りが重くなる。


 これで『レグルスレアルの護衛』か『元の世界に戻る手掛かり』という要素のどちらかが無ければ、例え皇帝の手紙ことばであっても絶対に依頼は受けなかっただろう。


 はぁ、と溜息を吐いていると、クロエが唐突に切り出した。


「ところでカンナ氏、レグルスレアル殿とはちゃんと話はできたのでござるか?」

「いきなりな上にずばり聞くな」

「ちょっとこの空気に耐えられなくて……」


 クロエは困ったように頭を掻いた。


「それに、仕向けた片割れとしてはどうしても経緯が気になって仕方が無かったのでござるよ。それはおそらくファイマ殿も同じでござる」

「ったく、女子かおまえは」

「これでも、花も恥じらう乙女でござるよ!」


 これでも、と言っちゃう辺り、少し自分でも自信が無いのかも知れない。


 乙女は普通、森の中で男に木の上から襲いかかったりしないし、その後貪ったり(比喩)もしないしな。


「せ、拙者のことはいいでござるから。実際のところはどうなったのでござるか」


 俺の視線に含まれる生ぬるさに少したじろぐも、クロエは強引に話を戻した。


「……まぁ、綺麗さっぱり問題が解決したわけじゃぁ無いが、前には進んだよ。多少はな」

「むぅ……些か曖昧でござるな」

「俺にとってもレアルあいつにとってもかなりデリケートな問題だからな。その辺りは察してくれや」

「カンナ氏の口から〝でりけーと〟などという単語が出てくると、違和感が半端ないでござるな」

「しばくぞこら」

「冗談はともかく、多少なりとも進展したのなら、機会を用意した甲斐があったというものでござる」


 俺の半眼をスルーしたクロエは満足げに言った。こちらとしても強引ではあったが話し合いの機会を用意してくれたクロエとファイマには感謝していた。


「ただ、この話をレアルあいつにするのはやめておいてくれ。かなり不安定になってるからな」

「飛竜から降りてから馬車に乗り込むまでは、妙な様子は無かったでござるよ?」

「本人が意識的に自制してんだよ。今のあいつは導火線が極端に短い爆弾みたいな状態だ。下手に突っつくと周囲が全て吹き飛ぶぞ、冗談抜きにな」

「りょ、了解したでござる」


 俺の真剣具合を正しく理解できたのか、クロエは神妙な顔つきで生唾を飲み込んだ。


「や、脅すようなことは言ったが、下手に刺激をしなきゃ問題はねぇよ。本人も大事な任務の最中だって自覚してるからな」


 藪に棒さえ突っ込まなければ蛇は出ない。これは後でファイマにも伝えておこう。



 アラムたちに合流し、森の中を進んで三日が経過した。


 その間、エルダフォスのエルフと帝国軍の間は相変わらずであった。道中に村は無く夜になれば野営を設置したのだが、その間も両陣営ともに互いとは一切関わり合いを持たずに淡々と作業を進めていた。


 荷台の中ではそれほど険悪な空気にはなっていなかったようだ。互いの国を嫌みにならない程度に自慢し合う様な会話がなされていたらしい。


 ただ、アラムの護衛として同席していたエルフの戦士は、ずっと鋭い視線をレグルスレアルとファイマに向けていたとか。


 野営で設置された天幕の席で、ファイマが溜息交じりに隣に座るクロエに愚痴った。


「ずっと眉間に皺を寄せてこっちを見てるのよ、あのエルフ。あんなにずっと続けてて疲れないのかしらね」

「睨まれた感想がそれでござるか。ファイマ殿……ちょっとカンナ氏に毒されてはござらんか?」

「え、嘘っ!?」


 この会話に関しては一時間ほど問い詰めたくなった。


「しかし、何でこうも帝国軍とエルダフォスの連中は仲が悪いのさ」

「かつては戦争をしていた国同士でござるから多少は理解できなくもないでござるが、それも百年以上も昔の話でござろう? 手を取り合う事はできずとも、心情的な妥協はできると思うのでござるが……」

「大まかな理由は推測できるわ」


 俺とクロエの疑問に答えたのは、我らがファイマ先生だ。


「まず一つ目。まずは単純に国交量の少なさよ。特に、国民レベルでの交流は皆無と言っても過言では無いわ」


 ディアガルとエルダフォスの行き交いには、ディアガル側の飛竜での移動とエルダフォス側の案内。この両方が必要になってくる。民間人がこの両方を揃えるのは非常に難しい。可能なのは国の軍部か飛竜を保有できる財力のを持った商人と限られている。


「個人レベルであっても、まず相手の事を知ろうとしなければ仲良くなれないでしょ? 面識がない相手の事を深く知らずに良好な関係なんて結べないわ」

「なるほどねぇ。で、今のが一つ目なら二つ目は?」

「エルフの寿命ね」


 俺もクロエも言われてピンとこなかったが、ファイマは丁寧に続けた。


「エルフの寿命は他の種族に比べてかなり長い。平均的な寿命は百五十歳だけれど、中には二百年近くを生きる例もあるの」

「……もしかして、まだ戦争を体験した世代が生き残っているとかか?」

「あるいは、その子どもの世代ね」


 戦争で親を失ったり大切な人を失ったエルフが今なお存命であるなら、彼らの中にはその憎しみや悲しみがまだ強く残っている。


 エルフは未だディアガルへの強い憎しみを持っている上に、それを解消するための交流機会も少ない。そして、エルダフォスのエルフがディアガルへの強い憎しみを抱いている以上、向けられているディアガルの人間も自然とエルダフォスへの嫌悪を持つようになる。


「戦争で穿たれた『傷』というのは、時間と世代を重ねることで薄れていくのだと聞いたことがあるでござるが……」

「竜人族や私たちにとっては風化してしまった過去の話でも、エルフにとってはまだ生々しく残っているのでしょうね」


 締めくくったファイマの顔は普段通りだったが、意図的にその表情を取り繕っているのだと感じられた。所詮は他国の事情でありそれにとやかく個人的な感情を抱くのはお門違いだと考えているのかも知れない。


 そんなファイマの話を聞いた俺は、素直に納得しかけるがふとレグルスレアルの話を思い出した。


「ん? でも確か、ディアガルとエルダフォスが直接ぶつかり合ってでた被害って、少なかったんじゃ無いか?」


 俺はレグルスレアルから聞いたと前置きをしてから、ディアガル軍とエルダフォス軍が互いの領地の環境に対応できずに立ち往生していたことを伝えた。


「それは初耳ね。でもそうなると、エルダフォスの人間がディアガルを強い憎しみを抱く理由に説明が付かない」

「相手の領内を進軍中に死んでしまったのなら、それは相手国に殺されたようなものではござらんか?」


 クロエの言い分ももっともらしいが、そう単純なのだろうか。


 実際のところは、現時点で答えは出なかった。


 ──俺はこの時の会話を、彼の地に着いてから強く思い出すこととなった。

最近、食材がちょいちょい余ったら土日にまとめてお好み焼きにして食べるのがナカノムラのブーム。

ご飯混ぜたりトマト混ぜたりと、『明らかにヤバイだろ』って食材以外はだいたい美味しく食べられる。

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