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第百七十話 森の中には数多の大平原が存在していた(比喩)


「お疲れ様」

「キュイ♪」


 着地したヴァリエに労いの言葉を掛け、俺はその背中から飛び降りた。


 飛竜の背から眺める高々度からの眺めは絶景であったが、やはり地面に足が付いているのは落ち着く。人間とは大地と共に生きる生物だと実感する。


「んで、先方さんはあっちにいる奴らか」


 飛竜の着地地点から少し離れた場所に、複数の人間が陣取っている。この距離からであれば彼らの外観が把握できた。


 レアルと同じ、長い耳を持った種族──エルフだ。


 大半が身に纏っているのは、狩人風の装備。剣や槍を携えているものはいるが、それらを含めて全員が背中に弓と矢筒を背負っている。


「みんな弓を持ってるんだな」

「狩猟を生業とするエルフにとって、弓術は民族を象徴するお家芸だからな。もっとも、混じり物・・・・の私にとっては、弓よりもこいつの方が性に合う」


 レアルは親指で自身の背中に携えた大剣を差した。


 ──そもそも、弓の弦を引くのにあの爆乳スイカは邪魔だもんな。


 と、脳内で想像しつつも彼女には絶対に視線を向けなかった。だって、下手に顔向けたら考えてることバレるし。魔力が〝もやっ〟とするに違いないし。


 いかんいかん。自重すると言ったばかりだ。普段のお馬鹿な思考は控えなければ。


 己に言い聞かせていると、エルフの集団がこちらに近づいてくる。顔を確認できる距離になったが、やはりというべきか誰も彼もが妙に顔が整っている。


 そして、女性も何人か混じっていたがやはりちっぱい勢だ。こう……胸元から胴体辺りまでが〝すとーん〟と見事に一直線。


 まさに広大な大平原だな。


 エルフたちの先頭に立つ男性は、他の者が戦士風の格好をしているのに対して、ゆったりとした法衣のようなものを纏っている。


 法衣のエルフは笑みを浮かべながら、集団から一歩踏み出した。


「ようこそおいでなさいました、帝国軍の方々。私はエルダフォスにて外交の任を国王より仰せつかっているアラムと申します」

「帝国軍所属幻竜騎士団団長のレグルスだ。ディアガル皇帝陛下の親書を届けるために参上した。わざわざの出迎え感謝する、アラム殿」


 そう言って、アラムと名乗ったエルフはレグルスレアルと握手を交わした。


「仮面のままであることを許して頂きたい。あまり人様に見せられるような代物で無くてな」

「いえいえ、噂はかねがね聞いておりますよレグルス様。『竜剣』の名はエルダフォスより伝え聞くところ。武勇に名が高きディアガル皇帝の懐刀に会えて光栄です」

「懐刀とは身に余る。私は皇帝に使える一振りの剣に過ぎませんゆえ」

「はっはっは、ご謙遜を」


 アラムは内心はともかく表面上は紳士的な態度だ。選民主義者の集団だと聞いていたが、外交の役を担っているならそれだけだと務まらないか。


 ただ、彼の背後に控える護衛であろうエルフの戦士たちからは、ひりひりと強い警戒心が伝わってくる。とても友好条約を結んでいる相手と対峙しているようには見えない。


 そしてそれは帝国軍こちらも同じだ。得物にこそ手を掛けていないが、切っ掛けさえあれば爆発してしまいそうな緊迫感。


 ……ここは一発、派手な芸でも決めて場の空気を和ませるべきか?


 顎に手を当てて悩んでいると、不意にレグルスレアルがグリンとこちらを振り向いた。


 ──ヤラカシタラワカッテイルナ?


 仮面の奥に隠れている目が語っていた。


 ──イ、イエッサー!!


 俺もガクブルしながら目で答えた。


「どうしましたレグルス様?」

「いえなんでも。こちらのことなので気にしないで頂きたい」


 視線を元に戻したレグルスレアルは、アラムの疑問に何事も無かったかのように返した。


 

 

 飛竜たちは長時間の飛行で疲労しており、今日はこれ以上の飛行は無理だった。切なげに鳴くヴァリエに別れを告げながら撫でてやり、送還の術式で光りに包まれるのを見送った。


 ここからエルダフォスへは上空から見たとおり森を突っ切る必要がある。多少なりとも道は整備されているが、それは森で生きるエルフが基準の話であり、通常の馬車等では移動が困難だ。これがエルフだけであれば、木の枝を飛び移り素早く移動できるのだが、他の種族にそれを求められても酷だ。


 そんなわけで、しばらくの間は徒歩で進むことになる。


「そりゃまぁ別に良いんだが、ファイマはどうすんだ? ぶっちゃけ、あいつの体力ははかなりしょっぱいぞ?」

「……しょっぱくて悪かったわね」

 事実を言われてむくれるファイマ。騎士たちは普段から体力作りをしているだろうし、俺はドラグニル近郊の森でギルドの依頼をこなしていたために多少は慣れていた。


 クロエに至っては、エルフと同じく木々を飛び移りながら移動できるという。


「その気になればおまえレグルスもできるんじゃねぇの?」

 半分とは言えエルフなら、と思ったのだが。

「私に、そんな器用な真似ができるとでも?」

「……無理だな。飛び移った枝とか粉砕しそうだ」

「失礼だな──と言いたいところだが、おそらくそうなるであろうな」

 

 冗談はさておき。

「ファイマに森の中を歩かせるのはかなり無理があるんだが、どうするんだ?」


 ファイマは出不精じゃないが、運動能力はもやしだ。不慣れな森の中を歩けば途中で確実にバテる。まさか、誰かが背負っていくのか。俺が立候補したい。おっぱい背中に当たるだろうし。


「私とファイマ嬢は先方が用意してくれた馬車に乗る。楽をしているようで申し訳ないが、親書を預かる身だからな」


 アラムたちに案内されて森の中に入ると、レグルスレアルが言った『馬車』らしきものを見つけた。


 ただし、俺の想像していた馬車とは全く違う形をしていた。


「……馬車?」

「正確に言うならば『鳥車ちょうしゃ』だ」


 大きさこそ通常の馬車と同じなのだが、まずそれを引くであろう動物が、馬ではなく巨大な鳥であった。地球の駝鳥ダチョウに、もっと羽毛が生えた姿を想像してもらえると一番近い。全長も馬とほぼ同等であった。


「森の中を走るのに適した『陸走鳥』だ。エルダフォスでは他国における馬のような存在だ」


 そして驚いたのが、馬車──否、鳥車ちょうしゃだ。これには車輪がついておらず、何と底面が地面から離れ宙に浮いているのだ。


「エルダフォスの領内は木々が生い茂っており、その根の影響で地面の起伏が多く平坦な道というのが少ない。通常馬車の様に車輪での移動は困難です。ですので、荷台の底面に特殊な魔術的処理を施し、地表の影響を受けなくするために宙に浮かせているのですよ」


 アラムの説明を聞いたファイマの目がきらきらしていた。特殊な魔術的処理と聞いて好奇心に火が付いたようだ。


「ファイマ、駄目だぞ」

「わ、分かってるわよ……」


 俺が名を呼んで軽く注意すると、ファイマは「くぅぅっ……」と好物を我慢するような仕草で目を逸らした。


 それからレグルスとファイマ。そしてアラムと他エルフ一人が鳥車に乗り込み、エルダフォスとディアガル混合の集団が移動を開始した。


 俺とクロエ、そして今は帝国軍の装備を纏うキスカは鳥車の側を歩く。


 キスカは本来ファイマの護衛であるし、俺も今回の依頼は親書を運んでいうるレグルスの護衛。クロエは──冒険者のランクはあちらが上だが、俺の手助けフォローの為に同行している。何かあれば即座に動ける位置にいるのは当然だった。


「……最近、私ってちょっと空気じゃない?」

「「気のせいだ(でござる)」」


 ほろりとキスカが漏らしたが、俺とクロエは即座に否定した。


 大丈夫、俺たちは忘れていないから。


 

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