第百六十九話 ちっぱいにも需要はあるが少なくとも俺に需要はない
俺が真摯な態度で宣言すると、レアルは溜息をついてから改めて口を開いた。
「真面目な話をすれば、もしかしたらエルダフォスにいる間は君に相当な負担を掛けることになるかも知れん」
「また何でさ?」
──もしかして、エルフの女性って貧乳ばかりだから、おっぱい成分が不足するからか?
と、心の片隅でちらりと考えたが、レアルが魔力をちらりと漏らしたのでそうではないと分かった。
……だからなぜ考えていることが分かるんだよ。
「エルダフォスに住むエルフの気位の高さはある意味で竜人族の上を行く」
「微妙な言い回しだな……」
「ドラグニルには様々な種族の人間が住んでいる。その為か、竜人族の多くは他の種族に対しても寛大であるし、種族ゆえの個体差というのにも理解がある」
俺はドラグニルの活気に満ちた街並みを思い出した。
「それに、竜人族は確かに己の種族に誇りを持っているが、それ以上に実力主義者が多い。他種族であれ、強き者には敬意を払う。だが……エルダフォスの価値観はその真逆だ」
──ディアガルの人間が武を貴ぶのならば、エルダフォスの人間は〝血脈〟を尊ぶ種族。
「エルダフォスの人間にとって、大事なのは先祖代々の血を如何に濃く受け継ぎ、どれほど強い魔力を有しているかだ。そのどちらか──特に血統を有していなければ、いくら武功に優れていようとも彼らは他者を容易には認めん」
多種族ひしめき合うドラグニルとは違い、エルダフォスに住まう国民の大半がエルフ。加えて、エルダフォスにも貴族階級はあるものの、その全てが純血のエルフに限られていた。
「そういやぁ、ディアガルの貴族は竜人族以外にもいたな」
ルキスの実家は皇家に次ぐ権力を持つ公爵家だが、あいつ自身は人族であり、その親も同じく人族だ。他にも、ファイマと一緒に招待されたパーティーでも、様々な種族の人間が参加していた。
「割合的には竜人族の貴族が多いとはいえ、それ以外の種族でも何らかの高い功績を挙げ、貴族位を陛下より賜る者もいる。だが、エルダフォスであればまずそれはあり得ない」
エルダフォスの貴族は何よりも血と魔力を重んずる。
実力主義のディアガルとはまさしく〝水と油〟だろうな。
「……よくそんな真反対な価値観を持つ奴らと友好関係結べたな、ディアガル」
「友好とは聞こえがいいが、その本質は〝不可侵条約〟だ。思想云々の違いで戦を続けても、どちらかが滅ぶまで続くからな」
ならば下手に価値観を擦り合わせるよりも、互いに不干渉を宣言した方がスムーズに事が進むと考えた。両国の間に挟まる険しい道程もあり、状況的にも都合が良いわけだ。
「不可侵とはいえ友好条約だ。完全に不干渉だと色々と不具合が生じてくる。最低限の交流は現在は続いているし、今回の任務もその一環。互いの腹を探る意味でも必要な事だ」
彩菜の口から企業間でも似たようなやり取りの話を聞いたことはあったが、それが国家規模になると本当に生臭い。だが、思想を完全に共有化できない限りは、このような形になるのか。
「ん? でも、ドラグニルにもエルフとか普通にいたけど?」
数は他の種族に比べて圧倒的に少なかったが、何度か見かけたことはあった。
「エルダフォスはその住民のほぼ全てがエルフではあるが、全てのエルフがエルダフォスに住んでいるわけではない。私のようにエルダフォスを訪れたこともなく、他の地で生まれ育ったエルフも多くいる。中には、故郷の気風を嫌って出奔する者もいるさ」
あくまでも、エルダフォスで生まれ育ったエルフが純粋培養なわけか。
「少し話が遠回りになってしまったわけだが、つまりそう言うわけだ。君の場合、人族である上に魔力を持たない。おそらく、純粋なエルダフォス育ちのエルフとカンナとの相性は最悪だ。ただ、残念ながら今の君は──面目上は私の護衛としてここにいる」
「普段の調子で挑発に乗ったら、俺を雇ってるディアガルの体面が悪くなるって事だろ?」
「……申し訳ないが、その通りだ」
「分かったよ。必要に迫られない限りは貝のように口を閉じてる。それで良いだろ?」
今のレアルほどでは無いが、俺も気が長い方ではない。仲間以外との会話は極力控えた方が無難だろう。
「まったく、どうして誰もそういった話を事前じゃなく、直前に言うかね。特にリーディアルの婆さんはその辺りは分かってただろうに」
「この話をしたら、君が依頼を受けるのを渋ると考えたのだろう」
「うっ……確かに」
皇帝から『エルダフォスに元の世界に戻る手掛かりがある』と手紙で知らされはしたが、エルフがどんな人種なのかを知らされていたら尻込みしていたかも知れない。いくとしても、後回しにしていた可能性は大きい。
「……さて、そろそろ見えてきたぞ」
まだ距離があり小さくではあるが、深い森の中にぽっかりと開けた場所があった。よく見れば米粒ほどではあるが人影のようなものも確認できる。
「既に先方は到着してるっぽいな」
「今から着陸態勢に入る。しっかり捕まっていろ」
「了解」
レアルの言葉に従い、俺は彼女の躯に近寄りその胴に手を回した。
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