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第百五十九話 飛ぶことは人類にとっての憧れである──時と場合によるが


 いろいろな準備を終え、俺たちはエルダフォスへと出発した。


 ドラグニルから飛竜に乗って直接エルダフォスには向かわず、魔導列車が開通している限界まで行き、そこから飛竜で空を飛んで国境代わりになっている山脈を越える手筈だ。


 俺たちが今乗っている列車は帝国軍が所有する列車で、民間の荷や客を乗せているそれよりも性能が上のようだ。装甲は当然として速度もかなり速い。


 天竜騎士団は一緒の列車には乗っていない。既に飛竜での出発地点となる場所で待機しており、俺たちの到着を待っている。


レグルスレアルはこの列車の中でも最も守りが強固な迎賓用の車両に乗っている。俺たちは一般兵が使う簡素な作りの車両に乗せられていた。


 なお、レグルスレアルが出した条件もあり、ファイマが今回連れてきた護衛は同性であるキスカ一人だ。実力的に考えればランドを連れてくるべきなのだろうが、男性ではどうしても守りが甘くなるタイミングがあるため、彼女が選ばれた。キスカは一緒に登場している幻竜騎士団の面々と、少し離れた椅子に座っている。


 俺は窓縁に肘を付き、外の光景を眺めていた。ただ、景色を楽しんでいたわけではなく、頭では全く別のことを考えていた。


「ねぇ、ちょっとカンナ」 

「あん? なんだよファイマ」 


 不意にファイマが声を掛けてきたので、そちらに顔を向ける。


「今回はなにを仕出かしたのよ」

「……それだけで全てを察せるほど、俺は頭良くねぇぞ」


 言葉を返すと、ファイマは「はぁ」と溜息をついた。まるで俺が全面的に悪いと言わんばかりだ。


団長レグルスさんの事よ」


 ──今まさにその事を考えていた。図星を突かれた気持ちになり、小さく眉間に皺が寄ってしまった。俺の反応に気分を害された様子もなく、ファイマは構わずに続けた。


「あなただって、団長さんの様子が変なのは気づいているでしょうに」

「だからって、俺に心当たりはねぇよ」

「本当に? いつもの調子で失礼を働いたんじゃないの?」

「俺が息をするように人様に失礼を働く人間みたいに言うんじゃねぇよ」

「──謁見の間での〝腹の虫こと〟を考えれば、ファイマ殿の危惧も自然な事だとおもうでござる」


 クロエに言われてしまい、ぐぅの根も出なかった。


「……あの時は確かに俺が悪かったかも知れない。けど、レグルスレアルに関しては全く不明だ。俺だって妙だとは思ってるけど、なにが悪かったのか検討もつかねぇんだよ」


 病院を退院してから皇帝と食事をしてレグルスレアルと別れるまでは普段通りだった。なのに、その翌日からレグルスレアルの様子が急変したのだ。俺との接触を極力避けるように、必要最低限の言葉以外は口にしなくなっていた。


 ──意中の相手に避けられるのが、ここまで辛いとは思いもしなかった。


「しつこいかもしれないけど、本当に心当たりはないの?」

「ないっての。むしろ俺が知りたいくらいだ」


 重ねて問いかけてくるファイマに、俺は溜息交じりに答えた。


「……レグルス殿と別れてからあの方の気分を損ねるようなことがなかったか思い出してはどうでござるか?」

「だから、別れてから次の日まで一度も会ってないって──」

「とりあえずでござるよ。もしかしたらなにか手掛かりがあるやも知れぬでござる」


 珍しくクロエが建設的な意見を出してきた。一理あると感じ、俺はレグルスレアルと別れてから翌日に再会するまでの事を順序よく思い出していった。


 ………………………………。


 ………………………………。


 ………………………………。


「………………」


「ど、どうしたのでござるかカンナ氏。急に顔色が悪くなったでござるよ?」


 俺は血の気の引いた顔でファイマの方を向いた。すると、彼女も俺が今なにを思いだしたかを気がついたのか、同じく顔色を悪くした。


「もしかしてお二人とも心当たりがあるのでござるか?」

「「…………………………」」


 クロエの言葉に答える余裕もなく、俺とファイマは揃って冷や汗を掻いた。


 原因があるとすれば、ファイマとの『ニャンニャンタイム』しか考えられない。思い返すと、あの日ファイマの部屋を訪れてから部屋の扉に鍵をかけた記憶がなかった。だが、そうなるとレグルスレアルが部屋に来たということだ。


 や、まてまて。まだ本当にそれが原因だとは限らない。もしかすれば、まだ気がついていない原因があるかもしれない。 


「──ん?」


 その時、俺はまるで天啓が降ったかのように冒険者ギルドで婆さんと交わした会話の内容を思い出した



 ──そいつぁおかしいね。ちゃんと、レアルの奴に伝言を預けたはずなんだがねぇ。



「あれかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?」


 疑惑が確信に至った瞬間、俺は頭を抱えて絶叫した。ファイマとクロエが発狂する俺に驚いていたがそれどころではない。 


 本命の相手に、他の女とよろしく・・・・やっている瞬間を目撃されたとあってはもはや挽回できるはずがない。


 ヤバいってレベルの失態じゃないぞこれ。気づいた時点ですでに致命傷を負っていたような状況だ。


 ……………………………………。


 ガラッ。


「カンナ氏。どうして急に窓を開け──なに窓枠に足をかけて身を乗り出しているのでござるか!?」

「お、落ち着いてカンナ! 気持ちは分からなくもないけど早まらないで!?」

「俺は今、猛烈に現実から飛び立ちたい気分なんだ! 離してくれ二人とも!!」

「現実というかこの世からあの世に飛び立っちゃう勢いでござるよ!?」

「誰かカンナを止めるの手伝って! このままだとほんとに飛び降りそうよ!!」


 ファイマの呼びかけに、ようやく状況を察したキスカや幻竜騎士たちが駆け寄ってきた。


 高速で走る列車の窓から飛び降りようとする俺と、服を摑んで阻止しようとしてくるその他大勢の図ができあがる。。


「というか、本当になにをしでかしたのでござるかカンナ氏!? できれば拙者にも事細かく詳しく説明して欲しいでござるのだが!」

「えっ!? そ、それはちょっと……」

「ファイマ殿、なんでここで頬を赤らめるので──ってファイマ殿ぉぉぉっ、手を離さないでござるよ! 本当にカンナ氏がおっこっちゃうでござるから!!」


 ──結局、俺はその場にいた人間の総出で投身自殺を阻止され、終着駅に着くまで自責の念でうなだれるのであった。



 

短期連載作品

『導く者は吸血の姫君と踊る』を投稿しました。

http://ncode.syosetu.com/n2432dy/

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