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第百五十七話 実はオシャレ好きなのかもしれない


 皇居の居室に戻ると、ファイマは身なりを整え普段通りの姿になっていた。


 彼女は俺の顔を見て少し頬を赤らめつつも、それ以上には動揺することもなく声を掛けてきた。


「お疲れ様、カンナ。契約の更新ありがとうね」

「や、その事に関してちょっと話しておきたいことがある」


 俺はBランク昇格の話と、その試験代わりに依頼として隣国へ向かわなければならないことを伝えた。もちろん、婆さんの口から語られたレアルの過去話は伏せてだ。


「──ってなわけで、護衛の契約更新は保留にしてきた。約束をしておいて悪いんだが、お前の長期護衛はその依頼が終わった後にして欲しい」


 俺はファイマに向けて頭を下げた。言ったとおり、一度口に為た事を反故にするのだから最低限の礼儀だ。


「……話は分かったわ。依頼更新を延期するということは──」

「ああ。『エルダフォス』って国に親書を護送する依頼、受けるつもりだ」


 ファイマは少しの沈黙の後に微笑んだ。


「Bランクの昇格は喜ばしいことであるし、皇家直々の要請だものね。あなたの目的を考えれば断れる理由もない。良いわ、私の護衛の話は保留にしておきましょう」

「大丈夫なのか?」

「あなたの側でなくとも、下手に動き回らなければ問題ないわよ。少なくとも皇居の中にいればそれなりに安全だもの」


 安全だと断言できないのは、大いなる祝福アークブレスに所属するAランク級の組織員が大挙に押し寄せればどこにいても危険度はさほど変わりないからだった。


「それにしてもエルダフォスかぁ……。ところで、カンナはエルダフォスという国がどんな国かは知ってるの?」

「……実はあんまり覚えてない」

「でしょうね。各種族の説明をしたときも、ディアガル帝国以外の各国に関しては深くまで話さずに軽く済ませてしまったものね」


 ファイマは荷物入れの中を探ると一枚の折りたたまれた紙を取り出し、テーブルの上で広げた。どうやら地図のようだ。


「ここが私たちの今いるディアガル帝国の都ドラグニルよ」


 形の良い指が示したのは周辺を山でぐるりと囲まれた領地の一カ所。地図には確かにドラグニルと書かれている。


「で、エルダフォスの首都はここ」


 次にファイマが示したのは山を隔てた先にある場所。地図の上だけで見れば、かなりの近距離だ。


「見れば分かるとおり、双国の中心都市同士を結ぶ直線距離は短いけれど、ディアガル領からエルダフォス領への境には大きな山脈が切り立っているの」


 ディアガル帝国とエルダフォスは、あくまで直線距離に限って他国よりも近いという形だ。


 というか、ディアガル領そのものが山脈に囲まれている。前に、ディアガル帝国は他のどの国からも長い間知られることのなかった国家と教わったな。ディアガル帝国の存在が知られた当初は、竜人族は人種族の一つであると認められず魔獣の一種と認識され各国と戦争が起こったとも。


 だが、距離は近くともディアガル帝国とエルダフォスの間には巨大な山脈がそびえ立っている。しかも他の領と比べて一回り近く大きく険しい。だが逆にそれが、双国のぶつかり合いが少なかった要因となり、友好関係を結んだ時期も他国に比べて早かった。


「友好関係というよりかは、〝不干渉〟を結んだといったほうが正しいかしらね」


 ディアガル帝国での長距離移動にかかせない魔導列車だが、帝国とエルダフォスの間ではその線路の数が他の地域に比べてかなり少ない。道が険しいことと、強力な魔獣の生息地域が多すぎるからだ。


「……どうやっていくんだよ、そんな秘境みたいな場所」

「おそらく、飛竜部隊──天竜騎士団に協力を要請するんでしょうね。険しい道のりも、空を飛んでしまえば関係ないわ」


 また天竜騎士団かよ。悪印象は先日の遺跡で戦っていた姿を見てほとんどなくなっていた。高いプライドに裏打ちされた戦闘力は秘めていた。一方で〝またか〟という気持ちになるのも事実だった。


 そこで俺は思い出す。


「飛竜ってのは、長時間飛ぶのは無理なんじゃなかったか?」


 レアルの召喚した竜の背に乗って、大精霊の封印されていた霊山を飛び越えた事がある。その時、レアルから飛竜の特徴と欠点を教わっていた。


「確かに、飛竜は飛行速度と到達高度はかなりのモノだけど、その代わり長時間の飛行ができないわ。でも、ドラグニルから直接エルダフォスの首都を目指すわけではないはず。間違いなくいくつかの中継点がある。そこで休息と補給をしがら進めば問題ないでしょうね」


 休憩を挟みつつ、というわけか。


 納得した俺は今度はエルダフォスそのものに関して聞こうとした。


 だが、その前に部屋の扉をノックする音が響いた。ファイマがキスカの方を向くと、彼女はノック音の主を確認するために扉を小さく開いて来訪者を確認した。小さな声で言葉を交わし、キスカがこちらの方を振り向く。


「お嬢様。幻竜騎士団の団長殿がお見えになっていますが」

「分かったわ。通してちょうだい」


 キスカが外にいる者に頷くと、扉を大きく開いた。中に入ってきたのはレグルスレアル。その後ろにカクルドとスケリアが続いて部屋に入った。遺跡で意識を失ってからはまだ顔を合わせていなかったが怪我の方は治ったようで安心した。


 レグルスレアルは俺を見ると僅かに躯を強ばらせた。


「……いたのかカンナ」

「や、そりゃファイマの護衛だからな。で、どうしたよ。調子でも悪いのか?」

「私事だ。君に言うことではない」


 言葉の中に小さな拒絶感のようなものを感じ取った。心の中で疑問符を浮かべているも、それよりも更に気になる点を見つけた。


「あれ? その鎧、妙に新しくないか?」


 昨日と比べて、レグルスの纏う全身鎧の艶が違う。まるで新品であるかのような艶やかさだ。


「……君が関与する事ではない」


 またしてもレグルスは冷たく切り捨てたが、俺は頭の中であの全身鎧が衣装棚クローゼットの中でズラリと一列に並んでいる光景を想像してしまった。もしかしたら、同じスーツばかりを集めるジェントルマンと同じく、その日の気分で纏う鎧を選んでいるのかもしれない。実は結構なおしゃれさんなのか。鎧をチョイスしてる時点で間違っていると思うが。


「少なくとも、今君が考えているような事実は無いからな」


 なぜ分かったし。


「君が真剣な顔をするときは、大抵ろくな内容じゃないからな」


 以心伝心ができていてなによりだ。


「君と無駄話をしにきたのではない。少し黙っていてくれ」


 やはり、レグルスレアルの様子が普段と違う。どうにも俺との接触を避けているように感じられた。


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