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第百五十四話 基本的に彼が介在できない話はシリアスになる

レアルのお話(過去編)。

とはいうが、全貌ではなく一部です。


 ギルドマスターに出されるだけあり、やはりシナディさんの淹れるお茶は美味い。躯に染み渡るような旨味だ。


 一息ついてから、婆さんが語り出した。


「実は言えば、レアルの母親とは個人的な知己だったのさ」

「レアルの母親って……エルフだよな?」

「あの子の母親らしく、大層な美人だったよ。今のあの子を金髪にしてドレスで着飾ったら、母親そっくりになるだろうね」


 俺は頭の中でドレス姿の金髪のレアルを想像した。髪の色を変えただけなのに中々にくる・・ものがあるな。


「まぁ、あそこまで怪力無双じゃぁなかったし、胸もでかくなかったが。ありゃ父親側の血だろうねぇ」


 思わず、ドレス姿で大剣を豪快に振り回す金髪エルフを想像してしまった。ギャップ萌えとかそんなレベルではなく、ちょっと顔が引きつった。


「あの子の母親──レイリーナはとある裕福な家庭の娘でね。当時、現役だった私は冒険者としてその身辺警護を一時期任されていたのさ」

「ちなみに、その時のランクは?」

まだ・・Aランクだったね」


 ……もしかして、レアルってもの凄い良いとこのお嬢様なんじゃねぇのか。だってAランクの冒険者を護衛にできるほどの裕福な家だぞ。


「エルフだけあって他の種族よりも肉体的の成長は遅くてね、娘と母親くらい見た目の差はあったが歳そのものは近かった。だからか、いつのまにか意気投合して、依頼の契約期間が過ぎた後でもちょくちょく会うようになったのさ。あの子も家から滅多に出られず箱入り娘みたいな境遇だったためか、人との交流に飢えていたし、私も依頼の合間に逢えることに安らぎを感じていた。そしていつの間にか親友とも呼べる間柄になってたよ」


 もちろん、母親に見えていたのは私だろうけどね。と婆さんは懐かしげにいった。


「本当に良い子だったよ。箱入り娘って事もあるだろうけど、性根が真っ直ぐで心の底から誰かを思いやることのできる娘だった」


 滅多に家の外に出られなかっただろう。婆さんの冒険者としてのエピソードを興味深そうに聞いていたようだ。その一方で既に過去とはいえ婆さんが危機的状況に陥ったような話をすると、レイリーナは本当に心配そうな顔をしていたそうだ。


「……けど、ある日突然レイリーナは姿を消した。それを知ったのは、私のところにあの子の捜索依頼が来てからだ」


 思いを馳せる様子から一転し、婆さんの表情に後悔の念が混じった。


「その頃の私は最高難易度の依頼を終えて、遂にSランクに到達していた。冒険者を志してから長年の夢だったからね。あまりにも嬉しくてレイリーナにも報告しようと思っていた矢先さ」


 書き置きもなく誰に告げたわけでもない失踪だったらしい。友人の捜索を婆さんが断る理由はなく、冒険者としての伝手を利用しながらもレイリーナの捜索を開始した。だが、なんら成果を得られぬまましばらくの時が経過した。


 まったく成果が上がらないことに、とうとうレイリーナの生家は娘の捜索を断念し依頼を取り下げたが、婆さんはその後も個人的にレイリーナの行方を追っていた。


「そして、冒険者を引退して今の地位に収まってから……ようやく見つけることができたのさ」

「めでたしめでたし──って流れじゃないよな」

「ようやく見つけたあの子は……死に際だったよ」


 そもそも婆さんがレイリーナを見つけることができたのは、レイリーナ自身が婆さんに手紙で居場所を教えたからだ。だが、その居場所というのは、ドラグニルの病院。俺が依頼の最中に意識を失い、二度ほどお世話になったあの病院だ。


「治癒術式でも、もはや手が施しようのないほどの重傷だったらしくてね。私が急いで呼び出された部屋に駆けつけたときには、生きているのが不思議なほどだったようだ」


 そして、その場にはレイリーナと担当医の他にも、幼い子どもと大剣を背負った一人の男性がいた。


 それが、まだ幼かったレアルと。


 レイリーナの夫でありレアルの父親であった男だ。


 これが、レアルと婆さんの最初の出会いだった。


「…………レイリーナが亡くなったのは、私と再会してから三日後のことだった」


 訃報を聞き再度病室を訪れると、部屋にいたのは既に冷たくなったレイリーナと、父親が背負っていたはずの大剣を腕に抱いたレアル。そして、レイリーナとその夫が残した手紙だけだった。


「手紙には、レイリーナが失踪した理由と、レアルが独り立ちできる日まで面倒を見てほしいとの懇願だった」

「失踪した理由ってのは?」

「ここまで話しておいて悪いが、こればかりは小僧にも教えられないよ」


 おそらくこの話で一番複雑な部分なのだろう。婆さんの有無言わさぬ迫力に、俺は素直に従い続きを促した。


「で、後は想像できるだろう」


 遺言に近い友人の願いを無下にできず、婆さんはレアルを引き取った。やがて、レアルはリーディアルに弟子入りし冒険者となった。


「──そして、とうとうAランク冒険者になり、代名詞となる『竜剣』の名前を授けた。それからしばらくして、レアルは冒険者を辞め『レグルス』という名前で帝国軍に入ったのさ」

「帝国軍に入るのは元から決めてたのか?」

「私に弟子入りするときもあらかじめ宣言していたよ。一緒に暮らして数年した時点で、あの子には才能があるって分かったからね。弟子入りはむしろ歓迎したよ」

「才能って……具体的には?」

「エルフの外見からは考えつかないほどの膂力と頑強さだ」


 女性に対しては褒め言葉に入る部類ではないな、その単語は。面と向かって言えばビンタ必須だろう。


「扱えないにしても私と出会った時点であの大剣を持ち上げることはできていた。頑強さも、魔力で身体活性していないときでさえ並みの刃物じゃ擦り傷程度がやっとってほどだ」

「……それって、何年前の話だよ」

「十年以上前だねぇ」


 つまり、年齢一桁であの大剣を持ち上げることができていたと。その時点で既に俺の腕力を超えていたのではなかろうか。末恐ろしすぎる──あ、その末があの無双劇か。ゴブリンやリザードマンの大群のど真ん中で大剣や矛を振り回しているレアル(レグルス)の姿を思い出す。


「正直な感想を言っちまえば、私に弟子入りしなくてもあの子なら一人でもAランクに到達しちまったと思うね。それに、あのまま冒険者を続けていればほぼ確実にSランクに到達できただろう」

「そこまでかよ」


 師の贔屓目は多少あろうが、婆さんの断言に俺は辟易した。


「父親譲りであろう頑強な躯と膂力に加えて、母親からは高い魔力と魔力親和性を受け継いでいたからね。攻性術式こそ不得手だが、補って余りある長所だ」


 その上、本人は生まれ持った才能に胡座を掻かず、現在進行形で己を鍛え上げてる。


「素質の時点で私以上のものを確実に持ってた。このまま順当に行けば、間違いなく歴史に名を残す英傑になるだろうよ」


 婆さんは誇らしげに締めくくったが。


 ──もしや俺は、とんでもない相手に惚れてしまったのではないだろうか。

前書きで説明したように、レアルの過去を全ては説明していません。後々に加えていく予定です。

また、本文の中であえて言及していない幾つかありますが、リーディアルが意図的に流している状態です。こいつらに関しても徐々に掘り下げていきます。


主人公の存在がおかしいだけであって、彼を取り巻く環境は冗談抜きでシリアスが一杯です。

奴が全部悪い(つまりはそいつを書いてるナカノムラが黒幕)


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