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第百五十一話 暴走する想い

PV数が20000000を突破しました!

これからも『カンナのカンナ』をよろしくお願いします!


 レアルが我に返ったとき、最初に目に飛び込んできたのは眼前に深々と、そして長く穿たれた斬撃の跡。紛れもなく、彼女が叩き込んだ大剣の一撃によるものだった。


「あぐっ──っ!」


 ドラゴニック・レイジの反動──凄まじい虚脱感が全身に襲いかかった。耐えきれずに彼女は膝を付く。


 咄嗟に剣を突き立てて倒れ込むのだけは辛うじて堪えたが、その拍子にとうとう全身鎧が限界を迎えて崩壊し、彼女の顔を含む各所が外気に晒された。


 ──余談だが、ドラゴニック・レイジを使用すると、レアルの強化された膂力の反動に耐えきれず鎧の崩壊は不可避となっていた。その際、恥部を晒すのを避けるために胸部と下半身──下着を着けるべき部位の鎧は特に強固に作られおり、鎧が粉々になった場合でもこの部位だけは確実に残る仕様となっていた。それでも破損が著しく、鎧としての機能は殆ど有していないが。


「……また、ベクトから小言を言われるな」


 破片となって散らばった鎧の残骸を目に、レアルは力なく笑みを浮かべた。


 先ほどまで全身を支配していた激情は、ドラゴニック・レイジが解除されたのと同時に静まりかえっていた。


「それにしても、我ながら随分と派手にやってしまったな」 


 冷静な思考を取り戻したレアルは剣を支えにして躯を立て直し、改めて己が穿った一撃の爪痕を見据える。


 無意識で人気の無い町の外まで出ていたが、今思えば正解だった。もし皇居の中や町中で〝箍〟が外れていれば大惨事になっていただろう。


「──『暴走』か……」


 強い感情に支配され、躯の制御が奪われそうになることは、レアルにとってはこれが初めてでは無い。今回を除き、昨今で一番近かったのはユルフィリアの牢に捕らえられていたときだろう。


 しかし、あの時は『憎悪』に支配されそうになりながらも限界ぎりぎりで理性を保つことができた。でなければ、ユルフィリアの軍に追い立てられ、捕らえられる寸前で『暴走』を起こし、並み居る兵士たちを相手に暴虐の限りを尽くしていた。それこそ国交に致命的な亀裂を生じさせていただろう。


 あえて言うなら、ユルフィリアの潜入任務がレアルに任されたのも皇帝が彼女の持つ『自制心』の高さを見込んだからでもあった。


 だが、どうしてか。今回の『暴走』を堪えることができなかった。無意識に衝動を発散する場所を求めるほどに……。


「……後日に部下を派遣してこの斬撃の跡は埋めさせるか」


 職権乱用な気がしなくも無かったが、町から離れているとはいえこの場所を誰かが通らないとは限らない。そう、これは公的な理由があるのだ。


「と、ここで立ち往生しているわけにもいかんな」


 まだ反動で躯は本調子とはほど遠いが、レアルは大剣を改めて眼前の地面に突き立て、術式を解放した。


「来たれ──我が翼よ」


 呼び声に応じ、召喚の術式から閃光が弾けるとレアルの契約している飛竜が出現した。


「キュイィィィィッッ!」

「ああ、済まない。最近は何かと忙しくて構ってやれなかったな」


 すり寄ってくる竜の首筋を撫でてやると、竜は気持ちよさそうに目を細めた。


「……キュイ?」


 竜が辺りを見渡し、首を傾げた。誰かを探しているかのような仕草だ。竜が誰を求めているかを承知の上で、レアルは竜の頭を撫でながら申し訳なさそうに言った。


「残念ながら私一人だ。彼はこの場にいない」

「キュィィィ……」


 寂しげな声を漏らす竜に、レアルは思わず苦笑した。


 ──女誑しならぬ、竜誑しか。


 あるいは、この竜は『雌』なので女誑しは健在かもしれないな、と下らないことを考えてしまうレアル。


「さて、町まで乗せていってくれ。実は言うと立っているのも少々キツいのでな」

「キュイッ!」


 レアルの願い出に快く頷くと、竜は地に伏せ乗りやすい体勢になった。レアルが跨がると竜は翼を大きく広げて羽ばたき、大空へと一気に飛翔した。


 既に時刻は夕暮れに差し掛かっており、空はオレンジ色に染まり始めていた。竜の背に乗って上空に飛んだレアルは、ふと下界を見下ろす。


「……上から見ると尚更に酷いな、これは」


 ただの一振りで、長さ二十メートルを優に超え、深さに至っては正確に把握できないほど深い傷跡が大地に刻まれた。巨人がこの場で剣を振り下ろした、と嘘偽りを吹聴してもすんなり受け入れられそうな程だ。 


 無双の力を得る『ドラゴニック・レイジ』であったとしても、これほどまでに強烈な威力を発揮できるほどではなかったはず。


 ──暴走の引き金となった『嫉妬』の感情が『ドラゴニック・レイジ』の効果に大きく作用してしまった──そう考えるのが自然だ。


「嫉妬か……。私がこのような感情を抱く日が来るとはな」


 目を瞑れば、脳裏に映るのは白髪赤目の男の笑った顔。


 そして次の瞬間、その人物が己以外の誰か・・と笑顔で寄り添い合う光景が浮かび上がる。


 心はざわめくが、我を失うほどでは無い。そもそも、『彼』があの二人と関係・・を持っている事実はレアルにとっては承知の上だったはず。


 ──その事実を、軽く見積もっていた。


 ──己が抱いていた『感情』を軽視していた。


 その結果が、地上に刻まれた大きな傷跡だ。


『レグルス』の兜が無い今、レアルの表情を隠すものは無い。彼女は己の顔を覆い隠すように手を当て、そして自らを嘲り笑った。


 特別に難しい話では無い。


 ただただ、自らの気持ちから目を逸らし続けていただけだ。逸らし続けていたはずなのに、他の女が『彼』と関係を持ったと知った途端に膨れあがっていた。それからもずっと目を逸らし続けてきた。


「……行ってくれ」


 この場に止まり、地上の傷跡を見ていると、己の中に存在している醜い感情を見せつけられているような気分にさせられる。


 レアルが促すと、飛竜は気遣うような視線を一瞬彼女に投げかけてからドラグニルの町へと飛翔するのであった。


前回の感想文で『鍵かけとけよお前ら!』というコメントを多数頂いてワロた。そこに食いつくのかい!ってな感じです。まぁ、何事も完璧にこなすよりも、隙の多い人間の方が話が盛り上がりやすかったりするのかもしれません。カンナが完璧超人だったらぶっちゃけ物語として破綻しています。いざという時は抜け目が無いくせに普段はチーズのような穴だらけの方が面白いでしょう。


さて、だからというわけではありませんが、前話を投稿してから頂いた分で、晴れて『カンナのカンナ』の感想文が計1000通を超えました。数々のご感想、誠にありがとうございます。毎回楽しく読ませていただいています。最近は返信してませんけど、ちゃんと全てに目を通しているので許してください。


以降も、感想文や評価点、レビューは大歓迎でございます。

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