第百四十八話 一蓮托生(先生! コメディさんがまだ息を吹き返しません!!)
タイトル以外にコメディが入り込む余地が無いんです。
話を聞く限りでは、フィリアスの思惑に直接繋がる要素は見当たらなかった。精々、腹黒姫に対する疑いが強くなった程度だ。
実はファイマにはまだ、伝えていないことがあった。
彼女の妹が大いなる祝福と繋がりを持っているか。あるいはフィリアスも大いなる祝福の一員である可能性だ。
この可能性に辿り着いた時点では、まさかあの腹黒であっても実の姉を犠牲にするような外道では無いと思いたかった。しかし、勇者召喚にまつわる話を聞くにつれて、現実味を帯びてきてしまった。
「どうしたのカンナ、難しい顔して」
「あ、いや……ちょっとな」
どう伝えていいか迷っていると、
「……フィリアスは、大いなる祝福に関係があるんでしょ?」
「──ッ!?」
「カンナその反応を見ると、どうやら当たりのようね」
ファイマが前触れも無く口にした言葉に、俺の肩が跳ね上がる。喋らなくても肯定しているようなものだった。
「渓谷で襲ってきた魔術師も大いなる祝福。違う?」
「……証拠は無いが、な」
「そして、あの魔術師とフィリアスには何らかの繋がり、あるいはあの子自身が大いなる祝福の一員か。おそらくは後者でしょうね」
俺が考えていたことを、彼女はそのまま導き出していた。今気がついた、というわけではなさそうだ。でなければ落ち着きすぎている。
「心当たりのある中で私の存在を一番邪魔に思っているのは、他ならないあの子だもの。ユルフィリアを出発する時点で、フィリアスの手が私に伸びる可能性は留意していたわ」
実の妹を疑う事は彼女にも躊躇いがあったが、どうしても最悪の可能性を捨てきれなかった。
故に、ファイマはフィリアスの息が掛かった人間を己の周囲から極力省くために、信頼できるごく少数の人間を従者に選んだ。己の身に何かが起こるとすれば、まずはその辺りだと考えたのだ。
それが、ランドたちだった。
「……お前が王女様だってんなら、おっさんたちもただの従者ってわけじゃねぇんだろ?」
「ランドは私の近辺を守護する騎士で、元々は王家直属部隊である近衛騎士隊の隊長だったの」
近衛騎士と聞くと、王族の守護を専門にしているように聞こえるが、その内実は王族が自由に采配できる遊撃部隊であるそうだ。ディアガルだと、幻竜騎士団がこれに相当するようだ。
「魔獣の討伐で大怪我を負って現役を退いてしまったけれど、以降は私の近辺守護を担ってくれているわ」
「アガットとキスカは?」
「あの二人は現役の近衛騎士。ランドが近衛騎士隊の隊長であった頃から面倒を見てきたの。アガットは、幼い頃は私の遊び相手にもなってくれたわ。それと、私があなたと出会った町で最初に離脱してしまった彼も、同じく近衛騎士隊の一人よ」
「マジでか……」
ただの従者では無いと思っていたが、まさかそんなエリートたちであったとは。
「や、ちょいまて。近衛騎士とかエリートっぽい感じだが、それにしてはちょいと頼りなくね?」
何度か肩を並べて戦った間柄だが、それにしてはちょいちょいと危機に陥っていた気がする。冒険者でいえば、ランドのおっさんはBランクぐらい。アガットとキスカはおそらくCランク前後といった印象だな。
思ったこと口にすると、ファイマが呆れたような目をこちらに向けた。
「あのね。一般的な強さの基準として、Bランク冒険者は一流の実力者なのよ? Cランクの時点で、兵士としては十分すぎるくらいに優秀な部類に入るんだから」
「あれ、そうなの?」
「カンナは元々この世界の人間では無いものね。その上、レアルさんや元Aランク冒険者の『竜剣』と知り合いで、加えて身近にクロエさんという実力者もいる。その辺りの感覚が疎くても仕方が無いのかもしれないけど」
ああ確かに。Bランクの時点で冒険者としては一流に入ると聞いたな。あまり意識していなかったが、ファイマの口から聞かされて思い出す。
「でも、実際には見通しが甘かったとしかいいようがないわ。まさか『大いなる祝福』なんて組織に狙われているなんてね」
そもそも、ファイマが大いなる祝福という名を聞いたのは、皇帝の口から聞かされた今日が初めてだったのだ。実の妹がそんな歴史の裏で暗躍してきた組織の一員だと予想できるはずが無い。
もし俺やレアルが旅に運良く同行しなければ、ファイマはその道の半ばで命を落としていただろう。先日の遺跡にしたって、俺とクロエの双方がいなければ確実にラケシスに殺されていた。どうあっても彼女は目的を果たせなかったはずだ。
「渓谷で襲われた時点では、フィリアスは裏で糸を引く人間の最有力候補でしかなかった。でも陛下から聞かされた話と、カンナのさっきの反応で確信したわ」
「……それが分かったとして、これからどうすんだよ」
状況が整理できただけで、問題の解決にはまるで至っていない。フィリアスの──大いなる祝福の目的に関しては見当もつかず、それでいてファイマは狙われたままだ。これでは勇者召喚の片割れである送還の術式を調べるどころでは無い。
「遺跡で天剣とカンナの会話は私にも聞こえていたわ。当然、カンナがこれから大いなる祝福から狙われる立場になったこともね」
ファイマは居住まいを正すと深く呼吸をし、強い意志の感じられる視線をこちらに向けた。
「そこで、私は改めてカンナと契約を結びたい」
「契約?」
「カンナに私の護衛を引き続きお願いしたいの。契約期間は、私が送還の術式を完成させ、それを使ってあなたが元の世界に帰還するまでの間よ」
現時点で、元の世界に送還する帰還する術式に一番近い存在はファイマだ。もし彼女がその術式の完成を前に死んでしまえば、俺が現実世界に帰れる可能性は限りなく低くなる。それに、狙われているという立場で言えば俺も同じだ。送還の術式が完成したとしても、俺が死んでしまえば本末転倒だ。
是非も無い。俺と彼女で正式に協力体制を敷くべきだ。
「俺としては願ったり叶ったりだ。良いだろう。その契約、引き受けた」
「私は必ず送還の術式を完成させるわ。それまで、お互いに生き残りましょう」
「あ、でも一つだけ契約の内容に追加しといてくれ。
契約期間はファイマが送還の術式を完成させ、俺が腹黒姫にこれまでの代償をきっちり払わせる。その上で俺が元の世界に帰るまでだ」
そう言ってから、俺は差し出されたファイマの手を握り返した。
契約の成立だ。
ちょっと最近シリアス絞り出しすぎ。ナカノムラのシリアス成分はそろそろ限界値に達しそうです。
でも、ここまで書かないと収まりが悪すぎたので頑張りました。
さて、ここで一旦、陰謀を考察なお話は終了となりますが、実はあえて書いていない要素が幾つかあります。
これは長々と考察のターンが続くのはあまりよろしく無いと考えたのが一つ(皇帝のターンを加えると10話近く使ってる)。それと、一気に出してしまうよりも適宜に放出していったほうが盛り上がると思ったからです。
ようやくランドたちがどのような人物かが説明できました。いつまでも宙ぶらりんなのはマズイですからね。
はっきり言って、ファイマの護衛たちは普通に強いです。特に、ランドの全盛期はおそらくディアガルの騎士団長クラスの実力は有していたはずです。ただ、任務の最中に大怪我を負ってしまい、治療魔術でも完治しきれずに後遺症が残ってしまったので、現在の実力は冒険Bランクほどです。それでも十分に強いです。
これまで襲ってきた人たちがヤバい位に強かっただけなんです。アガットもキスカもできる子なんです。カンナの周囲で強さのインフレが起こってるだけですから。
あのクロエちゃんだって、本当は一流の冒険者なんですからね?
さて、長々と説明してきましたが、最後にこの一言で締めくくりましょう。
──糖分が欲しい!!