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第百四十二話 たまにボケとツッコミが逆転する


 ご馳走とはなんだろうか。


 この世界の料理は驚くほど美味い。


 魔術具による調理器具もありかなり幅広い調理法があるようだが、調理技術の水準そのものは現実世界ほど高くないだろう。


 ところが、その差を補ってあまりあるほどの、魔獣食材の魅力。むしろ、これらの特殊な調理法に関しては幻想世界の方が遙かに高水準だ。まぁ、当然ではあるが。


 レグルスレアルの話では、出てくるメニューはお楽しみだが、皇居内に勤める高官にも出す超高級料理だという。下手すれば一食で金貨一枚以上はするだろう。


 考えるだけで口の中がよだれで大洪水になりそうだ。


「……あらかじめ言わせてもらう。昼食は間違いなくご馳走するが、実はその席に二人ほど同席するものがいらっしゃる・・・・・・

「へぇ。どちら様?」

「行けば分かる」

 

 このとき、レグルスレアルの言葉の中には待ち受ける人物を示唆する内容が含まれていたのだが、ご馳走に頭がいっぱいであった俺は聞き逃していた。

 

 そこから少し進んで、一つの扉の前にたどり着いた。


「ここだ。先方はすでに中に──」

「ご飯!」


 空腹でいろいろと限界に達していた俺は、レグルスレアルの言葉を最後まで聞き終えることなく、両開きの扉を勢いよく開いた。


 ──ぉぉぉぉおおおおおっっっ!!


 鼻孔をくすぐる食欲をそそる香り!


 色とりどりの料理!


 そして! 



 上座におわす皇帝陛下・・・・!! 



 …………………………………………。



「──間違えました」


 バタリ。


 扉を閉めた俺は、隣のレグルスレアルを睨む。


「(小声)ちょっと! 部屋間違えてませんか団長さん!? なんで皇帝がいるんだよめっちゃ失礼しちまったぞ俺!!」

「(同じく小声)君にも失礼を感じる程度の羞恥心があって、私としては一安心だ」


 俺は今まさに安心できてねぇよ!!


「いやいや、話をずらすな。俺はご馳走をいただけるって事で案内されてたんだよな?」

「そうだな」

「で、実際には皇帝がいました」

「ご馳走もあっただろ?」

「……つまり、あのご馳走が俺のいただけるご馳走か」

「同席する方がいらっしゃると言っただろう」


 何一つ間違ってないね……って簡単に納得できるか!


「まさか皇帝が一緒とは聞いてねぇよ!」

「正確には宰相殿もいらっしゃるが」

「──え、マジで? 俺、皇帝と一緒にご飯食べるの!?」


 世界一落ち着かない昼食になりそうだな!!


「宰相殿も一緒だ」

「その訂正はどうでもいいわ!」


 このツッコミは扉越しに皇帝の元に届いていたらしい。




 俺に拒否権は無かった。

 

レグルスレアルは扉の前で警備を担当するので、俺は一人で渋々とご馳走が並べられた部屋の中に入った。レグルスレアルからのお墨付きがあるとはいえ、(宰相も一緒だが)ほかの警備も置かずに皇帝との会食など安全面で不安がでそうだ。

 

 ただ、俺がこれを口にした時にレグルスレアルはこう返した。


『皇帝陛下は、若かりし頃はSランクの冒険者として名を馳せ、引退した久しい現在でもその武力に僅かな衰えもない』


 ──よく考えたら、武力国家のディアガル帝国を治める人物が弱いはずがない。どころか、名実ともにトップであった。


 更に。


『宰相殿も、Aランク冒険者として若き頃の皇帝陛下を支え続けた実績がある。おそらく、ディアガル帝国で最も武力を誇る人間が二人、この部屋の中にいるのだ』


 下手な狼藉者が来たとしても、返り討ちに遭うのが目に見えていた。SランクとAランクのセットとか、過剰戦力にもほどがある。


 レグルスレアルが警備を担当するのは、皇帝が守護を置かずにたかがCランクの冒険者と食事など外聞が悪すぎるからだとか。


 で、そんな冒険者としても大先輩であり、地位的にも足下の小石に過ぎない俺としては非常に肩身が狭い。


「何も取って食おうというのではない。むしろ一緒に昼食を楽しむために招待したのだからな。肩の力を抜け、白夜叉。さぁ、私に遠慮すること無く食べるがよい」

「あ……いえ、別に」


 皇帝は朗らかに笑ったが、そう簡単に肩の力を抜けるはずが無い。


 何度も言うが、俺は空気が読まないだけで読めないわけでは無い。一国の主様を前にしていつもの調子を押し通せるほど、俺は人生経験豊富では無かった。


 あの爆乳め! 覚えてろよ! 


「すまないね白夜叉殿。皇帝陛下がどうしても貴殿と話がしたいとの事でレグルス団長に無理言って呼び出させてもらいました」


 扉越しに外で待機しているレグルスレアルを睨み付けていると、こちらの心境が伝わったようで宰相からフォローが入った。


 彼女も宮仕えだ。おかみの声には逆らえないか。

 

 それよりも、二人が俺を呼ぶとき、ごく自然と『白夜叉』になっている。そして、それをやはり自然と受け入れ始めている俺もいろいろと手遅れ感が……。

 

 ──ま、まだ俺は身も心も中二病に犯されたわけでは無い!


「いただきます!」


 俺は勢いよく両手を合わせてから、現実逃避するように(というかそのままだが)目の前のご馳走にありつくことにした。皇帝や宰相と一緒の席にいる緊張感を紛らわせる意味合いも強かった。


 ってマジで美味ぇなおい! 


 皇帝も同じものを食べるのだから当然かもしれないが、この世界──どころか人生で食ってきた料理の中で最も美味いかもしれない。彩菜の家で一流シェフの料理を食べたことがあったが、同等かそれ以上だ。


 空腹も限界近くだったせいか、一度食べ始めると止まらなくなる。


「ほほぅ、なかなかに良い食いっぷりだ。若い者はそうでなくてはな。では宰相、我々も頂こうか」

「ええ。彼の食べる姿を見て私もお腹がいてきてしまいましたよ」


 そこからしばらくは、室内にそれぞれが料理を食べる音だけになった。

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