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第百三十九話 格差社会の縮小図とはこのことかもしれない

 俺はとんでもない事実に気が付いた。

 

 ファイマが俺をこの世界に無理矢理呼び寄せたあの腹黒微乳姫の姉であるというのも驚きだが。

 

 何より──。


(俺ぁ一国のお姫様と『にゃんにゃん』しちゃったのかぁぁぁっっ!?)


 状況的に仕方がなかったとはいえ、これはやばすぎるだろ。下手したら秘密裏の指名手配から表立ったお尋ね者に進化する大不名誉スキャンダルだぞ。


 っていうか、どうして気が付かなかったよ俺。


 よく見たら腹黒姫とファイマって似てるじゃん。


 髪の色はほとんど同じだし、顔つきも似ている。


(あ、ファイマが『巨乳』で腹黒姫が『微乳』だからか)


 遺伝的な繋がりを全く感じさせない姉妹間の格差。それが俺の中でファイマと腹黒姫の間にある血の繋がりを感じさせなかったのだ。


 ──というのは理由の半分程度。


 もう半分は……おそらく俺が無意識に信じたくなかったのだ。


 以前に一度は腹黒姫とファイマの関連性を疑った。けれども、ファイマと関わっていくうちにそれを忘れ去っていった。人の命を駒のように扱い奪おうとする腹黒姫と、好奇心旺盛で楽しそうに魔術の話をするファイマに繋がりがあるとは思いたくなかったのだ。


「……失念していました。ファルマリアス・エアリアル・ユルフィリア。覚えがあったのは、王族の姫君であったからですね。アルナベスの家名を名乗っていたので気が付きませんでした」

「そのための偽名だもの」


 クロエの言葉にファイマは苦笑する。


 アルナベス家当主とファイマは貴族的な繋がりの他にも個人的な知己を持っているらしい。ディアガルへの旅を前にして、ファイマはアルナベス家当主に相談したのだ。


社交の場パーティーには滅多に参加していなかったし、私の顔を知る者は少ないわ。けど、ユルフィリアの名を聞けば確実に私が王家の者だと気づかれるわ。だからアルナベス家当主は私にアルナベス家の姓を名乗ることを提案してきたの」

 

 アルナベス家は権力には興味なかったが、王国への忠誠心は本物。そこに二心がないのはユルフィリア王家も承知していた。アルナベス家当主の提案を受け入れ、王家自らがファイマがアルナベス家の長女である証明書を偽造した。

 

 そしてファイマはファルマリアス・アルナベスを名乗り、ディアガルへの旅へ出発したのだ。


「途中までは上手く事が進んでいたわ。ドラクニルへ入ってからしばらくの間は、私は他国から訪れた単なる伯爵令嬢という身分で自由に動き回れたもの」


 状況が変わったのは、ドラクニルを訪れてから一ヶ月経過した頃。


 俺が鋼竜騎士団によって拘束された事件だ。


 ファイマは皇帝を見据えていった。


「おそらく、あの時点で私が既にユルフィリア王家の人間であると、ディアガル皇家には伝わっていたのでしょう?」

「その通りだ。その少し前に、私のところに報告書が上がってきた。ユルフィリア王家の人間が家名を偽り、ドラクニルで動き回っているとな」


 詳しく調査しているところに、緊急事態が発生した。なんと、ファルマリアス王女(仮定)が町で大勢の無頼漢チンピラに襲われているとの報告が伝わったのだ。


 即座に肯定は鋼竜騎士団の出動を決定し、ファイマの保護を命じた。仮にファイマが王女でなくとも他国で地位ある貴族の令嬢が傷物にされれば外交問題に発展しかねない。真偽を確かめるよりもまずはファイマの安全が最優先とされた。


 結局、鋼竜騎士団によって拘束されたのは、無頼漢チンピラたちではなく俺だったりする。


 ──さらについでだが、ファイマを追い回していた無頼漢チンピラたちは(厳密には違うが)全くの別件で大喧嘩を初め、鎮圧のために鋼竜騎士団によって俺と同じように御用になったのだ。


 ファイマを保護した後、ファイマが参加した数少ないパーティーに同席していたディアガルの高官が陰でファイマの顔を確認し、それでようやくファイマが真にユルフィリア王家の第一王女であると裏付けがなされたのだ。


「ん? ではどうしてすぐにファイマ殿をユルフィリア王家としてではなく、アルナベス家の人間として国賓に迎えたのですか?」


 クロエがもっともらしい疑問を口にした。


「私もクロエさんの言った点を不審に思っていました。あの時点で皇家が私の本当の身分を掴んでいたのは予想できていた。けれども、どうして伯爵令嬢のままある程度の自由まで許していたのかが分からなかった」


 これに答えたのは宰相だ。


「……報告書に、不審な点が見つかったからです」


 ファイマの身分がファルマリアス王女である報告書。それそのものは本物であり不正や偽装がされた形跡はなかった。だが、ファイマを保護した後に詳しく調べたところ、報告書の出所が全くの不明だったのだ。


「公的な手続きにのっとる正式な書類でした。しかし、その報告書を出す可能性のある者全てに聞いたところ、誰も書いた覚えがないと証言したのです。さらに詳しく調べさせましたが、報告書の出所は結局分からずじまいでした」


 ──ある日突然、誰も書いた筈のない報告書が、皇帝に届けられる。しかも書類は正式なものであり内容も真実。不明なのは出所だけ。 


 これが異常事態なのは明白だった。


「──なるほど、それを聞いて合点がいきました。ディアガル皇家は私を泳がせて相手の思惑を探ろうとしていたのですね」


 ファイマの導き出した答えを聞いて、俺も理解できた。


「……あの、カンナ様。どういう意味ですか?」


 一人だけ話についていけてなかったクロエが首を傾げる。というか、まだ標準語モードが解けてないのかこいつ。


「いくら探っても不明な書類の出所は無視して、その書類を出した誰かさんの『目的』を探ろうって魂胆だったんだよ」

「あっ、なるほど」


 誰の仕業か不明だが、何者かがファイマ(=ファルマリアス王女)の存在を皇家に知らせたその意図を探るために、皇家はファイマを王女としてではなく動きやすい伯爵として国賓に迎え入れたのだ。


「でも、それだったら王女として迎えて、自由にさせれば良かったのでは?」

「や、一国の王女様に好き勝手させたら色々とまずいだろ、外交的に」


 一国の王女様相手に『にゃんにゃん』やらかした俺が一番外向的に不味いが、あえて口にはすまい。バレたら冗談抜きで躯と首が泣き別れしそうだし。


 ──あれ?


 よく考えると、この策には致命的な欠陥があることに気が付く。


「結果的には無事だったから良いものの、遺跡でファイマが暗殺されてたら、ディアガル帝国的にはかなりやばかったんじゃ……」


 身分を偽ったお忍び旅行であったとしても、ファイマがユルフィリアの王女であることに変わりはない。しかも国賓待遇として迎えている。これでファイマの身に万が一が起これば、ディアガルはユルフィリア王家に盛大な抗議を受ける可能性がある。


 ──ごく一部で現に万が一は起こっているが、あえて(以下略)。


「「あ……」」


 クロエとファイマが揃って口を開いた。クロエはともかくファイマが「今気が付いた」って顔するのは駄目だろ。おまえはたまにポンコツになるな。


「それは──」

「──貴殿らには不愉快な話になるだろうが、私の口から語ろう」


 言葉を発した宰相を皇帝が手で制し、代わりに答えた。


「帝国内でファルマリアス王女の身分を知る人間は、この場にいる者と私が信頼しているごく一部の者だけだ。そして、ディアガル帝国は、ファルマリアス・アルナベス伯爵令嬢を国賓待遇として迎え入れている対面をとっている」

「────ッ!」


 皇帝の語った意味を理解したのか、ファイマが息を呑んだ。


 そして、険しい表情で皇帝を見据える。


「……同じ外交問題になるとしても、王女と伯爵令嬢では傷の深さが違いますね。むしろ、私を伯爵令嬢として他国に送り出したユルフィリア王国への反論材料になる。ですよね、皇帝陛下」

「言い訳をするつもりは無いが、そうならないための措置は施してきたつもりだ」


 ファイマの言葉を受けた皇帝は、調子を崩さずに言葉を並べた。


 最初の皇帝の言葉。そしてファイマと皇帝の会話を頭の中で反芻して、俺の理解がようやく追いついた。


 ──皇家は、ファイマが王女である事実を最後まで知らなかったと押し通すつもりだったのか!


 思わず激高しそうになるも、ファイマの落ち着いている様子を見て冷静さを取り戻す。


 ファイマも『知らないふりそれ』をある程度は認めているのだ。なら、俺が感情的になるわけにはいかなかった。


 

 この手の話になるとお約束事のように毎度言っておりますが、念のためここでも言っておきましょう。


『この説明には無理があるだろ』的なツッコミされてもぶっちゃけ返答できないんでそのつもりでお願いします。

 これでもナカノムラ的にかなり頑張ったんですからね!


 でも、感想文やレビューそのものは大歓迎です。毎度楽しく読ませていただいているのでよろしくお願いします。

 

 それと、明日も『カンナのカンナ』は更新します。

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