表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
150/247

第百三十八話 本編がシリアスなのでサブタイトルくらいはコメディしたい(内容は本当にシリアス)


 長い話を終えた宰相が、一息を入れた。

 

 大いなる祝福アークブレスという存在は、俺の予想を遙かに超えて厄介な組織であるようだ。そんなヤバい組織の標的にされそうな俺って……ちょっと泣きそうだ。


「ここからが本題です。──白夜叉殿、確認させてもらいたいのですが」


 宰相の声に、俺は現実逃避しそうになっていた意識を引き戻す。


「少し前にディアガル帝国が保有する鉱山で起こった魔獣の大発生。それと先日に君たちを襲った謎の集団。この二つに大いなる祝福アークブレスが関与しているのは間違いないですね?」

「……『大いなる祝福アークブレス』を名乗る奴らがいたのは間違いない。鉱山には『天剣のシュライア』と白衣の男。遺跡ではラケシスって野郎が文字通り裏で糸を引いてやがった」

「その目的に関して、何か心当たりは?」


 俺は頭の中を軽く整理しながら、口を開いた。


「鉱山での一件に関しちゃぁ今でも皆目検討つかない。単純に考えれば、幻竜騎士団と冒険者達の全滅でしょうが……」


 あんな大掛かりな魔術式を使って何をしたかったのか、詳細な目的は未だに不明だ。単純に人里に被害を出したかったとは考えにくい。何にせよ、ろくでもない結果になるのは確実だっただろう。


「遺跡での一件は……確実にファイマ──そこのお嬢様狙いだったのは間違いないっすね」


 少し迷ったが、俺は正直に述べた。遺跡には俺たちの他にも幻竜騎士や天竜騎士の面々もいたのだ。特に、カクルドとスケリアはファイマの護衛として近くにいた。俺が口を閉じたとしてもどうせディアガル帝国側には伝わってしまう。


 ならば心象をよくするために正直に答えた方がいいだろう。ファイマへの申し訳なさがこみ上げてくるが、仕方がない。


 ファイマを狙っているとしても、やはりどうして彼女を狙ったのかはやはり不明だ。


「なるほど。そうなりますか」


 宰相は俺から視線を外すと、今度はファイマに目を向けた。俺もつられるようにファイマの方を見るが──。


「……ファイマ?」


 大いなる祝福アークブレスの話が始まってから、ファイマの様子がおかしい。いつもならこの手の話になると色々と思考を巡らせるのが彼女だが、宰相に視線を向けられた今のファイマは思い詰めたような表情のまま俯いていた。


 ……俺がまだ入院していたとき、レアルとの会話で出てきた『心当たり』──それがファイマだ。


 渓谷で俺たちを焼き殺そうとしたあの魔術士。明確な証拠はないが、奴も大いなる祝福アークブレスの一員だ。シュライアやラケシスと同じく『あの気配』を感じたのだから間違いない(俺の主観なので証明のしようがないが)。


 都合、ファイマは大いなる祝福アークブレスに二度も命を狙われたことになる。彼女は最初心当たりが無いと言っていたが、頭脳明晰な彼女が本当に心当たりがないとは考えにくい。


 それに、遺跡でラケシスを回収しにきたシュライアが最後に残した言葉もある。


 ──彼女を狙う理由に関してなら、本人に聞くのが一番だろう。


 ──なぁ、ファルマリアス様?


 敵対者ではあったが、あの口振りに嘘偽りは含まれていなかったはず。更に言えば、その言葉を受け取ったファイマの同様が確信を抱かせる。


 ただどうしても、それを直に指摘するのは躊躇われた。


 ファイマとはそれなりの信頼関係を結べていると自負はしている。けれども、そうでありながらもやはり話せないことはあるだろう。俺だって彼女に伝えていない秘密は多い。だから安易に踏み込めなかった。


 俺が悩みを抱いていると、それまで黙っていた皇帝がファイマに語りかけた。


「……現時点で、奴らの思惑にたどり着く唯一の手掛かりがそなただ。なるべくなら、そなた自身の意志で喋ってもらいたいと思っている」



 ……………………………………。



 緊張感を孕んだ沈黙が場を支配した。


 ──やがて、ファイマは意を決したような表情になり、顔を上げた。


「ケリュオン皇帝陛下」

「なんだ?」

「私がディアガル帝国を訪れたのは私個人の独断であり、他の一切の思惑と何ら関わりはありません。そのことを前もって留意していただきたいのです」

「……その口振りからすると」

「どうせ陛下は既にご存じなのでしょう? でなければ、他国の何の権力も持たない貴族の娘を、国賓という手厚い待遇で迎え入れるはずがありません」


 ファイマは、諦めにも近い苦笑を浮かべた。


「ディアガルへ入国後、『それ』に目をつぶって頂いた心遣い、誠に感謝いたします。ですがここに至り、もはや隠し通す道理は御座いません」


 そう言ってから、ファイマがこちら側──俺とクロエの方に顔を向けた。


「それに──これ以上隠し事を重ねるのは、心苦しいのです。命を賭けて私の事を守ってくれた彼らに、私は誠実でありたいと思います」

「ファ、ファイマ殿?」


 クロエは不安げな表情を浮かべた。


「ごめんなさいクロエさん、それにカンナ。私は二人に大きな嘘を付いていたわ。けど、真実を告白して二人との関係を壊すのが怖かったの。二人は私に初めて出来た同世代の友人ですもの」


 でも、とファイマはグッと目を閉じた。


「もう二人は無関係ではない。責任の一端は私にもある。


 だから、この場で改めて名乗らせてもらうわ」


 再び目を開いたとき、ファイマは大きな責務を自ら背負った者の顔をしていた。



「私の名前は──ファルマリアス・エアリアル・ユルフィリア・・・・・・


 

 その名を聞いた途端、俺は自らが抱いていたはずの疑問を思い出した。



 彼女の髪の色が──その面影が、誰かに似ていた事実を。



 ファイマと──あの姫の顔が、頭の中で重なり合った。



「ユルフィリア王国の第一王女──それが本当の私よ」


 彼女は──ファルマリアスは、俺をこの世界に呼び出した女の……姉だったのだ。

読者的にバレてたでしょうが、ようやくファイマの身分が明らかになりました。


それはそうとして。

『小説家になろう』の書報(出版作品紹介)の項目に『カンナのカンナ 異端召喚者はシナリオブレイカー』が掲載されました。ありがたいお話です。これで一人でも多くの方に『カンナのカンナ』を知っていただければ幸いだと思っています。


 さて、火曜日(12月20日)から三日間連続更新でしたが、ここで一旦休みます。

 活動報告にも載せましたが、ちょっと休みます。健康上の理由ではありません。どちらかといえば精神的な理由です。それにしたって深刻ではないので、次話以降の更新も早くできたらと思っています。


 ブクマやレビュー、感想文や評価点は大歓迎でございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ