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第百三十七話 謎の組織が黒いとは限らない

別に、低確率で子供になっちゃうような薬は持っていません。

……あ、でもリアルに『見た目は子供、頭脳は大人』な奴がいるわ。

「やりすぎですよ陛下。並みの者があなたの威圧を受ければ、それこそ正常な意識を保つことすら困難なのですから。前もって程々・・にするように申し上げたはずですが」

 

 声を聞いてから、俺はようやく玉座に隣に立つ竜人族の男性に気が付いた。皇帝と比べると随分と細身で眼鏡を掛けていた。彼は咎めるような視線を皇帝に向けている。


「そう言うな。そこの『白夜叉』は、巷で最近名前を上げ始めた冒険者だともっぱらの評判だ。聞けばあの『千刃』に目を掛けられるほどの将来有望株だと聞く。噂のほどを試してみたくなったのだよ」


 皇帝は横目で眼鏡の竜人族を見つつ言葉を返すが、反省した様子は全く感じられなかった。


 ……っていうか、やっぱり皇帝にまで『白夜叉』って名前で伝わってるのね。もう修正無理だわこれ。


「悪かったな白夜叉。呼び出しておきながら試すような真似をして」

「あ、いや……その……」


 急に皇帝から話を振られ、俺は咄嗟に言葉を返せなかった。


「どうやらこのような場は慣れていないようだな」


 慌てる俺を目に皇帝がクツクツと笑う。


「多少の無礼は許そう。そもそも荒くれ集まりの冒険者相手に完璧な作法を求めるほど、私も狭量ではないつもりだ」

「…………ありがとうございます、陛下」


 どうにか、それだけを絞り出すのが精一杯だった。


「他の者もご苦労。よく参上してくれた」


 皇帝は俺の両隣にいるクロエとファイマにも労いの声を掛けた。


「い、いえ。お初にお目にかかれて恐悦至極……」

「私も、武勇に名高きケリュオン皇帝陛下にお会いできて光栄です」


 クロエは緊張のあまり標準語になってる。それでもまともに言葉を返せている辺り、親に叩き込まれた礼儀作法は本物なのだろう。ファイマの方は言うことなし。口から流れるように台詞が出てきていた。さすが貴族様のご令嬢。正式な場での振る舞い方は完璧だ。


「さて、話をする前に。──レグルス」 

「はっ──」


 立ち上がるなり、レグルスレアルは振り向き背後に列をなしていた幻竜騎士団に向けて声を放つ。


「総員、別命あるまで屯所で待機! 以降の指示は副団長に従え!」


 号令に従い、この場にいた幻竜騎士団の団員すべてが一斉に立ち上がり、謁見の間から出て行った。この場に残った幻竜騎士団は、団長であるレグルスレアルだけとなった。


「今からする話はおいそれと広めてよい類ではなくてな。聞かせる者は最小限である方がよい」


 下がらせるなら、最初から俺たちだけを呼べばいいじゃん、とか言いたい。や、警備上の理由とかあるんだろうけどさ。


「仮にも私は一国の主でな。不用心に初対面の人間と顔を合わせると何かと問題が多い。幻竜騎士団あれは万が一のための保険だ」


 こちらの考えが声に出さずとも伝わったのか、皇帝が言った。


「もし白夜叉そなたが名を上げ始めたばかりの単なる若造なら、多少の顔合わせで済ませるつもりだった」

「俺──私は陛下のお眼鏡にかなったという事か……ですか?」

「先ほどの〝威圧〟はそれを確かめる意味でもあったのだよ。中々に良い目を向けてくれたな、白夜叉」


 ……心の中で、ご飯を取り上げられた事に対する怒りだって告白したら、この皇帝はどんな反応をするのだろうか。


「それと、下手に畏まる必要はない。礼儀に五月蠅うるさい者はこの場におらんよ」


 と言った皇帝の隣で、眼鏡の竜人が眉を顰めているけれど、皇帝直々のお許しなのでそうさせてもらおう。


 断っておくが、俺は誰かまわず噛みつくわけではない。


 体育会系のノリが嫌いなのは間違いないが、少なくともこの皇帝への不快感はない。むしろ好感が持てる。いつもの直感だが、素直に従うのが良さそうだ。


「わざわざそなた達を呼んだのは──」

「陛下、それから先は私が説明いたしましょう」


 皇帝の言葉を引き継ぐように、眼鏡の竜人族が一歩前に出た。皇帝が頷くと、眼鏡の竜人族も頷きを返して口を開いた。


「私はケリュオン皇帝陛下からディアガル帝国の宰相を任せられているウェインと申します。以後、お見知り置きを」


 深々と礼をした眼鏡の竜人族──ウェイン。


「早速ですが──『大いなる祝福アークブレス』と言う名を、あなたたちはご存じですね?」


 おいおい、皇帝陛下の御前で『アークブレスそいつ』が出てくるのかよ。初っ端から予想外だぞ。


大いなる祝福アークブレス……確か、遺跡で襲ってきた不届き者がそのような名を口走っていたような」

「……ええ、そうだったわね」


 思い出すように首を傾げるクロエ。ファイマも口調が堅かった。そりゃぁ命を狙われた一件だ。思うところは多々あるに違いない。


 宰相が俺に目を向けた。


「白夜叉殿。貴殿は大いなる祝福アークブレスについてどれほどの事を知っておられますか? あ、敬語は無しでも構いませんので」

「……Aランク冒険者並みの戦力を複数所持した、規模も目的も正体不明の集団──って事ぐらいだ」


 一言で表せば、まさしく『秘密結社』で事足りるだろう。


「今回お呼びしたのはその結社『大いなる祝福アークブレス』という組織に関してです」


 どうやら、想像を超えて大いなる祝福アークブレスは面倒臭い相手のようだ。


 ──大いなる祝福アークブレス


 その発端を知る者は存在していない。


 遡れば百年以上昔から存在しているのは確実であり、その間に起きた歴史的に大きな事件の裏側には、常に大いなる祝福アークブレスの存在がチラツいているという。


 目的も不明。


 規模も不明。


 詳細な構成員もまた不明。


 判明しているのは、所属人数こそ少ないが一国と比肩する戦力を有しているという事。下手に手を出し、大いなる祝福アークブレスに一夜にして滅ぼされた国もあるという。


 ──宰相が語った内容をまとめるとこんな感じだな。


「一国と同等の力を秘めた勢力が人知れず暗躍しているとなれば、黙って見過ごすわけには行きません。帝国も秘密裏に調査を続けてきました。……ですが、現時点で分かっているのは今話した程度です。


 そもそも、私も先代の宰相からお話を伺わなければその存在の影すら知り得なかった。その先代も、執政の傍らに大いなる祝福アークブレスを追い続けていましたが、何かしらの思惑があって動いている、というおぼろげな輪郭を捉えるのが精一杯でした」


 まさしく、秘密結社の称号に相応しい組織。シュライアが「各国の重鎮でも一部の者しか知らない組織」と言っていたのを思い出した。


「ですが、最近になってようやく、その一端を掴むことができました」


 真剣な色の視線が俺を射抜く。


の組織が謎に包まれている理由として最も高い可能性が、情報をある程度知った者が全て殺されているからだとされています」

「……随分と曖昧ですね」


 ファイマが最もらしい意見を挟むが、宰相は目を伏せて首を振った。


「仕方がありません。……過去に大いなる祝福アークブレスを深く追い、そして人知れず姿を隠した者は多い。


 …………その中には、私の手の中の者もいました」


 それが意味するところを察し、口を挟んだ筈のファイマが息をのんだ。


「『後一歩のところで情報が手に入る』……誰もがこれと同じ報告を最後にして──以降の連絡が取れませんでした」


 そいつ等がどうなったかは、改めて口にする間でもないか。


 ファイマは宰相の言葉を聞き、頭を下げた。


「……すいません、素人が口出しする問題ではありませんでした」

「お気になさらないでください。それに、彼らには悪いですが、この事実こそが大いなる祝福アークブレスが実在する証左でもあります」


 抑揚の少ない声ではあったが、彼からは悔しさを押し殺したような気配を感じ取る。


「そして、ようやく我々は、大いなる祝福アークブレスに遭遇しながらも生き延びた人間を見つけることができたのです」


 それが俺たち、と言うわけか。

王侯貴族に対しての礼儀作法とかあんまり知らないんで、これまで読んできた小説をもとに不自然ではなさそうな感じに仕上げています。そのため『これって王様(皇帝)相手には失礼ですよ』なツッコミは一切受け付けませんのでそのつもりで。


でも、感想文やレビューはいつも通り募集中ですのでよろしく。



ナカノムラのもう一方の作品

『アブソリュート・ストライク 〜防御魔法は伊達じゃない〜』

よければこちらもどうぞ(ブクマもどうぞ)。

http://ncode.syosetu.com/n2159dd/

カンナと違い、こっちは主人公による無双活劇となっております。

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