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第百三十六話 ご飯の恨みは重いけど、命の重さには変えられない

最近はアブソリュートに気合を入れすぎてこちらの更新が滞ってました。

申し訳ありませんでした。


 皇居の中には何度も入ったことがあるが、さすがに皇帝がいる『謁見の間』に続く通路にまで足を運んだのは今回が始めてであった。どこに行っても上等な質の内装がある皇居の中でも、さらにワンランク上の上品さがあった。


「うぅ、落ち着かないでござるよぅ」


 尻尾を所在なく動かしながら、クロエは辺りをきょろきょろと見回す。俺も同じく、視線がさまよってしまう。


 付け加えるなら、俺たちの背後には幻竜騎士団の面子が整列して続いてくる。その威圧感も加わってそわそわ感が半端ではない。


「気持ちは分かるけど落ち着いて二人とも。子供じゃ無いんだから」


 俺とクロエに比べれば、ファイマは冷静だった。


「けどよファイマ。俺とクロエは一応ギルドで貴族相手の礼儀作法は聞かされたが、さすがに皇族相手の作法なんか知らないぞ?」

「拙者も、故郷ヒノイズルでの作法は幼き頃に両親から叩き込まれたでござるが、国外での作法には不安が残るでござるよ」

「それだったら、私だってユルフィリア式の作法は知ってるけど、ディアガル式は知識だけしか知らないわ。知っているからといってできるかどうかは別問題よ」


 だとしてもファイマの態度は堂々としていた。この空気に普段から慣れているような振る舞い方だ。従者三人も動きに淀みがない。


「不安なのは分かるが、陛下は細かいことは気になさらないお方だ。あからさまに失礼な態度をとらなければ問題ないから安心しろ。……分かったなカンナ」


 俺たち人の先頭を歩くレグルスレアルが、振り返りながら言った。安心できる内容だったが……や、ちょっと待ってほしい。


「おい、何故俺だけ名指しした」

「一番の不安要素だからに決まっているだろう」


 即答されました。


「……俺って、もしかして信用無い?」

「私が陛下の名を告げたときの反応を思い出せ。あれで信用できるほうがおかしいだろ」


 ………………反論できなかった。


 レグルスレアルは溜息混じりに続けた。


「まぁ、何だかんだで空気は読める男だからな。さすがに陛下の前でふざけるような大馬鹿者ではないと……信じたい」

「信用感の欠片もねぇなおい」


 ポンッと、肩を叩かれた。見れば、クロエが笑顔スマイルでサムズアップしていた。


「ドンマイでござるよ、カンナ氏」


 ヒノイズルに〝ドンマイ〟って言葉あるんかい──というツッコミを入れる前に。


 ──ガッ。


 クロエのドヤ顔にイラっとした俺は、頭をつかんで締め上げた。


「気持ちは嬉しいがお前に言われるともの凄く腹立つ」

「ワギャァァァァッッ! り、理不尽でござるぅぅぅぅぅ!?」

「そういうところが欠片も信用できないと言っているだろうが馬鹿者ぉぉっ!!」


 俺たちのこんなやりとりに、ファイマは「やれやれ」と肩をすくめて首を振っていたそうな。


 ──ゴンッ!!


 ……閑話休題おこられました


「通路の入り口から見えてたが、身近で見ると迫力あるな……いててて」 後頭部に受けた折檻の跡タンコブを撫でさすりながら、俺は目前にある大掛かりな扉を見据えた。いかにも『大ボス』感を醸し出す豪華な作りをした両開きの扉。


 皇族が顔を見せる場所──謁見の間に続く大扉だ。


 折檻を加えた当人レグルスが呟く。


「今更ながら、お前カンナと陛下を会わせて良いのか、不安になってくる」


「じゃあ帰っていい?」と反射的に口から飛び出そうになったのを堪えた。次にアホな冗談ボケをかましたら、今度は背中の大剣で叩かれそうだ。命が惜しいので黙っておこう。


「……うむ」


 あぶねぇ! レグルスレアルの手が柄に伸びかけてた!? 


 本気で感じた命の危機にドキドキしている間に、レグルスレアルは大扉に向けて大声を発した。


「ディアガル帝国軍、幻竜騎士団団長のレグルスだ! 皇帝陛下の命を受けて参上した! 扉を開けられよ!」


 腹の底に届くような声が響くと、少しの間をおいて謁見の間に続く扉が両側に開いた。さすがに俺も少しばかり緊張してきた。クロエは顔が強ばっているし、ファイマも少し表情が硬い。


レグルスレアルに先導され、俺はディアガル帝国皇帝が待ち受ける謁見の間に進む。


 

 ──足を踏み入れた瞬間に、強烈な重圧プレッシャーが襲いかかってきた。



「────ッ!?」


 衝動的に精霊術を発現しようとする本能を、どうにか理性で押し止めた。歯を食いしばり、溢れ出しそうになる精神力を堪えた。


「カンナ氏、どうしたのでござるか? 顔色が悪いでござるよ」

「大……丈夫だ」


 クロエが心配そうに聞いてくる。 


 見れば、レグルスレアルもファイマも、他の奴らも緊張はしていたがそれ以上でもそれ以下でもなかった。


 ──この重圧プレッシャーを感じているのは、俺だけなのか?


 咄嗟に精霊術を阻止したのは、その威圧感に突き刺さるような鋭さは無かったからだ。それでも、躯を押し潰すような重圧がのし掛かる。殺気を向けられたわけではないが、密度・・でいえばシュライアと同等かそれ以上だ。


「行くぞ、カンナ」


 小声でレグルスレアルに促され、俺は萎縮しそうになる性根に気合いを込める。膝が震えそうになるのも根性で堪えて足を進めた。


 謁見の間は、直前の通路に比べてさらに豪華であった。横幅も縦幅もかなり広い。壁際には等間隔に座り込んだ竜の像が鎮座しているし。見上げるほどに高い天井にも竜の絵が描かれていて、迫力が凄まじい。


 やがて、先を歩いていたレグルスレアルが足を止める。鞘入りの大剣を背中から外すと、傍らに置きながら片膝立ちの格好で跪いた。背後からも幻竜騎士団がレグルスレアルと同じく武器を外しながら膝を付く。(ファイマは冷静だったが)俺たちは慌ててそれに倣った。


 ……王族──あるいは皇族──と会う場合、許可が出る前に顔を上げると不敬罪扱いにされる──だったか? ファイマやクロエを横目で見ると、彼女たちも顔を伏せているので間違いはないだろう。 


「幻竜騎士団団長レグルス、参上しました」

「……ご苦労。おもてをあげよ。他の者たちもだ」

「はっ」


 顔を上げても良さそうな雰囲気だ。


 俺は皇帝の姿を視野に入れようと顔を上げる。


 ──だが、その直前に、それまで感じていた威圧感が更に重みを増して俺に襲いかかってきた。


「──────ッッッ!!」


 全身から汗が一気に噴き出した。


 やはり殺気はない。けれども気弱な者であれば失禁するか意識を失い程の強烈な圧力。躯中に透明な鎖が絡みついたかのように身動きが取れなくなる。


 この威圧感の持ち主が誰か、もはや問うまでもない。


 疑問が頭の中に浮かび上がるが、徐々に沸き上がってくる感情があった。


 

 胸に抱いたのは恐怖──ではなく、激しい苛立ちだった。 



(こちとら病み上がりの上、飯の時間を邪魔されて腹立ってんじゃ! どういうつもりじゃ我ぇぇっっ!)


 言葉に出せないのは百も承知。したら目の前にいるレアルが即座に振り向き、剥き身の大剣で真っ二つにされるのが目に見えていた。


 故に、俺は感情を瞳に込めると、勢いよく顔を上げ、皇帝・・を鋭い視線で睨みつけた。


 最初に目を引いたのは、左の瞼から右の頬へと走る一直線の傷跡。野性味を内包しながら理性を宿した獣のような顔立ち。頭の両脇には竜人族の証である、雄々しく伸びる二本の黒い角。鍛え抜かれた体躯が豪華絢爛な装いを隔てても分かる。


「ほぅ…………」


 玉座に座る『男』は、俺の視線を受けると実に楽しそうな笑みを浮かべた。


「私の本気の威圧を受けて、萎縮するどころか気勢を高ぶらせるか」


 一国の主が、たかが冒険者一人相手に本気で威圧すんな! ともう一度感情を目に込めて訴えかける。


 前を向いていたレグルスレアルが、男の言葉を聞いてようやく事態に気が付いた。大慌てでこちらを振り向こうとするが、それを男は手で制した。


「くっくっく、そんな目を私に向けてくれる輩は随分と久しいな。聞いていた以上に愉快な男だ」


『男』がそう言うと、のし掛かっていた重圧プレッシャーが消滅した。俺は思わずその場で盛大に息を吐き出した。知らず知らずに息が詰まっていたようだ。


 肺の中に溜まっていた空気を追い出し、新鮮な空気を吸い込んでから俺は改めて男へ──皇帝へと顔を向けた。もう威圧感は感じない。


 彼は言った。


「私がディアガル帝国皇帝──ケリュオン・ディアガルだ」


 ──ん、この人、誰かに似てね?


 皇帝の名乗りを耳に、俺は漠然とそんなことを考えたのだった。

十二月十四日に更新した活動報告を見てない方は一度眼を通しておいてください。大事なお話が載っています。

http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/604944/blogkey/1589062/


それと、ナカノムラのもう一方の作品

『アブソリュート・ストライク 〜防御魔法は伊達じゃない〜』(←少しタイトルいじりました)

既に総合評価が30000ptを超えました。よければこちらもどうぞ(ブクマもどうぞ)。

http://ncode.syosetu.com/n2159dd/

カンナと違い、こっちは主人公による無双活劇となっております。


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