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第百三十五話 もやは取り返しのつかないレベルに話は進行していた

総合評価50000ptを達成しました。


 消耗した精神力や体力が完全に回復したのは、覚醒してから更に四日後であった。実質、一週間近くは入院していた計算になる。その間はほぼ食っちゃ寝生活。ニート万歳な暮らしに思えるが、一人で遊べる娯楽の道具が少ないこの世界では暇を持て余した。


「あー、生きてるって素晴らしい……」


 病院から出た俺は悟りを開いた気分で大きく伸びをする。この一週間はろくに躯を動かしていなかったので爽快感が半端ではなかった。


「さて、と。本格的に動き出すのは明日からにするかな」


 未だ判明しない元の世界への帰還。俺を切り捨てて始末しようとしたユルフィリア王族への復讐。今後に予想される大いなる祝福アークブレスとの衝突。その他諸々・・・・・の悩みを合わせれば、考えるべきことは結構ある。


 ……最初の一つ目はちょっと忘れそうになったのはここだけのお話。こっちの料理の世界が美味すぎるのが悪い。


 閑話休題おなかへった


 それらに対して前向きに挑む為にも、美味いものでも食って英気を養うとしよう。味気ない病院食が続いたのだし、今日くらいはちょっと奮発して美味い魔獣料理でも食べよう。


 後は酒でも飲んですっきりとしたい。


 帰還の方法や大いなる祝福アークブレスに関してよりも、その他諸々の方が今の俺にとっては大きな悩みの種だった。実のところ、意識が戻ってからこの四日間はずっと『それ』に関して悩み通しだった。


 ──病室を去るときのレアルの様子が、頭の隅に止まって離れない。


 想像以上に心配をかけていた事への罪悪感もそうだが、それとはまた別の感情が俺の中に渦巻いていた。それが、一番の悩みであった。


「思春期の子供ガキかよ……あぁ、思春期でしたね俺」


 下らない一人ツッコミを呟いてしまう程度には参っていた。


 肉体的な爽快感と精神的な陰鬱を引きずりながら俺は病院から離れようとしたが、それに待ったをかける声が聞こえた。


「カンナ氏!」


 声がする方を向けば、こちらに駆け寄ってくるクロエの姿。そういえば鉱山の一件で気絶したときも、退院の日には彼女が迎えに来てくれたな。 ふと、こちらに向かってくるのがクロエだけでないことに気が付いた。走ってくるクロエの背後に、従者三人を連れたファイマ。


 ファイマもクロエも、レアルとの面会が終わった翌日に見舞いに来てくれていた。退院の日に改めて来てくれるとうれしいと思うと同時にこそばゆい気持ちになる。


 刺客ラケシスに命を狙われたファイマは、本来なら安全面を考えて皇居の中から出られない。だが、あのレベルの人間が本気を出せばたとえ皇居の中にいようとも安全とは限らない上に、下手な人員を配置するとラケシスに操られる可能性もある。それらの理由から、奴の防御を突破できるクロエが同行する場合に限り、外出の許可が得られるようになったそうだ。


「退院おめでとう、カンナ」

「ああファイマ、お陰様でな。それより、みんな揃ってお出迎えとは驚きだ」

「あ、いや。拙者は医師殿から退院の日程を聞いていたのでそのつもりだったのでござるが……」


 クロエの言葉は歯切れが悪かった。ファイマの方を見ると、彼女も複雑な表情を浮かべていた。退院の出迎え以外に何かあるのだろうか。


 不意に彼女たちが揃って自分たちが歩いてきた方向を振り向いた。──と思いきや、それなりの人数を率いた覚えのある人物がこちらに向かってきているのが俺にも見えた。


「……お出迎えにしちゃぁ豪勢すぎるだろおい」


 むしろ仰々しいと言っても間違いではない。


 姿を現したのは幻竜騎士団団長レグルスレアルと、その団員ぶかが十余名。それも、全員が完全武装していた。


 あまりの物々しさに、レグルスレアルと顔を合わせる事への動揺が少しだけ薄れてしまった。それほど衝撃の強い光景だったと思っていただきたい。


 レグルス一行は俺たちの前で立ち止まる。一糸乱れぬ動きが、かなりの迫力を生み出していた。


「えっと……本日はお日柄もよく?」

「申し訳ないが、いつもの冗談に付き合ってやれる暇はない」


 仮面の奥から鋭い視線が向けられているのが感じられた。やはり、単なるお出迎えではなさそうだ。


 また、面倒事の匂いがプンプンしてきた。


 俺は軽く息を吐き出し、改めて問いただす。


「んで、本日はどのようなご用件で。俺ぁぶっちゃけ美味い飯と酒飲んで明日以降の英気を養いたいんで、用件があるなら明日以降にして欲しいんだが」

「気持ちは分からないでもないが、飯も酒も後回しにしてもらう。あらかじめ言っておくが、今から私の口に出す内容は君にとって拒否権はないと思ってもらいたい」

「驚いたな、お前さんの口からそんな言葉が出てくるのは」


 俺のことを『この世界で』一番よく知るレグルスかのじょだ。権力者に無意味な反発をするつもりはないが、かといって無条件に服従する性質たちでないのも理解しているはずなのに。


「結局のところ、私も組織の一部に過ぎん。残念ながら上からの命令には逆らえない立場にいる」


『上』……ねぇ。レグルスレアルの気質を考えると、一つか二つ上の上司になら、命令に不備・・があれば逆に問いただして撤回させるぐらいはしそうだが──。


「……改めて聞くが、用件は何さ?」

「冒険者『白夜叉のカンナ』に召喚命令がでている。我々に同行し、皇居に参上してもらいたい」


 まじめな空気だが、ツッコミを入れさせてくれ。


 白夜叉それって、もう国家規模で認識されてるの? 俺ってこの先ずっと『白夜叉』っすかっ? 嘘でしょ!?


 口に出すのはどうにか飲み込んでいると、ファイマが話に参加する。


「私もクロエさんも、あなたを迎えに行こうしたらレグルス団長に声をかけられたの。内容はあなたと一緒で私たちにも召喚要請が下っていたわ」

「せ、拙者も同じくでござる」

「や、ちょい待て。クロエや俺はともかく、国賓を一方的に呼び出せる人間っているのか?」

「さすがにカンナでも、呼び出した人物の名を聞いたら驚くでしょうね」


 ファイマの言葉に、俺はもう一度レグルスレアルへと顔を向けた。|彼(彼女)は厳格な雰囲気を醸し出しながら俺にその名を告げた。


「ケリュオン・ディアガル」

「そ、それは────っ!?」

「やはり、君でも驚いたか」


 クロエもファイマも、幻竜騎士団の面々も、レグルスレアルの口から名前を語られただけで緊張感を覚えるほどの大物。


 そして俺は──。


「──────どこのどちら様?」


 途端、俺を除くこの場にいた全員が崩れ落ちた。緊張感で強ばったところから一気に力が抜けたらしい。や、だって本当に知らないもん、『ケリュオン・ディアガル・・・・・』なんて人。


 ……………………ん? ディアガル?


 と、俺が気づいた直後に、いち早く立ち直ったレグルスレアルに胸ぐらを捕まれた。


「おいカンナ。今日は冗談に付き合っている余裕はないと先に言ったはずだ。さすがの私も怒るぞ?」

「あ、はい」


 ちょっとヤバい。半ギレしていらっしゃる。俺は首振り人形のようにカクカクと頷く。


 仮面の奥から「はぁぁぁぁ…………」と腹の底から絞り出すような深いため息が聞こえてきた。


「……まさか、陛下のお名前すら知らないとか、ありえんだろう普通」

「え……陛下?」

「ケリュオン・ディアガル 


 この『ディアガル帝国』を統べる皇帝陛下だ! 


 自分の今いる国のトップくらい知っておけ!!」


 ──校長先生に呼び出されたことは何度かあるが、流石にお国の頂点に呼び出されたのは初めてだわ。


 なおも首元を締め上げられながら、俺はそんなことを考えていた。

二つ名が撤回不可能なほどに浸透していたというお話。


あと、先に言っておくけどファイマが外出云々のあたりのツッコミは返さないぞ。



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