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第百二十八話 無慈悲の狂嵐

連続投稿六日目!


今回で仕込みの全てが明らかに。あなたはいったい何個わかりましたか?


 ──カンナがクロエに渡した物は二つ。


 片方は突撃の合図を知らせるための氷結晶。


 そして、調整した冷気を内包した氷爆弾・・・だ。


『『雷刃』の使いすぎで柄が熱くなったら、氷爆弾こいつで冷やせ。魔獣の群れを突破するときに使いすぎて、渡せるのはこれだけだ。使いどころを間違えるなよ』


 カンナはさらにファイマにこう伝えた。


『俺が口から手を離したら、あいつにバレない程度に拡声の魔術式を使ってくれ。あくまで自然な形でだ』


 カンナはあえてラケシスに『雷刃』の欠点を伝えていた。ご丁寧に、しっかり声が届くように拡声の魔術式を使ってまでだ。


 それはすべて、状況をこの形に運ぶためだ。


 深い経緯は不明でありつつも、ラケシスは己がハメられた事実を悟った。


「この──ッ、出来損ないの人形風情がぁぁぁ!!」


 余裕の表情から一転、憤怒を浮かべたラケシスは魔力解放し、指先から伸びる糸に送り込んだ。


「封糸演舞──最終幕『獅子の型』!」


 これまで生み出してきた糸の獣よりも、一回り以上巨大な大獅子が形作られ、クロエに襲いかかる。その巨大な爪や牙は、人間の躯を容易く粉砕するほどの力を秘めていた。


「その細い剣がいくら鋭くとも、この大獅子の全てを断ち切るには至らない!」


 いくらクロエの雷刃が表層を切り裂いたとしても、その圧倒的な質量に圧殺される。


 巨大な暴虐の化身を目の当たりにし、クロエは足を止めた。が、その顔に焦りは無かった。なぜなら、彼女クロエの背後には──。


「それを待っていたのよ──!」


 ファイマはそれまで練り上げていた魔力の全てを解放し、巨大な魔術式を構築した。その規模の大きさに、さすがにラケシスも息を呑んだ。


「これが私の全身全霊! 


 狂嵐きょうらんよ! 我が意に従い内包するものを無情に切り裂き微塵に帰せ──『カラミティ・サイクロン』!」


 魔術式が発動し、糸の大獅子を中心に巨大な竜巻が起こった。風の一陣が鋭い刃となり、内包する存在を切り刻んでいく。さらに、局所的な台風にも匹敵する風量が、獅子を構成する魔力的な繋がりを強引に螺旋斬ねじきり、形を崩壊させていく。


 竜巻が消滅すれば、後に残るのは形を残した糸の残骸。糸そのものを破壊するには至らずとも、ファイマの魔術は見事に『封糸演舞』の無力化を成し遂げたのだ。


 まだ手数は残っているとはいえ、自分が持つ大きな切り札の一つの無惨な姿に、ラケシスは驚きを隠せなかった。ファイマの魔術士としての能力は事前に知らされていたが、まさかここまでとは予想していなかった。


 その驚愕は、この場において大きな隙を生み出す結果となった。


大神オオガミクロエ──押して参る!!」


 気がついた瞬間にはもう遅かった。


 既に間合いの内側に飛び込んでいたクロエは、雷光の刃をラケシスを守護する『封糸結界』に振り下ろす。


 ──この場においてまさしく鉄壁を誇っていた封糸結界を、『雷刃』の一閃は見事に切り裂いたのであった。




 ラケシスを守護する『封糸結界』が切り開かれる瞬間を目に、俺は握り拳を固めていた。吹き飛ばされた衝撃でまた躯中が痛むが、それを吹き飛ばすような光景だった。


「クロエッ、ファイマッ! 畳みかけろ!」


 節々が悲鳴を上げるも、躯に活を入れながら俺はどうにか立ち上がった。キックブレードと、ついでに氷の大斧を具現しながら俺は彼女たちに向けて叫んだ。


 ラケシスやつの鉄壁を崩したとはいえ、下手に時間を掛ければ立て直される恐れがある。ならば、この好機チャンスを余さずに使い切らねば、俺たちに勝利みらいはない。


 クロエは続けて『雷刃』をラケシスへと振るう。ラケシスは己の封糸結界じしんが破られたことに驚き、棒立ち同然だ。あの状態から回避行動に移っても刀の間合いからは逃れられない。


「──クッ、まだ甘いですね!」 


 ラケシスは左腕を振るった、しかし、指先から伸びる糸の軌道はクロエではなく彼女とは反対方向にある地面にぶつかる。


 そして、クロエの刀が届く寸前にラケシスの躯が弾かれたようにその場から離脱した。


 斬撃が空を切り、クロエは驚愕に目を見開く。至近距離では、ラケシスが突然消えたように見えたのだろう。俺は、遠目からだったためにラケシスが何をしたのかを理解することが出来た。


 奴は糸の先端を『アンカー』の様に遠くの場所に固定し、それを一気に引っ張り己の躯を牽引したのだ。糸という単純な代物だが、何という手数の多さだ。


「逃がさないわ! 『ランペイジ・ストライク』!」


 俺と同じく、離れた位置でラケシスの動きを見ていたファイマは暴風の槍を追撃として放つ。しかし、込められた魔力はこれまでよりも幾分か少なく、迎撃に振るわれたラケシスの糸により命中する前に消滅してしまう。


 見ればファイマの顔には疲労の色が濃く浮かんでいる。糸の大獅子を無力化した魔術式で、躯に内包する魔力の大半を消費してしまったのだ。


 そしてそれはクロエも同じだった。彼女は膝を突き、刀を地面に突き刺して躯を支えていた。クロエは保有する魔力がそれほど多くない上に、ラケシスとの戦闘に入る前から魔獣の群れを相手にしている。度重なる戦闘と『雷刃』の使用に、体力と魔力が限界に達していたのだ。


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