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第百二十六話 仕込みは既に完了している

久々に日刊ランキングに入っていたようです。


連続更新四日目です。

 やはり、正面から戦って状況を打開するしか選択肢は無いようだ。

 

 幸いに、相手は油断はしていないだろうが余裕を持っている。おかげで話し合う時間は十分にとれた。

 

 後は出たとこ勝負で行くしかないか。


「……まだ終わりませんか?」


 痺れを切らしたのか、ラケシスが聞いてきた。


「ん? ああ、そろろ終わ──」


 ゴガガガガガガっっ!!


「──ったので攻撃開始だ!」


 あえて言葉の途中で氷円錐を乱射した。当然のように、ラケシスを守る糸の結界に阻まれるが、最初はなから届くとは思っていない。


 今の氷円錐、狙いは挑発である。


「本当に人を馬鹿にするにも程がある人ですね!」


 上手い具合にラケシスの神経を逆撫でできたようだ。


「ファイマ、クロエ! 頼んだぞ!!」


 俺はキックブレードに精神力を注ぎ込み加速した。


 ラケシスは突撃してくる俺を呆れ顔で見据えながら、糸を振るう。


「さんざん話し合って、結局は無策に突進ですか。待った甲斐が──」

「おらぁぁぁぁぁぁっ!!」

「……待った甲斐──」

「うりゃぁぁぁぁあ!」

「…………ま──」

「そりゃぁぁぁ!」

「さっきからうるさい人ですね!!」


 両腕に氷の手甲を具現化し、防御力を強化。強度に精神力を割くため、遠距離系の攻撃が疎かになるが仕方がない。俺の役割は最前線の壁役タンクだ。迫り来る糸の斬撃を防ぎ、受け流していく。


 改めて受け止めてみると、一撃が凄まじく鋭く、そして重い。強引に間合いを詰めようにも、圧力に負けて押し返される。先ほどラケシスに接近できたのは、彼の〝誘い〟だったのだと今更ながら知った。


「ショタにしては随分と苛烈だなおい!」

「こんなナリですが、僕はあなたよりも歳上です。年長者を敬う気持ちは──」

「これっぽっちもない!」

「人の言葉を最後まで聞きなさい! というか断言しないでほしいですね!」


 リーディアルの婆さんや大精霊の婆ちゃんに対しては恩や敬意を感じてはいるが、目の前のショタモドキを敬うのは無理がある。


「むしろ年長序列的にさっさとくたばれ! 今すぐこの場で!」

「──いい加減にしてください、あなたの安い挑発に簡単に乗るほど、僕も単純ではないですよ?」


 強烈な一撃をもらい、俺は踏ん張りきれずに吹き飛ばされる。辛うじて転倒は免れたが、ラケシスは体勢を立て直した俺ではなくファイマたちへ目を向けていた。


「くそっ、させるか──ッ!?」


 ファイマたちの前に割り込もうとする俺の前に、地面から突き出た複数の糸が壁のように立ち塞がる。足止めを食う俺を横目に、ラケシスは糸を振るった。


「私が防ぎます! ファイマ殿は早く術式を!」

「お願いっ! いくわよ、『メガエアロ・プレッシャー』!」


 クロエが『雷刃』を使用した刀で迫り来る糸を切り裂く。その間に、ファイマは詠唱の終わった魔術式を行使する。


 ラケシスの頭上に魔術式が出現する。放たれたのは超圧縮された空気であり、さながら風の大槌。渓谷で襲われた・・・・際に使用した術式に近い。ただそのときよりも術式に込められた魔力は上だ。


「残念ですが、僕には届きませんよ」


 振り下ろされた空気圧の大槌は、着弾点周囲の地面を陥没させた。だが、着弾点の中心であるラケシスとその足下は何事もなかったように無事であった。


「威力だけで言えば、さっきの『ランペイジ・ストライク』よりも上なのに……」

「生半可な防御手段ではそれごと潰されていたでしょうが、僕の周囲に常時張り巡らされている糸の結界を突破するには足りません」

「だったら『こいつ』でどうだ!」


 氷結榴弾アイスグレネードをの砲弾を大槌で撃発しラケシスに叩き込むが、結果はファイマと変わらず。砲弾そのものも砲弾が破裂してまき散らされる冷気もラケシスに届かなかった。


「──無駄ですね。この『封糸結界ふうしけっかい』は物理的な衝撃だけでなく、熱や空気の流れすら遮ります。下手な小細工は通用しませんよ」


 ラケシスの顔に浮かんでいる余裕は揺るぎなかった。


 おそらく、攻撃に使用している糸と防御に使用している糸では微妙に性質が異なるのだろう。ファイマの魔術で攻撃に使用されていた糸は破壊できていたが、防御に使っている糸は破壊できていない。


 あの糸を『封糸結界』とやらを突破しない限り、俺たちに勝利はない。


 RPGで強制的に発生する、負け確定のイベント戦をさせられている気分だ。だからといって、はいそうですかと素直に諦められるはずがない。


「──っ、やべっ」


 慌ててその場から離れると、地面から糸の刺突が襲い来る。こちらを追うようにして幾度と無く姿を現し、俺はキックブレードを加速させて必死に逃げる。反応氷結界の結晶はまだ残っているが、既に三分の一を消費してしまっている。緊急時の防御手段であるだけに無為な消耗は避けたい。


「カンナ様っ」

「君はそこにいないと駄目なんじゃないかな」


 叫んだクロエに対し、ラケシスは糸を振るう。クロエは雷を帯びた刀で迫る糸を残らず斬り捨てた。


「そういえば、お気に入りの人形がいったい壊れてしまったと思ってたけど、無事だったようだね」


 ラケシスが思い出したように言った。


「どうかな、僕の所に戻ってくるつもりはないか? 大丈夫、前みたいに自我を消したりなんかしないからさ」

「黒狼の者が『主』と仰ぐのは生涯にただ一人。貴様のような外道の先兵になるなど、願い下げだ」


 怒りを滲ませるクロエが犬歯を剥き出しにする。


「そっか。……黒狼族のお人形は惜しいけど、言うことを聞かない出来損ないなんていらないや」


 つまらなそうに言って、ラケシスが更に糸の斬撃を重ねた。


「知っているよ。君のその刀に雷を宿らせる魔術。長時間は使えないんだろう?」

「────ッ」

「相談はもう少し声を小さくしてするんだね」


 自身ラケシスの魔力が素材のためか、糸は斬り裂かれてもすぐさま再生していく。一方、それらを防ぐクロエの顔には焦りが浮かんでいる。あれだけの糸を全て迎え撃つ技量はさすがだが、『雷刃』の使用限度を超えればその途端に糸の波状攻撃に巻き込まれる。


 俺は手元に氷の剣を作り、クロエの足元の地面に投擲。地面に突き刺さった剣を起点に精神力を流し込み『氷剣山波』を彼女の正面に発動。クロエを狙う糸の全てが氷の剣山に飲み込まれた。


「あなたもそろそろ鬱陶うっとうしいですね!」


 苛立った感情を発しながら、ラケシスがこちらを睨みつけ腕を振りかぶった。指先から伸びる糸の本数はこれまでで最大だ。


 一気に勝負を決めるつもりか。


 氷剣山波の残滓を消滅させ、代わりに両腕に巨大な氷の手甲を具現化し、防御力を最大限に高める。 


 ──こっちも、勝負に出させてもらおうか! 


(頼んだぞ……クロエッ!)


 俺は彼女クロエに向けて強く〝念〟を送った。



『カンナのカンナ 異端召喚者はシナリオブレイカー』は十一月七日に発売です!


なお、活動報告に購入特典や書影が載っているので、そちらもごらんください。


ではまた明日!


あ、感想文やレビュー、評価ポイントは大歓迎です。

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